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小動物系乙女と病弱少女
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あれやこれやと検査をされ、やぁっと解放された。
もう、目が覚めた時よりぐったりだ。
ベッドの上でぼんやりと魔法球に照らされた天井を見ているしかない。
とはいえ考えることはありすぎるから、暇じゃないけど。
どうして俺はレティシアの中にいるのか?
この体の持ち主であるレティシアの魂はどうしたのか?
等々……問題山盛りである。
しかしどれもこれも、俺が考えたところで答えが出ないことばっかなんだよなぁ。
仕方がないので、レティシアの記憶をさかのぼることに専念しようとするが……ヤバい。
これはヤバい。
もうヤバい。
記憶をさかのぼろうとすれば、リリア魔法学園での生活がまず思い出される。
お嬢様やお姫様が集う、全寮制の女子校での生活を!
ああ。
あああ……。
俺は今、もう一度死んでもおかしくない。
レティシアの記憶にある、夢にまで見た女子校生活。
女の子たちが戯れ、慈しみあい、時にけんかや涙もある。
共に暮らし、共に学び、共に成長する。
尊い。
思い出の中でだけでもすさまじい破壊力だ。
はー。幸せすぎる。
「レティシア様」
俺がまた尊死せずに済んだのは、ひとえにエダが遠慮がちに声をかけてくれたからだろう。
そのくらいレティシアの記憶は、ヤバ目に尊かった。
「失礼します」
エダは慎重に移動テーブルを押しながら、ベッドに近づいてきた。
「ご気分はいかがですか?」
「ええ。まだ混乱しているけど」
変なこと言っても平気なように、予防線はらないとな!
「無理もありません。でも、良かったです。お目覚めになられて」
どこかリスっぽいくりくりとした目に嬉し涙を浮かべて、エダは移動テーブルをベッドの横につける。
「柔らかいものなら少しは食べてもいいそうなので、ご用意させていただきました」
「ありがとう。うれしいわ」
たしかに少しお腹が空いていた。
移動テーブルに乗っているのは、ファラリス家が地方の特産品として作っている紅茶。
果物と麦をミルクで煮たもの。
自重で崩れるほどに柔らかいプリン。
どれもレティシアの好物だ。
レティシアの記憶から味が呼び起こされ、お腹がキュウと鳴った。
「わたしがお口にお運びしましょうか?」
「そこまでしてもらわなくても平気よ」
自然に女性っぽい言葉遣いになるのも、レティシアの記憶のせいだろう。
お茶が満たされた、白磁に金色で繊細な模様が描かれたカップに手を延ばす。
カチャン!
「あ……」
思ったように指に力が入らず、カップを落としてしまった。
持ち上げることすらできなかったので、こぼれなかったのが不幸中の幸いか。
「やっぱり、お願いできるかしら?」
「はい!」
エダは輝くような微笑みを浮かべてくれた。
「どうぞ」
ふうふうと吹かれてから、差し出されたお茶はレティシアの記憶の通り、華やかな香りと淡い甘みがある。
ミルク煮は一度干した果実を戻すことにより、甘みを強くしている。
とろりとした果物に混じる、麦のプチプチとしとた触感が面白い。
プリンは柔らかいパンが中に入っていて、ほとんど甘さがなく、卵と牛乳そのままの味でデザートより食事に近いようだ。
どれもレティシアの好物で、初めて食べるものなのになじみ深い。
けっこう変な気分だ。
しかし、これ……相手が俺じゃなかったらなぁ!!
小さいながら機敏に動いて仕事をこなしていくエダは、まん丸い目や、茶色の巻き毛をひっつめた外見と相まって、子リスのようだ。
小動物系の女の子ってのは、エダのことを言うんだろう。
素朴でホッとできる、笑顔の素敵な女の子。
そんな娘が、ふーふーしてあーんしてくれる。
その相手がなんで俺!?
ここは病弱ではかなげでちょっと影のあるような女の子にしてほしい!
俺はそれを見ていたい!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
体は日に日に弱っていく。
いつから病室を出ていないのだろうか。
窓から見える景色は、ゆっくりと季節を変えている。
この景色が一巡する時、私はどうしているのだろう。
不安ばかりが渦巻く。
この殺風景な病室で、ただ一つの光は……
「失礼します。今日のお食事ですよ」
毎日食事を運んでくれるエダ……だけ。
「ごめんなさい。食欲がないの」
そう言うと、エダはぷうっと頬を膨らませる。
「そんなこと言っちゃいけません。はい、あーんしてあげますから、ちゃんと食べてくださいね」
「……わかったわ」
「はい、まずはスープですよ」
スプーンに数度息を吐きかけて、こちらに向ける。
心配そうな顔が、私が一口スープを飲むだけで、花が咲くようにほころぶ。
砂の味しかしないスープも、この子のためなら飲むことができる。
だけど、時々寂しい。
食事が終わればエダは行ってしまう。
健康なエダには、私の代わりにしなければいけないことがたくさんあるのだ。
ずっとエダの傍にいて欲しいのに。
私が元気になれば……
そうすればエダと一緒に、どこまでも二人で。
それとも……今私が連れていかれようとしている場所に、一緒に行くのはどうかしら?
そうしたら、いつまでも永遠に――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
なーんて、な!
病弱と元気のコンビもいいよな。
お互い補い合う感じが特にいい。
今回の妄想はちょっとダーク入ったけど、それもまたいいよな。
結局結末のわからない、余韻を持たせる感じで終わる短編漫画がいいな。
線が細い少女漫画っぽい絵の人に描いてほしい!
「はい、これで最後です」
プリンの最後のひとかけらを口に入れると、エダはほっと息を吐いた。
「良かった。栄養がとれたからでしょうか。顔に赤みが戻ってきましたね」
「そう?」
食べたからと言うより、妄想のせいかもしれないが。
「ご気分もよさそうですし、すこし御髪を整えましょう」
エダは食器を移動テーブルの下に手早く片付け、代わりに大きな鏡を乗せる。
その鏡に映った俺の姿は――
もう、目が覚めた時よりぐったりだ。
ベッドの上でぼんやりと魔法球に照らされた天井を見ているしかない。
とはいえ考えることはありすぎるから、暇じゃないけど。
どうして俺はレティシアの中にいるのか?
この体の持ち主であるレティシアの魂はどうしたのか?
等々……問題山盛りである。
しかしどれもこれも、俺が考えたところで答えが出ないことばっかなんだよなぁ。
仕方がないので、レティシアの記憶をさかのぼることに専念しようとするが……ヤバい。
これはヤバい。
もうヤバい。
記憶をさかのぼろうとすれば、リリア魔法学園での生活がまず思い出される。
お嬢様やお姫様が集う、全寮制の女子校での生活を!
ああ。
あああ……。
俺は今、もう一度死んでもおかしくない。
レティシアの記憶にある、夢にまで見た女子校生活。
女の子たちが戯れ、慈しみあい、時にけんかや涙もある。
共に暮らし、共に学び、共に成長する。
尊い。
思い出の中でだけでもすさまじい破壊力だ。
はー。幸せすぎる。
「レティシア様」
俺がまた尊死せずに済んだのは、ひとえにエダが遠慮がちに声をかけてくれたからだろう。
そのくらいレティシアの記憶は、ヤバ目に尊かった。
「失礼します」
エダは慎重に移動テーブルを押しながら、ベッドに近づいてきた。
「ご気分はいかがですか?」
「ええ。まだ混乱しているけど」
変なこと言っても平気なように、予防線はらないとな!
「無理もありません。でも、良かったです。お目覚めになられて」
どこかリスっぽいくりくりとした目に嬉し涙を浮かべて、エダは移動テーブルをベッドの横につける。
「柔らかいものなら少しは食べてもいいそうなので、ご用意させていただきました」
「ありがとう。うれしいわ」
たしかに少しお腹が空いていた。
移動テーブルに乗っているのは、ファラリス家が地方の特産品として作っている紅茶。
果物と麦をミルクで煮たもの。
自重で崩れるほどに柔らかいプリン。
どれもレティシアの好物だ。
レティシアの記憶から味が呼び起こされ、お腹がキュウと鳴った。
「わたしがお口にお運びしましょうか?」
「そこまでしてもらわなくても平気よ」
自然に女性っぽい言葉遣いになるのも、レティシアの記憶のせいだろう。
お茶が満たされた、白磁に金色で繊細な模様が描かれたカップに手を延ばす。
カチャン!
「あ……」
思ったように指に力が入らず、カップを落としてしまった。
持ち上げることすらできなかったので、こぼれなかったのが不幸中の幸いか。
「やっぱり、お願いできるかしら?」
「はい!」
エダは輝くような微笑みを浮かべてくれた。
「どうぞ」
ふうふうと吹かれてから、差し出されたお茶はレティシアの記憶の通り、華やかな香りと淡い甘みがある。
ミルク煮は一度干した果実を戻すことにより、甘みを強くしている。
とろりとした果物に混じる、麦のプチプチとしとた触感が面白い。
プリンは柔らかいパンが中に入っていて、ほとんど甘さがなく、卵と牛乳そのままの味でデザートより食事に近いようだ。
どれもレティシアの好物で、初めて食べるものなのになじみ深い。
けっこう変な気分だ。
しかし、これ……相手が俺じゃなかったらなぁ!!
小さいながら機敏に動いて仕事をこなしていくエダは、まん丸い目や、茶色の巻き毛をひっつめた外見と相まって、子リスのようだ。
小動物系の女の子ってのは、エダのことを言うんだろう。
素朴でホッとできる、笑顔の素敵な女の子。
そんな娘が、ふーふーしてあーんしてくれる。
その相手がなんで俺!?
ここは病弱ではかなげでちょっと影のあるような女の子にしてほしい!
俺はそれを見ていたい!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
体は日に日に弱っていく。
いつから病室を出ていないのだろうか。
窓から見える景色は、ゆっくりと季節を変えている。
この景色が一巡する時、私はどうしているのだろう。
不安ばかりが渦巻く。
この殺風景な病室で、ただ一つの光は……
「失礼します。今日のお食事ですよ」
毎日食事を運んでくれるエダ……だけ。
「ごめんなさい。食欲がないの」
そう言うと、エダはぷうっと頬を膨らませる。
「そんなこと言っちゃいけません。はい、あーんしてあげますから、ちゃんと食べてくださいね」
「……わかったわ」
「はい、まずはスープですよ」
スプーンに数度息を吐きかけて、こちらに向ける。
心配そうな顔が、私が一口スープを飲むだけで、花が咲くようにほころぶ。
砂の味しかしないスープも、この子のためなら飲むことができる。
だけど、時々寂しい。
食事が終わればエダは行ってしまう。
健康なエダには、私の代わりにしなければいけないことがたくさんあるのだ。
ずっとエダの傍にいて欲しいのに。
私が元気になれば……
そうすればエダと一緒に、どこまでも二人で。
それとも……今私が連れていかれようとしている場所に、一緒に行くのはどうかしら?
そうしたら、いつまでも永遠に――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
なーんて、な!
病弱と元気のコンビもいいよな。
お互い補い合う感じが特にいい。
今回の妄想はちょっとダーク入ったけど、それもまたいいよな。
結局結末のわからない、余韻を持たせる感じで終わる短編漫画がいいな。
線が細い少女漫画っぽい絵の人に描いてほしい!
「はい、これで最後です」
プリンの最後のひとかけらを口に入れると、エダはほっと息を吐いた。
「良かった。栄養がとれたからでしょうか。顔に赤みが戻ってきましたね」
「そう?」
食べたからと言うより、妄想のせいかもしれないが。
「ご気分もよさそうですし、すこし御髪を整えましょう」
エダは食器を移動テーブルの下に手早く片付け、代わりに大きな鏡を乗せる。
その鏡に映った俺の姿は――
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