百合男子は異世界転移で、魔法学園の愛されお姉様になっちゃいます!

七海椎奈

文字の大きさ
23 / 62

かの人も言っていました!

しおりを挟む
「え?」

 グローリアちゃんが頬を抑えて俺を見る。
 驚いたせいか、さっきまでの放電がすっかり収まっていた。

 レティシアは結構力があるから、もちろん手加減したよ。
 音は大きかったかったけど、そんなに力は入ってない。はず。

「なに……」
「そんなこと、言わないでっ」

 女の子を叩くなんて、最低だ。
 だけど、そうしなきゃいけない時だってある。

「人を好きになることを、無駄だなんて言わないで!」

 好きになることに無駄なことなんかひとつもない。
 俺は数々の百合漫画、百合小説、百合ゲーム、百合映画、その他もろもろを見た。
(ちなみに百合映画初心者にはキャロルを押したい)

 かなわない恋があった。
 報われない恋があった。
 別れがあった。
 憎しみがあった。
 涙があった。
 悲恋はいつもつらかったけれど……

 そこに無駄なものなど、ひとつもなかった!

「たとえ思いが通じなかったとしても、結ばれなかったとしてもっ、その思いは本物だったはず。人は誰に恋してもいい! 誰を愛してもいい!」

 知らない男との結婚しか道がないないなんて、あきらめないでくれ!
 女の子は女の子同士で恋愛すべき~って有名なセリフにあるでしょ!!
 前後はともかく、その言葉に俺は完全に同意なのだ!!

「貴族の娘だからそれできないなんて――」
「なんで……」
「そんなの私が許さないわ!!」
「なんであんたが泣いてるのよ?」

 泣いて?
 頬を触ると、指先が水に触れた。
 拭ってもぬぐっても次々にこぼれてくる。

「泣いてない……」

 泣いてるつもりなんかないのに、なんでだ?
 レティシアはこんなに涙もろいのか?

「お兄様は……あたしから見ても、そんなに悪い人じゃないわ。泣くほど結婚したくないだなんて、ひどいわね」
「……どんなに素敵な人でも、よ」

 婚約者シチュも嫌いじゃないよ!
 遠く離れて会ったこともない運命の人に、思いを寄せるってのもいいよね。
 写真だけに恋して、会ってみたら女の子でびっくり。ってのを特に押したいけど!

「だけど『どうせできない』なんて言葉で全部をあきらめないで。あなたは『貴族の娘』じゃないわ。一人の女の子、グローリア・ヴェロネージェよ!」

 だから……

「恋をすることを、あきらめないで」

 幸いにもこの学園には、かわいくて素敵な女の子がいっぱいいるんだから!
 恋の相手はより取り見取り!!

「なんで……」

 グローリアちゃんは俯き、ぎゅっと拳を握り締める。

「なんであんたが……」

 ぱたぱたと机に水が落ちる。

「ねぇ……あたし……」

 顔をあげたグローリアちゃんの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
 狐の耳はぺたんと折りたたまれ、眉根には皺がより、ぎゅっと顔に力がこもって、くしゃっとつぶれている。
 小さな子供が全力で泣いてるみたいな……お世辞にもかわいいと言えない顔。

「あたし、人を好きになっていいの? 恋をしてもいいの? 許してもらえるの?」

 それでも、何もかもをあきらめてつんと澄ました顔より何百倍も何千倍も素敵だ。

「当たり前じゃない! 世界中がだめだって言っても、私が許すわ!!」

 そう、すべては百合の花の元に許されるのだ!!

「う……うわぁぁぁぁっ」

 彼女はその場に座り込んで、子供みたいに泣きじゃくった。
 俺は彼女をそっと抱きしめ、震える背中を撫でる。

「大丈夫、大丈夫よ……あなたはあなたでいいの」

 そう、貴族の娘なんかじゃない、ただのグローリア・ヴェロネージェとしての百合を俺に見せてくれ!

「あなたの恋を大切にして……」



 ……その後。

 何のかんのありまして、俺はグローリアちゃんを叩いてしまったことで、3日の謹慎となりました。

 周りのみんなもかばってくれたんだけど、一応暴力沙汰だから形だけでも罰を受けなゃってことだ。
 部屋から出られないってだけなので、3日間はエダとまったり楽しい時を過ごした。

 3日ぶりの登校。
 ちょっと緊張するが……

「おはようございます……」

「おはようございます。レティシア様、今日からですね」
「大変だったでしょう、何もありませんでした?」
「これ、3日分のノートです」
「私たちみんなで作ったんですよ」

「まぁ、ありがとう」

 ふぅ、みんないつも通りでよかったー。

「ちょっと、道を開けてくれないかしら?」

 その声にさっと女の子たちが左右に分かれる。
 グローリアちゃんが私を睨んでゆっくりと歩いてくる。
 その後ろにイルマちゃんとラウラちゃん。

 うへぇ。
 やっぱり叩いたの怒ってるかー。

「ごめんなさいね。叩いたところもう痛くない?」
「はんっ。あんなのそよ風に吹かれたようなものよ。あのくらいで私をどうにかできるだなんて思わないことね」
「そう?」

 よくわからないが、つまり平気ってことだな。

「あたしも少し言い過ぎたから、これはお詫びよ」

 差し出されたのは、刺繍のハンカチだ。
 あの時の授業で縫っていたもの。
 3日前には2つ3つの花しか出来上がってなかったのに、大判のハンカチのふちをぐるりと囲むように色とりどりの刺繍の花が咲いている。

 少し引きつれてしまっているのが、一生懸命にやりましたっ! って感じだ。
 うんうん、グローリアちゃん、こういうところ真面目なんだよなぁ。

「ありがとう。素敵な刺繍ね」

 受け取ろうと手を延ばすと、避けられた。

「あ、あたしに触ると感電するからっ」

 さっとハンカチを机に置く。

「感電……静電気ね」

 イルマちゃんがグローリアちゃんは帯電体質だって言ってたもんな。

「そういう時はね。ちょっと散らせば平気なのよ」

 なんかふさふさしたやつでドアノブ触ってからだと、バチって来ないとか誰かが話してるのを聞いた気がする。

「だからこうすれば」

 もらったハンカチを摘んで、グローリアちゃんの手にふさふさと触らせてから、手を握る。

「平気でしょ」
「なっ!」

 グローリアちゃんの髪がざわっと逆立ったと思うと、すっと元に戻った。

「あれ? うそ……なんともない」
「こうして、電気を逃がせばいいのよ」
「え? ええ?」

 グローリアちゃんはびっくり顔で自分の手と俺の顔を交互に見る。
 帯電体質で長年さぞかし苦労してきたんだろうなぁ。

「そんくらいで平気なんすか?」
「え~? バチって来ない~? こな~い!」

 イルマちゃんとラウラちゃんが、グローリアちゃんを触るがもちろん平気だ。

「いったん散らせばしばらくは大丈夫なはずよ」
 なんかそんな風に聞いた気がする。

「レティシア様、物知りですのね」
「すごいですわ」
「ほかにも何かありますの?」
「教えてくださいませ」

 豆知識に感動した女の子たちが詰めかける。
 んん? もしかして君らも帯電体質だった?

「ええっと……」

 他に何か帯電体質対策ってあったっけか?

「ちょっと! あんたたちあたしのお義姉(ねえ)さまに迷惑かけないでくれる?」

「はい?」

 おねえさま? ですと?

「お兄様の婚約者なんだから、お義姉さまでしょ!」
「まぁ、そうね」

 できれば結婚のことはあまり考えたくはないのだが。

「未来はどうなるかわからないけれど……今はあたしのお義姉さま……ですよね?」
「そう、ね」

 ちょっと不安そうだった顔が、ぱっと笑顔になる。

「それでは、お義姉さま。ふつつかものですがよろしくお願いいたします!」
「よろしく……ね」

 そっかー。
 義理姉……か。
 まぁ、そーなるのかぁ。

 婚約者の存在がちらついて、ちょっと複雑ではあるが『おねえさま』って響きはいいなぁ。

 よしよし、俺はグローリアちゃんのお義姉さまとして、彼女にお姉さまや妹ができるのを見守らせてもらおう!

 ふふふ。
 学園生活の楽しみがまたひとつ増えましたな!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

処理中です...