33 / 62
焼き魚定食納豆付き
しおりを挟む
昼食が各国のメニューで三種類存在する。
これを知った時には、
さすがお嬢様が集う学園だな。
パネェ。
ぐらいしか思わなかったけれど、俺は今日その真価を知った。
遠く離れた地に一人でやってきて、(まぁ、グローリアちゃんみたいにお目付け役連れて来てる子もいるし、メイドさんたちは連れて来てるけど)生活する。
お嬢様たちには初めての体験だろう。
この不安と期待でいっぱいの日々に、地元の料理が出る。
これがどれだけ人を安心させ、心を浮き立たせるのか。
今、俺は身をもって体験している。
うん、今日の三種の昼食メニューのひとつが和食だ。
まぁ、厳密には和食じゃないんだろうけど、完璧和食!!
焼き魚! 野菜の煮物! 納豆! 豆腐のみそ汁!! 白いご飯!!
定食スタイル!!
地味!!
質素!!
だがそこがいい!!
ひゃっほおぉぉぉぉぉっ!!!
レティシアとしての味覚がだいぶ変わったから、洋食オンリーでもつらくはなかったけど、こうして目の前に出されるとっ!
やっぱり和食、和食最高!
「まあ、今日はあの豆がメニューに入ってるの?」
グローリアちゃんが顔をしかめる。
うん、納豆ね。
好き嫌いが激しく分かれるし、食べない国の人から見たら激しく意味不明な食べ物だよな。
わかる。
俺もまあ、好きでも嫌いでもなかった食べ物だし。
昔ながらの製法なのか、俺が食べてた納豆より匂いもきついし。
無理はない。
「納豆は嫌いなの?」
「好きな人なんてめったにいないです! 臭いし。前に出た時だってほとんど手つかずだったし」
「あー、匂うんすよねぇ。食べてる人の周りから人がいなくなりましたもん」
「そう~。結界みたいに人がいなくなったよね~」
「まぁ」
ふむ。
やっぱりグローリアちゃんたちは、ちょっと動物っぽいところがある分、嗅覚も鋭いのかも。
「……だから今日は端っこで食べたほうがいいですよ」
ちらりと視線で示された方を見ると、エリヴィラちゃんが和定食を自分の席に持ってきたところだった。
すーっと、彼女の席の周りから人が引く。
「そう、じゃあ残念だけど、今日はお昼別々ね」
「へ!?」
グローリアちゃんの耳がピコンと立つ。
「私、納豆をいただくから」
「えぇぇぇ!?」
「食べられるんすか!?」
「うわ~」
三人揃ってそこまで驚かんでもよかろう。
「なのでエリヴィラさん、今日はご一緒させてくださいね」
机を寄せてから、食事を取りに行く。
ほとんど手つかずだから、一番大きい焼き魚を選んで、納豆も大もりじゃぁ!
ああ、白飯のきらめきの美しさよ。
煮物の醤油の香りも最高かよ。
意気揚々と机に運ぶが、みんながめちゃめちゃ驚いた顔で見てくる。
そんなに納豆食うの珍しいのか。
「いただきます」
まず、たれと薬味をあらかじめかけてきた納豆を箸でかき混ぜる。
おお、粘りが強い。
箸がおれそう。
うまそう。
百回かき回すのが俺流である!!
粘りがふわっと泡立ったようになったら、一口分をご飯に乗せて、いざっ!
ううーん、たれの味が独特だけど、納豆~。
故郷の味~。
し・あ・わ・せ。
「……納豆、食べるのね」
「え?」
おお、エリヴィラちゃんから事務的なこと以外初めて話しかけられた。
「ええ。おいしいわよね」
「……珍しいわね。こっちでこれを食べる人、初めて見たわ」
「そうなの? えっと私も初めて食べるのだけど、本で読んだことがあって食べてみたかったの」
レティシアとしては初めて食べるんだし、そういうことにしておこう。
「納豆が出てくる本? なんていうタイトルかしら?」
「んー。昔のことだから覚えてないわ。ただ納豆のことだけはインパクトがあって」
「確かに、珍しい食べ物ですから」
「学園で昼食に出るなんて思わなかったわ」
んんー、煮物も匂いの通り醤油味。
醤油こっちでも手に入るのか! 今度探そう。
焼き魚は一夜干しかなー? ぎゅっと身がしまっていて美味。
脂がのっててご飯が進む。
みそ汁も好みよりは薄いが、よし!
一周ローテーションして、また納豆へと戻る。
至福!!
「お箸の使い方もすごくきれいなんですね」
「ふふ、あなたほどじゃないけど」
レティシアの体だし……って理由だけじゃなく、俺の端づかいでは焼き魚とか結構ボロボロなんだけど、エリヴィラちゃんの焼き魚はきれいに一口ずつ身が外れていく。
なにそれ? 切れ目でも入ってんの? と疑いたくなるレベル。
納豆もくるりと手を返せば糸がきれている。
納豆がここまで上品に食える代物だったとは!
「何か」
「あ、ごめんなさい。失礼だったわね。あなたの箸づかいに見とれてしまって」
「このくらい、普段から箸を使う地方なら当たり前です」
「あら、そうなの」
はい、ダウト!
物心ついたこの方ずっと箸使ってる国にいたけど、そんなきれいな箸づかいそうそういませんー。
言えないけど。
黙々と食事再会。
静かな食事も久しぶりで落ち着く。
おしゃべりしながらの食事も楽しいんだけど、食事に集中できるのもうれしい。
お米の最後の一粒まで食べ終わる。
お代わりしたいところだけど、レティシアの胃袋はもう限界かぁ。
「このメニューはどのくらいの頻度で出るのかしら?」
「……人気のあるメニューはリクエストが集まってよく出るんだけど……これはあまり」
「まぁ」
「これが、最後になってしまうかもしれません」
なんだとぉ!?
確かにこのクラスでは、俺ら二人しか食べてないしなぁ。
これはいかん。
いかん!!
これからも和食を食えるチャンスが!!
心の故郷の味が!!
「このメニューは完璧ね!」
少し大きい声で言う。
「な、なに急に……」
「全体的に高たんぱく低カロリー! 納豆や味噌の発酵食品による抗酸化効果により美白美肌効果、デドックスによるダイエット効果を大いに期待できるわ! これは食べなきゃ!」
ざわっと、教室の空気が変わったのが分かった。
美白美肌デドックスダイエット。
これらがこの年頃の女の子たちにどれだけ影響を与えるか、俺はよく知っている。
休み時間教室で寝たふりをしていると、どれだけこのワードが聞こえてくることか。
ちなみに発酵食品のうんちくは、その時聞こえた話を組み合わせたテキトーなやつである。
「ちょっと、試してみようかしら?」
「レティシア様も食べられているし」
「美白」
「美肌」
「ダイエット……」
さざ波のように言葉は教室に広がり、納豆やみそ汁をもらいに行く子が出てきた。
「糸がっ……糸がっ」
「あ、でも口に入れると匂いはそんなに気になりませんわね」
「トッピングをたくさんつけるとまあまあ食べられますわよ」
おお、思ったよりチャレンジャーが多い。
さすがにグローリアちゃんたち獣人系の子たちは、匂いに負けてしまってるみたいで近づかないけど。
これでまたメニューが巡ってくるはず!
和食をまた食べるためなら俺は手段を択ばねぇぜ!!
「ごちそう様。後でリクエストの出し方も教えてくださいね」
さーて、端っこで匂いに耐えかねているグローリアちゃんたちを外に連れ出すか。
「……とう」
「はい?」
「ありがとう」
「いえ」
お礼なんで必要ないぜ!
これからも故郷の味、守り続けよう!!
「けれど、私にはあまり近づかないほうがいいわ」
……なんで?
これを知った時には、
さすがお嬢様が集う学園だな。
パネェ。
ぐらいしか思わなかったけれど、俺は今日その真価を知った。
遠く離れた地に一人でやってきて、(まぁ、グローリアちゃんみたいにお目付け役連れて来てる子もいるし、メイドさんたちは連れて来てるけど)生活する。
お嬢様たちには初めての体験だろう。
この不安と期待でいっぱいの日々に、地元の料理が出る。
これがどれだけ人を安心させ、心を浮き立たせるのか。
今、俺は身をもって体験している。
うん、今日の三種の昼食メニューのひとつが和食だ。
まぁ、厳密には和食じゃないんだろうけど、完璧和食!!
焼き魚! 野菜の煮物! 納豆! 豆腐のみそ汁!! 白いご飯!!
定食スタイル!!
地味!!
質素!!
だがそこがいい!!
ひゃっほおぉぉぉぉぉっ!!!
レティシアとしての味覚がだいぶ変わったから、洋食オンリーでもつらくはなかったけど、こうして目の前に出されるとっ!
やっぱり和食、和食最高!
「まあ、今日はあの豆がメニューに入ってるの?」
グローリアちゃんが顔をしかめる。
うん、納豆ね。
好き嫌いが激しく分かれるし、食べない国の人から見たら激しく意味不明な食べ物だよな。
わかる。
俺もまあ、好きでも嫌いでもなかった食べ物だし。
昔ながらの製法なのか、俺が食べてた納豆より匂いもきついし。
無理はない。
「納豆は嫌いなの?」
「好きな人なんてめったにいないです! 臭いし。前に出た時だってほとんど手つかずだったし」
「あー、匂うんすよねぇ。食べてる人の周りから人がいなくなりましたもん」
「そう~。結界みたいに人がいなくなったよね~」
「まぁ」
ふむ。
やっぱりグローリアちゃんたちは、ちょっと動物っぽいところがある分、嗅覚も鋭いのかも。
「……だから今日は端っこで食べたほうがいいですよ」
ちらりと視線で示された方を見ると、エリヴィラちゃんが和定食を自分の席に持ってきたところだった。
すーっと、彼女の席の周りから人が引く。
「そう、じゃあ残念だけど、今日はお昼別々ね」
「へ!?」
グローリアちゃんの耳がピコンと立つ。
「私、納豆をいただくから」
「えぇぇぇ!?」
「食べられるんすか!?」
「うわ~」
三人揃ってそこまで驚かんでもよかろう。
「なのでエリヴィラさん、今日はご一緒させてくださいね」
机を寄せてから、食事を取りに行く。
ほとんど手つかずだから、一番大きい焼き魚を選んで、納豆も大もりじゃぁ!
ああ、白飯のきらめきの美しさよ。
煮物の醤油の香りも最高かよ。
意気揚々と机に運ぶが、みんながめちゃめちゃ驚いた顔で見てくる。
そんなに納豆食うの珍しいのか。
「いただきます」
まず、たれと薬味をあらかじめかけてきた納豆を箸でかき混ぜる。
おお、粘りが強い。
箸がおれそう。
うまそう。
百回かき回すのが俺流である!!
粘りがふわっと泡立ったようになったら、一口分をご飯に乗せて、いざっ!
ううーん、たれの味が独特だけど、納豆~。
故郷の味~。
し・あ・わ・せ。
「……納豆、食べるのね」
「え?」
おお、エリヴィラちゃんから事務的なこと以外初めて話しかけられた。
「ええ。おいしいわよね」
「……珍しいわね。こっちでこれを食べる人、初めて見たわ」
「そうなの? えっと私も初めて食べるのだけど、本で読んだことがあって食べてみたかったの」
レティシアとしては初めて食べるんだし、そういうことにしておこう。
「納豆が出てくる本? なんていうタイトルかしら?」
「んー。昔のことだから覚えてないわ。ただ納豆のことだけはインパクトがあって」
「確かに、珍しい食べ物ですから」
「学園で昼食に出るなんて思わなかったわ」
んんー、煮物も匂いの通り醤油味。
醤油こっちでも手に入るのか! 今度探そう。
焼き魚は一夜干しかなー? ぎゅっと身がしまっていて美味。
脂がのっててご飯が進む。
みそ汁も好みよりは薄いが、よし!
一周ローテーションして、また納豆へと戻る。
至福!!
「お箸の使い方もすごくきれいなんですね」
「ふふ、あなたほどじゃないけど」
レティシアの体だし……って理由だけじゃなく、俺の端づかいでは焼き魚とか結構ボロボロなんだけど、エリヴィラちゃんの焼き魚はきれいに一口ずつ身が外れていく。
なにそれ? 切れ目でも入ってんの? と疑いたくなるレベル。
納豆もくるりと手を返せば糸がきれている。
納豆がここまで上品に食える代物だったとは!
「何か」
「あ、ごめんなさい。失礼だったわね。あなたの箸づかいに見とれてしまって」
「このくらい、普段から箸を使う地方なら当たり前です」
「あら、そうなの」
はい、ダウト!
物心ついたこの方ずっと箸使ってる国にいたけど、そんなきれいな箸づかいそうそういませんー。
言えないけど。
黙々と食事再会。
静かな食事も久しぶりで落ち着く。
おしゃべりしながらの食事も楽しいんだけど、食事に集中できるのもうれしい。
お米の最後の一粒まで食べ終わる。
お代わりしたいところだけど、レティシアの胃袋はもう限界かぁ。
「このメニューはどのくらいの頻度で出るのかしら?」
「……人気のあるメニューはリクエストが集まってよく出るんだけど……これはあまり」
「まぁ」
「これが、最後になってしまうかもしれません」
なんだとぉ!?
確かにこのクラスでは、俺ら二人しか食べてないしなぁ。
これはいかん。
いかん!!
これからも和食を食えるチャンスが!!
心の故郷の味が!!
「このメニューは完璧ね!」
少し大きい声で言う。
「な、なに急に……」
「全体的に高たんぱく低カロリー! 納豆や味噌の発酵食品による抗酸化効果により美白美肌効果、デドックスによるダイエット効果を大いに期待できるわ! これは食べなきゃ!」
ざわっと、教室の空気が変わったのが分かった。
美白美肌デドックスダイエット。
これらがこの年頃の女の子たちにどれだけ影響を与えるか、俺はよく知っている。
休み時間教室で寝たふりをしていると、どれだけこのワードが聞こえてくることか。
ちなみに発酵食品のうんちくは、その時聞こえた話を組み合わせたテキトーなやつである。
「ちょっと、試してみようかしら?」
「レティシア様も食べられているし」
「美白」
「美肌」
「ダイエット……」
さざ波のように言葉は教室に広がり、納豆やみそ汁をもらいに行く子が出てきた。
「糸がっ……糸がっ」
「あ、でも口に入れると匂いはそんなに気になりませんわね」
「トッピングをたくさんつけるとまあまあ食べられますわよ」
おお、思ったよりチャレンジャーが多い。
さすがにグローリアちゃんたち獣人系の子たちは、匂いに負けてしまってるみたいで近づかないけど。
これでまたメニューが巡ってくるはず!
和食をまた食べるためなら俺は手段を択ばねぇぜ!!
「ごちそう様。後でリクエストの出し方も教えてくださいね」
さーて、端っこで匂いに耐えかねているグローリアちゃんたちを外に連れ出すか。
「……とう」
「はい?」
「ありがとう」
「いえ」
お礼なんで必要ないぜ!
これからも故郷の味、守り続けよう!!
「けれど、私にはあまり近づかないほうがいいわ」
……なんで?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
72
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる