百合男子は異世界転移で、魔法学園の愛されお姉様になっちゃいます!

七海椎奈

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重要なのは香りです。

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 いろんなお茶を一杯ずつ。

 ストレートティーにミルクティ、フレーバーティにティーカクテル(もちろんノンアルコール)と何種類飲んだか、もうわからない。

 グローリアちゃんとエダは頭を突きあわせて商談に入ってるし。

 こうして見るとグローリアちゃんもエダもしっかりしてるなぁ!
 ちょっとそこで器からジャムを必死にこそぎ落としてる、ラウラちゃんとイルマちゃんも見習いなさい。
 つか、ジャムがほしいなら言えば出すのに。

 ……いや、その必要もないか。
 なぜかってーと、お菓子のバベルの塔。
 完・全・崩・壊!

 あの山盛りスコーンとビスケットはもうのこり少なく、追加されたグローリアちゃんのほろ苦クッキー、エリヴィラちゃんの甘納豆も駆逐されています。

 まさに兵どもが夢の後って感じ。
 諸行無常!

 グローリアちゃんたちもだけど、エリヴィラちゃん意外と食欲旺盛!
 いや、意外じゃないか。
 納豆ご飯も、もりもり食べてたもんね。

 エリヴィラちゃんはよく観察するとすっごく食べてるんだけど、全然そんな感じがしない。
 ものすごく食べ方がきれいなせいだ。

 今も最後のスコーンを食べているんだけど……
 一口大に割ったスコーンにバタークリームをつけてすっと口に運ぶと、消える。
 もう口の中にしまうみたいにすすっとなくなる。

 そんなにたくさん食べているようには見えないんだけど、お皿に乗ってたお菓子はきれいになくなってしまうのだ。
 見ていて気持ちがいい食べっぷりとは、まさにこのことだな。

 イルマちゃんやラウラちゃんみたいに、おいしいっ! って表情でパクパク食べるのももちろん気持ちいい。
 けど、エリヴィラちゃんはまた別のベクトル。
 なんか爽快感すらある食べっぷりなのだ。

「なにか?」

 エリヴィラちゃんが指先ですっと口元を隠す。
 おっと見すぎたか。

「ふふっ。おいしそうに食べるなぁって」
「……ごめんなさい。食べすぎね。昔からよく言われてるのに」
「あら、謝ることはないわ。せっかく用意したんだもの。たくさん食べてくれるたほうが嬉しいわ」
「なら、いいんですけど」
「エリヴィラちゃんがおいしそうに食べてくれるから、私まで食が進むわ」

 うん、ついつい食べすぎた!
 スコーン二個は食べたしビスケットとか他色々とかカウントしてない。
 お茶もいっぱい飲んだし。

 つかあのお菓子とお茶の量がこの部屋にいるみんなのおなかに納まったってのが、もう不思議。
 もしかして食べながら消化して、おしゃべりで即時カロリー消費してんのかな?

「じゃあ、注文はこれで。こっちはあたしに、のこりは家の方に送って」
「賜りました」

 お菓子がなくなったタイミングで、ちょうどグローリアちゃんとエダの商談も終わったようだ。

「あ、けど、まだ試していないお茶があると思うんだけど」
「全部お出ししたと思うのですが?」
「飲むお義姉っじゃなくて、お義姉さまの香りじゃなくて……お義姉さまがいつも飲んでるお茶ってこれに入ってないわよね?
「普段使い用のものですか?」
「そう、それ!!」
「これですけど……」

 エダが棚から茶葉の入った瓶を取り出し淹れ始める。

「これは本当に普段使いのものですよ? 販売には向かないものを寄せ集めたものなので、茶葉もこまかいので抽出時間はちょっと短めに」

 砂時計が落ち切る前にカップに注ぐ。
 うん、いつもの朝の香りだなぁ。

「これ、この香り!! これが欲しいの! いくらでも買うからっ!!」

 どうしたのグローリアちゃん食いつきすぎっ!
 そりゃ、普段使い茶葉だけど元がいいものだからおいしいよ。
けど、さっきまで飲んでたやつのほうが断然いいやつだよ?

「あのっこれは、販売用ではないので」
「お願い!! お義姉さまっ、お願いしますっこれ分けてください!!」
「レティシア様、どど、どうしましょう?」

 えー、俺?

「えっと……お茶の残りはもうなかったかしら?」
「いえ、半年分は十分にありますが」

 多すぎね?
 そんなもんなの? よくわからないけど。

「それだけあるなら、少し分けてあげるのはできない?」
「また送ってもらえばいいだけですが、もともと地元のみで安く売られているものなので、お値段のつけようがないんです」
「じゃあ、お友達なんだし、少しぐらい差し上げても」
「ダメです!!」

 グローリアちゃんが声をあげる。

「ちゃんとお金払いますからっ、少しとか言わないでください~! たくさん欲しいんです~! 毎日飲むので!! 取り寄せてくださいっ多すぎてもかまいません!!」

 いや、そんな必死にならんでも。

「いくらあっても……たくさんあるなら紅茶風呂とかにしたら……はわわわわっ」
「グローリアさん落ち着くっす!」
「ど~、ど~」

「ええっと。なら……地元のお値段と輸送費でと言うのは?」
「輸送費がそこそこかかってしまうんです。馬車で運ぶには遠くて、魔法で転送するには近すぎる距離なので」
「そうねぇ」

 そうそう、魔法での転送もここでは一般的で、学園の昼食でいろんな地方の食べ物が出るのもこのおかげ!
 でも、生きてるものは送れないらしい。
 理由は知らんけど。

 一瞬で送れる転送魔法は便利だけど使い手も少なくて、お札も高額。
 遠くからたくさん送るなら断然便利なんだけど、家からここまでだと本当に微妙な距離なんだよな。

「少しぐらい高くてもかまわないわ!」
「そうですか? 量があればその分輸送費は抑えられますが……この量でこのくらいのお値段になってしまいます。」
「いただくわ」

 エダがカリカリと計算してる途中で、グローリアちゃんはもう即決。

「もっと量を増やすことってできる?」
「できますが、手持ちが足りませんのでこれ以上は届いてからのお渡しに」
「問題ないわ!」
「そのお値段なら……」

 エリヴィラちゃんがエダのメモを見て少し考え込む。

「私にも少し分けていただけるかしら」
「無理はしなくてもいいのよ?」

 お茶が飲みたいならいつでもここに来ればいいんだし。
 大歓迎しますよ?

「いえ、このくらいのお値段なら、私のおこづかいでも買えますし。このお茶の香り……私、好きですから」
「そうよ、この香りがいいのよ! あなたしっぽはなくても鼻はきくのね! わかるわね! この香りの真価が!!」
「……そう、ね」

 ちらりと視線が向けられたけど、ごめん。
 俺には香りの真価がわからん。
 確かにいい香りだけど、普段使いのお茶だしなぁ。
 先に飲んだやつのほうがいい香りだと思うけど。

 ま、人の好みはそれぞれってことだな。

 グローリアちゃんとエリヴィラちゃんの紅茶の香り談義はだんだん白熱してきて、エダがそっと追加のお茶と小さな砂糖菓子を出してくる。

 うんうん、みんなが楽しそうで俺は幸せだわ。
 この光景、まさに眼福。

 今日はいい夢が見られそうな気がする~。
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