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●もう少し強く
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私の学園生活はがらりと変わった。
レティシアさんが気をかけてくれ、グローリアさんたちはことあるごとに私に話しかけてくる。
たわいのないおしゃべり。
休み時間ごとに開く読みかけの本のしおりは、ずっと動かないまま。
こんな日々は望むことすらなかった。
考えることもなく、無意識にあきらめていたから。
……だから、楽しくて誤解してしまいそうになる。
このふわふわした時間がずっと続くのだと。
だから、彼女たちと別れて部屋に帰ると、静けさに少し驚くと同時に少し安心もする。
あれに慣れきってしまうと……きっと一人に戻った時につらくなる。
運んでくれるメイドもいないので食堂で食べる夕食。
ざわめきの中で黙って食べるのも、嘆く必要なんかない。これが普通なのだ。
黙々と口に食事を運ぶ。
ここの食事はとてもおいしい。
私の楽しみのひとつだ。
みんなで食べる食事もおいしいけれど、こうして一人で食べるのも嫌いじゃない。
全部自分のペースで――
「エリヴィラさん、いいかしら?」
テーブルの前にいたのは少しだけ見覚えのある……多分別のクラスの同級生だ。
その後ろに並んだ女の子たちの半分は、クラスメイトのようだ。
……とうとう来たという感じだ。
人目もあるし逃げることもできるのだけど、面倒なことは後回しにしてもうっとうしいだけだ。
それに、陰でひそひそとされるよりは、はっきり言ってもらえた方がよっぽどいい。
「なにかしら?」
「話があるんだけど」
「そう」
「……来てくれる?」
「ここではできない話なの?」
「そ、そんなわけじゃないけど……」
「そう、ならどうぞ。私は食事が終わってからでもいいけど」
私はことさらゆっくりと食事を再開する。
「あなたね、どこまで失礼なの!?」
「……ん。食事中に連れ出そうとするあなたたちの方が、マナーがなっていないと思うけれど?」
「ぐ……」
あ、これおいしい。
ドレッシングにフルーツビネガーを使っているのかしら?
「あなたなんかね、ただレティシアさんと席が隣なだけで別に特別じゃないんだから!」
やっぱり、思った通りレティシアさんのことだ。
ええ、知ってるわ。
そのとおりね。
新鮮なレタスを租借しながら頷く。
「ちょっと魔法が特殊だからって、仲間みたいな顔して」
「あなただけずるい……」
「レティシアさんだって、迷惑だと思ってるわよ」
先頭に立った子以外は、聞こえるか聞こえないかの声でぼそぼそと言うのみ。
「だからっ、ちょっとは身の程をわきまえなさいよ……」
もっと援護をもらえると思っていたらしい先頭の子の勢いも見る間になくなっていく。
この子たちも、自分たちがみっともないことを言ってることはわかっているんだろうな。
それでも、言わずにはいられないんだろう。
今までの私だったら、こんな風に面と言われたら縮こまってしまったかもしれない。
陰口を無視することは出来ても、真っすぐに向けられる言葉を受け流すのは難しい。
『ふふっ。強いのね』
レティシアさんが言ってくれた言葉。
強がりだったけど、今は……その言葉にふさわしい自分でありたい。
最後の一口を食べて、温くなったお茶を飲み干す。
ごちそうさまと手を合わせ、顔を上げる。
「う……」
それだけで彼女たちはひるんだ。
『けれど、拒絶しているだけじゃ何も変わらないわ』
そうね。そうかも。
クラス委員で伯爵家のグローリアさんには何も言えないのに、私になら言えるだなんて。
しかも、こんな大人数で。
そんな子たちを怖がる必要はない。
「お話はそれだけ?」
「そうよ、だからっ」
「だから何? 私にどうしてほしいの?」
「だから、ずるいじゃない……」
「席が近いのが? 魔法の種類が珍しいのが? それは偶然で私がずるをしたわけじゃないでしょう?」
「でもっ」
全部八つ当たりだ。
この子たちは、レティシアさんが気にかけてくれる私の立場がうらやましいだけ。
それを指摘したところで、火に油を注ぐだけだ。
「私は、何もずるをしていないし、悪いこともしていない」
拒絶したままじゃ変わらない。
今はまだ変わることは出来ないけど、強がりじゃなく強くありたい。
あの人が私にくれた言葉通りに。
「ほかに言いたいことはあるかしら?」
「………」
「ないみたいね。それでは」
私は席を立ちそこに立ったままでいる女の子たちの隣を通り、食器を返す。
ふと思い立って、厨房でポット一杯のお湯をもらった。
部屋に帰って、分けてもらった茶葉でお茶を入れてみる。
あの時と同じ香り。
楽しかったお茶会が思い出される。
あの子たちが欲しかった時間。
ふと、優越感を感じている自分に気づいた。
「……いやな子」
呟いてお茶を口に運ぶ。
あの時より少し苦い気がした。
レティシアさんが気をかけてくれ、グローリアさんたちはことあるごとに私に話しかけてくる。
たわいのないおしゃべり。
休み時間ごとに開く読みかけの本のしおりは、ずっと動かないまま。
こんな日々は望むことすらなかった。
考えることもなく、無意識にあきらめていたから。
……だから、楽しくて誤解してしまいそうになる。
このふわふわした時間がずっと続くのだと。
だから、彼女たちと別れて部屋に帰ると、静けさに少し驚くと同時に少し安心もする。
あれに慣れきってしまうと……きっと一人に戻った時につらくなる。
運んでくれるメイドもいないので食堂で食べる夕食。
ざわめきの中で黙って食べるのも、嘆く必要なんかない。これが普通なのだ。
黙々と口に食事を運ぶ。
ここの食事はとてもおいしい。
私の楽しみのひとつだ。
みんなで食べる食事もおいしいけれど、こうして一人で食べるのも嫌いじゃない。
全部自分のペースで――
「エリヴィラさん、いいかしら?」
テーブルの前にいたのは少しだけ見覚えのある……多分別のクラスの同級生だ。
その後ろに並んだ女の子たちの半分は、クラスメイトのようだ。
……とうとう来たという感じだ。
人目もあるし逃げることもできるのだけど、面倒なことは後回しにしてもうっとうしいだけだ。
それに、陰でひそひそとされるよりは、はっきり言ってもらえた方がよっぽどいい。
「なにかしら?」
「話があるんだけど」
「そう」
「……来てくれる?」
「ここではできない話なの?」
「そ、そんなわけじゃないけど……」
「そう、ならどうぞ。私は食事が終わってからでもいいけど」
私はことさらゆっくりと食事を再開する。
「あなたね、どこまで失礼なの!?」
「……ん。食事中に連れ出そうとするあなたたちの方が、マナーがなっていないと思うけれど?」
「ぐ……」
あ、これおいしい。
ドレッシングにフルーツビネガーを使っているのかしら?
「あなたなんかね、ただレティシアさんと席が隣なだけで別に特別じゃないんだから!」
やっぱり、思った通りレティシアさんのことだ。
ええ、知ってるわ。
そのとおりね。
新鮮なレタスを租借しながら頷く。
「ちょっと魔法が特殊だからって、仲間みたいな顔して」
「あなただけずるい……」
「レティシアさんだって、迷惑だと思ってるわよ」
先頭に立った子以外は、聞こえるか聞こえないかの声でぼそぼそと言うのみ。
「だからっ、ちょっとは身の程をわきまえなさいよ……」
もっと援護をもらえると思っていたらしい先頭の子の勢いも見る間になくなっていく。
この子たちも、自分たちがみっともないことを言ってることはわかっているんだろうな。
それでも、言わずにはいられないんだろう。
今までの私だったら、こんな風に面と言われたら縮こまってしまったかもしれない。
陰口を無視することは出来ても、真っすぐに向けられる言葉を受け流すのは難しい。
『ふふっ。強いのね』
レティシアさんが言ってくれた言葉。
強がりだったけど、今は……その言葉にふさわしい自分でありたい。
最後の一口を食べて、温くなったお茶を飲み干す。
ごちそうさまと手を合わせ、顔を上げる。
「う……」
それだけで彼女たちはひるんだ。
『けれど、拒絶しているだけじゃ何も変わらないわ』
そうね。そうかも。
クラス委員で伯爵家のグローリアさんには何も言えないのに、私になら言えるだなんて。
しかも、こんな大人数で。
そんな子たちを怖がる必要はない。
「お話はそれだけ?」
「そうよ、だからっ」
「だから何? 私にどうしてほしいの?」
「だから、ずるいじゃない……」
「席が近いのが? 魔法の種類が珍しいのが? それは偶然で私がずるをしたわけじゃないでしょう?」
「でもっ」
全部八つ当たりだ。
この子たちは、レティシアさんが気にかけてくれる私の立場がうらやましいだけ。
それを指摘したところで、火に油を注ぐだけだ。
「私は、何もずるをしていないし、悪いこともしていない」
拒絶したままじゃ変わらない。
今はまだ変わることは出来ないけど、強がりじゃなく強くありたい。
あの人が私にくれた言葉通りに。
「ほかに言いたいことはあるかしら?」
「………」
「ないみたいね。それでは」
私は席を立ちそこに立ったままでいる女の子たちの隣を通り、食器を返す。
ふと思い立って、厨房でポット一杯のお湯をもらった。
部屋に帰って、分けてもらった茶葉でお茶を入れてみる。
あの時と同じ香り。
楽しかったお茶会が思い出される。
あの子たちが欲しかった時間。
ふと、優越感を感じている自分に気づいた。
「……いやな子」
呟いてお茶を口に運ぶ。
あの時より少し苦い気がした。
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