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第0章
003
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『至急現場へと急行し、ポイント地点及び、周辺エリアを調査。可能な限り速やかに詳細な状況報告をせよ。尚、ポイントA地点では直前まで強い魔導反応が認められており――』
「はいはい、わかりましたよ、と」
クロノはケータイ画面を埋め尽くす活字を華麗にスルーした。
要するに『地図の赤丸のとこに行ってね! サボったら殺す!』と言いたいのだろう。
歪み放題、噛み砕き放題の早合点と共に、暗号化された位置情報を解読する。
――これって嫌がらせかな?
電話口での「戻るついでに」と言うのは、どうやら彼の聞き間違いだったらしい。
帰り道と真逆を示すポインター。
クロノは肩を落とした。
一刻を争う状況、ということはそれなりの緊急事態なのかもしれないのだが。
「残業代ほしい……」
駄々っ子みたいな独り言と共に、渋々足を速める。
辺りは繁華街の喧騒と相反するように、どっぷりと深夜の暗闇と静黙に包まれていた。
通行人もまばらだ。
そんな状況下で、学生服の少年が独り。
常ならば、うさん臭い勧誘や物騒な大人たちの魔の手が迫りそうなものだったが、彼らは電灯に照らされたクロノの姿を見ると、揃って目を点にする。
それはそうだ。いくらアングラな人種が集まる場所とはいえ、少年は、ぶちまけたように付着する赤黒さをそのままに、平然と歩き回っているのだから。
しかし、そんな少年を引き止めたり、警官に知らせたりする人間も、誰一人としていない。
彼を取り巻く事情なら、見る者が見ればすぐに察するはずだ。
これはどこの派閥にも言えることだが、結社の活動は、世間では公的な労働として指定されていない。それどころか、七つの鍵に関わりを持たない一般市民にとって、組織としての実体すら不鮮明である彼らは、過激派団体、暴力団、カルト教団、果てはテロ組織と、とにかく得体の知れない集団としてネットを中心に名を馳せている。
彼らの活動内容を考えれば、それらが身も蓋もない俗称だとも言い切れないのだから、仕方ない。現代社会において、術師結社の存在は完全に〝社会の闇〟扱いなのだ。
そして、眉一つ動かさず、返り血を晒している異常性。
クロノが術師結社との関与を匂わせてしまうのは、世間ではひどく必然的なことだった。
そんなわけで。現代の魔法術と言えば聞こえは良いが、結社に所属する紋章術の使い手たちはその常人離れした能力も相まってか、とても一般社会には馴染めない。彼らがまともな人間として扱ってもらうには、使い手であることを隠し通し一般人として社会に出るか。生粋の使い手として術師結社に雇ってもらい鍵の争奪戦に駆り出されるか。そのどちらかしかない。
だからなのだろうか。クロノが今いる結社は基本的に人使いが荒い。残業代なし、ボーナスなし。命の保証なし。「雇ってやってるんだから働け」がお決まりの超俺様スタンスだ。
――ヘッドハンティングとか、来ないかな。
クロノはおざなりな呟きを胸に、ケータイ画面で現在位置を確認する。
ポインターが示す赤色と、重なった。
そこには雑多なビル街を切り取ったように、広大な緑地が忽然と広がっている。
こんな所に公園なんかあっただろうかと、クロノが首を傾げた、その時。
――キィィーーン
共鳴して震えるような、甲高く耳障りな音が頭に響いた。
「はいはい、わかりましたよ、と」
クロノはケータイ画面を埋め尽くす活字を華麗にスルーした。
要するに『地図の赤丸のとこに行ってね! サボったら殺す!』と言いたいのだろう。
歪み放題、噛み砕き放題の早合点と共に、暗号化された位置情報を解読する。
――これって嫌がらせかな?
電話口での「戻るついでに」と言うのは、どうやら彼の聞き間違いだったらしい。
帰り道と真逆を示すポインター。
クロノは肩を落とした。
一刻を争う状況、ということはそれなりの緊急事態なのかもしれないのだが。
「残業代ほしい……」
駄々っ子みたいな独り言と共に、渋々足を速める。
辺りは繁華街の喧騒と相反するように、どっぷりと深夜の暗闇と静黙に包まれていた。
通行人もまばらだ。
そんな状況下で、学生服の少年が独り。
常ならば、うさん臭い勧誘や物騒な大人たちの魔の手が迫りそうなものだったが、彼らは電灯に照らされたクロノの姿を見ると、揃って目を点にする。
それはそうだ。いくらアングラな人種が集まる場所とはいえ、少年は、ぶちまけたように付着する赤黒さをそのままに、平然と歩き回っているのだから。
しかし、そんな少年を引き止めたり、警官に知らせたりする人間も、誰一人としていない。
彼を取り巻く事情なら、見る者が見ればすぐに察するはずだ。
これはどこの派閥にも言えることだが、結社の活動は、世間では公的な労働として指定されていない。それどころか、七つの鍵に関わりを持たない一般市民にとって、組織としての実体すら不鮮明である彼らは、過激派団体、暴力団、カルト教団、果てはテロ組織と、とにかく得体の知れない集団としてネットを中心に名を馳せている。
彼らの活動内容を考えれば、それらが身も蓋もない俗称だとも言い切れないのだから、仕方ない。現代社会において、術師結社の存在は完全に〝社会の闇〟扱いなのだ。
そして、眉一つ動かさず、返り血を晒している異常性。
クロノが術師結社との関与を匂わせてしまうのは、世間ではひどく必然的なことだった。
そんなわけで。現代の魔法術と言えば聞こえは良いが、結社に所属する紋章術の使い手たちはその常人離れした能力も相まってか、とても一般社会には馴染めない。彼らがまともな人間として扱ってもらうには、使い手であることを隠し通し一般人として社会に出るか。生粋の使い手として術師結社に雇ってもらい鍵の争奪戦に駆り出されるか。そのどちらかしかない。
だからなのだろうか。クロノが今いる結社は基本的に人使いが荒い。残業代なし、ボーナスなし。命の保証なし。「雇ってやってるんだから働け」がお決まりの超俺様スタンスだ。
――ヘッドハンティングとか、来ないかな。
クロノはおざなりな呟きを胸に、ケータイ画面で現在位置を確認する。
ポインターが示す赤色と、重なった。
そこには雑多なビル街を切り取ったように、広大な緑地が忽然と広がっている。
こんな所に公園なんかあっただろうかと、クロノが首を傾げた、その時。
――キィィーーン
共鳴して震えるような、甲高く耳障りな音が頭に響いた。
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