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第0章
008
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少女がクロノを心配し、勇気を出して声を掛けた頃。
深緑色の大理石が敷き詰められた部屋で、彼女も同じように勇気を出して声を掛けようとしていた。
「~~~~」
言語なのかも不明な言葉で鼻唄を歌いながら、迅速に紙の束を紙飛行機に変えていくのは、ただでさえ常識とかけ離れた人間の集まる結社の中でも、数えるほどもいない常識が裸足で逃げ出すくらい非常識を極めた少女。ちなみに彼女が非常識を極めたと言われる理由は、容姿は中学生ぐらいだというのに、実年齢はその倍かそれ以上あるからである。
セラは彼女が苦手で、尚かつ嫌いだった。
「セラちゃんはさー」
少女は、セラに見向きもせずに声を掛けた。
どこか幼さの残る口調とは裏腹に、声音は大人びている。
「周りが見えてないんだよ。もう少し柔軟に対応しないとね」
そう言った少女は、途中で面白いモノを見付けたからとの理由で、名指しでクロノに仕事を押し付けた挙げ句、例の公園での出来事を一部始終影から見守っていた張本人。だから、クロノが他組織の使い手と談話していたことも、ターゲットの少女をスーツケースに詰めて結社に連れ帰ったところも、全部知っている。
そして、言うまでもないが、一部偽装された報告書をセラに提出したのも彼女だ。
「でもまさか、あのレプリカ少女に逃げられちゃうとはね」
きゃっきゃと声だけ弾ませた少女に、僅かにセラの表情が歪む。
何がおもしろいのだろうか、何が楽しいのだろうか。箸が転がっただけで笑い転げるような少女の心理など、セラはまったくわからないし、わかりたいとも思わない。
至極愉快そうな少女と対照的に、セラの心は荒んでいく。
それに気付いていながら無視して、顔を上げた少女は柔らかく微笑む。
「私の故郷にね、「二兎追う者は一兎も得ず」って言葉があるんだよ」
「…………何が言いたい?」
少女は大量生産した紙飛行機を散らかしたまま立ち上がった。
「クロノ君に二つも仕事を与えるのは無謀だと思うし、そもそも、出来損ないも成り上がりも両方ほしいなんて我が儘だよ」
「言葉を慎め」
その言葉が終わるか終わらないかのところで、闇が空気を裂いた。
いつの間にセラの手に握られていた漆黒の鎌の、黒光りする刃が少女の首に向けられる。射抜くような檸檬色の瞳が、更に細くなる。
だが少女は微笑みを崩さなかった。
おもむろに持ち上げられる片手。同時に、床に散らばる紙飛行機が一斉に宙へ浮いた。
その先端は、全部セラへと向けられている。
「残念でしたー。今はもう、セラちゃんより私の方が早いよ」
カタカタと紙飛行機が揺れる。
その紙飛行機が狙うのはセラ――ではなく、その後ろ。
「ナツメっ、何をするつもりだ!」
セラが鎌で紙飛行機を叩き落とそうとした瞬間、その横をすり抜けて行く紙飛行機。まるで、自らに意思があるかのように。
「ほんの少しだけ、可愛い後輩のお手伝い。……あの子ったら、誰も気付かないとでも思ってるのかな」
楽しそうにクスクスと笑いながら、ナツメと呼ばれた少女は天井を仰ぐ。
いつの間にかに開け放たれていたドアから、紙飛行機が飛び出して行った。
深緑色の大理石が敷き詰められた部屋で、彼女も同じように勇気を出して声を掛けようとしていた。
「~~~~」
言語なのかも不明な言葉で鼻唄を歌いながら、迅速に紙の束を紙飛行機に変えていくのは、ただでさえ常識とかけ離れた人間の集まる結社の中でも、数えるほどもいない常識が裸足で逃げ出すくらい非常識を極めた少女。ちなみに彼女が非常識を極めたと言われる理由は、容姿は中学生ぐらいだというのに、実年齢はその倍かそれ以上あるからである。
セラは彼女が苦手で、尚かつ嫌いだった。
「セラちゃんはさー」
少女は、セラに見向きもせずに声を掛けた。
どこか幼さの残る口調とは裏腹に、声音は大人びている。
「周りが見えてないんだよ。もう少し柔軟に対応しないとね」
そう言った少女は、途中で面白いモノを見付けたからとの理由で、名指しでクロノに仕事を押し付けた挙げ句、例の公園での出来事を一部始終影から見守っていた張本人。だから、クロノが他組織の使い手と談話していたことも、ターゲットの少女をスーツケースに詰めて結社に連れ帰ったところも、全部知っている。
そして、言うまでもないが、一部偽装された報告書をセラに提出したのも彼女だ。
「でもまさか、あのレプリカ少女に逃げられちゃうとはね」
きゃっきゃと声だけ弾ませた少女に、僅かにセラの表情が歪む。
何がおもしろいのだろうか、何が楽しいのだろうか。箸が転がっただけで笑い転げるような少女の心理など、セラはまったくわからないし、わかりたいとも思わない。
至極愉快そうな少女と対照的に、セラの心は荒んでいく。
それに気付いていながら無視して、顔を上げた少女は柔らかく微笑む。
「私の故郷にね、「二兎追う者は一兎も得ず」って言葉があるんだよ」
「…………何が言いたい?」
少女は大量生産した紙飛行機を散らかしたまま立ち上がった。
「クロノ君に二つも仕事を与えるのは無謀だと思うし、そもそも、出来損ないも成り上がりも両方ほしいなんて我が儘だよ」
「言葉を慎め」
その言葉が終わるか終わらないかのところで、闇が空気を裂いた。
いつの間にセラの手に握られていた漆黒の鎌の、黒光りする刃が少女の首に向けられる。射抜くような檸檬色の瞳が、更に細くなる。
だが少女は微笑みを崩さなかった。
おもむろに持ち上げられる片手。同時に、床に散らばる紙飛行機が一斉に宙へ浮いた。
その先端は、全部セラへと向けられている。
「残念でしたー。今はもう、セラちゃんより私の方が早いよ」
カタカタと紙飛行機が揺れる。
その紙飛行機が狙うのはセラ――ではなく、その後ろ。
「ナツメっ、何をするつもりだ!」
セラが鎌で紙飛行機を叩き落とそうとした瞬間、その横をすり抜けて行く紙飛行機。まるで、自らに意思があるかのように。
「ほんの少しだけ、可愛い後輩のお手伝い。……あの子ったら、誰も気付かないとでも思ってるのかな」
楽しそうにクスクスと笑いながら、ナツメと呼ばれた少女は天井を仰ぐ。
いつの間にかに開け放たれていたドアから、紙飛行機が飛び出して行った。
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