Geometrially_spell_aria

吹雪舞桜

文字の大きさ
9 / 97
第0章

008

しおりを挟む
 少女がクロノを心配し、勇気を出して声を掛けた頃。
 深緑色の大理石が敷き詰められた部屋で、彼女も同じように勇気を出して声を掛けようとしていた。


「~~~~」


 言語なのかも不明な言葉で鼻唄を歌いながら、迅速に紙の束を紙飛行機に変えていくのは、ただでさえ常識とかけ離れた人間の集まる結社の中でも、数えるほどもいない常識が裸足で逃げ出すくらい非常識を極めた少女。ちなみに彼女が非常識を極めたと言われる理由は、容姿は中学生ぐらいだというのに、実年齢はその倍かそれ以上あるからである。
 セラは彼女が苦手で、尚かつ嫌いだった。


「セラちゃんはさー」


 少女は、セラに見向きもせずに声を掛けた。
 どこか幼さの残る口調とは裏腹に、声音は大人びている。


「周りが見えてないんだよ。もう少し柔軟に対応しないとね」


 そう言った少女は、途中で面白いモノを見付けたからとの理由で、名指しでクロノに仕事を押し付けた挙げ句、例の公園での出来事を一部始終影から見守っていた張本人。だから、クロノが他組織の使い手と談話していたことも、ターゲットの少女をスーツケースに詰めて結社に連れ帰ったところも、全部知っている。
 そして、言うまでもないが、一部偽装された報告書をセラに提出したのも彼女だ。


「でもまさか、あのレプリカ少女に逃げられちゃうとはね」


 きゃっきゃと声だけ弾ませた少女に、僅かにセラの表情が歪む。
 何がおもしろいのだろうか、何が楽しいのだろうか。箸が転がっただけで笑い転げるような少女の心理など、セラはまったくわからないし、わかりたいとも思わない。
 至極愉快そうな少女と対照的に、セラの心は荒んでいく。
 それに気付いていながら無視して、顔を上げた少女は柔らかく微笑む。


「私の故郷にね、「二兎追う者は一兎も得ず」って言葉があるんだよ」
「…………何が言いたい?」


 少女は大量生産した紙飛行機を散らかしたまま立ち上がった。


「クロノ君に二つも仕事を与えるのは無謀だと思うし、そもそも、出来損ないも成り上がりも両方ほしいなんて我が儘だよ」
「言葉を慎め」


 その言葉が終わるか終わらないかのところで、闇が空気を裂いた。
 いつの間にセラの手に握られていた漆黒の鎌の、黒光りする刃が少女の首に向けられる。射抜くような檸檬色の瞳が、更に細くなる。
 だが少女は微笑みを崩さなかった。
 おもむろに持ち上げられる片手。同時に、床に散らばる紙飛行機が一斉に宙へ浮いた。
 その先端は、全部セラへと向けられている。


「残念でしたー。今はもう、セラちゃんより私の方が早いよ」


 カタカタと紙飛行機が揺れる。
 その紙飛行機が狙うのはセラ――ではなく、その後ろ。


「ナツメっ、何をするつもりだ!」


 セラが鎌で紙飛行機を叩き落とそうとした瞬間、その横をすり抜けて行く紙飛行機。まるで、自らに意思があるかのように。


「ほんの少しだけ、可愛い後輩のお手伝い。……あの子ったら、誰も気付かないとでも思ってるのかな」


 楽しそうにクスクスと笑いながら、ナツメと呼ばれた少女は天井を仰ぐ。
 いつの間にかに開け放たれていたドアから、紙飛行機が飛び出して行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは夫と婚姻してから三年という長い時間を振り返る。 その間、夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

処理中です...