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第1章
021
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集められた砂が徐々に何かを形作っていく。その際に発生する強力な魔力が、魔導汚染のように周囲の空間を重くする。
それに呼応するかのように、ミントの魔力も高まっていく。
彼女を中心にとぐろを巻いていくように、不規則な風が吹き始める。
通常の人間はもちろん、生半可な紋章術の使い手でも狂ってしまうような、それほどの魔力がこの空間を充満させている。例え、ある程度熟練の使い手でも紋章術が使えない丸腰の状態では、たまったものではないだろう。
クロノは感触のない、ナイフを握る手を見つめた。
重圧の魔力にあてられた彼の体が、その強さに耐え切れず感覚が麻痺しかけている。
「何だこれ」
耐え切れず、ぽつりと吐き捨てるクロノ。
ずっと前に見た、元所属結社で行われていた化け物と規格外の模範戦闘の時に発生していた魔導汚染。あの時戦っていた二人が本当に人間なのか疑ってしまう程だったが、実力は化け物であっても、あれはまだ人間なのだと理解させられる。
その模範戦闘の比ではない程の圧迫感が、この空間を重く押し付けていた。
囮になると言った以上しっかりその責務を果たさなければ。
クロノは駆け出した足を止めることなく、自殺行為よろしく距離を詰める。
ナイフの刃は短いので、射程距離は腕の長さぐらいと考えるしかない。
だが、それでも。
相手が紋章術に集中していたおかげなのだろうか。ナイフの刃が届く距離まで近付けた。
何となく呆気なさを感じながらも、クロノはその刃を斜めに振り上げる。
キィンッ、と軽い金属音が砂漠に響いた。
「っ」
マリオネットのように、四肢はもちろん首すらも脱力したままだと言うのに。その手にある両刃の片手剣がクロノのナイフを受け止めた。
力なく上げられた腕、意思を持ったかのような動きを見せる剣。
その背後で巻き上げられ、集められていく砂。
それは、長くたくましい生き物を形作っていく。
クロノとしてもただ護身用にナイフを所持しているわけではない。正直な話をすれば、紋章術よりも武器の扱いの方が得意なのだ。
一旦間合いを取り直して、クロノは再度地面を蹴った。
両刃剣と、その半分ぐらいしか刃のないナイフで打ち合う。
相手がクロノの攻撃を捌くのに気が逸らされたからなのか、折角姿を現し始めた砂の生き物が崩れ始めていた。
「邪魔だぁあ!」
どうやら、目の前の茶髪は男だったらしい。
ブンッ、と乱暴で大袈裟に真一文字に振られた剣。
その軌跡が、二人の間に距離を作る。
そして、その間合いを埋めるかのように崩れ落ちる、何かを形成しようとしていた砂。
「っ」
避ける暇も身を守る術もなく、少年は雪崩れる砂を受け入れるしかなかった。
クロノの姿が埋もれて見えなくなると、男の子は役目を終えたかのように大人しくなる。そして、再びミントの方へと向き直った。
改めて砂塵が波打つ、次の瞬間。
「あああああっ!」
限界ギリギリまで魔力を溜めたミントが、悲痛な叫び声と共に紋章術を放つ。
それはまるで、全てを拒絶するように。
吹き荒れる風が、砂漠を削っていく。
砂崩れを彼方まで巻き上げるような勢いで天へ放たれる竜巻。
薄くなった砂から、クロノが這い出てきた。
「ごほっごほっ」
砂の大半が巻き上げられたおかげで身動きが取れるようになると彼は、自身の感覚を頼りに、窒息する前に砂の外へと体を起こしたのだった。思いの外、砂の圧迫は強かったらしい。飲み込んだ砂を吐き出そうと咳込む度に、体が尋常じゃない痛みを訴えている。折れたかもな、と思わず内心苦笑いを零した。
痛感を無視して口元を拭いながら視線を上げたクロノの目の前。
あの、とち狂った威力を持つ風刃が男の子に直撃した。
直後、砂漠が揺らぎ、その奥から緑の溢れる公園が顔をのぞかせる。
嫌な予感に振り返ろうとしたクロノ。
駆け抜けた烈風がその頬を撫でる。
ぶわりと勢いよく空気を薙いだ風は、そのままの勢いで砂諸共男の子を弾いた。
軽々と浮いた茶髪。
彼は、それでも離さない剣の切っ先をミントに向ける。
風の紋章術に吹き上げられた砂は徐々に収縮し始め、またたく間に巨大な砲弾を思わせるようなサイズにまで凝固した。上空から狙い撃つつもりなのだろう。
ゆっくりと動きを見せる剣。
だが、ミントの方が早かった。
濃圧な魔力が風刃へと姿を変え、具現化される。
呻り声を上げた風は空気ごと切り刻むように、砂の弾丸ごと男の子に襲いかかった。
男の子の叫び声は聞こえない。それだけが唯一の救いだった。成り行きとは言え、苦痛の悲鳴など少女に聞かせたくなかった。それが、彼女自身が攻撃した相手となれば尚更。
代わりに聞こえるのは、空気を裂く風と砕かれる砂弾の音。
細かく砕かれた砂のつぶては支えの魔力を失ったようで、残風に弄ばれ宙を舞っている。
それらを操る男の子も、すでに力尽きている様子。
思わず、クロノの表情が引き攣る。
紋章術の風が勢いを失ったらどうなるのか、火を見るよりも明らかだ。
少年の背後で、ミントが砂に膝を付いた。
「危ない!」
クロノの切羽詰まった声は、突如立ち上がった砂塵に掻き消された。
砂のつぶでが重力に任せて次々と墜とされていく。
砂漠に深緑が広がる不思議な空間が、砂埃で隠される。
しばらくして砂の海は静寂に包まれた。
小さな舌打ちと共に視界に舞う砂を払ったクロノは顔を上げるも、耳に残る誰かの悲鳴に顔をしかめる。いや、響いているのは頭だ。
もしかしたら、甲高い耳障りなそれは、悲鳴じゃないのかもしれない。
ぐにゃりと歪む世界で黄土色と緑色が混ざり合う。
響いて消えない耳鳴り。
「――っ!」
砂に膝を付き、クロノは頭を押さえる。
カラン、とナイフが地面に転がる音がした。
次々と現れては消えて行く走馬灯のような何か。頭の中が掻き混ぜられていく感覚に、吐き気を覚えた。情報処理が追いつかなくなった脳が焼けるような痛みを訴え始める。
チカチカする視界で、ぐるりと世界が反転した。
とうとう自力で体を支えられなくなったクロノが崩れ落ちるように倒れた。
何を掴もうとしたのか、無意識に伸ばされたその手が、砂とは違う固い地面に触れる。
――コツン。
突如、ヒールが地面を叩く音が耳に響いた。
割って入ったその音がはっきりと聞こえたかと思えば、喧しかった耳鳴りがピタリと止む。
無音になった世界を壊すように響いたのは、何か薄いガラスが割れるような音。
クロノは肩で呼吸をしながら、音の正体を確認しようとまばたきを繰り返す。
目の前に広がっていた「砂漠と自然」の景色が割れ、その隙間からまだ記憶に新しい田舎街の風景が見えた。
手前にピントを合わせると、ヒールが高めのストライプシューズが視界に入る。
身体に負担のかからないようにしながら、出来るだけ視線を上げる。
身を包む黒に装飾の黄金が映える女性。
金糸の髪をさらりと揺らして、彼女はしゃがみ込んだ。
ビー玉のように透ける目がクロノを捉えた。
「……!」
驚きで目を見開くクロノを気にもせず、彼女は懐から取り出した小さく折られた紙を彼の上着のポケットに入れた。そして微笑む気配を帯びると、小首を傾げながら人差し指を口元に当てる。まるで「内緒だよ」とでも言いたげに。
空間があの路地へと戻る。
徐々に、現実のものではない砂漠と公園が消えていく。
それをぼんやりと眺めていたクロノの視界の隅で、彼女が立ち上がった。
「ま……っ」
まだ話したいことはある。
開きかけた口がそれ以上言葉を紡ぐことはなく、代わりにむせるような咳を吐き出した。
だが、彼女は咳き込む少年は気に留めず、パタパタと遠ざかって行く。
追いかけようとふらつきながらも起き上がったクロノは、気を失い倒れているミントの姿を視界に捉え、はたと動きを止めた。慣れない紋章術を無理に使った上に、相性の悪い紋章術による攻撃を受けたのだ。重傷を受けた少女を放っておくわけにもいかない。それに、何より今は、同じく気絶している男の子を本部へ連れて行く仕事の途中である。それに、この後には人魚姫の件も控えているのだ。
仕方ない、とクロノは女性を追いかけるのは断念する。
尚も訴え続ける痛みを徹底的に無視して立ち上がると、タイミング良くケータイが鳴った。
「はい」
『よおクロノ! お転婆な赤頭巾に苦戦したようだな!』
傷に響くような大声が、ケータイ越しに聞こえた。
見ていたかのような物言いをする能天気な赤毛を、本気で殴りたくなった。お前は何をしてたんだ、と言いたくなった文句をすんでのところで飲み込む。
「…………今から運ぶところだ」
『そうか。それはタイミングが良い』
どこか言いにくそうに告げるエイレン。
深刻な話題なのかもしれないが、残念ながら軽い口調がその雰囲気をぶち壊している。
『どうやら、人魚姫はたくましかったぞ。まるで白雪姫が森へ逃げ込んだみたいに、王子が結婚相手と会うのを阻止したらしいぞ!』
「は?」
何を言っているのか理解出来ない。
わかったのは、エイレンが人魚姫と接触していたことだけだ。
人魚姫は次のクロノたちの仕事のはずだ、肩代わりをしたのだろうか。それとも、別の仕事中に接触するチャンスがあったのか。
『とりあえずクロノ。お前たちは遠足帰りの小学生のように帰宅だ。良いか、遠足は帰るまでが遠足だぞ!』
誰か通訳を呼んでくれ、とクロノは心底思った。
それに呼応するかのように、ミントの魔力も高まっていく。
彼女を中心にとぐろを巻いていくように、不規則な風が吹き始める。
通常の人間はもちろん、生半可な紋章術の使い手でも狂ってしまうような、それほどの魔力がこの空間を充満させている。例え、ある程度熟練の使い手でも紋章術が使えない丸腰の状態では、たまったものではないだろう。
クロノは感触のない、ナイフを握る手を見つめた。
重圧の魔力にあてられた彼の体が、その強さに耐え切れず感覚が麻痺しかけている。
「何だこれ」
耐え切れず、ぽつりと吐き捨てるクロノ。
ずっと前に見た、元所属結社で行われていた化け物と規格外の模範戦闘の時に発生していた魔導汚染。あの時戦っていた二人が本当に人間なのか疑ってしまう程だったが、実力は化け物であっても、あれはまだ人間なのだと理解させられる。
その模範戦闘の比ではない程の圧迫感が、この空間を重く押し付けていた。
囮になると言った以上しっかりその責務を果たさなければ。
クロノは駆け出した足を止めることなく、自殺行為よろしく距離を詰める。
ナイフの刃は短いので、射程距離は腕の長さぐらいと考えるしかない。
だが、それでも。
相手が紋章術に集中していたおかげなのだろうか。ナイフの刃が届く距離まで近付けた。
何となく呆気なさを感じながらも、クロノはその刃を斜めに振り上げる。
キィンッ、と軽い金属音が砂漠に響いた。
「っ」
マリオネットのように、四肢はもちろん首すらも脱力したままだと言うのに。その手にある両刃の片手剣がクロノのナイフを受け止めた。
力なく上げられた腕、意思を持ったかのような動きを見せる剣。
その背後で巻き上げられ、集められていく砂。
それは、長くたくましい生き物を形作っていく。
クロノとしてもただ護身用にナイフを所持しているわけではない。正直な話をすれば、紋章術よりも武器の扱いの方が得意なのだ。
一旦間合いを取り直して、クロノは再度地面を蹴った。
両刃剣と、その半分ぐらいしか刃のないナイフで打ち合う。
相手がクロノの攻撃を捌くのに気が逸らされたからなのか、折角姿を現し始めた砂の生き物が崩れ始めていた。
「邪魔だぁあ!」
どうやら、目の前の茶髪は男だったらしい。
ブンッ、と乱暴で大袈裟に真一文字に振られた剣。
その軌跡が、二人の間に距離を作る。
そして、その間合いを埋めるかのように崩れ落ちる、何かを形成しようとしていた砂。
「っ」
避ける暇も身を守る術もなく、少年は雪崩れる砂を受け入れるしかなかった。
クロノの姿が埋もれて見えなくなると、男の子は役目を終えたかのように大人しくなる。そして、再びミントの方へと向き直った。
改めて砂塵が波打つ、次の瞬間。
「あああああっ!」
限界ギリギリまで魔力を溜めたミントが、悲痛な叫び声と共に紋章術を放つ。
それはまるで、全てを拒絶するように。
吹き荒れる風が、砂漠を削っていく。
砂崩れを彼方まで巻き上げるような勢いで天へ放たれる竜巻。
薄くなった砂から、クロノが這い出てきた。
「ごほっごほっ」
砂の大半が巻き上げられたおかげで身動きが取れるようになると彼は、自身の感覚を頼りに、窒息する前に砂の外へと体を起こしたのだった。思いの外、砂の圧迫は強かったらしい。飲み込んだ砂を吐き出そうと咳込む度に、体が尋常じゃない痛みを訴えている。折れたかもな、と思わず内心苦笑いを零した。
痛感を無視して口元を拭いながら視線を上げたクロノの目の前。
あの、とち狂った威力を持つ風刃が男の子に直撃した。
直後、砂漠が揺らぎ、その奥から緑の溢れる公園が顔をのぞかせる。
嫌な予感に振り返ろうとしたクロノ。
駆け抜けた烈風がその頬を撫でる。
ぶわりと勢いよく空気を薙いだ風は、そのままの勢いで砂諸共男の子を弾いた。
軽々と浮いた茶髪。
彼は、それでも離さない剣の切っ先をミントに向ける。
風の紋章術に吹き上げられた砂は徐々に収縮し始め、またたく間に巨大な砲弾を思わせるようなサイズにまで凝固した。上空から狙い撃つつもりなのだろう。
ゆっくりと動きを見せる剣。
だが、ミントの方が早かった。
濃圧な魔力が風刃へと姿を変え、具現化される。
呻り声を上げた風は空気ごと切り刻むように、砂の弾丸ごと男の子に襲いかかった。
男の子の叫び声は聞こえない。それだけが唯一の救いだった。成り行きとは言え、苦痛の悲鳴など少女に聞かせたくなかった。それが、彼女自身が攻撃した相手となれば尚更。
代わりに聞こえるのは、空気を裂く風と砕かれる砂弾の音。
細かく砕かれた砂のつぶては支えの魔力を失ったようで、残風に弄ばれ宙を舞っている。
それらを操る男の子も、すでに力尽きている様子。
思わず、クロノの表情が引き攣る。
紋章術の風が勢いを失ったらどうなるのか、火を見るよりも明らかだ。
少年の背後で、ミントが砂に膝を付いた。
「危ない!」
クロノの切羽詰まった声は、突如立ち上がった砂塵に掻き消された。
砂のつぶでが重力に任せて次々と墜とされていく。
砂漠に深緑が広がる不思議な空間が、砂埃で隠される。
しばらくして砂の海は静寂に包まれた。
小さな舌打ちと共に視界に舞う砂を払ったクロノは顔を上げるも、耳に残る誰かの悲鳴に顔をしかめる。いや、響いているのは頭だ。
もしかしたら、甲高い耳障りなそれは、悲鳴じゃないのかもしれない。
ぐにゃりと歪む世界で黄土色と緑色が混ざり合う。
響いて消えない耳鳴り。
「――っ!」
砂に膝を付き、クロノは頭を押さえる。
カラン、とナイフが地面に転がる音がした。
次々と現れては消えて行く走馬灯のような何か。頭の中が掻き混ぜられていく感覚に、吐き気を覚えた。情報処理が追いつかなくなった脳が焼けるような痛みを訴え始める。
チカチカする視界で、ぐるりと世界が反転した。
とうとう自力で体を支えられなくなったクロノが崩れ落ちるように倒れた。
何を掴もうとしたのか、無意識に伸ばされたその手が、砂とは違う固い地面に触れる。
――コツン。
突如、ヒールが地面を叩く音が耳に響いた。
割って入ったその音がはっきりと聞こえたかと思えば、喧しかった耳鳴りがピタリと止む。
無音になった世界を壊すように響いたのは、何か薄いガラスが割れるような音。
クロノは肩で呼吸をしながら、音の正体を確認しようとまばたきを繰り返す。
目の前に広がっていた「砂漠と自然」の景色が割れ、その隙間からまだ記憶に新しい田舎街の風景が見えた。
手前にピントを合わせると、ヒールが高めのストライプシューズが視界に入る。
身体に負担のかからないようにしながら、出来るだけ視線を上げる。
身を包む黒に装飾の黄金が映える女性。
金糸の髪をさらりと揺らして、彼女はしゃがみ込んだ。
ビー玉のように透ける目がクロノを捉えた。
「……!」
驚きで目を見開くクロノを気にもせず、彼女は懐から取り出した小さく折られた紙を彼の上着のポケットに入れた。そして微笑む気配を帯びると、小首を傾げながら人差し指を口元に当てる。まるで「内緒だよ」とでも言いたげに。
空間があの路地へと戻る。
徐々に、現実のものではない砂漠と公園が消えていく。
それをぼんやりと眺めていたクロノの視界の隅で、彼女が立ち上がった。
「ま……っ」
まだ話したいことはある。
開きかけた口がそれ以上言葉を紡ぐことはなく、代わりにむせるような咳を吐き出した。
だが、彼女は咳き込む少年は気に留めず、パタパタと遠ざかって行く。
追いかけようとふらつきながらも起き上がったクロノは、気を失い倒れているミントの姿を視界に捉え、はたと動きを止めた。慣れない紋章術を無理に使った上に、相性の悪い紋章術による攻撃を受けたのだ。重傷を受けた少女を放っておくわけにもいかない。それに、何より今は、同じく気絶している男の子を本部へ連れて行く仕事の途中である。それに、この後には人魚姫の件も控えているのだ。
仕方ない、とクロノは女性を追いかけるのは断念する。
尚も訴え続ける痛みを徹底的に無視して立ち上がると、タイミング良くケータイが鳴った。
「はい」
『よおクロノ! お転婆な赤頭巾に苦戦したようだな!』
傷に響くような大声が、ケータイ越しに聞こえた。
見ていたかのような物言いをする能天気な赤毛を、本気で殴りたくなった。お前は何をしてたんだ、と言いたくなった文句をすんでのところで飲み込む。
「…………今から運ぶところだ」
『そうか。それはタイミングが良い』
どこか言いにくそうに告げるエイレン。
深刻な話題なのかもしれないが、残念ながら軽い口調がその雰囲気をぶち壊している。
『どうやら、人魚姫はたくましかったぞ。まるで白雪姫が森へ逃げ込んだみたいに、王子が結婚相手と会うのを阻止したらしいぞ!』
「は?」
何を言っているのか理解出来ない。
わかったのは、エイレンが人魚姫と接触していたことだけだ。
人魚姫は次のクロノたちの仕事のはずだ、肩代わりをしたのだろうか。それとも、別の仕事中に接触するチャンスがあったのか。
『とりあえずクロノ。お前たちは遠足帰りの小学生のように帰宅だ。良いか、遠足は帰るまでが遠足だぞ!』
誰か通訳を呼んでくれ、とクロノは心底思った。
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