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第1章
034
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扉の先に広がる光景。
そこは、クロノの記憶に残る町並みとは全く違っていた。
歪み崩れ落ちた建物。立ち上がる黒い煙と、音を立てて燃える火。
火を見るよりも明らかな襲撃跡だ。
今にも降り出しそうな薄暗い空。
初夏だと言うのに不規則に吹き上がる風は冷たい。頬を撫でる冷風には、微かに魔力が混じっていた。この異常な気候は、紋章術か使い手の魔力によるものだろう。
背後で扉が閉まる気配を感じながら、歩き出そうとした瞬間。
例の耳鳴りが耳を打った。
クロノは反射的に隣に立つ少女に視線を向ける。
だが、彼女も辛そうに表情を歪めて少年を見上げていた。どうやら原因はミントではないようだ。しかも今回は聞こえたようなので、余程強い反応のようだ。もしくは、単に彼女の感知能力が上がっただけなのかもしれないが。
やはり、現場に鍵の存在があるらしい。
今回も赤頭巾と同じく〝人間〟なのだろう。抗争に参加しているのだとしたら、また紋章術の使えない事態に陥る可能性もある。敵側の戦力でなければ良いのだが。
と、耳鳴りに続くように、バチッと弾ける音が聞こえた。
静電気よりも重い。例えるならば、何かが爆ぜる音。
そして、ひどく覚えのある冷たい魔力が肌に刺さる。
「っ」
クロノは反射的に走り出していた。
崩れた瓦礫の間を抜け、大通りを過ぎた。
必死で追い掛けて来るミントを背後に感じる。ちゃんと付いて来ているようだ。
不幸中の幸いか、死体は転がっていなかった。使い手はもちろん、一般人もだ。手際良く避難したのか、事前に襲撃を予知していたのかは不明だ。不自然ではあるが願ってもない状況である。クロノだけならばまだしも、ミントが同行しているのだ。原形を留めていない死体が不必要に彼女の目に触れずに済むのは救いだった。それに、万が一にもそれが顔見知りだったら逆にクロノが冷静ではいられなかっただろう。
クロノは一度も立ち止まることなく路地を抜け、水浸しの噴水広場を横切った。
何か重いものが振り下ろされたのか路面に開いた穴をひょいと飛び越える。
そして、そのままの勢いでリアフェール本部へと駆け込んだ。
「――――っ」
聞き覚えのある声が、聞こえた気がした。
だが少年の耳に周囲の音は届かず、また彼らの姿も映っていない。
ただ一人、その視界に入っているのは、銀髪の使い手。
「シグド!」
彼の名前を、叫ぶように呼んだと同時。
突き刺すような冷気が吹き抜けた。
宙を舞った季節外れの白が、暴力的に視界を覆う。
荒れ狂う吹雪が彼らを、そしてグラールの人間半数以上飲み込んだ。
信じられない程高密度な魔力に歪んだ空間、頬を撫でる風に混じる白い結晶。
青年を中心に広がった銀世界は、突如、収束し始める。
そして、――目の前から消えた。
彼がいた場所には僅かな空間の歪みが、膨大な魔力だけが残された。
その近くに、飲み込まれなかった彼の連れが倒れていた。リアフェールの人間は半壊になった本拠地近くに倒れており、距離があったおかげか飲み込まれなかったようだ。
「クロノさん……っ」
クロノの背後でミントは言葉を詰まらせた。
大半の人間か消えたこの場所で、未だに感じる殺気。
咄嗟に、後ろの少女を背に庇うように半歩前に出る。
嫌気がさすぐらい覚えのあるその殺気を放つ人物に、クロノは睨むように視線を向けた。
そこに立っていたのはクロノが金輪際会いたくない人物。
元相棒にして史上最悪のタッグ相手――ガンズだった。
そこは、クロノの記憶に残る町並みとは全く違っていた。
歪み崩れ落ちた建物。立ち上がる黒い煙と、音を立てて燃える火。
火を見るよりも明らかな襲撃跡だ。
今にも降り出しそうな薄暗い空。
初夏だと言うのに不規則に吹き上がる風は冷たい。頬を撫でる冷風には、微かに魔力が混じっていた。この異常な気候は、紋章術か使い手の魔力によるものだろう。
背後で扉が閉まる気配を感じながら、歩き出そうとした瞬間。
例の耳鳴りが耳を打った。
クロノは反射的に隣に立つ少女に視線を向ける。
だが、彼女も辛そうに表情を歪めて少年を見上げていた。どうやら原因はミントではないようだ。しかも今回は聞こえたようなので、余程強い反応のようだ。もしくは、単に彼女の感知能力が上がっただけなのかもしれないが。
やはり、現場に鍵の存在があるらしい。
今回も赤頭巾と同じく〝人間〟なのだろう。抗争に参加しているのだとしたら、また紋章術の使えない事態に陥る可能性もある。敵側の戦力でなければ良いのだが。
と、耳鳴りに続くように、バチッと弾ける音が聞こえた。
静電気よりも重い。例えるならば、何かが爆ぜる音。
そして、ひどく覚えのある冷たい魔力が肌に刺さる。
「っ」
クロノは反射的に走り出していた。
崩れた瓦礫の間を抜け、大通りを過ぎた。
必死で追い掛けて来るミントを背後に感じる。ちゃんと付いて来ているようだ。
不幸中の幸いか、死体は転がっていなかった。使い手はもちろん、一般人もだ。手際良く避難したのか、事前に襲撃を予知していたのかは不明だ。不自然ではあるが願ってもない状況である。クロノだけならばまだしも、ミントが同行しているのだ。原形を留めていない死体が不必要に彼女の目に触れずに済むのは救いだった。それに、万が一にもそれが顔見知りだったら逆にクロノが冷静ではいられなかっただろう。
クロノは一度も立ち止まることなく路地を抜け、水浸しの噴水広場を横切った。
何か重いものが振り下ろされたのか路面に開いた穴をひょいと飛び越える。
そして、そのままの勢いでリアフェール本部へと駆け込んだ。
「――――っ」
聞き覚えのある声が、聞こえた気がした。
だが少年の耳に周囲の音は届かず、また彼らの姿も映っていない。
ただ一人、その視界に入っているのは、銀髪の使い手。
「シグド!」
彼の名前を、叫ぶように呼んだと同時。
突き刺すような冷気が吹き抜けた。
宙を舞った季節外れの白が、暴力的に視界を覆う。
荒れ狂う吹雪が彼らを、そしてグラールの人間半数以上飲み込んだ。
信じられない程高密度な魔力に歪んだ空間、頬を撫でる風に混じる白い結晶。
青年を中心に広がった銀世界は、突如、収束し始める。
そして、――目の前から消えた。
彼がいた場所には僅かな空間の歪みが、膨大な魔力だけが残された。
その近くに、飲み込まれなかった彼の連れが倒れていた。リアフェールの人間は半壊になった本拠地近くに倒れており、距離があったおかげか飲み込まれなかったようだ。
「クロノさん……っ」
クロノの背後でミントは言葉を詰まらせた。
大半の人間か消えたこの場所で、未だに感じる殺気。
咄嗟に、後ろの少女を背に庇うように半歩前に出る。
嫌気がさすぐらい覚えのあるその殺気を放つ人物に、クロノは睨むように視線を向けた。
そこに立っていたのはクロノが金輪際会いたくない人物。
元相棒にして史上最悪のタッグ相手――ガンズだった。
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