Geometrially_spell_aria

吹雪舞桜

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第1章

036

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 爆風が巻き上がったと同時――。
 膨れ上がった熱が一瞬にして冷却される。
 凍りついた光と熱は、凝縮していく自身の圧迫に耐え切れず音を立てて砕けた。

 氷の欠片が散るその奥で、ガンズは愛用の戦斧を構えた。

 向けられた刃は錆びたような赤黒色がこびりついており、それを塗り替えるように真新しい赤黒色で染まっている。切れ味が悪くなるのは明白なのに血染めの戦斧をそのまま放置しているのは、彼が馬鹿だからでも無頓着の骨頂だからでもなく、そもそも斧は叩き切って使う物であり、それを元に考案されたガンズ流の使用方法は、ただ刃を叩き付けるだけである。
 斧本来の重さとそれに掛かる重力加速による、恐ろしい重量で落ちてくる切れ味が悪くなった鋭利な刃。大樹は無理でも、人間ならばその一撃で間違いなく真っ二つだ。

 ガンズの出方を窺いながら、クロノは背後で竦み上がっている少女に声をかける。


「こいつは俺がやる」
「え……」
「だから、怪我人は任せた」


 彼女が何とか出来る程度の怪我人がいるとは思えない。それに、ここには怪我人よりも殉職者の方が多いだろう。要は、ミントをこの場から遠ざけられるなら、理由は何でも良いのだ。

 クロノはミントの返事を待たずに切っ先を向けたナイフのグリップの先端にもう片手を添える。同じように、ガンズは戦斧を持っていない手をクロノに向けて伸ばした。


「行け!」


 掛け声と同時。
 空中に現れた氷の飛礫がガンズに襲い掛かる。
 だが、その飛礫は当たる直前で熱風によって溶けた。


「忘れたのかぁ、相棒。水系統は火系統に弱いってなぁ」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる」


 視界の隅ではミントがリアフェールの人たちに声をかけていた。


 ――これで心置きなく戦える。


 クロノはナイフを逆手に持ち、その切っ先を地面に向けた。


「火系統が水系統に弱いんだろ」


 同時にガンズの足元に現れた氷が空へと伸びる。
 青年を閉じ込めた氷柱は、次の瞬間には昇華して蒸気となる。


「っは、芸のない奴だな!」


 歪んだ笑みを浮かべたガンズ。
 ……と、蒸気の奥で何かが光を反射した。

 クロノは懐に飛び込むと、構えたナイフをその脇腹に突き刺そうとした。
 だが、同時に振り下ろされようとしていたガンズからの反撃に、ナイフが刺さる直前に腕を振って真横に一閃させ、間合いをとる。
 ナイフはガンズの腕を浅く切り裂いた。
 鈍く重くコンクリートをえぐった戦斧を青年の血が伝い、そのまま地面を汚した。その血を弾くように戦斧を振りかぶったガンズは、その間合いを一瞬で詰める。
 熱が光を纏って火となり、少年の逃げ道を塞いだ。

 確認するように辺りを見回したクロノはそのまま周囲の温度を氷点下まで冷やす。冷たくなった空気を一気に凝固させて凍らせると、その氷塊で火の壁もろともガンズを吹き飛ばした。
 完全に不意打ちだったらしく、氷塊が腹に直撃したガンズは滑るように地面に転がった。


「紋章術が互角なら、お前なんかに負けるかよ」


 言いながらクロノはナイフのグリップを握り直す。
 クロノは病み上がりだが、ガンズよりは万全な状態だろう。冷静に考えて、真っ当なタイマンならばクロノに負ける要素はない。だが、正直、勝てる要素もなかった。
 どんなに攻撃と残虐性に特化し、ついでに有り余る体力を持つガンズの攻撃も、当たらなければ意味がない。一方、彼が持つナイフでも致命傷を与えることは可能だが、ガンズが相手ではその行為は両刃になってしまう。致命傷は、負わせてから死ぬまでに幾分かのインターバルがある。ガンズはその間大人しく死を待つような人間ではないので、致命傷を負わせた瞬間にクロノは一撃死の効果を持つ斧の餌食になる可能性が高い。

 だからと言って、ここでミントに手伝ってもらえば彼女を下がらせた意味がなくなる。
 というのも、勝率が高いはずの二対一をクロノが選ばなかったのは、ミントを参加させたらガンズは間違いなく彼女を先に殺すだろうと踏んでいるからだ。クロノ自身も、ガンズ相手に誰かを守りながら戦える程の余裕はない。
 紋章術どころか戦況も互角、なのが現在の状況だ。

 ガンズが戦斧を支えに起き上がるのを、冷たい目で見やるクロノ。


「おいおいおい。戦いながら考え事なんて、随分余裕じゃねぇかよ?」


 ゆらりと、ガンズの周囲が揺れる。
 あまりの高温に、陽炎が発生したのだ。


「あーぁ。本当は使うつもりなんてなかったんだぜ? こんな街中でこの技なんてよぉ」


 目の前が立ち上る高温でぐにゃりと歪む。
 急激に集められていく熱気。
 それはもはや、呼吸するだけで肺が疼痛を訴えるほどのものだった。


 ――加減する気はなしか。


 寄り集まった焦熱が、ぎらついた光を帯び始める。
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