38 / 97
第1章
037
しおりを挟む
冷や汗が流れるのを感じながら、クロノは同じように周囲の温度を一気に下げた。
彼が選択したのは、防ぐのではなく相殺。実行したことはないのだが、そんな泣きごとを言わせてもらえる暇はない。
可能な限り広範囲に冷気を孕ませながらクロノは表情を険しくする。
紋章術はその威力に比例して、使い手の体力はもちろん、精神力までも削り取る力だ。力量を取り間違えれば、相手を攻撃する術で自分の首を絞めることになりかねないのだが。
目の前の青年は、加減する素振りすら見せない。
並の使い手が青年と同じ手に出れば、どういう了見なのかと逆に警戒するかもしれない。しかし、残念ながらクロノはガンズという人間の性質を、よく見知っている。
自爆したらそれはそれ。
要は、死ぬも死なすもゲームの内、というわけだ。
本当に嫌気が差した。こんなものを相殺して無事で済むのか、とクロノは自問するが、是が非でもやるしかない。
渦巻く陽炎に抗うように、少年は零下を張り巡らせる。
向かい合う両者。
大気の全てが紋章術と化したような、錯覚があった。
「消し飛んじまいなぁ!!」
青年の怒号が引き金を引いた。
光源が弾けた。
全てを焦がす爆裂が起こる。
と同時に、身を抉るような凍て付いた気配が空間を包む。
灼熱と極寒がかち合い、虚空に破裂音が響いた。
「――っ!」
放った紋章術の反動と、相殺の余波は尋常ではなかった。
瞬間的な衝撃波に、クロノの体が後方へと弾き飛ばされる。
だが、それは相手も同じことだ。彼の目は、爆風と煙の中で大きく後ずさる長身を認めた。
少年は瓦礫へと体を打ち付けながらも、とっさに受け身を取る。
紋章術の乱用でか、相殺の名残でか。全身がじんじんと痺れを帯びていたが、構っていられない。着地と同時にバネのように足場を蹴り、爆煙を縫って肉薄する。
長期戦は不利だ。
ガンズの体力は底無しであるし、グラールの増援がいつやってくるとも知れない。
――視界が晴れる前に決める。
クロノは塵煙に紛れて、幕の向こうで揺らめく影へと氷塊を一気に突き刺す。
手応えがあった。
だが、前方から、風を切るというより、ぶち抜くような音。
眼前に、どす黒い塊が見えた。
ほぼ反射的な動きだった。
一瞬首をよじると、クロノの真横を弾丸よろしく通り抜ける。
背後で壁が崩落するような音が響いた。
斧を投げ付けられたのだと、気付いた。
刃先が掠ったらしい。こめかみから耳にかけて、一直線に熱を持つ。
クロノは思わず肌を粟立たせた。
冗談ではない。当たっていれば、確実に首を丸ごとかっさらわれていたところだ。いくら考えなしのガンズとは言え、呆気なく武器を手放すとは思わなかったのだが。
相手は斧以外の武器を隠し持っていない限り、完全に丸腰のはずだ。
「ちっ。最低でも頚動脈は持っていきたかったんだけどよぉ」
言葉とは裏腹に、やけに嬉々とした声が向けられる。
少年は大きく一歩を踏み込んだ。
左腕に食い込んだ幾重の氷柱を溶かし、口際を吊り上げる姿を捉えた。
本来の利き腕を潰されたから、とりあえず手に持っていたものをぶん投げてみたという様子だ。常識外れにも程がある。
「斧は飛び道具じゃない」
「だから芸がねえっつってんだぜ、相棒!」
どこからそんなスタミナが湧いてくるのか、ガンズは傷を物ともしていない。クロノ目掛けて、うなるような回し蹴りを繰り出した。
じゃあお前は能無しだな、と頬の流血を拭いもせず、赤褐色の鋭い目付きが動きを追う。
スピードであれば、少年は劣らない。
氷面で攻撃をいなすと、ナイフの刃先でまっすぐに軌道を描く。
しかし、切っ先が抉る寸前だ。
ナイフを握った片腕が、ガンズの強力によって掴み取られた。
「リーチが足んねえよ、リーチが」
そのまま壁面へと叩きつける勢い。視界がぐるりと反転し、クロノの全身が宙に放り出されようとした時だ。
彼の腕に鈍い音が伝わった。
青年の体が停止する。
ぱちくりとまばたきをすると、クロノを掴み上げたまま、自身の体を見下ろすガンズ。
いつの間に紋章術を用いたのか。
ナイフの先端は、凍結によって長さを倍近くまで増していた。
文字通り氷刃となった銀色が、彼の腹部へと突き刺さっている。
「……おいおい、マジ、かよ」
それでもなお、子供だましの手品でも見るように笑い半分の青年。
体を刺突しただけでは、事足りないのは言うまでもない。
失血を待っていたのではこちらが致命傷を負いかねないのだ。
相手が相手である。生傷だろうが臓物だろうが、見ただけでショック死するようなまともな頭をした人間ではない。
クロノはガンズが動き出さんとする前に、その四肢を地面もろとも凍て付かせ、身動きを取る余地を奪った。そして、相手の強力で掴み止められているのを良いことに、おもむろにグリップへ両手を添えると、あろうことか体に埋め込んだ刀身を、横に押し進めようとする。
切腹の仕様だ。
さすがの暴漢も、クロノの行動には目を剥いたようだった。
とっさに拘束を溶かすという手段もあったのだろうが、対策を練るための猶予すら与えないやり方だ。
ガンズは半身を捩じらせ、血痕混じりの咳き込みを漏らす。
「げっ、ごほっ!! っははは……! 神経、疑っちまうぜっ」
「お前に言われたら終わりだろ」
冷々とした声音で、無表情にナイフの柄に力を込めるクロノ。
彼をそうまでさせるのは、かつての同僚への嫌悪でも、古巣の仲間を奪われた憎悪でもない。
ただ目の前の敵を倒すという、使命感だけだ。
後悔はない。元からグラールという組織に対しても、そこで出会ったあらゆるものに関しても、傾倒などしていなかった。いや、そもそも、してはいけなかったのだ。ここは自分の組織ではない。誰も自分の仲間ではない。そうやって、いついかなる時も、敵組織の中に身を置いていると言う意識を固持する必要があった。
だからクロノは、ガンズが嫌いだったのだ。
残虐さを言い出せば切りはないし、本当に目の前しか見えていない行動基準にも反吐が出る思いだ。何より、土足どころかショベルカーで人の頭へと踏み込んでくる、そういうめちゃくちゃな無骨さが、嫌いで仕方なかった。
グラールは自分とは無関係だ。
誰に対しても、好悪なんか持つ必要もないと、そう決めていたのに。
「……なあ、相棒。俺はてめえと組むと、戦闘のたんびに足引っ張ってたけどよぉ……何でかわかるかよ?」
「…………」
「煽ってたんだよ。煽って煽って……てめえがブチギレて俺に矛先向けんのを、待ってたんだぜ? ほら、あれだろぉ? グラールはお堅いからよお、殺し合う口実がいるんじゃねえかって思って――」
一度マジでやり合ってみたかった、と。
自分の血と、恐らくは激痛にむせながら、なおもそんなことをうそぶくガンズ。
本当に救いようのない男だった。
それなら、今のこの状況は、まさに望み通りの展開というわけなのだろうか。
少年は血塗れのナイフの柄を握り締める。
こんな弟を守るために、どうしてあの男は言いなりになったんだろう。挙句には、守ろうとした人に殺されてしまうというのに。空しいのか、馬鹿馬鹿しいのかわからない。
少なくとも、悲しい、何てことはないのだと思う。
その証明とばかりに、少年はぽつりと呟いた。
「……死んでくれ」
ガンズが、この期に及んでにやりと笑った。
揺らめいた熱気で、手足の凍結が一気に蒸発する。
しかし、クロノは突き刺した刃先をそのままに、青年の心臓の前へと手をかざした。
ガンズの抵抗を完全に封じるように氷柱が急所を貫く――寸前。
彼が選択したのは、防ぐのではなく相殺。実行したことはないのだが、そんな泣きごとを言わせてもらえる暇はない。
可能な限り広範囲に冷気を孕ませながらクロノは表情を険しくする。
紋章術はその威力に比例して、使い手の体力はもちろん、精神力までも削り取る力だ。力量を取り間違えれば、相手を攻撃する術で自分の首を絞めることになりかねないのだが。
目の前の青年は、加減する素振りすら見せない。
並の使い手が青年と同じ手に出れば、どういう了見なのかと逆に警戒するかもしれない。しかし、残念ながらクロノはガンズという人間の性質を、よく見知っている。
自爆したらそれはそれ。
要は、死ぬも死なすもゲームの内、というわけだ。
本当に嫌気が差した。こんなものを相殺して無事で済むのか、とクロノは自問するが、是が非でもやるしかない。
渦巻く陽炎に抗うように、少年は零下を張り巡らせる。
向かい合う両者。
大気の全てが紋章術と化したような、錯覚があった。
「消し飛んじまいなぁ!!」
青年の怒号が引き金を引いた。
光源が弾けた。
全てを焦がす爆裂が起こる。
と同時に、身を抉るような凍て付いた気配が空間を包む。
灼熱と極寒がかち合い、虚空に破裂音が響いた。
「――っ!」
放った紋章術の反動と、相殺の余波は尋常ではなかった。
瞬間的な衝撃波に、クロノの体が後方へと弾き飛ばされる。
だが、それは相手も同じことだ。彼の目は、爆風と煙の中で大きく後ずさる長身を認めた。
少年は瓦礫へと体を打ち付けながらも、とっさに受け身を取る。
紋章術の乱用でか、相殺の名残でか。全身がじんじんと痺れを帯びていたが、構っていられない。着地と同時にバネのように足場を蹴り、爆煙を縫って肉薄する。
長期戦は不利だ。
ガンズの体力は底無しであるし、グラールの増援がいつやってくるとも知れない。
――視界が晴れる前に決める。
クロノは塵煙に紛れて、幕の向こうで揺らめく影へと氷塊を一気に突き刺す。
手応えがあった。
だが、前方から、風を切るというより、ぶち抜くような音。
眼前に、どす黒い塊が見えた。
ほぼ反射的な動きだった。
一瞬首をよじると、クロノの真横を弾丸よろしく通り抜ける。
背後で壁が崩落するような音が響いた。
斧を投げ付けられたのだと、気付いた。
刃先が掠ったらしい。こめかみから耳にかけて、一直線に熱を持つ。
クロノは思わず肌を粟立たせた。
冗談ではない。当たっていれば、確実に首を丸ごとかっさらわれていたところだ。いくら考えなしのガンズとは言え、呆気なく武器を手放すとは思わなかったのだが。
相手は斧以外の武器を隠し持っていない限り、完全に丸腰のはずだ。
「ちっ。最低でも頚動脈は持っていきたかったんだけどよぉ」
言葉とは裏腹に、やけに嬉々とした声が向けられる。
少年は大きく一歩を踏み込んだ。
左腕に食い込んだ幾重の氷柱を溶かし、口際を吊り上げる姿を捉えた。
本来の利き腕を潰されたから、とりあえず手に持っていたものをぶん投げてみたという様子だ。常識外れにも程がある。
「斧は飛び道具じゃない」
「だから芸がねえっつってんだぜ、相棒!」
どこからそんなスタミナが湧いてくるのか、ガンズは傷を物ともしていない。クロノ目掛けて、うなるような回し蹴りを繰り出した。
じゃあお前は能無しだな、と頬の流血を拭いもせず、赤褐色の鋭い目付きが動きを追う。
スピードであれば、少年は劣らない。
氷面で攻撃をいなすと、ナイフの刃先でまっすぐに軌道を描く。
しかし、切っ先が抉る寸前だ。
ナイフを握った片腕が、ガンズの強力によって掴み取られた。
「リーチが足んねえよ、リーチが」
そのまま壁面へと叩きつける勢い。視界がぐるりと反転し、クロノの全身が宙に放り出されようとした時だ。
彼の腕に鈍い音が伝わった。
青年の体が停止する。
ぱちくりとまばたきをすると、クロノを掴み上げたまま、自身の体を見下ろすガンズ。
いつの間に紋章術を用いたのか。
ナイフの先端は、凍結によって長さを倍近くまで増していた。
文字通り氷刃となった銀色が、彼の腹部へと突き刺さっている。
「……おいおい、マジ、かよ」
それでもなお、子供だましの手品でも見るように笑い半分の青年。
体を刺突しただけでは、事足りないのは言うまでもない。
失血を待っていたのではこちらが致命傷を負いかねないのだ。
相手が相手である。生傷だろうが臓物だろうが、見ただけでショック死するようなまともな頭をした人間ではない。
クロノはガンズが動き出さんとする前に、その四肢を地面もろとも凍て付かせ、身動きを取る余地を奪った。そして、相手の強力で掴み止められているのを良いことに、おもむろにグリップへ両手を添えると、あろうことか体に埋め込んだ刀身を、横に押し進めようとする。
切腹の仕様だ。
さすがの暴漢も、クロノの行動には目を剥いたようだった。
とっさに拘束を溶かすという手段もあったのだろうが、対策を練るための猶予すら与えないやり方だ。
ガンズは半身を捩じらせ、血痕混じりの咳き込みを漏らす。
「げっ、ごほっ!! っははは……! 神経、疑っちまうぜっ」
「お前に言われたら終わりだろ」
冷々とした声音で、無表情にナイフの柄に力を込めるクロノ。
彼をそうまでさせるのは、かつての同僚への嫌悪でも、古巣の仲間を奪われた憎悪でもない。
ただ目の前の敵を倒すという、使命感だけだ。
後悔はない。元からグラールという組織に対しても、そこで出会ったあらゆるものに関しても、傾倒などしていなかった。いや、そもそも、してはいけなかったのだ。ここは自分の組織ではない。誰も自分の仲間ではない。そうやって、いついかなる時も、敵組織の中に身を置いていると言う意識を固持する必要があった。
だからクロノは、ガンズが嫌いだったのだ。
残虐さを言い出せば切りはないし、本当に目の前しか見えていない行動基準にも反吐が出る思いだ。何より、土足どころかショベルカーで人の頭へと踏み込んでくる、そういうめちゃくちゃな無骨さが、嫌いで仕方なかった。
グラールは自分とは無関係だ。
誰に対しても、好悪なんか持つ必要もないと、そう決めていたのに。
「……なあ、相棒。俺はてめえと組むと、戦闘のたんびに足引っ張ってたけどよぉ……何でかわかるかよ?」
「…………」
「煽ってたんだよ。煽って煽って……てめえがブチギレて俺に矛先向けんのを、待ってたんだぜ? ほら、あれだろぉ? グラールはお堅いからよお、殺し合う口実がいるんじゃねえかって思って――」
一度マジでやり合ってみたかった、と。
自分の血と、恐らくは激痛にむせながら、なおもそんなことをうそぶくガンズ。
本当に救いようのない男だった。
それなら、今のこの状況は、まさに望み通りの展開というわけなのだろうか。
少年は血塗れのナイフの柄を握り締める。
こんな弟を守るために、どうしてあの男は言いなりになったんだろう。挙句には、守ろうとした人に殺されてしまうというのに。空しいのか、馬鹿馬鹿しいのかわからない。
少なくとも、悲しい、何てことはないのだと思う。
その証明とばかりに、少年はぽつりと呟いた。
「……死んでくれ」
ガンズが、この期に及んでにやりと笑った。
揺らめいた熱気で、手足の凍結が一気に蒸発する。
しかし、クロノは突き刺した刃先をそのままに、青年の心臓の前へと手をかざした。
ガンズの抵抗を完全に封じるように氷柱が急所を貫く――寸前。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。
彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。
王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは夫と婚姻してから三年という長い時間を振り返る。
その間、夫が帰宅したのは数えるほどだった。
※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる