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第1章
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何かあるまで待機。
ガエブルグがどう動くかわからない以上、事が起きてからじゃないと対応しようがない現状では仕方ないのだが、相手は後先考えずに鍵を破壊した程の組織だ。何かあってから遅いのではないか、とクロノは思う。
現時点で判明している情報によれば、鍵と呼ばれる存在は、紋章術を無効化する異空間を展開させるだけでなく、再生能力もかなり高いらしい。それが致命傷にも当てはまることは、ミラノが身をもって証明しているらしいので、争奪戦に置いて鍵と言う存在はチートに近いものだと解釈して間違いはない。
ガエブルグは、そんな相手を殺そうと思い至り、そして実行した組織だ。どのような手段を用いたかはわからないが、それ程の戦力を有しているのか、それとも、何か特別なものでも所持しているのか。どちらにせよ、少しでも多くの情報が欲しいところだ。
なるべくならガエブルグと関わらずに済む方法を取りたいのは事実だが、互いに鍵を求める組織だ、彼らとの接触は避けては通れないのだろう。
旧友に言わせれば、鍵に関する人体実験を探れば行きつく組織でもあるようだし。
これ以上ここにいても得るものがないので、さっさと出て行こうとするクロノだったが。
呼び止める声があった。
「………………あの」
控えめな声だったが、会議室には良く響いた。
話し合いを続けていたエイレンとビビアン、そして、部屋の扉を両手で押し開けたナツメが声の主へと視線を送る。
もちろん、クロノもミントへ赤褐色の目を向けた。
「今のうちに伝えておきたいことがあるんです」
「どうした! 何でも聞くぞ! 遠慮するな!」
誰よりも早く答えたのは、目を輝かせながら立ち上がったエイレンだった。
だが、そう言われた本人はエイレンだけでなく円卓もその視界の隅においやる。
ゆっくりと、ミントはクロノへと視線を向けて。
「良いですか? ――ナツメさん」
その目線はクロノを通り過ぎ。
入口近くに立っているナツメへと真っ直ぐ向けられた。
「ミントちゃんからのお願いなら大歓迎だよー」
抜け駆けごめんねー、とナツメがエイレンへ当てつけがましく続けた。
そして、エイレンが「くそぅ」とお笑い芸人ばりのリアクションで机を叩く。
普段ならばそんな赤毛に何かしらの反応を見せるはずのビビアンは驚く程の無反応だ。そんな彼女へ視線を向ければ、対して興味がなかったらしく、悔しがるエイレンを冷たい目で見ながら部屋を出る支度をしていた。
恐らく、ガールズトークか何かと判断のだろう。
奇しくもクロノも同じような解釈をしていた。
それ以外に、紋章術師と言う存在に対して必要以上の警戒と怯えを見せるミントが、紋章術師であるナツメと交流を持とうとする理由が思いつかないのも事実だ。元一般人が紋章術師相手に取引や何かを持ち掛けるとも思えない。
クロノはナツメの横を通り過ぎて会議室を出て行こうとしたが。
「ちょっと、どこ行くつもりなのさ」
ずいとナツメの腕がクロノの行く手を阻んだ。
怪訝そうな顔で彼女を見やったクロノの目が捉えたのは、にまりと浮かべられた笑顔。
悪戯っ子のようなキラキラした目が彼を見つめ返す。
「クロノ君も来るんだよ!」
――何を企んでいるんだ?
クロノは先輩術師に遠慮なく不審そうな目線を送った。
ミントが声を掛けたのはナツメであって、クロノではない。
ならば、何故ここで呼び止められなくてはいけないのか。
まさかナツメはクロノを少女の保護者か何かと勘違いしているのではないかと、彼が至極真面目に考え出し始めた時だ。
ナツメが、少年にしか聞こえないように呟く。
「取引をしよう、クロノ君。これは『人魚姫』ともした話だよ」
クロノの動きが止まった。
何故ここでシグドが話題に出るのだろうか。一体、彼に何をさせようと言うのか。
いつしたのかは問うまでもない、彼らがリアフェールへ帰ろうとした時だろう。その話をするためにナツメは道案内を買って出たと考えれば、唐突だった行動の意味に説明が付く。
やはり警戒しておくべきだったかと胸中でぼやく。
気を紛らす意味も兼ねてクロノは、主導権を取られた話題の提供源をちらりと見やれば、彼女は木苺色に不安を映している。ミントもこの取引に関わっているのだろうか。
ナツメの言う取引に、『人魚姫』が絡むのならば、無関係とは言い難い。
すいと深紅色が細められた。
「……はいはい、わかりましたよ」
渋々と言った口調ではあったが、童顔術師に不満はないようだ。
彼女は満足げに人懐っこい笑顔を浮かべた。
「それじゃあ行こっか、こっちだよ」
ガエブルグがどう動くかわからない以上、事が起きてからじゃないと対応しようがない現状では仕方ないのだが、相手は後先考えずに鍵を破壊した程の組織だ。何かあってから遅いのではないか、とクロノは思う。
現時点で判明している情報によれば、鍵と呼ばれる存在は、紋章術を無効化する異空間を展開させるだけでなく、再生能力もかなり高いらしい。それが致命傷にも当てはまることは、ミラノが身をもって証明しているらしいので、争奪戦に置いて鍵と言う存在はチートに近いものだと解釈して間違いはない。
ガエブルグは、そんな相手を殺そうと思い至り、そして実行した組織だ。どのような手段を用いたかはわからないが、それ程の戦力を有しているのか、それとも、何か特別なものでも所持しているのか。どちらにせよ、少しでも多くの情報が欲しいところだ。
なるべくならガエブルグと関わらずに済む方法を取りたいのは事実だが、互いに鍵を求める組織だ、彼らとの接触は避けては通れないのだろう。
旧友に言わせれば、鍵に関する人体実験を探れば行きつく組織でもあるようだし。
これ以上ここにいても得るものがないので、さっさと出て行こうとするクロノだったが。
呼び止める声があった。
「………………あの」
控えめな声だったが、会議室には良く響いた。
話し合いを続けていたエイレンとビビアン、そして、部屋の扉を両手で押し開けたナツメが声の主へと視線を送る。
もちろん、クロノもミントへ赤褐色の目を向けた。
「今のうちに伝えておきたいことがあるんです」
「どうした! 何でも聞くぞ! 遠慮するな!」
誰よりも早く答えたのは、目を輝かせながら立ち上がったエイレンだった。
だが、そう言われた本人はエイレンだけでなく円卓もその視界の隅においやる。
ゆっくりと、ミントはクロノへと視線を向けて。
「良いですか? ――ナツメさん」
その目線はクロノを通り過ぎ。
入口近くに立っているナツメへと真っ直ぐ向けられた。
「ミントちゃんからのお願いなら大歓迎だよー」
抜け駆けごめんねー、とナツメがエイレンへ当てつけがましく続けた。
そして、エイレンが「くそぅ」とお笑い芸人ばりのリアクションで机を叩く。
普段ならばそんな赤毛に何かしらの反応を見せるはずのビビアンは驚く程の無反応だ。そんな彼女へ視線を向ければ、対して興味がなかったらしく、悔しがるエイレンを冷たい目で見ながら部屋を出る支度をしていた。
恐らく、ガールズトークか何かと判断のだろう。
奇しくもクロノも同じような解釈をしていた。
それ以外に、紋章術師と言う存在に対して必要以上の警戒と怯えを見せるミントが、紋章術師であるナツメと交流を持とうとする理由が思いつかないのも事実だ。元一般人が紋章術師相手に取引や何かを持ち掛けるとも思えない。
クロノはナツメの横を通り過ぎて会議室を出て行こうとしたが。
「ちょっと、どこ行くつもりなのさ」
ずいとナツメの腕がクロノの行く手を阻んだ。
怪訝そうな顔で彼女を見やったクロノの目が捉えたのは、にまりと浮かべられた笑顔。
悪戯っ子のようなキラキラした目が彼を見つめ返す。
「クロノ君も来るんだよ!」
――何を企んでいるんだ?
クロノは先輩術師に遠慮なく不審そうな目線を送った。
ミントが声を掛けたのはナツメであって、クロノではない。
ならば、何故ここで呼び止められなくてはいけないのか。
まさかナツメはクロノを少女の保護者か何かと勘違いしているのではないかと、彼が至極真面目に考え出し始めた時だ。
ナツメが、少年にしか聞こえないように呟く。
「取引をしよう、クロノ君。これは『人魚姫』ともした話だよ」
クロノの動きが止まった。
何故ここでシグドが話題に出るのだろうか。一体、彼に何をさせようと言うのか。
いつしたのかは問うまでもない、彼らがリアフェールへ帰ろうとした時だろう。その話をするためにナツメは道案内を買って出たと考えれば、唐突だった行動の意味に説明が付く。
やはり警戒しておくべきだったかと胸中でぼやく。
気を紛らす意味も兼ねてクロノは、主導権を取られた話題の提供源をちらりと見やれば、彼女は木苺色に不安を映している。ミントもこの取引に関わっているのだろうか。
ナツメの言う取引に、『人魚姫』が絡むのならば、無関係とは言い難い。
すいと深紅色が細められた。
「……はいはい、わかりましたよ」
渋々と言った口調ではあったが、童顔術師に不満はないようだ。
彼女は満足げに人懐っこい笑顔を浮かべた。
「それじゃあ行こっか、こっちだよ」
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