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第2章
057、嵐の前の静けさ
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都心の外れ、郊外に位置する、自然地の一角。
吹き抜けるそよ風に、青々としげった竹林がざわめきを奏でた。
墓地に隣した造園の奥地で、その瓦張りの和様建築は荘厳な雰囲気をかもし出している。漆塗りしたかのように、艶やかに黒光りする門構え。それを潜った先に広がるのは、広々とした枯山水。敷き詰められた飛び石を辿った先。
その一軒は、歴史ある和風旅館を思わせた。
「だからー、何回も言ってるっしょ」
真新しい畳張りの部屋に、締りのない声が響いた。
壁に垂らされた掛け軸には、殴り書きしたように豪快に墨汁で描かれた槍の印。
外観からしても、相当に立派な和様建築だ。
まともなエンブレムを掲げた部屋ならいくらでもあるのだろうが、この十四畳ほどの和室に限っては、その掛け軸が、術師結社ガエブルグを示す唯一の目印だった。
そんな畳の部屋に寝転がったまま、ケータイに噛り付いている少女――ベギーネルは、今にも居眠りを始めそうな、気だるげな様子だ。
淡いローズピンクのショートカット。モノクロと、目が痛いほどビビッドな赤を基調としたミニスカート姿。ウサギの耳を思わせる布切れがついた、大きなフードを背中に垂らし、不健康そうな青白い顔は、黒革のカラスマスクが隠している。逆に、肩口や腹の装飾ジッパーを開けっ放しに、いたるところから素肌を覗かせている。
しかも、和室にも関わらず、サイハイブーツを履いたままだ。
どう見ても和室のTPOに適さない様子だが、彼女を咎める者はこの部屋にない。
「そろそろヤバいって。聖杯のヤツらもバカじゃねんだ。手ぇ切るとか、懐入るとか、なんとかしろっての。じゃねーと、なに仕掛けてくるかわかんねーっしょ?」
パーカーやミニスカートに施された鎖を、指輪だらけの手でジャラジャラと弄り回しながら、真っ赤なケータイに語りかけるベギーネル。
電話口から、男の声が答える。
土足で畳に寝転がっている少女の電話相手にしては、大人びた声音だった。
『わざわざ状況悪化に貢献したのは、そちらの結社ですが』
「だしょー? そーだよ、ありがたがれよ。鍵の死が世界の終わりって終末論、オレらが体張って否定してやったのに」
『世界を終わらせたいから殺した、の間違いでは?』
毒々しい濃紫の猫目が、眠たげに天井の木目を見上げる。
ベギーネルはカラスマスク越しに、短いため息をついた。
「どーでもよくね? それよかオニーサンさ。どーせなら聖杯に探りいれとけって。いるんしょ、便利なお友達」
ケータイが沈黙した。
天井を仰いでいた少女の両眼が、つと受話器に向けられる。
「なに黙っちゃってんの」
『……パイプは途絶えたので。こちらからグラールに接触するには、何かしら餌が必要ですよ』
「へー。お友達、押っ死んだ? ご愁傷さん」
真面目に聞かないか、と低音の叱咤に、堂々と舌打ちを返すベギーネル。
「エサなら、あの“0番”使やいーだろ。聖杯だったら、食いつくんじゃね?」
そういや、そっちでは“初代”って呼んでんだっけ?
外国の天気でも話すように、さも興味なさげに付け足された一言。
ごろごろ寝返りを繰り返す彼女は何気なく言ったのだろうが、電話相手の声は一層低く響いた。
『無責任なことを言わないで頂きたい。今グラールにあれを渡したら――』
「知らね。実験の失敗例だし、始末すっか、もっかい鍵にしようとすっか。とりま、無事じゃ済まねんじゃね?」
『……そうとわかっていて、餌に使えと?』
「使えよ。番いも押っ死んだんだ。今更グラールに売り付けて、文句言うヤツいねーっしょ」
電話口の声音が途絶えた。
ベギーネルの提案に、考え事をしているのか、戸惑っているのか。
彼女は後者と取ったらしかった。
血が混じったようなどす黒いプラムの眼光が、じろりとケータイを睨む。
「オマエ、0番に固執しすぎじゃね? 気ぃ付けろよ。ネクロフィリアじゃねんだ」
わずかに凄んだ少女の口調。
電話の声は少しの静黙を置いて、気を取り直したのか、落ち着いた口上を返した。
『君は相変わらず口が悪すぎる。あれはまだ死んでいない』
「バーカ。使わねんならオレらによこせっての。あんなお人形、オニーサンの性には合やしねーわ」
ベギーネルは、いじけたみたいにローズピンクの髪を指で弄る。
受話器越しの光景など見えていないのだろうが、相手は黙りこくった。
少女が気を紛らすように畳を転がると、いくつもの銀のピアスが、じゃらりとケータイにぶつかる。
「大体『白雪姫』の殺し方教えたの、オニーサンっしょ。お望み通り殺してやったのに、ご褒美なし?」
うつ伏せに寝転んだ不可抗力か、それとも単に機嫌を損ねたのか。
存外低い声を出したベギーネルは、『白雪姫』を死に至らしめた子供を思い、細い眉をしかめた。
グラールの人体実験、被験者の元祖、0番。
植物状態にあるその子供が、特殊な効力を秘めているということに気付いたのは、過去、実験に携わっていた研究員だった。
きっかけは、0番との面会に訪れたグラールの紋章術師が、病室で昏睡状態に陥ったことだったそうだ。偶然様子を見に行った研究員の対応によって、紋章術師は事なきを得て、一度は過労による意識障害という診断に落ち着いた。
しかし、紋章術師は、戦闘能力もさる事ながら、そのための自己管理を怠らない毅然とした女性だった。倒れるまで自分自身を追い詰めるようなミスは決しておかさないはずだと、疑問に思った研究員は、彼女から詳しく話を聞き出したのだ。
嫌々打ち明けた紋章術師によれば、今までにも病室に訪れる度、似たような症状があったのだという。0番との同席が長ければ長いほどに、疲弊感や頭痛、めまいなどを伴い、紋章術の使用はもちろん、日常生活に支障をきたすほどの体調不良に付きまとわれることもある。
彼女にとって0番がどういった存在なのかを考慮すれば、精神的な負荷から生じるものとも考えられたが、それだけで意識障害まで併発するというのは、いささか強引な説だ。
研究員は、紋章術師の証言から、独自に紋章術の使い手を用いた検証を行なった。
するとどうなったか。
純粋な紋章術の使い手達は、例外なく、0番に対して拒絶反応を示したのだ。
ある者は体調不良を訴え、ある者は幻覚症状を併発。またある者は、0番と出会った前後の記憶、もしくは特定の情報がごっそりと失われた。さらに、元々紋章術との適性が低い使い手に至っては、記憶障害に加えて、紋章術自体が使用不可になるという驚くべき結果を残した。
それはまさに、紋章術に適性のない一般人、ジェネラルが見せる、魔導具に対する拒絶反応を思わせた。
0番は、紋章術に害を及ぼす何かを持っている可能性がある。
未だかつてない発見だった。
研究員の仮説は、もはや確定事項も同然だった。
さらに、使い手が紋章術の宿った人間なのであれば、魔導具は、紋章術の宿った無機物だ。
もちろん魔導反応の強さで言えば、使い手よりも魔導具の方が圧倒的に勝る上に、精霊の有無を問うならば、両者は似て非なるものだが、魔導具はあくまで生命のない“モノ”であるために、紋章術を使用する意思を持ち合わせていないだけのことでもある。紋章術が宿っているという点だけを挙げれば、使い手も魔導具もそう変わりないのだ。
つまり、使い手に対して毒になる効力は、魔導具に対しても同じ効果を発揮するということになり得る。
さらに言えば、無機物でないとはいえ、鍵もまた魔導具のひとつだ。
使い手が体力や精神力を費やして紋章術を用いるのに対して、7つの鍵は存在そのものが紋章術であり、それを使用する意思のある、生きる魔導具と言える。
肉体それ自体が紋章術である鍵に、0番の毒をあてたとき、何が起きるか。
考えるまでもないだろう。
研究員の一説は、ついに確証を得てしまったのだ。
『白雪姫』と呼ばれる、鍵が破壊されたことによって。
鍵を作るための実験が、くしくも鍵と真逆のものを生んでしまったのだから、皮肉な話だ。
それが術師結社に全てを奪われた第一被験者の、7つの鍵に対する憎悪だったのか、グラールへの報復の形だったのか。今となってはもう、知る術もなくなってしまったが。
無断で0番を用いたのだから、研究員にとってはさぞ迷惑だったろうと面白がっていたベギーネルだが、当の本人である電話相手は、いやに冷静な様子だった。
『誰が殺せと? ……誤解を招いたなら、謝罪しますが。ただ、あそこまで頭の悪い強硬手段は、普通取らないでしょう』
「へー。じゃ、謝れよ。オレら、遊びで鍵狩りしてんじゃねんだ。やり方教えたら、やれって言ったのとおんなじっしょ」
言うまでもないが、少女の言い分はめちゃくちゃだ。
だが、ケータイの声は、反論するのも時間の浪費と考えたのかもしれない。
申し訳ない、と即答した。
まったく謝意の含まれない返事。
ベギーネルの方も、大して謝って欲しくもなかったらしい。
面倒くさげに相槌を打って、どぎつい紫の瞳で畳の凹凸を見つめながら続ける。
「どーせならオニーサンも観たかったんじゃね? 『白雪姫』の晴れ舞台ってヤツ」
悪趣味極まりない台詞を吐いている自覚がないのだろうか。
語尾に星マークでも付け足さんばかりに、ベギーネルはふざけた口調で『白雪姫』の死を話す。
元々『白雪姫』は自身が7つの鍵の1つであり、度重なる危険に晒されることに思い悩む節があったのだ。
ベギーネルから0番についての報告を受けたガエブルグは、『白雪姫』をマークした上で、わざと弱小組織へと情報をばらまき、確保にやってきた他組織の使い手達を一掃した。
そして、ガエブルグの組織方針は「7つの鍵を鍵そのものから解放してやること」と語ると、さも敵意のない術師結社であるかのように振舞った。
本来なら強大な力を持つ鍵を、戦わずに取り込むことに尽力したのだ。
やがて、彼等の策略は見事に『白雪姫』の心を掴んだ。
信頼さえ得てしまえば、後はいくらでも融通が利く。
結論から言えば、初めから『白雪姫』がどうなろうが知ったことではなかった。
ガエブルグは『白雪姫』を、紋章術にとっての害である0番と引き合わせた。
声をかけても、肩を叩いても、反応を示すどころか、瞼を開けることすらなかった0番。
だが彼女は『白雪姫』を近付けた途端、偶然か否か、ゆっくりと目を見開いた。
鍵の死は、なんとも形容しかねる光景だった。
ほんのまばたきする間のうちに、それは耳を塞ぎたくなるような異常音を立てて行なわれた。
0番の毒にあてられた途端、鍵の体は並外れた痙攣を見せたのである。
骨という骨、肉という肉が軋みを上げ、粘土のようにぼろぼろと崩れてただれ落ちたと思うと、筋肉組織も骨格も何もかもが、原形をとどめない肉塊と化した。挙句には、その臓物や肉片はもちろん、血の一滴までもが、微細な粒子となって、砂埃かなにかよろしく消え失せてしまったのだ。
まるで存在そのものが、初めからなかったことにされたようだった。
『白雪姫』は、まさに筆舌に尽くしがたい壮絶な悲鳴だけを残してこの世界から消えた。
鍵の死は、生き物の死と言うよりも、分解や崩壊と言った方が正しかったかもしれない。
あまりの度外れた現象に、思考が追い付かない様子の者が何人かいた。そして、残りの数名はきょとんと顔を見合わせた後理由もわからず嘔吐した。
ベギーネルは前者のうちの一人だった。
オレ用に録画しとけばよかった、と楽しみにしていたテレビ番組でも見逃したみたいに、軽々と語る。
「そーそー。偶然にも、諜報用の録画が起動してて、映像残ってんだわ。いくらで買う? ついでに、オレらのお友達んなってくれんなら、社割利くかんね。お買い得お買い得っと」
『……もう少し、まともな言葉遣いを心掛けてはいかがですか』
ケータイ越しに、諦めたような非難の声。
少女は意に介した様子もない。
つまらなそうに「ちぇー」なんて漏らすと、語を続ける。
「オニーサンが固過ぎんじゃね? 疲れねーの? それ」
『嫌味に対してだけ、まともに返さないで頂きたい』
「どーでもいー。それよか、オレらは鍵狩りしたっしょ? 聖杯のお守りだって押っ死んだんっしょ? お互い慈善事業でやってんじゃねんだ。どーせならオニーサンもそれ相応、誠意ってヤツを見せろよ」
『……というと?』
「0番、さっさと手放せって話だよ、ネクロフィリアちゃん」
手酷い否定がはね返ってくる前に、ベギーネルはケータイを切った。
ついでに、ぽいと畳の上に放る。
彼女にとって電話というのは、言ったもん勝ちの、切ったもん勝ちなのだ。
畳張りに似合わない、血の色を彷彿とさせるようなケータイのボディ。
それを眺めた少女は、不意に含み笑いに目元を細めた。
「聖杯のヤツら、焦りすぎだっての」
そんなに飼い犬が怖かったんかよ、と黒革のカラスマスク越しにほくそ笑む。
元々、ガエブルグにとって人体実験の失敗作しかよこさないグラールは、いけ好かない取引相手だった。だからこそ、秘密裏に0番の引き渡しを要求し続けていた。
とはいえ、彼女等の当初の目的は、0番を手に入れることではなかった。
それのために結社に繋がれている、ある強大な使い手。
闇の紋章術師というグラールの主戦力を削り取るべく、揺さぶりをかけていたのだ。
研究員と情報共有を行なったのも、目的が同じだったからだ。
彼もまた、闇の紋章術師をグラールから離別させようとしていた人間の1人だった。
人体実験に携わっていたとはいえ、なぜジェネラルの一介が天下の紋章術師を引き摺り下ろそうとしているのかはわからなかったが、そんなものはガエブルグにとってはどうでもいいことだ。
闇の紋章術師と直接的にコンタクトを取れる研究員は、彼等の活動に大いに貢献した。
そして、ガエブルグは機を見て、研究員から聞き出した0番に関する情報を、闇の紋章術師に通告する、という報せをグラールに送りつけた。0番を救い出すために首輪を付けられているらしい紋章術師。その忠誠心に、ガエブルグのアクションがどこまで影響を及ぼすものか。
さあどう動く、とグラールの動向を、宝くじの結果でも待つように嬉々として窺っていたベギーネルだったが。研究員のお友達、闇の紋章術師はもう殺されたそうだ。
どこの結社のお手柄かは知らなかったが、ずいぶんと手の早いことだ。
グラールの単なる手違いだろうか。
それとも、牙を剥かれる前にと計画的に与えた死だろうか。
――従わぬなら殺してしまえ紋章術師? って語呂わりーわ。
あのグラールがそう簡単に、質のいい戦力を手放すとも思えない。
まず何か企んでいると見るのが、妥当な構え方だ。
ぐにゃりと芋虫のようにだるそうに身を起こした少女は、ほっぽったケータイもそのままに、畳にサイハイブーツを食い込ませて立ち上がった。
「ボスにチクろーっと」
ベギーネルは華美な水墨画が描かれたふすまを、ブーツの先で押しのけると、口笛を響かせながら畳の一室を後にした。
真っ赤なケータイだけが、ぽつんと畳の上に転がっていた。
吹き抜けるそよ風に、青々としげった竹林がざわめきを奏でた。
墓地に隣した造園の奥地で、その瓦張りの和様建築は荘厳な雰囲気をかもし出している。漆塗りしたかのように、艶やかに黒光りする門構え。それを潜った先に広がるのは、広々とした枯山水。敷き詰められた飛び石を辿った先。
その一軒は、歴史ある和風旅館を思わせた。
「だからー、何回も言ってるっしょ」
真新しい畳張りの部屋に、締りのない声が響いた。
壁に垂らされた掛け軸には、殴り書きしたように豪快に墨汁で描かれた槍の印。
外観からしても、相当に立派な和様建築だ。
まともなエンブレムを掲げた部屋ならいくらでもあるのだろうが、この十四畳ほどの和室に限っては、その掛け軸が、術師結社ガエブルグを示す唯一の目印だった。
そんな畳の部屋に寝転がったまま、ケータイに噛り付いている少女――ベギーネルは、今にも居眠りを始めそうな、気だるげな様子だ。
淡いローズピンクのショートカット。モノクロと、目が痛いほどビビッドな赤を基調としたミニスカート姿。ウサギの耳を思わせる布切れがついた、大きなフードを背中に垂らし、不健康そうな青白い顔は、黒革のカラスマスクが隠している。逆に、肩口や腹の装飾ジッパーを開けっ放しに、いたるところから素肌を覗かせている。
しかも、和室にも関わらず、サイハイブーツを履いたままだ。
どう見ても和室のTPOに適さない様子だが、彼女を咎める者はこの部屋にない。
「そろそろヤバいって。聖杯のヤツらもバカじゃねんだ。手ぇ切るとか、懐入るとか、なんとかしろっての。じゃねーと、なに仕掛けてくるかわかんねーっしょ?」
パーカーやミニスカートに施された鎖を、指輪だらけの手でジャラジャラと弄り回しながら、真っ赤なケータイに語りかけるベギーネル。
電話口から、男の声が答える。
土足で畳に寝転がっている少女の電話相手にしては、大人びた声音だった。
『わざわざ状況悪化に貢献したのは、そちらの結社ですが』
「だしょー? そーだよ、ありがたがれよ。鍵の死が世界の終わりって終末論、オレらが体張って否定してやったのに」
『世界を終わらせたいから殺した、の間違いでは?』
毒々しい濃紫の猫目が、眠たげに天井の木目を見上げる。
ベギーネルはカラスマスク越しに、短いため息をついた。
「どーでもよくね? それよかオニーサンさ。どーせなら聖杯に探りいれとけって。いるんしょ、便利なお友達」
ケータイが沈黙した。
天井を仰いでいた少女の両眼が、つと受話器に向けられる。
「なに黙っちゃってんの」
『……パイプは途絶えたので。こちらからグラールに接触するには、何かしら餌が必要ですよ』
「へー。お友達、押っ死んだ? ご愁傷さん」
真面目に聞かないか、と低音の叱咤に、堂々と舌打ちを返すベギーネル。
「エサなら、あの“0番”使やいーだろ。聖杯だったら、食いつくんじゃね?」
そういや、そっちでは“初代”って呼んでんだっけ?
外国の天気でも話すように、さも興味なさげに付け足された一言。
ごろごろ寝返りを繰り返す彼女は何気なく言ったのだろうが、電話相手の声は一層低く響いた。
『無責任なことを言わないで頂きたい。今グラールにあれを渡したら――』
「知らね。実験の失敗例だし、始末すっか、もっかい鍵にしようとすっか。とりま、無事じゃ済まねんじゃね?」
『……そうとわかっていて、餌に使えと?』
「使えよ。番いも押っ死んだんだ。今更グラールに売り付けて、文句言うヤツいねーっしょ」
電話口の声音が途絶えた。
ベギーネルの提案に、考え事をしているのか、戸惑っているのか。
彼女は後者と取ったらしかった。
血が混じったようなどす黒いプラムの眼光が、じろりとケータイを睨む。
「オマエ、0番に固執しすぎじゃね? 気ぃ付けろよ。ネクロフィリアじゃねんだ」
わずかに凄んだ少女の口調。
電話の声は少しの静黙を置いて、気を取り直したのか、落ち着いた口上を返した。
『君は相変わらず口が悪すぎる。あれはまだ死んでいない』
「バーカ。使わねんならオレらによこせっての。あんなお人形、オニーサンの性には合やしねーわ」
ベギーネルは、いじけたみたいにローズピンクの髪を指で弄る。
受話器越しの光景など見えていないのだろうが、相手は黙りこくった。
少女が気を紛らすように畳を転がると、いくつもの銀のピアスが、じゃらりとケータイにぶつかる。
「大体『白雪姫』の殺し方教えたの、オニーサンっしょ。お望み通り殺してやったのに、ご褒美なし?」
うつ伏せに寝転んだ不可抗力か、それとも単に機嫌を損ねたのか。
存外低い声を出したベギーネルは、『白雪姫』を死に至らしめた子供を思い、細い眉をしかめた。
グラールの人体実験、被験者の元祖、0番。
植物状態にあるその子供が、特殊な効力を秘めているということに気付いたのは、過去、実験に携わっていた研究員だった。
きっかけは、0番との面会に訪れたグラールの紋章術師が、病室で昏睡状態に陥ったことだったそうだ。偶然様子を見に行った研究員の対応によって、紋章術師は事なきを得て、一度は過労による意識障害という診断に落ち着いた。
しかし、紋章術師は、戦闘能力もさる事ながら、そのための自己管理を怠らない毅然とした女性だった。倒れるまで自分自身を追い詰めるようなミスは決しておかさないはずだと、疑問に思った研究員は、彼女から詳しく話を聞き出したのだ。
嫌々打ち明けた紋章術師によれば、今までにも病室に訪れる度、似たような症状があったのだという。0番との同席が長ければ長いほどに、疲弊感や頭痛、めまいなどを伴い、紋章術の使用はもちろん、日常生活に支障をきたすほどの体調不良に付きまとわれることもある。
彼女にとって0番がどういった存在なのかを考慮すれば、精神的な負荷から生じるものとも考えられたが、それだけで意識障害まで併発するというのは、いささか強引な説だ。
研究員は、紋章術師の証言から、独自に紋章術の使い手を用いた検証を行なった。
するとどうなったか。
純粋な紋章術の使い手達は、例外なく、0番に対して拒絶反応を示したのだ。
ある者は体調不良を訴え、ある者は幻覚症状を併発。またある者は、0番と出会った前後の記憶、もしくは特定の情報がごっそりと失われた。さらに、元々紋章術との適性が低い使い手に至っては、記憶障害に加えて、紋章術自体が使用不可になるという驚くべき結果を残した。
それはまさに、紋章術に適性のない一般人、ジェネラルが見せる、魔導具に対する拒絶反応を思わせた。
0番は、紋章術に害を及ぼす何かを持っている可能性がある。
未だかつてない発見だった。
研究員の仮説は、もはや確定事項も同然だった。
さらに、使い手が紋章術の宿った人間なのであれば、魔導具は、紋章術の宿った無機物だ。
もちろん魔導反応の強さで言えば、使い手よりも魔導具の方が圧倒的に勝る上に、精霊の有無を問うならば、両者は似て非なるものだが、魔導具はあくまで生命のない“モノ”であるために、紋章術を使用する意思を持ち合わせていないだけのことでもある。紋章術が宿っているという点だけを挙げれば、使い手も魔導具もそう変わりないのだ。
つまり、使い手に対して毒になる効力は、魔導具に対しても同じ効果を発揮するということになり得る。
さらに言えば、無機物でないとはいえ、鍵もまた魔導具のひとつだ。
使い手が体力や精神力を費やして紋章術を用いるのに対して、7つの鍵は存在そのものが紋章術であり、それを使用する意思のある、生きる魔導具と言える。
肉体それ自体が紋章術である鍵に、0番の毒をあてたとき、何が起きるか。
考えるまでもないだろう。
研究員の一説は、ついに確証を得てしまったのだ。
『白雪姫』と呼ばれる、鍵が破壊されたことによって。
鍵を作るための実験が、くしくも鍵と真逆のものを生んでしまったのだから、皮肉な話だ。
それが術師結社に全てを奪われた第一被験者の、7つの鍵に対する憎悪だったのか、グラールへの報復の形だったのか。今となってはもう、知る術もなくなってしまったが。
無断で0番を用いたのだから、研究員にとってはさぞ迷惑だったろうと面白がっていたベギーネルだが、当の本人である電話相手は、いやに冷静な様子だった。
『誰が殺せと? ……誤解を招いたなら、謝罪しますが。ただ、あそこまで頭の悪い強硬手段は、普通取らないでしょう』
「へー。じゃ、謝れよ。オレら、遊びで鍵狩りしてんじゃねんだ。やり方教えたら、やれって言ったのとおんなじっしょ」
言うまでもないが、少女の言い分はめちゃくちゃだ。
だが、ケータイの声は、反論するのも時間の浪費と考えたのかもしれない。
申し訳ない、と即答した。
まったく謝意の含まれない返事。
ベギーネルの方も、大して謝って欲しくもなかったらしい。
面倒くさげに相槌を打って、どぎつい紫の瞳で畳の凹凸を見つめながら続ける。
「どーせならオニーサンも観たかったんじゃね? 『白雪姫』の晴れ舞台ってヤツ」
悪趣味極まりない台詞を吐いている自覚がないのだろうか。
語尾に星マークでも付け足さんばかりに、ベギーネルはふざけた口調で『白雪姫』の死を話す。
元々『白雪姫』は自身が7つの鍵の1つであり、度重なる危険に晒されることに思い悩む節があったのだ。
ベギーネルから0番についての報告を受けたガエブルグは、『白雪姫』をマークした上で、わざと弱小組織へと情報をばらまき、確保にやってきた他組織の使い手達を一掃した。
そして、ガエブルグの組織方針は「7つの鍵を鍵そのものから解放してやること」と語ると、さも敵意のない術師結社であるかのように振舞った。
本来なら強大な力を持つ鍵を、戦わずに取り込むことに尽力したのだ。
やがて、彼等の策略は見事に『白雪姫』の心を掴んだ。
信頼さえ得てしまえば、後はいくらでも融通が利く。
結論から言えば、初めから『白雪姫』がどうなろうが知ったことではなかった。
ガエブルグは『白雪姫』を、紋章術にとっての害である0番と引き合わせた。
声をかけても、肩を叩いても、反応を示すどころか、瞼を開けることすらなかった0番。
だが彼女は『白雪姫』を近付けた途端、偶然か否か、ゆっくりと目を見開いた。
鍵の死は、なんとも形容しかねる光景だった。
ほんのまばたきする間のうちに、それは耳を塞ぎたくなるような異常音を立てて行なわれた。
0番の毒にあてられた途端、鍵の体は並外れた痙攣を見せたのである。
骨という骨、肉という肉が軋みを上げ、粘土のようにぼろぼろと崩れてただれ落ちたと思うと、筋肉組織も骨格も何もかもが、原形をとどめない肉塊と化した。挙句には、その臓物や肉片はもちろん、血の一滴までもが、微細な粒子となって、砂埃かなにかよろしく消え失せてしまったのだ。
まるで存在そのものが、初めからなかったことにされたようだった。
『白雪姫』は、まさに筆舌に尽くしがたい壮絶な悲鳴だけを残してこの世界から消えた。
鍵の死は、生き物の死と言うよりも、分解や崩壊と言った方が正しかったかもしれない。
あまりの度外れた現象に、思考が追い付かない様子の者が何人かいた。そして、残りの数名はきょとんと顔を見合わせた後理由もわからず嘔吐した。
ベギーネルは前者のうちの一人だった。
オレ用に録画しとけばよかった、と楽しみにしていたテレビ番組でも見逃したみたいに、軽々と語る。
「そーそー。偶然にも、諜報用の録画が起動してて、映像残ってんだわ。いくらで買う? ついでに、オレらのお友達んなってくれんなら、社割利くかんね。お買い得お買い得っと」
『……もう少し、まともな言葉遣いを心掛けてはいかがですか』
ケータイ越しに、諦めたような非難の声。
少女は意に介した様子もない。
つまらなそうに「ちぇー」なんて漏らすと、語を続ける。
「オニーサンが固過ぎんじゃね? 疲れねーの? それ」
『嫌味に対してだけ、まともに返さないで頂きたい』
「どーでもいー。それよか、オレらは鍵狩りしたっしょ? 聖杯のお守りだって押っ死んだんっしょ? お互い慈善事業でやってんじゃねんだ。どーせならオニーサンもそれ相応、誠意ってヤツを見せろよ」
『……というと?』
「0番、さっさと手放せって話だよ、ネクロフィリアちゃん」
手酷い否定がはね返ってくる前に、ベギーネルはケータイを切った。
ついでに、ぽいと畳の上に放る。
彼女にとって電話というのは、言ったもん勝ちの、切ったもん勝ちなのだ。
畳張りに似合わない、血の色を彷彿とさせるようなケータイのボディ。
それを眺めた少女は、不意に含み笑いに目元を細めた。
「聖杯のヤツら、焦りすぎだっての」
そんなに飼い犬が怖かったんかよ、と黒革のカラスマスク越しにほくそ笑む。
元々、ガエブルグにとって人体実験の失敗作しかよこさないグラールは、いけ好かない取引相手だった。だからこそ、秘密裏に0番の引き渡しを要求し続けていた。
とはいえ、彼女等の当初の目的は、0番を手に入れることではなかった。
それのために結社に繋がれている、ある強大な使い手。
闇の紋章術師というグラールの主戦力を削り取るべく、揺さぶりをかけていたのだ。
研究員と情報共有を行なったのも、目的が同じだったからだ。
彼もまた、闇の紋章術師をグラールから離別させようとしていた人間の1人だった。
人体実験に携わっていたとはいえ、なぜジェネラルの一介が天下の紋章術師を引き摺り下ろそうとしているのかはわからなかったが、そんなものはガエブルグにとってはどうでもいいことだ。
闇の紋章術師と直接的にコンタクトを取れる研究員は、彼等の活動に大いに貢献した。
そして、ガエブルグは機を見て、研究員から聞き出した0番に関する情報を、闇の紋章術師に通告する、という報せをグラールに送りつけた。0番を救い出すために首輪を付けられているらしい紋章術師。その忠誠心に、ガエブルグのアクションがどこまで影響を及ぼすものか。
さあどう動く、とグラールの動向を、宝くじの結果でも待つように嬉々として窺っていたベギーネルだったが。研究員のお友達、闇の紋章術師はもう殺されたそうだ。
どこの結社のお手柄かは知らなかったが、ずいぶんと手の早いことだ。
グラールの単なる手違いだろうか。
それとも、牙を剥かれる前にと計画的に与えた死だろうか。
――従わぬなら殺してしまえ紋章術師? って語呂わりーわ。
あのグラールがそう簡単に、質のいい戦力を手放すとも思えない。
まず何か企んでいると見るのが、妥当な構え方だ。
ぐにゃりと芋虫のようにだるそうに身を起こした少女は、ほっぽったケータイもそのままに、畳にサイハイブーツを食い込ませて立ち上がった。
「ボスにチクろーっと」
ベギーネルは華美な水墨画が描かれたふすまを、ブーツの先で押しのけると、口笛を響かせながら畳の一室を後にした。
真っ赤なケータイだけが、ぽつんと畳の上に転がっていた。
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