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第2章
066
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突然登場したエイレンに、グラール側はもちろんガエブルグ側すら大したリアクションをとる事はなかった。
ただ、エイレンいわくジェネラルの青年だけは驚きで言葉を失っていただけなのだが。
『へー、誰が覗いてんのかと思ったら、聖剣じゃねーの』
ヘッドフォンから聞こえたのは、少女――ベギーネルのやけに冷静な声。
まるでカリバーン側が覗いていたのに気付いていた口ぶりに、陰に身を隠しながら演習場を見ていたクロノは更に気配を希薄にする。
『たった一人で敵地に飛び込んでくるなんて、相変わらず、さすがだね』
グラールの青年――イルエも冷静に言った。
どうやら、彼らはエイレンの単独行動だと思っているらしい。
純粋に、単身飛び出してきたことに対してのコメントだったかもしれないが、彼らが他の仲間を言及する発言をしていない以上、クロノたちが気付かれている可能性は低い。
クロノは、自分たちのリーダーが下手に口を滑らない事を切実に祈る。
『オレはこの演習場の常連客だったからな。初めてバイトがスタッフルームに入る時の緊張はあったがノープロブレムだ!』
意味不明なエイレンの主張を聞き流しつつクロノは安堵の息をこぼした。
そして、物陰に押し込めたままのミントへと視線を向けた。
「敵は俺たちには気付いていないから、このまま仕事を続けよう」
「エイレンさんは……?」
「ほっとく。自分の身を自分で守れない程弱そうには見えないし」
ミントはクロノの提案を了承したようで、彼女はこくりと首を振ると彼と同じようにこっそりと窓の向こうを見る。
正直なところ、クロノは〝聖〟の文字を持つ三大結社の人間が揃ったことに興味があり、出来るならば傍観者でいたかった。
なぜだか、ややこしいことにしかならないような気がしていたのだ。
『とにかく、イルエ! お前、セラとリラを何だと思っているんだ!』
ずびし、と指差しながらエイレンはヘッドフォン越しに喧しい声を響かせた。
彼が飛び出した理由はクロノの想像通りだったらしい。
『何って、人間でしょ? カリバーンだってグラールからメンバーを引き抜いているんだ。ガエブルグに僕らの仲間をあげることに文句を言われる筋合いはない』
彼の棘のある言い方は、嫌味と言うよりも不平不満を訴えているように思える。
まるで、カリバーンの人員構成に文句があるような物言いだ。
「…………思い出した」
ぽつりと、クロノが呟いた。
「何をですか?」
「グラールの、あの男」
互いに視線を合わせることなく言葉を交わす。
クロノの目線を追って、ミントもエイレンたちからイルエへと視線を向ける。
「あいつ、ビビアンの弟だ」
まだ聖杯にいた頃、グラール唯一の穏健派と通信部のトップが兄弟だとの噂を耳にした時、クロノは仕事前にそれとなくビビアンに聞いたことがあった。その時彼女はため息がちに肯定をしたのだ。そして、親戚がどん引くくらいのシスコンだったとも、ぼやいていた。
『そうそう。こっちが新たに提示する条件だけど』
イルエの、やけに嬉々とした声が響いた。
彼はエイレンを見ながらもベギーネルに言う。
『カリバーンのリーダーである彼を殺して欲しいんだ。まぁ、その部下である使い手の生死ははどっちでも構わない』
隣にいるミントの驚きが手にとるようにわかった。
そして、こちらに背を向け表情のわからないエイレンも同じように驚いているだろうことも。
『ただし、殺して良いのは使い手だけだ。一般人を殺したら、僕らが君たちを潰すから』
にこりと、そんな効果音が付きそうな笑顔でイルエはさらりと告げる。
一瞬訪れた静寂。
それを壊すように、ベギーネルはジャラリと鎖の音を響かせた。
『おもしれーこと言うじゃねーの。じゃ、お言葉に甘えてぶっ殺させてもらっちゃうわ』
ニヤリと笑みを浮かべるベギーネル。
同時に、一般人であろう青年が盛大な音を立てて少女から離れた。
身構えるも武器を取り出す気配のないベギーネルと対峙しながら、エイレンは彼女の足元に転がるスーツケースへと視線を向ける。
おそらくエイレンは、ガエブルグの手に渡る前にセラの身を横取りしたいのだろう。
『オレに気はないが、そっちがその気ならダンスの相手ぐらいにはなってやるぞ!』
ぶわりと、エイレンは大剣を取り出すとベギーネルへとその切っ先を向けた。
大剣を取り出したエイレンは、あらん限りの力で真一文字に振り回した。
ぶぅん、と空を切る音が低く響いた時には、ガエブルグもグラールも彼との間合いをとっていた。だが、エイレンは追撃をする事なく、そのままセラの入ったスーツケースを掴むとクロノ達のいる場所へと駆け戻る。
『バーカ。逃がす訳ねーっしょ!』
同時に、ベギーネルがエイレンを追い掛けて来た。
「あの馬鹿っ」
苛立たしげに呟いたクロノは、下手に被害を受ける前に逃げようとミントの手を掴んだ。
「クロノさ――」
「逃げるぞ。今の俺たちじゃあいつらに勝てない」
少年は少女の返事を待たずに、彼女の手を引いて隠れていた部屋を飛び出した。
そして、そのまま演習場の外へと向かう。
背後から、エイレンとベギーネルが叫ぶような怒鳴り声で会話をしているのが聞こえたが、クロノはそれに一切耳を傾けることなく、スルーした。
クロノとミントが演習場裏口である鉄扉の前まで来た時だった。
目の前に佇む人影に、クロノは足を止めた。
「やぁ、黒羽くん」
「どうも」
いつの間に先回りしていたのだろう。
そこにいたのは、演習場にいたはずのイルエたちだった。
彼の反応を見るにクロノたちの存在も気付かれていたと考えるのが自然だ。あえて泳がされていたのか、それとも接触がないなら無視するつもりだったのか。
驚きを露わにしたミントを背に庇って、クロノは後ろ手でベルトへと手を伸ばす。
「君がグラールを抜け出した理由はその子かな」
「だったら、どうするんですか」
「別に、僕はどうもしないよ」
思わずクロノは顔をしかめた。
どうもしないのは、クロノのことか、ミントに対してか。
「じゃあ、道を開けてくれませんか」
「そうはいかないんだ。君が連れてるその子に会いたがってる人がいてね」
イルエは否定の言葉と共に、自身の後ろに立っていた人物の背中を押した。
促されるまま、その人は飛び出るように青年の前に出た。
そしてクロノ……と言うよりミントと対峙すると、バサリとフードを脱いだ。
現れたのは、夜闇の中でも鮮やかな橙色のツインテール。
それが目に飛び込んだ瞬間、クロノの後ろでミントが息をのんだ。
ただ、エイレンいわくジェネラルの青年だけは驚きで言葉を失っていただけなのだが。
『へー、誰が覗いてんのかと思ったら、聖剣じゃねーの』
ヘッドフォンから聞こえたのは、少女――ベギーネルのやけに冷静な声。
まるでカリバーン側が覗いていたのに気付いていた口ぶりに、陰に身を隠しながら演習場を見ていたクロノは更に気配を希薄にする。
『たった一人で敵地に飛び込んでくるなんて、相変わらず、さすがだね』
グラールの青年――イルエも冷静に言った。
どうやら、彼らはエイレンの単独行動だと思っているらしい。
純粋に、単身飛び出してきたことに対してのコメントだったかもしれないが、彼らが他の仲間を言及する発言をしていない以上、クロノたちが気付かれている可能性は低い。
クロノは、自分たちのリーダーが下手に口を滑らない事を切実に祈る。
『オレはこの演習場の常連客だったからな。初めてバイトがスタッフルームに入る時の緊張はあったがノープロブレムだ!』
意味不明なエイレンの主張を聞き流しつつクロノは安堵の息をこぼした。
そして、物陰に押し込めたままのミントへと視線を向けた。
「敵は俺たちには気付いていないから、このまま仕事を続けよう」
「エイレンさんは……?」
「ほっとく。自分の身を自分で守れない程弱そうには見えないし」
ミントはクロノの提案を了承したようで、彼女はこくりと首を振ると彼と同じようにこっそりと窓の向こうを見る。
正直なところ、クロノは〝聖〟の文字を持つ三大結社の人間が揃ったことに興味があり、出来るならば傍観者でいたかった。
なぜだか、ややこしいことにしかならないような気がしていたのだ。
『とにかく、イルエ! お前、セラとリラを何だと思っているんだ!』
ずびし、と指差しながらエイレンはヘッドフォン越しに喧しい声を響かせた。
彼が飛び出した理由はクロノの想像通りだったらしい。
『何って、人間でしょ? カリバーンだってグラールからメンバーを引き抜いているんだ。ガエブルグに僕らの仲間をあげることに文句を言われる筋合いはない』
彼の棘のある言い方は、嫌味と言うよりも不平不満を訴えているように思える。
まるで、カリバーンの人員構成に文句があるような物言いだ。
「…………思い出した」
ぽつりと、クロノが呟いた。
「何をですか?」
「グラールの、あの男」
互いに視線を合わせることなく言葉を交わす。
クロノの目線を追って、ミントもエイレンたちからイルエへと視線を向ける。
「あいつ、ビビアンの弟だ」
まだ聖杯にいた頃、グラール唯一の穏健派と通信部のトップが兄弟だとの噂を耳にした時、クロノは仕事前にそれとなくビビアンに聞いたことがあった。その時彼女はため息がちに肯定をしたのだ。そして、親戚がどん引くくらいのシスコンだったとも、ぼやいていた。
『そうそう。こっちが新たに提示する条件だけど』
イルエの、やけに嬉々とした声が響いた。
彼はエイレンを見ながらもベギーネルに言う。
『カリバーンのリーダーである彼を殺して欲しいんだ。まぁ、その部下である使い手の生死ははどっちでも構わない』
隣にいるミントの驚きが手にとるようにわかった。
そして、こちらに背を向け表情のわからないエイレンも同じように驚いているだろうことも。
『ただし、殺して良いのは使い手だけだ。一般人を殺したら、僕らが君たちを潰すから』
にこりと、そんな効果音が付きそうな笑顔でイルエはさらりと告げる。
一瞬訪れた静寂。
それを壊すように、ベギーネルはジャラリと鎖の音を響かせた。
『おもしれーこと言うじゃねーの。じゃ、お言葉に甘えてぶっ殺させてもらっちゃうわ』
ニヤリと笑みを浮かべるベギーネル。
同時に、一般人であろう青年が盛大な音を立てて少女から離れた。
身構えるも武器を取り出す気配のないベギーネルと対峙しながら、エイレンは彼女の足元に転がるスーツケースへと視線を向ける。
おそらくエイレンは、ガエブルグの手に渡る前にセラの身を横取りしたいのだろう。
『オレに気はないが、そっちがその気ならダンスの相手ぐらいにはなってやるぞ!』
ぶわりと、エイレンは大剣を取り出すとベギーネルへとその切っ先を向けた。
大剣を取り出したエイレンは、あらん限りの力で真一文字に振り回した。
ぶぅん、と空を切る音が低く響いた時には、ガエブルグもグラールも彼との間合いをとっていた。だが、エイレンは追撃をする事なく、そのままセラの入ったスーツケースを掴むとクロノ達のいる場所へと駆け戻る。
『バーカ。逃がす訳ねーっしょ!』
同時に、ベギーネルがエイレンを追い掛けて来た。
「あの馬鹿っ」
苛立たしげに呟いたクロノは、下手に被害を受ける前に逃げようとミントの手を掴んだ。
「クロノさ――」
「逃げるぞ。今の俺たちじゃあいつらに勝てない」
少年は少女の返事を待たずに、彼女の手を引いて隠れていた部屋を飛び出した。
そして、そのまま演習場の外へと向かう。
背後から、エイレンとベギーネルが叫ぶような怒鳴り声で会話をしているのが聞こえたが、クロノはそれに一切耳を傾けることなく、スルーした。
クロノとミントが演習場裏口である鉄扉の前まで来た時だった。
目の前に佇む人影に、クロノは足を止めた。
「やぁ、黒羽くん」
「どうも」
いつの間に先回りしていたのだろう。
そこにいたのは、演習場にいたはずのイルエたちだった。
彼の反応を見るにクロノたちの存在も気付かれていたと考えるのが自然だ。あえて泳がされていたのか、それとも接触がないなら無視するつもりだったのか。
驚きを露わにしたミントを背に庇って、クロノは後ろ手でベルトへと手を伸ばす。
「君がグラールを抜け出した理由はその子かな」
「だったら、どうするんですか」
「別に、僕はどうもしないよ」
思わずクロノは顔をしかめた。
どうもしないのは、クロノのことか、ミントに対してか。
「じゃあ、道を開けてくれませんか」
「そうはいかないんだ。君が連れてるその子に会いたがってる人がいてね」
イルエは否定の言葉と共に、自身の後ろに立っていた人物の背中を押した。
促されるまま、その人は飛び出るように青年の前に出た。
そしてクロノ……と言うよりミントと対峙すると、バサリとフードを脱いだ。
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