Geometrially_spell_aria

吹雪舞桜

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第2章

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リアフェール本部の応接間で、クロノは盛大にため息をついた。
呆れた表情のシグドがクロノを見ているのだが、当の本人はそれに反応する余裕もなかった。






あのあと、あの場に残っていても仕方ないと判断したクロノは、比較的軽傷で済んだだろう少年を叩き起こして、事情を簡単に説明した上で改めて指示に従ってくれと頼んだ。
そういうことなら、と少年は二つ返事で頷いてくれたので、彼にミラノを任せてクロノはシグドを背負うと、『赤頭巾』を連れて本部へと戻った。
本当は事情を説明するのが面倒だったので脅したかったのだが、あいにくナイフはカルナに刺したままであり、そのまま彼女はミントを連れて去ってしまったのだ。

なくした武器をどうしようかと考えてるうちに、二人はリアフェールに着いた。


クロノは少年に説明しようと振り返り、ついでに、開けろと言わんばかりに本部の玄関を足でノックする。


「ここが、さっき説明したリアフェールの本部」


少年が無言で頷いたと同時に、タイミング良くドアが開けられた。


「おぉ、クロノ! 戻って来たか!」


飛び掛かってくるような勢いで出て来た人物を、背負ったシグドを落とさないように避ければ、派手な赤が盛大な音と声を立てて地面にダイブした。


「で、このバカがカリバーンのリーダー」
「…………」
「この人は放っておいて良いから、中に入るぞ」
「お、おう」


開けてくれたドアを足で押さえながら少年を先に入れ、転んだまま起き上がる気配のないエイレンを無視してクロノは玄関を閉めた。


本部へと戻ったら最初にあいさつ、のリアフェールルールを思い出し、クロノはそのまま応接間へ足を運んだ。

クロノと少年が現れた瞬間、応接間に響く耳をつんざくような黄色い声。
何事かと、クロノたちが声のした方へ視線を向ければ、少女マンガ並に目をきらっきらさせた女性が、手に持ったマリンキャスケットを握りしめていた。


「ほら、見た、王子様!」


彼女は、側にいる天パの少年へと声をかける。
声をかけられた少年は何も答えず、驚きを露にクロノを見ていた。


 ――俺?

「本物に会えたーっ!」


先程のエイレンよろしく飛び掛かってくる見知らぬ女性を反射的に避ければ、再び地面にダイブする人間を目の当たりにする。


「………………」


何がなんだかわからず混乱し絶句した少年に、クロノは呆れと警戒を兼ね、たっぷり間を開けてから誰も使用していないソファーを指差した。


「その人は奥のソファーに寝かせといて」
「わ、わかった」


少年は素直に頷いて、ゆっくり丁寧にミラノをソファーに横たわらせる。


「クロノ君お帰りー。その子が『赤頭巾』? てか、保護対象に人運びさせちゃダメでしょ」
「あなた、クロノ君って言うのね! どうしよっ、王子様の名前知っちゃったよーっ!」
「はいはい、よかったな」


後ろで嬉々と声を上げる女性に、やはり天パの少年が今度は呆れながら相槌を打っていた。


「………………あれ、クロノ君。ミントちゃんは?」


ソファーの背もたれから身を乗り出してミラノの顔色を観察しながら、ナツメが何気なく口にした質問。

その瞬間、クロノの動きと表情が固まった。


「クロノ君?」


どうしたのか、と首を傾げるナツメの質問が詰問のように思えた。

クロノはミラノと対面側のソファーにシグドを、それとなく乱暴に寝させた。
そうしながら、波立つ感情を抑える。


「…………カルナって女に捕まった」


努めて冷静に、淡々と告げた。

ガタンと童顔術師がちゃぶ台にぶつかる音が響き、次の瞬間にはナツメがクロノの胸倉に掴みかかっていた。


「どういうこと?」
「言葉通りの意味ですよ」
「それはつまり、約束を破ったってことだよね? わかってるの?」
「言われなくてもわかってる」


ぱしんと、クロノは胸倉を掴むその手を叩いた。

驚いた表情をしているナツメを、彼は酷い形相で睨んだ。
それは、いろんな感情がごっちゃに混ざった、どこか痛々しいような表情だった。

かと思えば、クロノは逃げるように視線を俯かせた。


「そんなの、俺が一番理解してます。俺は――」
「ストップストップ」


クロノの思考と言葉を遮るように、入口近くに座り込むかしましい女性が声を上げた。

彼女は、知らないうちにクロノとナツメの間に割って入っていた。


「そのミントって子のことよりも、先に、帰宅組の診察が大事なんじゃないの?」
「…………」


女性が今までのキャラと真逆に、どこか冷静に告げた言葉にクロノとナツメは何も言い返せなかった。


「ナツメは社長さんや他の人たち呼んで来て、クロノ君たちはソファーに座る。……フィズ、あんたは救急箱持って来て」


部屋を出て行くナツメに目を向けることなく、クロノは素直にソファーに座った。それを見てから、少年もソファーに腰掛けた。


そのあと、気休め程度にと傷口にガーゼを貼りながら騒がしかった彼女から、自分が噂の治癒の紋章術師だと自己紹介された。

姉のロザリアと、弟のフィズ。
彼女たちはナツメに呼ばれ、わざわざリアフェールまで駆け付けてくれた。何でも「エイレンが倒れたから治してほしいと頼まれ、同郷のよしみで無料で見てあげることにした」とのことだった。そして、これから帰ってくるクロノたちにも、と頼み込まれたから帰りを待っていたらしい。

治癒の紋章術を受けながらクロノは未だに目を覚ます気配のないシグドに視線を向けた。


そうしている間に部屋には、カリバーンとリアフェールの現在揃っている全メンバーと、『赤頭巾』の少年と治癒の紋章術師一行が揃った。

ここに一足先に避難したはずのナビィは、適当な部屋で立て篭もっているらしい。


「この少年なら、打ち身や外傷だけだから問題ないよ」


現在の治癒の紋章術師ロザリアが、この場にいる全員に状況を説明していく。
何故か、クロノが使っているソファーの肘掛けに座りながら。


「クロノ君の容態だけど、怪我は問題なし」


短く説明したロザリア。

次の言葉がないとわかると、エイレンは盛大にちゃぶ台を叩いて皆の注目を集める。
ただ、それに反応して目線を寄越したのは誰もいなかったのだが。


「クロノ、聞いたぞ。どうしてミントを守れなかった?」
「………………」
「クロノ!」


詰問に近い語調で答えを求めるエイレンに言葉を返す。


「その辺にしとけ」


それはクロノではなく、どこかだるそうに上体を起こすシグドだった。


「シグド……!」
「何でだ、青年?」


目を覚ましたことに安堵の表情を浮かべるクロノと、制止されたことに疑問符を浮かべるエイレンには見向きもしないで、シグドは対面側で眠り続けるミラノを見た。

そうしてから、口を開く。


「せっかくクロノが自分から冷静になってんだ、わざわざ荒立てる理由はないだろ」
「だが……」
「あの自己主義が協調性をみせて大人しく戻ってきただけで十分だろ」


シグドの菫色の瞳がエイレンを捉える。
過去の件があるだけにシグドの言葉はクロノには痛い。

むむむ、とわざとらしく考える素振りを見せたエイレンは、クロノを一瞥すると頷く。


「確かにそうだな。オレたちはスズメバチじゃなくてミツバチだからな!」


納得したエイレンの謎理論に、治癒の紋章術師が首を傾げる。
しかし。一方でナツメは不服そうに頬を膨らませている。だが、仮にもリーダーであるエイレンが納得する素振りをみせたからか、表立って何か言うことはしなかった。
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