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17話

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 魔法を使える者は数が少ない。
 何故少ないかと言えば、覚えるために必要なアイテムが手に入りにくい事が一番の理由に挙げられる。だからこそ、そのアイテムが手に入ると熾烈な奪い合いが起きる事も多く、あまり気の知れないメンバーでダンジョンに潜る事をしない探索者もいるぐらいだった。
 勿論、逆にそのアイテムを手に入れるために相手が誰だろうとダンジョンに挑み続ける探索者が出るほど便利で売れば高額になる物だった。
 そして、幸はその数少ない魔法の使い手。今までの探索では一切お目にかからなかった魔法を使うのだろう。
 俺自身、誰かが魔法を使ったところを見るのは初めてだし、何をしようとしているかも予想できないから言われた通りにするしかない。

「ばのいfhそpふぃはふぁdんだ!!」

「ちっ、これはちょっと厳しそうだな……」

「大丈夫ですか、進さん」

「たぶんだけどな。幸太、今!」

「はい!!」

 幸の姿を見た鬼が何か叫びながら向かおうとしたのを見て俺は急いで引き留めるために無理やり斬りかかる。
 相変わらずの様子の鬼にイラつきを覚えながらも幸太に指示を出して何とか幸に向かっていかないようにする。
 避けては斬ってを繰り返している内に何となくだが鬼の行動パターンみたいな物が分かってきたような気がしてきたのは上から叩き潰すように振るわれた拳を避けた時ぐらいからだった。
 最初は勘違いかもしれないと思ったが、どうやら幸に傷つけられた後にその恨みを晴らそうとするのを俺たちに邪魔されることで怒りから動きが単調になっていったのだろう。
 ただ、動きが予想できるからって言ってもこっちの攻撃が効かなきゃ意味が無いし、避けれているとはいえ、時よりその攻撃で飛んでくる破片が当たって怪我もしている。
 これはうまく幸太と協力しないと拙くなりそうだな。まだ、痛みに耐えて動ける程度だけどこれが続くとなると厳しいし。

「悪い、ちょっと下がる!」

「分かりました!!」

 うまく注意が幸太に向いたタイミングで俺は一気に鬼から距離を取る。
 どうやら言葉までは理解していないようだったが、急に俺が離れた事を疑問に思ったようで俺を見ようとして幸太に斬られているのが見えた。

「よし、これで行ける。……で、幸はもうちょい掛かりそうかな?」

 ポーションを使って回復するついでに幸の方を見てみるが、どうやらまだまだ時間が必要そうだった。
 


 私は焦っていた。
 進たちにはああ言ったものの、初めて挑戦するオリジナル魔法の構築と発動に苦戦していた。
 もともと魔法は習得した時にいくつかの詠唱を覚える事が出来る。また、それ以外にも運が良ければレベルが上がった時にふと思い出したかのように新しい呪文を知れるらしい。実際、私も習得した時に二つ、それ以降に一つだけ覚える事が出来た。
 それに対して私が今回試そうとしているオリジナル魔法はそういった風に覚えるのじゃなくて自分自身で魔法を構築するという世界でも成功した人が限られている事だ。
 私自身、今まではそんな事を試そうと思った事は一度も無かった。いや、試さなくてもパーティーを組んでいた仲間たちと協力すればどうにでもなっていたから考えた事すらなかった。
 だからこそ、今回みたいな事が起こるなんて考えた事も無く、今はどうにかしようと焦っている訳だ。

「早く、しないと……」

 鬼と戦ってくれている進と幸太の姿を見ながらも私は以前聞いた魔法の構築方法だろうと考えられている物を試していく。
 重要なのはしっかりとイメージする事。
 体内やダンジョン内に有るマナをまず何処か一か所に集めるようにして、それをマナの塊に変化させる。そして、それを実際に発動させたい形をイメージしながら出したい場所から出す…、これでうまく行った場合はそれに相応しい詠唱が思い浮かぶらしい。

「また、うまく行かない。何がダメなの?」

 今回もあと少しという所でマナが散ってしまった。これで3回目……、これが練習ならなんの問題も無いけど今はそうじゃない。早く、早く成功させないと……。
 もう一度最初からやり直す。集めるイメージを固め、次に発動させたい形へと。
 何度も続く作業のようなものに次第と私が作りたい魔法の形があいまいになっていくのを感じながらどうにか形にしようと続ける。
 近距離で剣に纏わせるように……、違うやっぱり何か槍状のような物を飛ばすような感じの方が良いかしら。

「違う、そんな事を悩んでいる場合でも無い」

「幸! まだ無理か!?」

「ごめん、もうちょっと待って!!」

 進から声を掛けられた事も原因なのかまた失敗してしまう。
 怒鳴る様に言いながらも心を落ち着かせるために大きく深呼吸を一つ……。よし、今度こそ成功させれる。
 チラっと進たちの方を確認しながらもう一度最初からやり直す。
 あまり大きな傷を負った気配の無い鬼の姿に遠距離からの魔法は除外しても良さそうだった。
 なら、考える事は一つ。私の剣に出来る限りのマナを集めて纏わり付かせて威力を上げればいい。
 イメージするんだ。集めたマナを剣の周りに移動させて覆うようにした姿を。
 マナの量は多く、剣が一回りでも二回りでも、いや、それ以上大きく見えるような姿に……。
 
「出来た!!」

 いつの間にか閉じていた目を開いて見えた光景は私がずっと待ち望んでいたものだった。そして、それに合わせるように頭の中に流れ込んでくるソレの情報に私は喜びを隠せなかった。
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