悪役令嬢だって幸せになりたいっ!

小月

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プロローグ

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「……ねぇ、何処に行くの?」

 白い世界を歩いていた。

 薄ぼんやりとした空間で、周りには何もない。
 建物も、人も、彩る景色なんかもなくて。

 音もなく静かな世界で、気付いたら誰かに話しかけていた。

 ……うん? 話しかける??

 目をパチパチと瞬かせる。

 あ、人はひとりいたわ。
 私、誰かの手をつかんでる。

 なんだか急に意識がハッキリしてきた。

 繋いだ手にやった視線をちょっと上に動かしたら、くすんだ空色の髪が目に入る。
 背が低くて、私の腰辺りの背丈の幼児がそこにいた。
 前を歩いていてこっちに背中を向けているから顔は見えないけど、髪の長さと声の感じから女の子だろうなと思う。

「ねぇ、何処に行くの?」

 歩きながら、先ほどと同じ問いを口にした。
 見渡す限り、後にも先にも何にもない。

 再度問いかけても、返事もしないし振り返りもしない。
 もしかしたら耳が聞こえてないのかな?

 とりあえず状況を把握してみることにする。
 いつから声をかけてたんだっけ?と考えたところで、ふと疑問が湧き上がった。

(……さっきから 、誰に話しかけてるんだろ私?)

 よくよく見れば、無言の少女の周りには黒い靄がかかっている。
 え、待って待って、お化けとかじゃないよね??

 うすら寒い空気を自覚した途端、いいようのない恐怖が込みあげてきた。

 どうやってきたかもわからない知らない場所。
 掴んでいる手は、ひんやりとして生きている体温を感じさせない。
 いつから居て、なんで少女に話しかけていたのかも思い出せない。

 混乱で頭をふるふると振り、「そうだ、これは夢だわ~」と結論付けた瞬間。
 夢ではないとばかりに、唐突に繋いでいた手がギュッと握り返された。

「……ひっ! ままま待って! これきっと夢だからっ!!」

 何を待ってもらうのやら、涙目で懇願すれば手はするりと離れる。
 ほっ……としたのもつかの間、

「ねぇ、」
「ぎゃあああぁぁぁぁ!!!」

 少女の声に、私の悲鳴が重なった。驚いた拍子に尻餅をつく。うう、痛い!

「あなた、」
「すみません、ごめんなさい! お願いだから殺さないで~!!」
「……は? あなた、まだいきているの?」
「…………はい?」

 困惑した声を出す少女の姿に、私は気の抜けた返事をしたのだった。
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