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秘めた想い (ベルside)
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私の主人が、まだ幼い子供をその腕に抱いて優しく私に笑いかけて来る。
クレマ様に抱かれてる子供…ムウジンリエは少し退屈そうだ。あの時、赤子だったムウジンリエは今や5歳。私とクレマ様が出会った…あの時のクレマ様と同じ歳にまで元気に育ってくれていた。
「ベル、午後の仕事はこれが最後だろ?」
「えぇ、予定はありませんね」
「じゃあ、これから家族で街に出かけようか…今日はお祭りがあるらしい。街ではきっと、美しい光景が広がってるはずだから」
クレマ様はあれから私とムウジンリエのことを家族と言い呼ぶようになった。確かにムウジンリエはクレマ様の子供として育てられてるから家族と呼ぶのは分かる。でも、どうしてかそこにクレマ様は私を入れてくる…。そして、私の事も含めて家族と言うようになった。
クレマ様には今も妻となる奥様が居ない。クレマ様は本当にこのまま結婚しないつもりだろうか。…私にはクレマ様の言う家族が、家族ごっこのようにしか見えなくて、何だか少し複雑だった。早く、家族ごっこにも…飽きてしまえばいいとさえ思っている。ムウジンリエだけを本当の家族として大切に扱えばいいのに。
(………二人だけなら、完璧な親子に見えるんですけどね)
それでも、そんな感情は一切表には出さず私はクレマ様に微笑む。
私は、今もこれからもクレマ様の言うような家族にはなれない。今のクレマ様は私を兄のように見ているのかもしれない。今のクレマ様の私を見る目は………過去と違って、そんな家族に対する愛が籠もったような純粋な瞳をいつだって私に向けてきた。
「いいですね…。今年は30年ぶりに神送りもやるそうですよ」
「神送りか。30年前なら僕はまだ生まれてないな……」
「私も幼い頃に一度、見ているはずなんですけど覚えてません…もう一度、今度は覚えておくために見に行きたいですね」
「……………お祭、食べ物ある?」
「「はは(ふふ)」」
クレマ様と私はムウジンリエの言葉についつい笑ってしまう。子供にとっては神送りより美味しいお菓子などの屋台に並ぶ食べ物のほうが魅力的に映るのだろう。私の幼い頃も、きっとそうだった。
そう話しながらクレマ様とムウジンリエ…3人で馬車に乗り街へ向かった。街に着くと、既に辺りは神送りの舞を見に来た人々で賑わっていた。
暗くなってきたというのに、辺りは祭の時に吊るされる灯りで明るい。
「神送りの舞が始まるまで、まだ時間がありそうだ。ムウジンリエ、父様たちと夜店を一緒に見て回ろうか。今日は何でも買ってあげるよ…それとも、自分でお買い物をしてみる?」
「まだムウジンリエ様には難しいんじゃないですか?」
「むう……僕、自分で買えるもん!!」
私の言葉にムウジンリエは一人で近くの屋台に駆け出し、あっという間にケースに入ったお菓子を買ってきた。
「はいッ!」
ムウジンリエは私の唇にお菓子を一つ押し付けてきた。…私は普通の食事が取れない。そのことに口を閉じどうしようかと困っていると、クレマ様がムウジンリエの持っていたお菓子をそのままムウジンリエの手から食べてしまった。
「あぁッ!!…なんで父様が食べちゃうの? 僕はベルに食べてほしかったのに!!」
「………美味しそうだったからだ」
その後も私にお菓子を食べさせようとするムウジンリエの手から、クレマ様はお菓子を追いかけるようにして食べてしまった。
「うぅ…無くなっちゃったッッッ」
「ほら、泣かなくてもまた買えばいいんですよ?…泣くなら、なんで私に食べさせようとしたんですか、ムウジンリエ様…?」
「うぅう」
「…ベル……いいよ、ほっといても。ムウジンリエのやることに意味はないからね」
そう言いつつもクレマ様は、その後ムウジンリエにお菓子を買い与えていた。
そんな事をしているうちに、いつの間にか神送りの舞が始まろうとしていた。
「早く早く!あそこ、人だかりが出来てる!!」
「ムウジンリエ様ッ、待ってください!」
私が焦りながらもムウジンリエを追い掛けてると、クレマ様がムウジンリエの名前を呼んだ。そのことに、漸くムウジンリエの足が止まる。
「…ムウジンリエ」
「むぅー…」
ムウジンリエはクレマ様の言うことはちゃんと聞いた。それなのに、何故か私の言う事は聞かない…。
(私が産んだ子なんですけどね。……なんで、こんなにも私の言葉を聞かない子に育ってしまったんでしょうか…)
あの時は、お腹を切られて気絶しそうな痛みの中でムウジンリエを出産した。
心のなかで愚痴りながらも、それでもクレマ様の子であるムウジンリエが愛おしくてしょうがないのだから…。結局、これからも私はムウジンリエに振り回され続ける。
それにしても、祭りに来る前はあんなにも神送りに興味なさそうにしておいて…子供とは何とも分からない。…クレマ様の時はどうだっただろうか。
(…………逆に、…クレマ様は聞き分けの良すぎる子供でしたね…。まるで大人を相手にしているような……だから、私も12歳だったクレマ様に食事風景を見せてしまったのかもしれない…)
結局、今も昔も良くない大人は私だった。
「__________…ほら、転ぶだろ?それに、ベルが困っている…。父様が一番嫌っていることが何だか知ってるだろ? ベルに謝りなさい」
「…はぁい。……………ベル、ごめんなさい」
「許します。…次からは私の言葉でも足を止めてくださいね?」
祭りの中心で神送りの舞が行われる。クレマ様が、私とムウジンリエを舞の見える場所に…一番手前に連れて行く。その時の後ろから見るクレマ様は、何だか本当に知らない大人の男性のような…魅力的な雰囲気を漂わせていた。
(…本当に、立派になってしまいましたね。…………クレマ様)
神送りの舞が一番近くで見える場所につくと、クレマ様は私達を前に引き寄せた。クレマ様の肩に抱かれながら私は舞では無くクレマ様をこっそり盗み見た。その時、クレマ様と目が合う。そんなことも何だかむず痒くて…私はクレマ様から目を反らした。
ムウジンリエは私達のことなんてお構い無しに楽しそうにはしゃいで舞に目を走らせていた。
舞が終わる頃には、ムウジンリエは眠そうに船を漕ぎながらその場に立っていた。そんなムウジンリエをクレマ様が胸に抱っこする。ムウジンリエもクレマ様の肩に頭を置き、そのまま大人しく眠ってしまった。ムウジンリエが親指をしゃぶりながら幸せそうな顔をして眠っている。
「ふふ…疲れたんですね」
「そうだね。…あんなに走り回ってたから、こうなるのは分かっていたけど、落ち着きの無いこの子が跡継ぎになるのは少し不安かな」
「そうですか?」
「…………でも、子供のうちは許してやってもいいかな。…僕もベルにそうやって甘やかされて育ったからね。ベルを困らせる癖は直さなきゃだけど…」
「………そうですね、直るといいですね」
私は、ムウジンリエの名前にある意味を隠した。
それは、誰も知らない…クレマ様にだって伝えることのない私だけが知る秘密。
(いつか、この子が私やクレマ様のように愛を知ることがあったら…それまで私が生きていたら、ムウジンリエに名前の本当の意味を伝えたい。…私は、今も昔と変わらず愛する主人…クレマ様の隣で過ごすことが出来て幸せなのかもしれない)
そんなことを思っていると、クレマ様が眠ってしまったムウジンリエを大切そうに抱きかかえながら私に言ってきた。
「ベル、帰ったら二人だけで食事にしようか」
もちろん、そんなクレマ様の言葉に私はこう答える。
「________…食事なら喜んで」
クレマ様に抱かれてる子供…ムウジンリエは少し退屈そうだ。あの時、赤子だったムウジンリエは今や5歳。私とクレマ様が出会った…あの時のクレマ様と同じ歳にまで元気に育ってくれていた。
「ベル、午後の仕事はこれが最後だろ?」
「えぇ、予定はありませんね」
「じゃあ、これから家族で街に出かけようか…今日はお祭りがあるらしい。街ではきっと、美しい光景が広がってるはずだから」
クレマ様はあれから私とムウジンリエのことを家族と言い呼ぶようになった。確かにムウジンリエはクレマ様の子供として育てられてるから家族と呼ぶのは分かる。でも、どうしてかそこにクレマ様は私を入れてくる…。そして、私の事も含めて家族と言うようになった。
クレマ様には今も妻となる奥様が居ない。クレマ様は本当にこのまま結婚しないつもりだろうか。…私にはクレマ様の言う家族が、家族ごっこのようにしか見えなくて、何だか少し複雑だった。早く、家族ごっこにも…飽きてしまえばいいとさえ思っている。ムウジンリエだけを本当の家族として大切に扱えばいいのに。
(………二人だけなら、完璧な親子に見えるんですけどね)
それでも、そんな感情は一切表には出さず私はクレマ様に微笑む。
私は、今もこれからもクレマ様の言うような家族にはなれない。今のクレマ様は私を兄のように見ているのかもしれない。今のクレマ様の私を見る目は………過去と違って、そんな家族に対する愛が籠もったような純粋な瞳をいつだって私に向けてきた。
「いいですね…。今年は30年ぶりに神送りもやるそうですよ」
「神送りか。30年前なら僕はまだ生まれてないな……」
「私も幼い頃に一度、見ているはずなんですけど覚えてません…もう一度、今度は覚えておくために見に行きたいですね」
「……………お祭、食べ物ある?」
「「はは(ふふ)」」
クレマ様と私はムウジンリエの言葉についつい笑ってしまう。子供にとっては神送りより美味しいお菓子などの屋台に並ぶ食べ物のほうが魅力的に映るのだろう。私の幼い頃も、きっとそうだった。
そう話しながらクレマ様とムウジンリエ…3人で馬車に乗り街へ向かった。街に着くと、既に辺りは神送りの舞を見に来た人々で賑わっていた。
暗くなってきたというのに、辺りは祭の時に吊るされる灯りで明るい。
「神送りの舞が始まるまで、まだ時間がありそうだ。ムウジンリエ、父様たちと夜店を一緒に見て回ろうか。今日は何でも買ってあげるよ…それとも、自分でお買い物をしてみる?」
「まだムウジンリエ様には難しいんじゃないですか?」
「むう……僕、自分で買えるもん!!」
私の言葉にムウジンリエは一人で近くの屋台に駆け出し、あっという間にケースに入ったお菓子を買ってきた。
「はいッ!」
ムウジンリエは私の唇にお菓子を一つ押し付けてきた。…私は普通の食事が取れない。そのことに口を閉じどうしようかと困っていると、クレマ様がムウジンリエの持っていたお菓子をそのままムウジンリエの手から食べてしまった。
「あぁッ!!…なんで父様が食べちゃうの? 僕はベルに食べてほしかったのに!!」
「………美味しそうだったからだ」
その後も私にお菓子を食べさせようとするムウジンリエの手から、クレマ様はお菓子を追いかけるようにして食べてしまった。
「うぅ…無くなっちゃったッッッ」
「ほら、泣かなくてもまた買えばいいんですよ?…泣くなら、なんで私に食べさせようとしたんですか、ムウジンリエ様…?」
「うぅう」
「…ベル……いいよ、ほっといても。ムウジンリエのやることに意味はないからね」
そう言いつつもクレマ様は、その後ムウジンリエにお菓子を買い与えていた。
そんな事をしているうちに、いつの間にか神送りの舞が始まろうとしていた。
「早く早く!あそこ、人だかりが出来てる!!」
「ムウジンリエ様ッ、待ってください!」
私が焦りながらもムウジンリエを追い掛けてると、クレマ様がムウジンリエの名前を呼んだ。そのことに、漸くムウジンリエの足が止まる。
「…ムウジンリエ」
「むぅー…」
ムウジンリエはクレマ様の言うことはちゃんと聞いた。それなのに、何故か私の言う事は聞かない…。
(私が産んだ子なんですけどね。……なんで、こんなにも私の言葉を聞かない子に育ってしまったんでしょうか…)
あの時は、お腹を切られて気絶しそうな痛みの中でムウジンリエを出産した。
心のなかで愚痴りながらも、それでもクレマ様の子であるムウジンリエが愛おしくてしょうがないのだから…。結局、これからも私はムウジンリエに振り回され続ける。
それにしても、祭りに来る前はあんなにも神送りに興味なさそうにしておいて…子供とは何とも分からない。…クレマ様の時はどうだっただろうか。
(…………逆に、…クレマ様は聞き分けの良すぎる子供でしたね…。まるで大人を相手にしているような……だから、私も12歳だったクレマ様に食事風景を見せてしまったのかもしれない…)
結局、今も昔も良くない大人は私だった。
「__________…ほら、転ぶだろ?それに、ベルが困っている…。父様が一番嫌っていることが何だか知ってるだろ? ベルに謝りなさい」
「…はぁい。……………ベル、ごめんなさい」
「許します。…次からは私の言葉でも足を止めてくださいね?」
祭りの中心で神送りの舞が行われる。クレマ様が、私とムウジンリエを舞の見える場所に…一番手前に連れて行く。その時の後ろから見るクレマ様は、何だか本当に知らない大人の男性のような…魅力的な雰囲気を漂わせていた。
(…本当に、立派になってしまいましたね。…………クレマ様)
神送りの舞が一番近くで見える場所につくと、クレマ様は私達を前に引き寄せた。クレマ様の肩に抱かれながら私は舞では無くクレマ様をこっそり盗み見た。その時、クレマ様と目が合う。そんなことも何だかむず痒くて…私はクレマ様から目を反らした。
ムウジンリエは私達のことなんてお構い無しに楽しそうにはしゃいで舞に目を走らせていた。
舞が終わる頃には、ムウジンリエは眠そうに船を漕ぎながらその場に立っていた。そんなムウジンリエをクレマ様が胸に抱っこする。ムウジンリエもクレマ様の肩に頭を置き、そのまま大人しく眠ってしまった。ムウジンリエが親指をしゃぶりながら幸せそうな顔をして眠っている。
「ふふ…疲れたんですね」
「そうだね。…あんなに走り回ってたから、こうなるのは分かっていたけど、落ち着きの無いこの子が跡継ぎになるのは少し不安かな」
「そうですか?」
「…………でも、子供のうちは許してやってもいいかな。…僕もベルにそうやって甘やかされて育ったからね。ベルを困らせる癖は直さなきゃだけど…」
「………そうですね、直るといいですね」
私は、ムウジンリエの名前にある意味を隠した。
それは、誰も知らない…クレマ様にだって伝えることのない私だけが知る秘密。
(いつか、この子が私やクレマ様のように愛を知ることがあったら…それまで私が生きていたら、ムウジンリエに名前の本当の意味を伝えたい。…私は、今も昔と変わらず愛する主人…クレマ様の隣で過ごすことが出来て幸せなのかもしれない)
そんなことを思っていると、クレマ様が眠ってしまったムウジンリエを大切そうに抱きかかえながら私に言ってきた。
「ベル、帰ったら二人だけで食事にしようか」
もちろん、そんなクレマ様の言葉に私はこう答える。
「________…食事なら喜んで」
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