花の姫君と狂犬王女

化野 雫

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第18話 処刑場へ引き出された姫

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「大丈夫だよ、大尉。
 こいつはその銃以外、武器は持ってない」

 そんな静を半分呆れ顔で見ながらファリンは大尉に告げた後、小声で呟いた。

「まったく、殺すと宣言されてるのに、
 どんだけ度胸の据わってんだよ、このお姫様は……」
 
 しかし、そんなファリンの呟きにまったく気付いてないのか、あるいはまったく気にしてないのか、当の静は口に入れた棒付きキャンディーを美味しそうにコロコロと口の中で転がしていた。口から出ている棒がせわしくなくくるくると動いている。


「さて姫君、お二人には一緒に来てもらいましょうか?」

 静が投げてよこした小型拳銃以外武器を持っていないのを確認させた大尉がカタリナと静に声を掛けた。

「私たち以外の人間は用が済んだら解放するんだろうな」

 口の中で棒付き飴を転がしながら静が大尉をじろりと睨んで尋ねた。

「安心しな。俺たちだって無駄な殺生はしたくないさ。
 ただ、一般人の目の前で姫君を公開処刑するのは気が引けるので、
 お前の処刑を別の部屋で行うだけだ。
 そちらの姫君には姉君処刑の見届け人になってもらう」

 大尉はにやりと笑ってそう答えた。姉、つまり静を殺すと改めて宣言されカタリナの表情がこわばった。

「それと御父上には処刑の一部始終、
 そしてもう一人の可愛い姫君が壊れて行く様を
 克明に記録した物をお送りする予定でいますがね」

 さらに、この先、自分に加えられるあろう虐待を想像してカタリナが体の震えを止められなくなった。

「なあ、もう一度言うが、そいつも解放してやってはくれまいか?
 その代わり私が、お前たちがそいつにやろうとしている事全てを受け入れる。
 もちろん、やるだけの事をしつくしたら、なぶり殺しにすれば良い」

 静は今一度、真面目な顔になって大尉にカタリナの開放を願った。

「残念だがそれは出来ん」

 しかし大尉は冷徹にそう言うとパーティー会場の出口に向かって歩き出した。静は黙ってその後に従った。カタリナは足がすくんで転びそうになりながらも、両脇をファリンとグァンミンにしっかり支えられながら静の後を歩き出した。


 大尉がカタリナと静を連れて来たのは、パーティー会場の横にある小さなホールだった。

 そこにはすでに三脚に固定された本格的なビデオカメラが三台セットされていた。

「さぁ、姫君達。
 ここが静姫君の処刑場です。
 あのカメラで姫君が処刑される模様を余すところなく記録し、
 御父上であるラマナス国王にお届けする予定です」

 大尉は静とカタリナを振り返って、わざらしい笑顔と大仰な仕草でしかも丁寧な口調で言った。それはまるで何かのショーの始まりを宣言し観客を盛り上げる司会者の様であった。

「個人的には『死なずの姫アンデッドプリンセス』が惨めにも、
 小便をちびり泣き叫びながら命乞いをする様を見てみたいものだ。
 そして、血と小便と涙に塗れたみっともない死にざまを克明に記録してやる」

 おどけて見せた後、大尉は急に残忍な表情を浮かべてそう低い声で続けた。その瞬間、カタリナは殺されるのが自分ではないと分かっていても恐怖でびくりとその身を震わせた。大尉のその言葉と表情から、姉である静を楽には死なせない意思を嫌でも強く感じたからだ。なぶり殺し、そんな言葉と想像したくもない残忍な光景が頭に浮かんだ。

「そうか、私にとって最後の食事がこのキャンディーになるとは。
 こんな事なら酒ばっか飲んでいなくて、
 このホテル自慢の美味い料理をもっと食べておけば良かったな」

 ところが死刑宣言された当の静の方はまったく動揺する事無く、今まで通りひょうひょうとした表情でそうおどけて見せた。

「まったくこいつはどこまで根性が座ってるんだか……」

「ふん、そんな強がりも今だけさ」

 そんな静を見て呆れ顔でファリンが言うと、グァンミンはそう言って下卑た笑いを浮かべた。

「まったく、こいつみたいなのが部下に居れば俺も、
 かなり楽が出来たんだろうがな」

 一方、大尉は誰にも小さな声でそう独り言を口にした。

「このキャンディーが美味かったから良いか。
 せめてこのキャンディーを食べ終わるまで待て。
 口に棒付きキャンディー咥えたままの女を嬲り殺すのでは、
 あまりに絵柄がシュール過ぎるんじゃないか?」

「こっちは時間がないんだ。
 悠長にそんな事を待ってる時間はない」

 静が口から出ているキャンディーの棒を手にしてそう言うと、大尉は顔をしかめてそう答えた。

「まったく、女の最後の願いくらい聞く余裕が持てないとは」

 静は呆れ顔でそう言うと、ガリリと音を立てて残っていた飴玉を歯で砕いた。そして残った棒を手に取って床に投げ捨てた。


「もう良いぞ、さっさと始めろ。
 あっ……そっちの姫君には刺激が強すぎるから、
 出来れば後ろを向かせてやってくれ」

 静はこの期に及んでも全く動じず、いつもの調子でそう言い放った。

「馬鹿言うな。
 姉が嬲り殺しにされる様を見て、
 このお姫様がどんな反応を示すかがこのショーのお楽しみの一つじゃないか」

「まあ、あんたはそんな妹の姿を見てる余裕はないだろうけどな」

 しかしファリンとグァンミンはそう言って笑った。

「そうか……。
 カタリナ、今までお前たち母娘おやこを罵り続けて悪かったな。
 それも今日で終わりだ。どうか許してくれ」

 静は一瞬諦めた様な表情を浮かべた後、カタリナを見て今までカタリナが見た事もない程柔らかな笑みを浮かべてそう告げた。

「姉さん……」

 今まで散々憎んで来た姉とは言え、カタリナには目の前でその姉が嬲り殺しにされ様としているのはやはり耐えきれなかった。

「お願い、止めて!
 姉さんを助けて!」

 三台のビデオカメラが取り囲むちょうど中心に歩み出た静をみてカタリナが思わず叫んだ。

「諦めな、姫さん。
 他人の事を心配するより自分の事を心配しなよ。
 この先、お前が経験する事になる生き地獄に比べたら、
 こいつの方が遥かに楽かもしれないよ」

 そんなカタリナにファリンがにやりと笑って言った。

「まあ、それも最初だけですぐに自分が誰だったかも分からなくなってるさ」 

 グァンミンが好色そうな笑いをその口元に張り付けながら続けた。

「さあ、姫君。
 その場に跪いて両手を頭の上に乗せてもらいましょうか」

 大尉が静にそう告げると、静はその言葉に従った。
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