年下上司の溺愛は甘すぎる

春野カノン

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重なる問題2

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「私、好きな人がいるの。もうあなたとどうにかなるつもりはない」

「⋯好きなやつってここのオーナーのことかよ?」


以前一度だけ夏樹の姿を見たことはあるが、それがここのオーナーと一致することはありえない。
だとしたら美玲から話を聞いていた可能性が高かった。


「前、引っ越す時にいた男だろ」

「⋯そうだよ」

「あんなチャラそうなやつのどこがいいんだよ」

「光輝よりもずっと私の気持ちに敏感で寄り添ってくれて、優しい人だよ。だからそんなふうに言わないで」

「⋯俺、知ってるんだからな。お前が、その男と一緒に住んでること。美玲ちゃんが言ってた、家まで調べてたぞ」


まるでストーカーのように私の周りを調べあげている妹に恐怖を覚える。
その情報を光輝自身も知っていてその情報からここにやって来たんだ。


「付き合ってるわけじゃないんだろ?」

「⋯⋯」

「お前がそんな女だとは思わなかったよ」


光輝の言葉に何も言い返せなかった。
そう言われても仕方ないことをしている自覚はあるし。


だけど悔しかった。
そんなことを光輝に言われたくなかったけど、何も言い返せない。


「あのー俺の会社の前でそんな辛気臭い顔するのやめてもらえるかな」

「え、夏樹⋯⋯?!」


午後からの出社予定だったはずの夏樹がこちらに向かって歩いてきた。
首元までしっかり温かいタートルネックの黒いセーターにロングコートをはおっている。


夏樹の姿を見た私はとても安心してしまった。
それだけでやっぱりこの人が好きなんだと実感させられる。


「瀬奈さん何してるの?」

「いや、その⋯⋯」

「瀬奈さんになんの用です?」


私の隣まで歩いてきた夏樹は私の冷えた身体を自分の方にギュッと抱き寄せる。
それだけなのに心がじんわりと温かくなっていくのが分かった。


「お前、瀬奈のなんなんだよ」

「それをあなたに言う必要あります?関係ないですよね」


夏樹がそばにいてくれるだけですごく安心する。
もうきっと大丈夫だと思わせてくれた。


「見苦しいですよ、別れたあともこんなふうに会いに来るなんて」

「瀬奈と付き合ってもないのにそんなことお前に言われたくない」

「それなら大丈夫ですよ。これから付き合う予定なんで」

「はあ?何ふざけたことを⋯」

「ふざけてるのはそっちでしょ。瀬奈さんがあんたの顔見るたびに辛くなってるのが分からないの?ずっと付き合ってたのに、なんでそんなことも分かってあげないの?」


あぁほんとにこの人はなんで私の欲しい言葉をこんな風にくれるんだろ。
どうしてこんな風に私の気持ちを分かってくれるんだろう。


「瀬奈さんを苦しめないであげてください。もう前に進ませてあげてください」

「⋯⋯っ」

「次、瀬奈さんの前に現れたら許さないから」


私に触れる力が強まり、言葉にしなくてもその決意が私にまで伝わってきた。
それに応えるように私も夏樹のコートをギュッと握りしめる。


「瀬奈。俺は簡単には諦めないから」


そう吐き捨てるように光輝は私たちの前から足早に去っていった。
私が付き合っていた頃の光輝とは全くの別人のようだ。


顔つきもキリッと鋭かったように思えるし、私に対する執着がすごく怖い。
光輝が去った後、夏樹は私を安心させるようにしばらく抱きしめたまま私を離さなかった。


「また現れそうだね、元婚約者」

「かもしれない⋯」

「まじで気をつけないと、なんかやばそうな雰囲気だったな」

「ありがとう夏樹。いつも肝心な時に来てくれて」

「まあね。瀬奈さん本当はゆっくり話したいんだけど、一回ここ寄ったらまた行く場所があって、仕事戻れそう?」

「うん。それはちゃんとやるから大丈夫」

「帰ったらちゃんと話そう」


夏樹はもう一度私の頭をポンっと撫でると頬に触れるだけのキスを落とし、会社内で必要な書類を準備しすぐに出ていく。
戻った私を心配そうにみんな迎えてくれたけど、誰一人真相を聞こうとしてくる人はいなかった。


私は気持ちを切り替えて夕方の予約のお客様の対応に向けて準備を始める。
仕事に集中しつつも、心の片隅には先程の出来事がしこりとなって引っかかっていた。


夏樹の言っていた言葉も気になるし、光輝の諦めなさそうな後味の悪い去り方にも引っかかる。
もやもやを抱えたまま私はその日仕事を終え、定時に帰宅した。


足早に帰路につく。
夏樹は午後から出社したがもう一度外出し、そのまま直帰するとのことでもう既に家にいるかもしれない。


彼の待つ家に一刻も早く帰りたいと願う私の足取りは普段より軽かった。
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