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スプリンティア
スプリンティア6
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パーティーを雇って二日目。そして、最終日。
俺達はケイドスの洞窟、地下三階にいた。
今日のお目当ては、雷イタチ。スプリンティアに出す、ファーラビットの肉は昨日で確保出来たし、今日一日、雷イタチ狩りだ。
昨日の晩、飲んで親睦を深め、お互いの事が少し分かったからなのだろうか?連携が少しとれるようになっていた。
モンスターの特性上、本来、盾役になるであろう、重戦士のキールが大盾を置き、剣だけで戦っている事以外は異常なし。ファーラビットの時は、大盾で突進攻撃をガードし、その後、首をはねる。簡単なお仕事をしていたが。雷イタチに盾役は必要ない。いや、盾は危ない。雷イタチの雷攻撃は一発打てば隙が大きくなるものの、その威力は高い。盾役としての仕事をすれば、それをまともに食らってしまうリスクが多いからだ。一発だけならまだしも、複数体出て来るダンジョン。複数の的になる可能性が高い。それならば、盾を置いて身軽に戦った方がいい。盾で攻撃するという事も出来るらしいのだが、こっちの方が効率も良さそうだし。後は、サマンサさんが回復に集中し、アリシアがサマンサさんの補助と雷イタチの雷攻撃の警告をおこなった。その他は狩る事に専念する。
まあ、雷イタチクラス、雷攻撃以外は苦戦する事はなかった。更に遠距離攻撃が出来る魔法は更に簡単なようだ。現に魔術師のレニンはサクサク倒している。
順調に狩りを進め、この階、最大のルームに入り、モンスターを全滅させた頃、事件は起こった。
「よし。このルームのモンスターも一段落したようだな。食材、ドロップアイテムなんかを回収しよう。それが終わったら、状況を見て少し休憩だ。」
俺はパーティーメンバーにそう声を掛けた。
しかし、その瞬間、突然、数個の魔石が光を放ち始め、地鳴りが聞こえる。そして、空間が歪み始める。
こ……これは、まさか!この前、遭遇したイレギュラー?!
辺りはまた、薄暗くなる。
やばい!!まさにイレギュラーじゃないか!!
「みんな、離れろ!!出来れば、脱出だ!!」
俺はパーティーにそう声を掛ける。
しかし、今回は薄暗くなる程度ではなかった。真っ暗だ。魔原石の灯りも見えやしない。退路が分からない。
「なに?!なにが起こってる!?」
「分からぬ。我も……このような現象、はじめてだ。」
「チッ!退路はどっちだよ!?」
「アナタ!怖いわ……それに、さっきから震えが止まらないの……。」
「大丈夫。大丈夫だから、サマンサ!僕から離れないで。ヤマトさん!これは……何なんですか!?」
今まで、イレギュラーに遭遇した事が無いのだろう。パーティーは混乱に陥る。
「……イレギュラー。」
そして、アリシアも前回と同じように唇を震わせ、身動きが取れないでいた。よほどのトラウマがあるのだろう。今は、普通のモンスターの時、怯えることは無くなっているのに……。
行き場を無くした俺達は、ただ呆然と暗闇が晴れるのを待つしかなかった。時間にしてはたいした時間ではなかっただろうが、やはり前回と同じように絶望感が支配し、とてつもなく長く感じた。
そして、暗闇はゆっくりと晴れていく。
真っ黒な瞳。その目には白眼はない。この前のイレギュラーと同じ、三メートルくらいはあるだろう、巨大で筋肉の隆起した見るからに強靭そうな体躯。頭は黒毛の馬、体は褐色の人型。手には巨大な金棒が握られている。
「……メズ?」
俺の口からは、そんな言葉が零れ落ちる。
「メズ?とは??あれは、ホースマンではないのですか??」
「メズは……俺の元居た世界の……地獄の鬼だ。もちろん、空想上の生き物だけれど……。」
クエンカさんの質問に俺は驚きを隠せないまま答えた。ホースマンってモンスターも居るのか……。食える所はあるのだろうか?
いやいや。そんな事を考えている場合ではない。まさか、こんなモンスターまで居るのか……。本やゲームなんかによく出てくるけど……。
本物の鬼も、もしかしたらこの世界には居るのか?……いや、イーシャさん達には角がはえていた。魔王様が作ったホムンクルスだと言うけれど……あれがもしかして、鬼の起源か?いやいや、イーシャさん達はとても可愛い。あっ、いや、でも……確かに人間離れして強いし……。
「ヒヒーーーーン!!!!」
俺がまた余計な事を考えていると、メズは開戦の狼煙を上げ、襲い掛かってきた。
突進して来るスピードは馬のように速くはない。しかし、その鍛え抜かれた体から放つ一撃は、重く、的確に俺達をとらえようとする。
それを避けるたび、金属が地面に当たる鈍い音と、地面が砕け、小石と砂埃が舞う。
しかし、この程度のスピードと威力ならば、どうにかなりそうだ。正直、ミノタウロスの攻撃の方が威力が高そうにみえる。なんせ、地面に石斧が刺さるんだからな。これなら……。
「キール。お前から見て、あの攻撃は大盾で防げそうか?」
俺はキールに駆け寄り、確認する。
「あの攻撃を……か。見立てでは……防げる。思った以上の攻撃力は無さそうだし。』
どうやら、キールは俺と同じ意見のようだ。
「よし。すまんが、キール。キールは自分にエンチャント魔法をかけて、しばらく大盾でメズの攻撃の的になってくれ。その間に各自、エンチャント魔法で各自最大強化を。そして、その後、メズの攻撃に気をつけながら攻撃してくれ。レニンは自分の最大魔法を詠唱。何時でも撃てるようにしておいて。アリシアは俺にエンチャント魔法をかけた後、弱い魔法でいい。短時間で放てる魔法でメズを牽制してキールを助けてやってくれ。って、アリシア?」
俺の言葉にアリシアだけが反応しない。相変わらず、メズを見て震えていた。このままじゃ……。
「おい!アリシア!!」
俺はアリシアに近付き、アリシアの両頬を軽く叩いた。
「……あっ……。ヤマト君……。」
良かった。まだ震えているが、話は聞ける状態になった。
「いいか、アリシア。アリシアは、俺にエンチャント魔法を掛けて、キールの援護をしてやってくれ。」
「……え?でも……。相手はイレギュラー……だよ?私達じゃ、勝てっこないよ?」
アリシアは戦う前から、降参している。
「勝てないかもしれない。でも、何もやらないと直ぐにやられるぞ。イリア達も居ないんだ。助けは期待出来ない。俺達で何とかしないと全滅する。お前が怖いのは分かってる。」
「……でも。」
アリシアは相変わらずの反応だ。
「あの日から……イレギュラーに遭遇してから1カ月、お前は頑張って来たんだろ?怖いのに。頑張って来たんだろ?今が、その成果を発揮する時だ。大丈夫。アリシア。お前なら出来る。俺はお前を信じてる。」
もっと気のきいた言葉が言えればいいのだけれど……俺にはこんなもんだ。
「……私にも出来るかな?」
良かった。通じた。
「ああ。アリシアなら出来る!」
「……うん!分かった。私も逃げずにやってみる!」
よし!これで!!
「アリシア、任せたぞ。サマンサさんは、回復を。キール!クエンカさん達の攻撃で隙が出来たら、直ぐにサマンサさんに治療してもらってくれ。」
俺は不慣れな集団戦闘の指揮を飛ばす。正直、これでいいのか?と疑問は残るが、考えている余裕も正直ない。
それに、エンチャント魔法を唱えるのにも時間はかかる。イリアみたいに無詠唱……意志を込めて魔法名を言えば発動するわけではない。アリシアはかなり短時間で魔法を詠唱出来るが……。それにそれだけじゃない、回復魔法などは相手に触れていないと回復出来ないし、エンチャント魔法は触れていなくて良いが、術者の近くにいないと付与出来ない。効果時間は案外、長いというメリットはあるのだけれど、ゲームのように遠くの相手には使えないのだ。
「本当に大丈夫なのか?ヤマトさん??」
動揺していたアリシアを見て、キールは少し怖じ気づいたのか、俺にたずねる。
「ああ。大丈夫だ。アミッドの洞窟の主。ミノタウロスよりも速さも攻撃力もない。あれなら、大盾で防げる。」
「……分かった。アンタを信じるぜ!」
キールはそう言い、ブツブツと呪文を詠唱し始めた。
よし。キールが詠唱し終えるまでの時間は俺が稼がないとな。
「……『プロテクト』!」
アリシアにエンチャント魔法をかけてもらい、俺は、何時もの石ツブテと必中を駆使して、メズに向かった。
俺達はケイドスの洞窟、地下三階にいた。
今日のお目当ては、雷イタチ。スプリンティアに出す、ファーラビットの肉は昨日で確保出来たし、今日一日、雷イタチ狩りだ。
昨日の晩、飲んで親睦を深め、お互いの事が少し分かったからなのだろうか?連携が少しとれるようになっていた。
モンスターの特性上、本来、盾役になるであろう、重戦士のキールが大盾を置き、剣だけで戦っている事以外は異常なし。ファーラビットの時は、大盾で突進攻撃をガードし、その後、首をはねる。簡単なお仕事をしていたが。雷イタチに盾役は必要ない。いや、盾は危ない。雷イタチの雷攻撃は一発打てば隙が大きくなるものの、その威力は高い。盾役としての仕事をすれば、それをまともに食らってしまうリスクが多いからだ。一発だけならまだしも、複数体出て来るダンジョン。複数の的になる可能性が高い。それならば、盾を置いて身軽に戦った方がいい。盾で攻撃するという事も出来るらしいのだが、こっちの方が効率も良さそうだし。後は、サマンサさんが回復に集中し、アリシアがサマンサさんの補助と雷イタチの雷攻撃の警告をおこなった。その他は狩る事に専念する。
まあ、雷イタチクラス、雷攻撃以外は苦戦する事はなかった。更に遠距離攻撃が出来る魔法は更に簡単なようだ。現に魔術師のレニンはサクサク倒している。
順調に狩りを進め、この階、最大のルームに入り、モンスターを全滅させた頃、事件は起こった。
「よし。このルームのモンスターも一段落したようだな。食材、ドロップアイテムなんかを回収しよう。それが終わったら、状況を見て少し休憩だ。」
俺はパーティーメンバーにそう声を掛けた。
しかし、その瞬間、突然、数個の魔石が光を放ち始め、地鳴りが聞こえる。そして、空間が歪み始める。
こ……これは、まさか!この前、遭遇したイレギュラー?!
辺りはまた、薄暗くなる。
やばい!!まさにイレギュラーじゃないか!!
「みんな、離れろ!!出来れば、脱出だ!!」
俺はパーティーにそう声を掛ける。
しかし、今回は薄暗くなる程度ではなかった。真っ暗だ。魔原石の灯りも見えやしない。退路が分からない。
「なに?!なにが起こってる!?」
「分からぬ。我も……このような現象、はじめてだ。」
「チッ!退路はどっちだよ!?」
「アナタ!怖いわ……それに、さっきから震えが止まらないの……。」
「大丈夫。大丈夫だから、サマンサ!僕から離れないで。ヤマトさん!これは……何なんですか!?」
今まで、イレギュラーに遭遇した事が無いのだろう。パーティーは混乱に陥る。
「……イレギュラー。」
そして、アリシアも前回と同じように唇を震わせ、身動きが取れないでいた。よほどのトラウマがあるのだろう。今は、普通のモンスターの時、怯えることは無くなっているのに……。
行き場を無くした俺達は、ただ呆然と暗闇が晴れるのを待つしかなかった。時間にしてはたいした時間ではなかっただろうが、やはり前回と同じように絶望感が支配し、とてつもなく長く感じた。
そして、暗闇はゆっくりと晴れていく。
真っ黒な瞳。その目には白眼はない。この前のイレギュラーと同じ、三メートルくらいはあるだろう、巨大で筋肉の隆起した見るからに強靭そうな体躯。頭は黒毛の馬、体は褐色の人型。手には巨大な金棒が握られている。
「……メズ?」
俺の口からは、そんな言葉が零れ落ちる。
「メズ?とは??あれは、ホースマンではないのですか??」
「メズは……俺の元居た世界の……地獄の鬼だ。もちろん、空想上の生き物だけれど……。」
クエンカさんの質問に俺は驚きを隠せないまま答えた。ホースマンってモンスターも居るのか……。食える所はあるのだろうか?
いやいや。そんな事を考えている場合ではない。まさか、こんなモンスターまで居るのか……。本やゲームなんかによく出てくるけど……。
本物の鬼も、もしかしたらこの世界には居るのか?……いや、イーシャさん達には角がはえていた。魔王様が作ったホムンクルスだと言うけれど……あれがもしかして、鬼の起源か?いやいや、イーシャさん達はとても可愛い。あっ、いや、でも……確かに人間離れして強いし……。
「ヒヒーーーーン!!!!」
俺がまた余計な事を考えていると、メズは開戦の狼煙を上げ、襲い掛かってきた。
突進して来るスピードは馬のように速くはない。しかし、その鍛え抜かれた体から放つ一撃は、重く、的確に俺達をとらえようとする。
それを避けるたび、金属が地面に当たる鈍い音と、地面が砕け、小石と砂埃が舞う。
しかし、この程度のスピードと威力ならば、どうにかなりそうだ。正直、ミノタウロスの攻撃の方が威力が高そうにみえる。なんせ、地面に石斧が刺さるんだからな。これなら……。
「キール。お前から見て、あの攻撃は大盾で防げそうか?」
俺はキールに駆け寄り、確認する。
「あの攻撃を……か。見立てでは……防げる。思った以上の攻撃力は無さそうだし。』
どうやら、キールは俺と同じ意見のようだ。
「よし。すまんが、キール。キールは自分にエンチャント魔法をかけて、しばらく大盾でメズの攻撃の的になってくれ。その間に各自、エンチャント魔法で各自最大強化を。そして、その後、メズの攻撃に気をつけながら攻撃してくれ。レニンは自分の最大魔法を詠唱。何時でも撃てるようにしておいて。アリシアは俺にエンチャント魔法をかけた後、弱い魔法でいい。短時間で放てる魔法でメズを牽制してキールを助けてやってくれ。って、アリシア?」
俺の言葉にアリシアだけが反応しない。相変わらず、メズを見て震えていた。このままじゃ……。
「おい!アリシア!!」
俺はアリシアに近付き、アリシアの両頬を軽く叩いた。
「……あっ……。ヤマト君……。」
良かった。まだ震えているが、話は聞ける状態になった。
「いいか、アリシア。アリシアは、俺にエンチャント魔法を掛けて、キールの援護をしてやってくれ。」
「……え?でも……。相手はイレギュラー……だよ?私達じゃ、勝てっこないよ?」
アリシアは戦う前から、降参している。
「勝てないかもしれない。でも、何もやらないと直ぐにやられるぞ。イリア達も居ないんだ。助けは期待出来ない。俺達で何とかしないと全滅する。お前が怖いのは分かってる。」
「……でも。」
アリシアは相変わらずの反応だ。
「あの日から……イレギュラーに遭遇してから1カ月、お前は頑張って来たんだろ?怖いのに。頑張って来たんだろ?今が、その成果を発揮する時だ。大丈夫。アリシア。お前なら出来る。俺はお前を信じてる。」
もっと気のきいた言葉が言えればいいのだけれど……俺にはこんなもんだ。
「……私にも出来るかな?」
良かった。通じた。
「ああ。アリシアなら出来る!」
「……うん!分かった。私も逃げずにやってみる!」
よし!これで!!
「アリシア、任せたぞ。サマンサさんは、回復を。キール!クエンカさん達の攻撃で隙が出来たら、直ぐにサマンサさんに治療してもらってくれ。」
俺は不慣れな集団戦闘の指揮を飛ばす。正直、これでいいのか?と疑問は残るが、考えている余裕も正直ない。
それに、エンチャント魔法を唱えるのにも時間はかかる。イリアみたいに無詠唱……意志を込めて魔法名を言えば発動するわけではない。アリシアはかなり短時間で魔法を詠唱出来るが……。それにそれだけじゃない、回復魔法などは相手に触れていないと回復出来ないし、エンチャント魔法は触れていなくて良いが、術者の近くにいないと付与出来ない。効果時間は案外、長いというメリットはあるのだけれど、ゲームのように遠くの相手には使えないのだ。
「本当に大丈夫なのか?ヤマトさん??」
動揺していたアリシアを見て、キールは少し怖じ気づいたのか、俺にたずねる。
「ああ。大丈夫だ。アミッドの洞窟の主。ミノタウロスよりも速さも攻撃力もない。あれなら、大盾で防げる。」
「……分かった。アンタを信じるぜ!」
キールはそう言い、ブツブツと呪文を詠唱し始めた。
よし。キールが詠唱し終えるまでの時間は俺が稼がないとな。
「……『プロテクト』!」
アリシアにエンチャント魔法をかけてもらい、俺は、何時もの石ツブテと必中を駆使して、メズに向かった。
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