公爵令嬢のRe.START

マルチ

文字の大きさ
上 下
3 / 29
第1章︙聖女降臨編

王妃様の選択

しおりを挟む


少し長いです。話を書くことが多くて……気に入ってもらえたら嬉しいです。
誤字脱字、あったら報告お願いしますm(_ _)m


------------------


「………私、なんでこんなに頑張ってきたんだろう」


長い廊下を俯く様に歩きながら、私はポツリと呟いた。
ライオル王子との婚約はもう終わりだろう。今の仲を続けていけば、いつか破綻することが目に見えているし、何より、ライオル王子が私との結婚を望んでいない今の状況では……

「…フフッ、王子に婚約破棄された私は一生結婚できないかもしれないわね。」


もし王族から婚約破棄されたら、その貴族は死ぬまで汚名が残ってしまう。
王族に婚約破棄された状況でも、王族と仲良くできるなんてケースの方が珍しいだろう。
勿論王族が頼りの貴族なんて私に近寄りもしないはず。
私は漠然と自分の未来が予想できて笑えてしまった。

「もう、本当に…………」


終わりにしようかな。



このままじゃ私もライオル王子も辛いだけだし、きっと今のうちに婚約破棄したほうがいいんだろう。
それでも、心の何処かでライオル王子のことが好きだという気持ちがあって、私は一歩を踏み出すことが出来なかった。

「…………フェリシア。お久しぶりね」

突然声をかけられた私が顔を上げると、アリア様が私の顔を心配そうに覗き込んでいた。
アリア様はこの国の王妃様で、私を五歳のときから面倒を見てくれた第二の母でもある頼もしい人。
聖女様の謁見した日から暫く会っていなかった私は、緊張して上手く声が出なかった。

私のことを大切に思っていても、ライオル王子の実の母親だ。血の繋がっていない私とは違って、正真正銘の親子である王妃様は、勿論私よりライオル王子の事が大切なはず。
それに、今の現状のこともすでに把握していることだろう。



……………この人だけには、会いたくなかった。


今まで大切に育ててくれた人に、私のこんな姿を見せたくなかった。

「ご機嫌よう。王妃様。」

私は目を合わせることが出来なくて、顔を俯けて挨拶をすると、王妃様から深いため息が聞こえた。
………………やっぱり。

もう覚悟していたことだけど、それでもショックを受けた私はどうしても顔を上げることが出来なかった。


「………フェリシア」


王妃様に呼ばれて、私は俯いたまま「……はい」と返事をすると、王妃様が私の方へ近づいてきた。


「………フェリシア。本当にごめんなさい。ライオルの事は聞いているわ。まさかライオルがあんな…………本当に、本当にごめんね。」


突然の謝罪に私は驚いて顔を上げると、目には頭を下げた王妃様が映っていた。

「王妃様!顔を上げて下さい!」


王妃様が一介の貴族である私に頭を下げているという事実に驚いて、私はあまりの驚きに頭が真っ白になった。
私は頭を上げさせようという一心であわてて声を掛けると、王妃様はやっと顔を上げた。




「………私が貴方達の事に気づいたのはすぐだったわ。聖女様の降臨はそれほどに有名な出来事だったから………でも、私は貴方達ならなんとか出来るだろうという勘違いをしていたの。
でも一応ライオルを呼んで何かが起こったのか聞こうとしたの…………まさか、ライオルが聖女様に懸想しているなんて。それで………さっき偶々貴方達がいるところを通り掛って、聞いてしまったの。本当にごめんなさい。」


王妃様が今までのことを話していくにつれ、私は、やっぱり、と思った。
王妃様にも分かるほど態度が出ているなんて。余程聖女様のことが好きなのね。

「もういいですよ。ライオル王子は結局、私より聖女様を選んだってことですから。」

私が寂しそうに笑いながら王妃様に言うと、王妃様は悲しそうな顔をしてから、決意した顔で私に映写の魔道具を手渡した。

「………これは……アイク様とライオルの話が記録されているわ。これを見たらきっと貴方には辛い選択を強いられる。」

「………なぜこれを私に?」


まるで見せたくないというような様子で手渡してきた映写の魔道具に、私は不思議に思ってそう問いかけた。

「………貴方が見るべきだと思ったから。本当に辛くて、どうしようもなくても………貴方には乗り越えて欲しい。そして………これが、貴方の幸せにつながっているような気がしたから。」


………………そうなのね。
何を記録してあるのか大体予想のついた私は、一思いに魔力を注入した。



『お前は………最近聖女様にばっか構っているらしいが、もうお前にはフェリシアという婚約者がいるんだぞ。このままではいけないことくらい分かっているな?』

『父上。俺は聖女様と結婚したいと思っています。元々フェリシアとは貴族との繋がりを強化するための政略結婚です。貴族と平民から絶大な支持を誇っている聖女様なら良いではないですか。』

『……………そうか。お前がその選択をするなら私は止めはしない。王として聖女と結婚したほうが良いと判断したからな。しかし………お前は本当に聖女様が好きなのか?』


『勿論です。…………それでは、フェリシアとの婚約破棄をしても良いということですか?』


『………あぁ。後悔するなよ。』




……………ハハハッ、やっぱりそういうことだったのね。
政略結婚って……………今まで私にしてくれたことは、結局婚約者だからだった。
…………私にしてくれたわけじゃなかった。


「っ………ふ……うぐっ…………」


耐えられなくて涙が溢れてきた私を、王妃様が無言で抱きしめてくれる。
暫く泣いて心の整理がついた私は、「………ありがとうございます。」とお礼を言って、王妃様に向き直った。

「…………それで、貴方はどうしたい?」

王妃様の静かな問いかけに、私はありのままの返事を返す。

「もう、いいです。……………もう、ここにいたくない。ずっと、ずっと遠い所へ……」

私がそう言うと、王妃様は私の手を取り、何かを握らせてくれた。


「っ……これは…」


「宝物庫の鍵。どうせ使うことなんてないんだから好きなのを持っていきなさい。今までありがとう。………もしもいつか戻ってきたときには、心から歓迎出来るようにするわ。」


ここまでしてくれる王妃様に、私はライオル王子から貰った婚約指輪を外し、王妃様に渡した。

「これで私と魔力通話をすることができます。…………いつか………王妃様が私を必要としているとき、絶対に駆けつけますので……本当に、今までありがとうございました。」

王妃様への思いに胸がいっぱいになりながら返事をして、私は宝物庫の方へ向き直った。

「………いってらっしゃい。」


私は王妃様の贈り物を胸に駆け出した。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】虐げられた可哀想な女の子は王子様のキスに気付かない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,293pt お気に入り:484

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,211pt お気に入り:5,765

俺が不甲斐ないのは、彼氏がスパダリすぎるからだ!・1

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:72

次女を売ろうとする夫

恋愛 / 完結 24h.ポイント:312pt お気に入り:245

江路学園へようこそ!

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:257

処理中です...