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10. 地下水占い
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イクテュースもコネホも、時々相手のうつむく顔を見てはそこに自分と同じ感情を読み取り、しばらく何も話さずに木立の中の道を歩いた。
やがて、コネホが口を開いた。
「あの子も動物に生まれ変わってしまうの?」
「そうだ」
イクテュースが重い口調で答える。
「動物になっても、『約束の天体』でなら幸せに暮らせる?」
「たぶん」
そんなふうにしか言えないことの埋め合わせのように、イクテュースはコネホの肩を抱きよせた。
「前は家の方に取りこんだのに、今回の家は油断させるための道具だったんだ。だんだん手がこんできたな」
「こんなものを持っていながらなりそこない天使を守ってあげられなかった」
コネホが矢を握りしめて唇を咬む。
「おまえのせいじゃないよ。〈なりそこない天使〉を避けてロッキングポニーなんかに化けた『盗賊カモメ』を射るなんて、どんな弓の名手でも無理だ。奴らにも心があるなら、話してわからせるんだが」
「いつかみたいに、道に落っことして行ってくれてないかな」
「一度落とせば、二度目は用心する。行き先は貝殻化石の平原の『月明かりのコロシアム』と決まっているんだ。とにかく、急げるだけ急ごう」
イクテュースは胸の水球時計を見た。
イルカの針がジャンプしかかったような位置にきている。
「ちょっと危ないな。もう〈十三(いざよい)夜〉時]だ」
コネホは地面を見つめた。
「あの子の、逃げ水に映った姿は今頃、どこかな」
「もし、さらわれることがあの子の運命なら、逃げ水に映った像も最初からただの影だったのだろう」
コネホは口をとがらせた。
「運命って、誰が決めるの?」
「天空の主だ。全ての生命のうつりゆきが、天空の主の手の中にある。太古の昔から、弱い者たちにできることは祈ることと、占いでおうかがいをたてることだけだ」
コネホは背中の矢筒から矢を取り出し、地面に数字の『9』を書いた。
「ねえ。せめて、占おうよ。運命は変えられなくても、ある程度、知ることはできる」
コネホは、『9』の字の閉じた円の真ん中を矢じりでとん、と突いた。やがて『9』の字は左回りにぐるぐると回り始め、閉じた円の中へ線が巻き取られていったかと思うと、地面に丸い穴があいた。
厚みのある固い地面の下に空間があり、その下を地下水が流れている。
コネホは地面に膝をつき、尻を突き出すようにして穴をのぞきこんだ。
水にコネホの顔が映る。
その顔はまだ輪郭だけで、中には目も鼻も口もない。のっぺらぼうだ。
やがて、目と鼻と口がひとまとまりに流れてきて、輪郭の中にぴったり納まった。
それはコネホの、驚きの表情だった。
地上にいる現在のコネホは、そんな表情はしていない。
流れてきた表情がそのまま、これから起こることの占いの結果なのだ。
コネホは立ち上がり、イクテュースに向かって肩をすくめて見せた。
「なんだかすっごく驚くことが待ってるって」
「そうか。水流占いは必ず当たる。だけど、今日はこれまででももう、充分すぎるくらい驚いた。これ以上、何があるというんだろう」
地面に開いた穴はハケで刷いたように音もなくふさがった。
コネホがふいに弓に矢をつがえ、真上に向かって放った。
落ちてきたのは小型の火吹き竜だ。
イクテュースが受け止めた。矢を抜くと、その傷口はみるみるふさがった。
「コネホ。どんなに気が立っていても、伝書サラマンドラを矢で射るのはよくないよ」
イクテュースはそう言いながら、足カンをはずす。
「ふん。そんなヤツ」
伝書サラマンドラはこれを聞くと、イクテュースの腕から身をもぎ放して飛び上がり、文書の『読後焼却』用にとっておいた火をコネホに向かって噴いた。鼻先まで火が届き、コネホがあわてて顔をそむけた。
「熱い。何するんだ」
伝書サラマンドラはまた射られないよう、右に左にとすばしっこく飛びまわる。
「こいつ」
「少し静かにしててくれないか」
イクテュースは足カンの中から取りだした手紙を広げて読んだ。
「『[旅立つ子供]は塔に到着した。すぐに戻れ。イシュアクア』」
「それ、どういうこと?」
コネホが伝書サラマンドラを素手でつかまえようと追いかけまわしながら尋ねる。
「さっぱりわからない。あの『盗賊カモメ』が我々の手から奪った[旅立つ子供]をわざわざ『月のしずくの塔』まで運んだというのか」
コネホはようやく伝書サラマンドラをつかまえ、脇にかかえた。
「イシュアクアの間違いじゃない?」
「水の神子に間違いなどない」
イクテュースは、真剣な表情になった。
手紙を地面に落としたことにも気づいていないようだった。
「どうしてそう言い切れるの?救い主だから?イシュアクアが救い主なら、今頃宇宙空間にさまよい出た全ての魂が『約束の天体』へ行ってて、誰も後から来たりしないはずじゃないか。げんに…」
イクテュースの表情が険しくなったのを見て、コネホはそこで言葉を切った。
「時が…」
「何?」
「時が来ればそうなる」
イクテュースの目に暗い影が射したのを、コネホは見逃さなかった。
彼はイクテュースにすまないと思う気持ちから、わざと元気のいい声で聞いた。
「返事の手紙を入れる?」
イクテュースが返事をしないので、コネホは伝書サラマンドラを放し、手紙を丸めて放り投げた。
伝書サラマンドラは火を噴きかけようとしたが、さっき全部噴いてしまってもう残っていなかった。
通りかかった伝書飛行ヤギがそれを食べてしまうと、伝書サラマンドラは何事もなかったように勢いよく塔の方向へ飛んで行った。
イクテュースは今朝の月の異変に思いをはせていた。
それに、さっきの占い。今日はやはり、何か特別なことが起こらずにはすまないのだろうか。
やがて、コネホが口を開いた。
「あの子も動物に生まれ変わってしまうの?」
「そうだ」
イクテュースが重い口調で答える。
「動物になっても、『約束の天体』でなら幸せに暮らせる?」
「たぶん」
そんなふうにしか言えないことの埋め合わせのように、イクテュースはコネホの肩を抱きよせた。
「前は家の方に取りこんだのに、今回の家は油断させるための道具だったんだ。だんだん手がこんできたな」
「こんなものを持っていながらなりそこない天使を守ってあげられなかった」
コネホが矢を握りしめて唇を咬む。
「おまえのせいじゃないよ。〈なりそこない天使〉を避けてロッキングポニーなんかに化けた『盗賊カモメ』を射るなんて、どんな弓の名手でも無理だ。奴らにも心があるなら、話してわからせるんだが」
「いつかみたいに、道に落っことして行ってくれてないかな」
「一度落とせば、二度目は用心する。行き先は貝殻化石の平原の『月明かりのコロシアム』と決まっているんだ。とにかく、急げるだけ急ごう」
イクテュースは胸の水球時計を見た。
イルカの針がジャンプしかかったような位置にきている。
「ちょっと危ないな。もう〈十三(いざよい)夜〉時]だ」
コネホは地面を見つめた。
「あの子の、逃げ水に映った姿は今頃、どこかな」
「もし、さらわれることがあの子の運命なら、逃げ水に映った像も最初からただの影だったのだろう」
コネホは口をとがらせた。
「運命って、誰が決めるの?」
「天空の主だ。全ての生命のうつりゆきが、天空の主の手の中にある。太古の昔から、弱い者たちにできることは祈ることと、占いでおうかがいをたてることだけだ」
コネホは背中の矢筒から矢を取り出し、地面に数字の『9』を書いた。
「ねえ。せめて、占おうよ。運命は変えられなくても、ある程度、知ることはできる」
コネホは、『9』の字の閉じた円の真ん中を矢じりでとん、と突いた。やがて『9』の字は左回りにぐるぐると回り始め、閉じた円の中へ線が巻き取られていったかと思うと、地面に丸い穴があいた。
厚みのある固い地面の下に空間があり、その下を地下水が流れている。
コネホは地面に膝をつき、尻を突き出すようにして穴をのぞきこんだ。
水にコネホの顔が映る。
その顔はまだ輪郭だけで、中には目も鼻も口もない。のっぺらぼうだ。
やがて、目と鼻と口がひとまとまりに流れてきて、輪郭の中にぴったり納まった。
それはコネホの、驚きの表情だった。
地上にいる現在のコネホは、そんな表情はしていない。
流れてきた表情がそのまま、これから起こることの占いの結果なのだ。
コネホは立ち上がり、イクテュースに向かって肩をすくめて見せた。
「なんだかすっごく驚くことが待ってるって」
「そうか。水流占いは必ず当たる。だけど、今日はこれまででももう、充分すぎるくらい驚いた。これ以上、何があるというんだろう」
地面に開いた穴はハケで刷いたように音もなくふさがった。
コネホがふいに弓に矢をつがえ、真上に向かって放った。
落ちてきたのは小型の火吹き竜だ。
イクテュースが受け止めた。矢を抜くと、その傷口はみるみるふさがった。
「コネホ。どんなに気が立っていても、伝書サラマンドラを矢で射るのはよくないよ」
イクテュースはそう言いながら、足カンをはずす。
「ふん。そんなヤツ」
伝書サラマンドラはこれを聞くと、イクテュースの腕から身をもぎ放して飛び上がり、文書の『読後焼却』用にとっておいた火をコネホに向かって噴いた。鼻先まで火が届き、コネホがあわてて顔をそむけた。
「熱い。何するんだ」
伝書サラマンドラはまた射られないよう、右に左にとすばしっこく飛びまわる。
「こいつ」
「少し静かにしててくれないか」
イクテュースは足カンの中から取りだした手紙を広げて読んだ。
「『[旅立つ子供]は塔に到着した。すぐに戻れ。イシュアクア』」
「それ、どういうこと?」
コネホが伝書サラマンドラを素手でつかまえようと追いかけまわしながら尋ねる。
「さっぱりわからない。あの『盗賊カモメ』が我々の手から奪った[旅立つ子供]をわざわざ『月のしずくの塔』まで運んだというのか」
コネホはようやく伝書サラマンドラをつかまえ、脇にかかえた。
「イシュアクアの間違いじゃない?」
「水の神子に間違いなどない」
イクテュースは、真剣な表情になった。
手紙を地面に落としたことにも気づいていないようだった。
「どうしてそう言い切れるの?救い主だから?イシュアクアが救い主なら、今頃宇宙空間にさまよい出た全ての魂が『約束の天体』へ行ってて、誰も後から来たりしないはずじゃないか。げんに…」
イクテュースの表情が険しくなったのを見て、コネホはそこで言葉を切った。
「時が…」
「何?」
「時が来ればそうなる」
イクテュースの目に暗い影が射したのを、コネホは見逃さなかった。
彼はイクテュースにすまないと思う気持ちから、わざと元気のいい声で聞いた。
「返事の手紙を入れる?」
イクテュースが返事をしないので、コネホは伝書サラマンドラを放し、手紙を丸めて放り投げた。
伝書サラマンドラは火を噴きかけようとしたが、さっき全部噴いてしまってもう残っていなかった。
通りかかった伝書飛行ヤギがそれを食べてしまうと、伝書サラマンドラは何事もなかったように勢いよく塔の方向へ飛んで行った。
イクテュースは今朝の月の異変に思いをはせていた。
それに、さっきの占い。今日はやはり、何か特別なことが起こらずにはすまないのだろうか。
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