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第7章:違和感の芽
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三日目の実習。ナースステーション前の報告も、少しだけ慣れてきた。担当ナースに指示を仰ぎながら動くことにも、体は自然についていく。
昼休み。控え室では女子たちが円になって談笑していた。悠真も、その輪の中にいる。
「ねえ、早川くんってさ、肌きれいだよねー! スキンケアとか何使ってるの?」
由梨の軽やかな声に、思わず目を瞬かせる。
「え? あ、特に何も……洗顔フォームくらい?」
「えっ、それだけ? ずるい~! 男子ってそういうとこあるよねー。うちの弟もツルツルなのに何もしてないし」
笑いが弾け、他の子たちも軽くツッコミを入れてくる。その中に、混じっている自分。ピンクのチュニックに、スカート。座るときには膝をそろえ、声のトーンも少し柔らかく。
(なんか……この空気に、自然に入っていけてる……)
そう思った瞬間だった。
ペットボトルのキャップを開ける手元。その動作が、無意識に大きくて荒々しいことに気づいた。
ゴキッ、と音を立てて開けたキャップに、隣の由梨が一瞬ぴくりと反応したように見えた。
(あっ……)
気のせいかもしれない。でも、それだけで指先が妙に意識される。手首、指の節、爪の短さ──どれも“男の手”であることを突きつけてくる。
「ねえ、悠真くんってさ……もしもメイクしたら、かなり可愛いと思うんだけど」
別の女子がふと口にした言葉に、場がふわっと盛り上がった。
「絶対似合うよ! まつ毛も長いし」
「ナチュラル系のメイク試してみたら?」
「え、いや……僕、そんなの……」
手を振って否定するが、女子たちはそれすらも楽しげに受け止める。
「ほら~その断り方、もう半分女子じゃん!」
その言葉に、何とも言えない感覚が胸に広がった。照れくさい。でも、どこか居心地が良くて──なのに、ほんの少しだけ、いたたまれない。
(……僕、どこまで“女子”で、どこから“男子”なんだろう)
控え室の鏡越しに見えた自分は、表情だけ見れば、輪の中の女子たちとほとんど変わらなかった。でも、ふと椅子から立ち上がったとき、脚を一歩踏み出すと、わずかに太腿の筋肉の動きが、スカートの布を引っ張った。
その“差”が、鮮やかに浮き上がった気がして、悠真は思わず視線を落とした。
(僕だけが──違う)
笑顔の中に、静かに小さな孤独が灯った。
昼休み。控え室では女子たちが円になって談笑していた。悠真も、その輪の中にいる。
「ねえ、早川くんってさ、肌きれいだよねー! スキンケアとか何使ってるの?」
由梨の軽やかな声に、思わず目を瞬かせる。
「え? あ、特に何も……洗顔フォームくらい?」
「えっ、それだけ? ずるい~! 男子ってそういうとこあるよねー。うちの弟もツルツルなのに何もしてないし」
笑いが弾け、他の子たちも軽くツッコミを入れてくる。その中に、混じっている自分。ピンクのチュニックに、スカート。座るときには膝をそろえ、声のトーンも少し柔らかく。
(なんか……この空気に、自然に入っていけてる……)
そう思った瞬間だった。
ペットボトルのキャップを開ける手元。その動作が、無意識に大きくて荒々しいことに気づいた。
ゴキッ、と音を立てて開けたキャップに、隣の由梨が一瞬ぴくりと反応したように見えた。
(あっ……)
気のせいかもしれない。でも、それだけで指先が妙に意識される。手首、指の節、爪の短さ──どれも“男の手”であることを突きつけてくる。
「ねえ、悠真くんってさ……もしもメイクしたら、かなり可愛いと思うんだけど」
別の女子がふと口にした言葉に、場がふわっと盛り上がった。
「絶対似合うよ! まつ毛も長いし」
「ナチュラル系のメイク試してみたら?」
「え、いや……僕、そんなの……」
手を振って否定するが、女子たちはそれすらも楽しげに受け止める。
「ほら~その断り方、もう半分女子じゃん!」
その言葉に、何とも言えない感覚が胸に広がった。照れくさい。でも、どこか居心地が良くて──なのに、ほんの少しだけ、いたたまれない。
(……僕、どこまで“女子”で、どこから“男子”なんだろう)
控え室の鏡越しに見えた自分は、表情だけ見れば、輪の中の女子たちとほとんど変わらなかった。でも、ふと椅子から立ち上がったとき、脚を一歩踏み出すと、わずかに太腿の筋肉の動きが、スカートの布を引っ張った。
その“差”が、鮮やかに浮き上がった気がして、悠真は思わず視線を落とした。
(僕だけが──違う)
笑顔の中に、静かに小さな孤独が灯った。
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