ナース服の中の僕

なな

文字の大きさ
20 / 47

第20章:空港に立つ私

しおりを挟む
土曜の朝、悠真は大きめのスーツケースを引いて、駅のホームに立っていた。
身につけているのは、淡いベージュのノースリーブワンピース。涼しげで、胸元のタックが女性らしいラインを作る。
ウィッグの下の地毛はしっかりまとめ、メイクは梨乃の指導通りにナチュラル仕上げ。
でも、地下鉄の窓に映る“女の子の自分”に、まだどこか実感がない。

(本当に……大丈夫、だよね)

足元は、ヒールのあるサンダル。コツ、コツと駅のホームを歩くたび、足の裏に緊張が伝わってくる。

空港に着くと、人の視線が一気に増えた。
チェックインカウンターの前、トイレの入り口、ラウンジのガラスに映る自分──
そのすべてが、悠真に「ちゃんと女の子に見えてるか」を問いかけてくるようだった。

搭乗口へ向かう途中、前から来た女子高生の二人が、何気なく悠真を見て──

「えっ、今の……男の子じゃない?」

聞き間違いではなかった。背筋に冷たいものが走った。

(ばれた?……違うよね、わかんないようにしてたはず……)

とっさに背筋を伸ばし、ヒールの音を静かにして歩いた。
視線はまっすぐ。手に持つバッグを胸元に抱えるようにして、女性らしい仕草を意識する。

「悠真さん?」

振り返ると、桐谷がいた。ブルーグレーのジャケットにサングラスをかけていて、まるで映画のワンシーンのようだった。
彼は、少し目を細めて、優しく微笑んだ。

「すごく……素敵な旅の始まり、だね。君がここにいてくれるだけで、もう嬉しい」

その言葉で、張り詰めていたものが、ふっとほどけた気がした。

搭乗ゲートをくぐるときも、機内の座席で隣に並んだときも、
悠真は常に「ちゃんと見られてるか」を意識していた。

飲み物を受け取る仕草、髪を耳にかける指、脚を揃えて座る姿勢──
ひとつひとつ、練習した通り。でも完璧にはできない。

けれど、桐谷はそんな悠真のぎこちない仕草を見て、ますます優しい目をしてくれるのだった。

「慣れてない感じが、なんだか可愛いよ」

耳元で囁かれたその言葉に、悠真は顔を赤らめて、そっと窓の外に視線を向けた。
飛行機は、青い海の上をゆっくりと滑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

リアルフェイスマスク

廣瀬純七
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

性転のへきれき

廣瀬純七
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...