ナース服の中の僕

第29章：朝の支度と、ふたりの距離

うっすらと明るい光が、カーテンの隙間からベッドを照らしていた。
静かな朝の空気のなかで、悠真はゆっくりと目を開けた。

隣には桐谷が眠っている。
昨夜、ランジェリー姿のまま抱き寄せられて──そのまま、そっと眠りについた。

（夢……じゃ、ないよね）

ベッドに残るあたたかさ、腕のなかにいた感触。
そのどれもが、現実だったと証明していた。

そっとベッドを抜け出し、洗面室に向かう。
鏡に映る自分は、少し眠たげで、でも昨日の名残が残っているような表情だった。

軽く髪を整え、下地と日焼け止めを丁寧に塗って、
ピンクベージュのリップをうすくひいた。

（……なんか、だんだん、女の子としての「朝の支度」が自然になってきた）

胸元を抑えながら、少しだけため息をつく。
体のラインが浮かぶキャミソールに、自分でも視線が落ちる。

「……おはよう」

声に驚いて振り返ると、桐谷がバスローブ姿で立っていた。

「……ご、ごめん、起こしちゃった？」

「ううん。君の気配で目が覚めた」

そう言って近づいてきて、後ろから軽く腰に腕を回される。

「……昨日の君、ほんとに綺麗だった。今もだけど」

「……っ、やめてよ、もう……」

顔が熱くなる。でも、嫌じゃない。

朝食のレストランへ向かう前、
悠真は淡いクリーム色のブラウスとスカートに着替えた。

パンプスを履いて鏡の前に立つと、足元から背筋がすっと伸びる。
ヒールの高さにも少しずつ慣れてきた。

「……今日も、ちゃんと女の子になれてるかな」

「うん。すごく自然。……でも、誰にも渡したくないくらい可愛い」

「な……っ、そんなこと……」

桐谷は笑って、悠真の肩にそっと手を置いた。

レストランの朝食は、開放感のあるテラス席。
海風が心地よくて、スカートの裾がふわりと揺れる。

パンケーキを前に、ふたりで小さく笑い合う時間。
気がつけば、周囲の視線も気にならなくなっていた。

それはきっと、桐谷が隣にいてくれるから。
そして、女の子としてここにいることを、受け入れてくれているから。