ナース服の中の僕

なな

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第33章:グラス越しの瞳と、身体に宿る“女”の輪郭

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予約されたレストランは、ホテルの高層階。
夜景の見える窓際の席に、スタッフの案内で桐谷と並んで座った。

「……すごい……」

都市の灯が、ガラス越しに広がる。
まるで宝石箱をひっくり返したような光の海。

「気に入ってくれた? 今夜は、君が主役だから」

ドレスの胸元にかけられた視線に気づいて、心臓が跳ねた。
コルセットで押し上げられたバストライン。
露出した肩先や背中──どれも、普段の自分ではない部分が視線を集めている。

(私……女の子、みたいに見られてるんだ)

メニューはコース形式で、前菜から運ばれてきた。
だけど、フォークを持つ指先が、すこし震える。

「緊張してる?」

「ううん……ちょっと、コルセットが……」

「苦しい?」

「ううん、ちゃんと息はできるんだけど……
座ってると、もっと女の子の身体みたいな形になってるのが、自分でもわかって……」

ヒールを履いた足は交差したまま。膝を閉じて姿勢を保つことが、こんなに意識を使うとは思わなかった。

(座ってるだけなのに、全身が“女の子”をしてる……)

コルセットが身体を締めつけるたび、
自分が“女性としての姿”に仕立てられていることが、いやでも意識にのぼる。

そして──それを見つめる桐谷の目が、やさしく熱を帯びている。

「……美味しい?」

「うん。味は、すごく繊細で……香りもちゃんとしてて……でも……」

「でも?」

「落ち着かないの。……自分が“男じゃない何か”になってる気がして。
それなのに、あなたはそれを“綺麗だ”って言ってくれるから、
どんどん、わからなくなる……」

フォークを置くと、桐谷がゆっくりと手を差し出してきた。

テーブルクロスの下、そっと指が触れ合い、絡まる。

「君がどういう存在でも──俺は、目の前にいる“君”を見てる。
男でも女でもなく、“今の君”を、俺は好きになってる」

その言葉に、息が詰まる。

ドレスの重み、ヒールの高さ、コルセットの締めつけ。
それらすべてが、いまの自分の輪郭を形づくっていて──
そして、それを「綺麗だ」と言ってくれる人が目の前にいる。

(私……本当に、いま、“女の子”みたいなんだ)

グラスを持ち上げ、赤ワインの香りを吸い込んだ。
細い指先に光るブレスレットが、ふと揺れた。
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