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第42章:彼女と、彼のあいだ(梨乃視点)
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「おはようございます」
その声を聞くだけで、自然と目が向いてしまう。
スカートの裾を気にするようにして歩くあの姿。
今日の彼は、薄いベージュのナース服に、ピンクがかったリップ。
ほんの少しのマスカラが、伏し目がちな目元を優しく縁取っている。
──女の子のなかにいる“男の子”。
私だけが知っている、その秘密。
数日前まで、あの子はリゾートで、彼の腕のなかにいた。
それを報告してくれたとき、嬉しくて、でも少しだけ胸がチクリとした。
だけど、今こうして彼が“女の子”として自然に立っている姿を見ると、
やっぱり私は……支えてあげたくなる。
「実習、大丈夫?」
お昼休みに声をかけると、彼はこくりと頷いて笑う。
「うん。でも……ちょっと、ドレスのあとのこの制服、なんか、すごく地味に感じる……」
「ふふ、それだけ似合ってたってことじゃない?」
私は冗談めかして言ってから、そっと小声で続ける。
「……ねえ、今日の帰り、うち来ない? 服、見せてもらいたいな。旅行のときの」
「え……う、うん……いいの?」
「むしろ、お願い。ほら、私も見せたいの。新しく買ったランジェリーとか、試着用のワンピースとか」
目を丸くする彼に、私はわざとウィンクしてみせた。
「せっかくだから、お互いファッションショーしよ? ふたりだけの、ね?」
その夜。
私の部屋には、既にいくつかのワンピースやランジェリーを広げていた。
彼が持ってきた黒のドレス、シルクのスリップ、旅行で着たミニワンピ──
どれも、今の彼に“ぴたり”と馴染むようなものばかりだった。
「……これ、ほんとに着たの?」
「う、うん……桐谷さんが選んでくれて……」
「ふーん……じゃあ、私のも、選んでみてよ。どっちが似合うか、勝負ね」
「え、えええ!?」
わざとからかうように笑いながら、私はふたり分のランジェリーセットを用意した。
淡いラベンダーと、黒にレースのラインが入ったもの。
彼がそっと黒を手に取ったとき、私はその指の震えを見逃さなかった。
「……着替える? 私、こっちの部屋で着てくるから」
「……うん。わ、わたしも、着てみる……」
しばらくして戻ってきたとき、
黒いランジェリーを身につけた彼は、どこか戸惑いながらも、少しだけ目を輝かせていた。
「……どう? 似合う……かな」
「うん……すごく。綺麗だよ」
その言葉は、どこかで本当に、心から出てきたものだった。
男の子であることも、女の子として振る舞うことも。
全部抱きしめるように、私は優しく手を伸ばした。
その声を聞くだけで、自然と目が向いてしまう。
スカートの裾を気にするようにして歩くあの姿。
今日の彼は、薄いベージュのナース服に、ピンクがかったリップ。
ほんの少しのマスカラが、伏し目がちな目元を優しく縁取っている。
──女の子のなかにいる“男の子”。
私だけが知っている、その秘密。
数日前まで、あの子はリゾートで、彼の腕のなかにいた。
それを報告してくれたとき、嬉しくて、でも少しだけ胸がチクリとした。
だけど、今こうして彼が“女の子”として自然に立っている姿を見ると、
やっぱり私は……支えてあげたくなる。
「実習、大丈夫?」
お昼休みに声をかけると、彼はこくりと頷いて笑う。
「うん。でも……ちょっと、ドレスのあとのこの制服、なんか、すごく地味に感じる……」
「ふふ、それだけ似合ってたってことじゃない?」
私は冗談めかして言ってから、そっと小声で続ける。
「……ねえ、今日の帰り、うち来ない? 服、見せてもらいたいな。旅行のときの」
「え……う、うん……いいの?」
「むしろ、お願い。ほら、私も見せたいの。新しく買ったランジェリーとか、試着用のワンピースとか」
目を丸くする彼に、私はわざとウィンクしてみせた。
「せっかくだから、お互いファッションショーしよ? ふたりだけの、ね?」
その夜。
私の部屋には、既にいくつかのワンピースやランジェリーを広げていた。
彼が持ってきた黒のドレス、シルクのスリップ、旅行で着たミニワンピ──
どれも、今の彼に“ぴたり”と馴染むようなものばかりだった。
「……これ、ほんとに着たの?」
「う、うん……桐谷さんが選んでくれて……」
「ふーん……じゃあ、私のも、選んでみてよ。どっちが似合うか、勝負ね」
「え、えええ!?」
わざとからかうように笑いながら、私はふたり分のランジェリーセットを用意した。
淡いラベンダーと、黒にレースのラインが入ったもの。
彼がそっと黒を手に取ったとき、私はその指の震えを見逃さなかった。
「……着替える? 私、こっちの部屋で着てくるから」
「……うん。わ、わたしも、着てみる……」
しばらくして戻ってきたとき、
黒いランジェリーを身につけた彼は、どこか戸惑いながらも、少しだけ目を輝かせていた。
「……どう? 似合う……かな」
「うん……すごく。綺麗だよ」
その言葉は、どこかで本当に、心から出てきたものだった。
男の子であることも、女の子として振る舞うことも。
全部抱きしめるように、私は優しく手を伸ばした。
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