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なな

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第四章:OLたちのランチテーブル

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昼休みのチャイムが鳴ると、フロアの空気がふわりと軽くなった。

「ゆうちゃん、一緒に行こ!」

手を振ってきたのは沙織。人懐っこい笑顔が魅力の企画部の先輩だ。隣には市川もいて、二人の間に挟まれるようにして、優斗——“佐伯ゆう”はオフィスビル下のカフェへ向かった。

(女子同士としてランチ……それだけで、緊張する……)

スカートの裾が風に揺れ、ヒールの音がコツコツと歩道に響く。通り過ぎるビジネスマンの視線が気になる。じっと見られている気がして、歩き方にも気を使ってしまう。

(もっと膝を閉じて、背筋を伸ばして……目線は下すぎず、上すぎず……)

自然に“女らしさ”を演じようとする自分がいる。

カフェのテーブルにつくと、周囲も女性客がほとんどだった。隣の席のOLたちは、メイクや彼氏の話に花を咲かせている。

「ねぇゆうちゃん、あの新作ブラ、着け心地どうだった?」沙織がサラダをつつきながら聞いてきた。

「え……あ、はい。軽くて、肩も凝らないですし……レースが当たる感じも柔らかくて……」

自分の発言が“女言葉”になっていないか、内心ヒヤヒヤする。

「だよね~、あのシリーズ、胸小さめの人でもきれいに谷間できるって評判なんだよ。ていうか、ゆうちゃん細いから、どの下着も映えるよね~」市川がさらりと褒めてくる。

「そ、そんなことないです……」

顔が火照る。見た目は“女”としてランチしているけれど、下着の話題が、自分の“装い”とつながっているのが異常にリアルだ。

(自分の着けてるブラやコルセットの話を、他人とするなんて……)

体の中で“女”としてのリアリティがどんどん膨らんでいく。誰も自分を“男”だとは思っていない。いや、思ってはいけない。今ここで自分は完全に——女として見られているのだ。

そしてその“役割”を崩してはいけない。そう思うほどに、言葉や仕草に自然と慎重さがにじみ出る。

ふと、市川が意味ありげに笑った。

「慣れてきたね、ゆうちゃん。最初より全然、女の子に見えるよ」

「えっ……そうですか?」

「うん、普通に女の子同士でランチしてるみたい。ね、沙織」

「うんうん。ゆうちゃん、男の人とごはん行ったらモテそう~!」

冗談めかして笑い合う二人。けれど優斗の胸の奥は、どこかざわめいていた。

(“女の子同士”……って言われて、まんざらでもないって思ってるの、俺……?)

コーヒーの香りの向こう側で、自分の中の「ゆう」は、ますます息を吹き返していく。
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