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第2部:ナイトプール・ミッドナイトドレスコード
第四章:夜の更衣室、こぼれる想い
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プールのライトが徐々に暗くなり、場内の音楽もフェードアウトしていく。
営業終了のアナウンスが流れる中、三人はタオルを肩にかけて、出口付近のベンチに腰掛けた。
「……めっちゃ楽しかった~!」
真帆が髪をくしゃくしゃと乾かしながら声を上げる。
「うん、写真もいっぱい撮ったし。なおも、また行こうね?」
「……うん。ありがとう、ふたりとも」
なおは微笑みながら応えたが、どこかぎこちない表情だった。
美月が目配せする。
「なお、あっちの多目的トイレ、今空いてるっぽいよ。行こっか」
「うん……」
真帆は「じゃ、ロビーで待ってるね~」と手を振った。
美月とともに多目的トイレの前へ。
扉の前に立ったなおは、小さく息を吐いてから振り返った。
「……一人で大丈夫。ありがとう」
「無理しないで。あとで、言葉にできなかったら、言葉じゃなくていいからね」
その一言に、胸がじんと熱くなった。
鍵をかけ、扉を閉める。
ライトが静かに灯り、鏡の中に水着姿の“なお”が立っていた。
タオルを肩から外し、水気の残った髪をかきあげる。
鏡の中の自分は、まるで普通の女の子のように見えた。
でも――
ワンピースを脱いだ瞬間、
パッドの下にある自分の胸の平坦さ、
下着の中で隠していた“男性の形”が戻ってくる。
(ああ……私の身体はやっぱり、女の子じゃないんだ)
それでも、水着のラインに沿った跡が肌に残っている。
誰にも見せていない場所に、
“なお”として過ごした時間の痕跡が、くっきりと残っている。
なぜだろう。
それが、嬉しかった。
服に着替え終わっても、なおはしばらく鏡を見つめていた。
裸のままでも、服を着ても、
“なお”であることが、消えていない気がした。
ドアを開けると、美月がひとり立って待っていた。
「ごめん、待たせた……」
「ううん、大丈夫。……なお、すごく綺麗だったよ」
その言葉に、喉の奥がふるえた。
「……ありがとう。でも、私……」
「“なお”は“なお”でしょ? どんな身体だって、今日みたいに笑っててくれたら、それでいいよ」
その瞬間、涙がぽろりとこぼれた。
抑えられなかった。
けれどそれは、悲しい涙ではなかった。
真帆の元へ戻ると、彼女はふたりの顔を見てふわっと笑った。
「ねえ、また来ようね? 次はもっと派手なやつ着ようよ、なお」
「やだ、あれ以上派手にしたら、なお壊れちゃうってば」
美月が笑う。
三人で歩く帰り道。
照明の落ちたプールのガラス越しに、うっすらと自分たちの姿が映った。
なおはその“映った女の子たち”のなかに、自分がちゃんといることを、
もう否定しようと思わなかった。
営業終了のアナウンスが流れる中、三人はタオルを肩にかけて、出口付近のベンチに腰掛けた。
「……めっちゃ楽しかった~!」
真帆が髪をくしゃくしゃと乾かしながら声を上げる。
「うん、写真もいっぱい撮ったし。なおも、また行こうね?」
「……うん。ありがとう、ふたりとも」
なおは微笑みながら応えたが、どこかぎこちない表情だった。
美月が目配せする。
「なお、あっちの多目的トイレ、今空いてるっぽいよ。行こっか」
「うん……」
真帆は「じゃ、ロビーで待ってるね~」と手を振った。
美月とともに多目的トイレの前へ。
扉の前に立ったなおは、小さく息を吐いてから振り返った。
「……一人で大丈夫。ありがとう」
「無理しないで。あとで、言葉にできなかったら、言葉じゃなくていいからね」
その一言に、胸がじんと熱くなった。
鍵をかけ、扉を閉める。
ライトが静かに灯り、鏡の中に水着姿の“なお”が立っていた。
タオルを肩から外し、水気の残った髪をかきあげる。
鏡の中の自分は、まるで普通の女の子のように見えた。
でも――
ワンピースを脱いだ瞬間、
パッドの下にある自分の胸の平坦さ、
下着の中で隠していた“男性の形”が戻ってくる。
(ああ……私の身体はやっぱり、女の子じゃないんだ)
それでも、水着のラインに沿った跡が肌に残っている。
誰にも見せていない場所に、
“なお”として過ごした時間の痕跡が、くっきりと残っている。
なぜだろう。
それが、嬉しかった。
服に着替え終わっても、なおはしばらく鏡を見つめていた。
裸のままでも、服を着ても、
“なお”であることが、消えていない気がした。
ドアを開けると、美月がひとり立って待っていた。
「ごめん、待たせた……」
「ううん、大丈夫。……なお、すごく綺麗だったよ」
その言葉に、喉の奥がふるえた。
「……ありがとう。でも、私……」
「“なお”は“なお”でしょ? どんな身体だって、今日みたいに笑っててくれたら、それでいいよ」
その瞬間、涙がぽろりとこぼれた。
抑えられなかった。
けれどそれは、悲しい涙ではなかった。
真帆の元へ戻ると、彼女はふたりの顔を見てふわっと笑った。
「ねえ、また来ようね? 次はもっと派手なやつ着ようよ、なお」
「やだ、あれ以上派手にしたら、なお壊れちゃうってば」
美月が笑う。
三人で歩く帰り道。
照明の落ちたプールのガラス越しに、うっすらと自分たちの姿が映った。
なおはその“映った女の子たち”のなかに、自分がちゃんといることを、
もう否定しようと思わなかった。
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