受付バイトは女装が必須?

なな

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第4部:それぞれの想い

3.言わない優しさに手が触れた ― 施術台の上、沈黙の中で感じた“秘密” ―

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この仕事をして十年以上になる。
オイルの重さ、筋肉の張り、骨の配置。
目よりも、手のひらが先に“その人”を理解してくれるようになった。

そして時々、言葉より先に――
“この人には触れるべきでないものがある”と、
感じることがある。

あの日のあの子も、そうだった。

真帆さんという明るい女性と一緒に現れた、
もう一人の子――なおさん。

やや小柄で、中性的な印象。
でも、話し方や立ち姿に、どこか繊細な緊張感があった。

(身体を見せ慣れているわけじゃない。
 でも、見せることを拒んでもいない)

不思議なバランスだった。

着替えを終え、うつ伏せになってもらって施術を始めたとき。
背中の皮膚は驚くほどなめらかだった。
腰にかけてのラインが、とても整っている。

「普段から相当、ケアしてるんだろうな」

そう思って、少し指先を深く入れた瞬間――
ふ、と、手のひらに伝わる“違和感”。

ウエスト下のラインに、わずかに**人工的な“硬さ”**がある。

(……これ、ボーン入り?コルセット?でも今は脱いでるはず)

感触は、コルセットではない。
もっと中に、身体の“中核”を抑え込むようなもの。

まさか、と思った。

(“それ”をつけたまま、来ている?)

けれど手を止めることはなかった。

私はただ、ふつうに――
でも、いつもより少しだけやさしくマッサージを続けた。

仰向けになったなおさんの表情は、少し緊張していた。
頬はうっすら赤く、まぶたがほんの少し震えていた。

その時だった。
**「カチッ」**と小さな音が、腰の奥からわずかに響いた。

ほんの一瞬、手を止めかけた。
でも、何事もなかったように、整肌を続けながら――
静かにこう声をかけた。

「大丈夫ですよ。無理に隠さなくていいですからね」

その一言に、なおさんの目がふっとゆるんだのを、私は見逃さなかった。

最後のホットタオルを首に巻いたとき。
なおさんはもう、目を閉じて微笑んでいた。

何も言わなくても伝わる。
言葉よりも、手の圧のほうがずっと信頼できる。

秘密を隠したまま来てくれるお客様は、特別じゃない。
でも、**秘密を抱えたまま“綺麗になろうとする人”**は、
私はいつだって尊敬する。

そして――
その秘密を預かれる手でありたいと、心から思った。

“誰かのために綺麗になる”という決意は、
それ自体が、もう美しい。
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