受付バイトは女装が必須?

なな

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第4部:それぞれの想い

8.眩しくて、目をそらしたくなる午後 ― 貞操具をつけたまま、夏の太陽の下へ ―

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「久しぶりに、3人で遊ぼうよ」
真帆のそんな声に背中を押されて、
私たちはテーマパークに向かった。

休日の午後。空はよく晴れていて、風もあたたかい。

なおは、淡いラベンダーのブラウスに白のプリーツスカート。
髪はゆるくまとめて、リップだけほんの少し艶を出していた。

見慣れた“女の子のなお”だけど――
その日のなおは、なんだか一段と“柔らかかった”。

出かける前、なおは鏡の前でゆっくりと着替えた。

貞操具は、そのまま。
朝、河合からのメッセージには、ひと言だけ。

    今日も、そのままでいて。

それに「うん」と返して、
なおは黙って、コルセットを締めた。

ワンピースの内側、
誰にも見えない“鍵のかかった私”。

でもなおにとっては、
それが今日一日の“女の子としての輪郭”だった。

パークに着くと、笑い声と音楽とアイスの香り。
私たちは子供みたいにはしゃいで、
アトラクションを巡り、写真を撮って、ジュースを分け合った。

なおはよく笑ってた。

でも、トイレでは個室を選び、
ベンチではそっとコルセットの腰を押さえていた。

(今、彼女は“誰かの秘密”を抱えたまま、
 こうして世界のまんなかで笑ってる)

私は、その事実が切なくて、でも美しくて、
目の奥がじんわり熱くなった。

夕方、夕焼け色の光の中で
なおがスマホを見たとき、
髪をかき上げたその瞬間、うなじにうっすらと紅い跡が浮かんでいた。

細い線――チョーカーの跡。

美月はそれに気づいた。
でも、なにも言わなかった。

(あの人に“名前を呼ばれている”ことを、
 この子はずっと、誇りにしてるんだ)


それが、ちょっとだけ羨ましくて、
ちょっとだけ、胸が苦しくなった。

夜。観覧車の中。
揺れるゴンドラの中で、街の光がにじんでいた。

なおがふと呟いた。

「……今日、すごく嬉しかったんだ。
こうして、普通に女の子としていられて」

私は、にっこり笑って言った。

「ほんとに、すごく似合ってたよ。
可愛かった」

(本当は、それだけじゃない気持ちもあるけど――
でも、今は“友達”の顔をしていたい)

観覧車を降りたあと、なおが少し後ろを振り返った。
風がスカートを揺らしていた。

その姿が、
あまりにも綺麗で、
あまりにも遠くて――

私は、ひとつ深く呼吸をした。

“秘密”はまだ、聞かない。
でも、触れていたいと思った。

好きって言葉を使ったら、
きっとこの関係は終わってしまうから――
私は笑って、隣を歩いた。

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