107 / 206
第7部:新しい春に、もう一人の“僕”
第6話:その気持ち、わたしも昔そうだった ― “反応する身体”と、“受け入れられる装備” ―
しおりを挟む
バイト終わり。
受付制服のまま、控え室に戻った柊は、鏡の前でストッキングを脱ぎながら、なぜかずっと黙っていた。
その背中の沈黙に、なおはすぐに気づいた。
(なにか、悩んでる)
コートを羽織りながらそっと声をかける。
「柊くん、疲れた?」
「……いえ。あの、なおさん……ちょっと、お話……してもいいですか」
控え室のすみにあるソファへ移動し、制服の上着を脱いだ柊が、
手を膝の上でぎゅっと握りしめた。
「……ぼく、着替えてるとき、どうしても……反応してしまって……」
「……うん」
「ストッキングやスカート、それから、あのランジェリー……
なんか、自分じゃ抑えきれなくて……」
柊の頬が真っ赤に染まっていた。
でも――それは“後ろめたさ”ではなく、“恥じらい”の熱だった。
なおは、静かに微笑んだ。
「わかるよ、その気持ち。
わたしも、昔はそうだった」
「……え?」
「スカートの感触、ストッキングの締めつけ。
誰かに“整えられる”っていう感覚。
それだけで、体がびっくりして、反応しちゃうんだよね。
でも、それはぜんぜんおかしくないよ」
柊が、うつむいたまま、小さく頷いた。
その指が、まだ微かに震えていたのを、なおは見逃さなかった。
「……ねえ、柊くん。
少し変なこと言っても、引かないで聞いてくれる?」
「……はい」
なおは立ち上がって、コートの前を少しだけ開いた。
ジャケットの下、シャツを捲った先――
ウエストに沿うように、しっかりと編み上げられたコルセットの縁が覗いていた。
その下に、うっすらとラインを浮かせていたのは――
金属の、沈黙した存在。
「わたし、これ。つけてるの。
いわゆる“貞操具”って呼ばれてるやつ」
柊は一瞬、目を見開いた。
「最初は、ただ“抑えるため”に使ってた。
反応が怖かったから。
でもね、あると不思議と……心も落ち着くの。
“いま、自分の身体はちゃんと包まれてる”って感覚
フラットタイプというのだと反応自体が抑えられる感じなの」
柊は、息をひとつのみ込むようにして、
そっと目を伏せた。
「……それ、ぼくも……つけてみたいかも、って思ってしまいました」
「うん。そう思えるって、すごく自然なことだよ。
ただし、無理にじゃなくてね。
これは、“誰かに着せられる”んじゃなくて、“自分が選ぶもの”だから」
スカートを穿くことも、下着を整えることも。
そして、貞操具を着けることも。
それは“女の子になる”ためじゃない。
“いまの自分”を整えるための、小さな秘密。
「今度、見せてくれる……というか、教えてもらっても、いいですか……?」
柊の声は震えていたけれど、その目はまっすぐだった。
なおは頷いた。
「うん、もちろん。
きみが“ちゃんと望めたら”、ね」
受付制服のまま、控え室に戻った柊は、鏡の前でストッキングを脱ぎながら、なぜかずっと黙っていた。
その背中の沈黙に、なおはすぐに気づいた。
(なにか、悩んでる)
コートを羽織りながらそっと声をかける。
「柊くん、疲れた?」
「……いえ。あの、なおさん……ちょっと、お話……してもいいですか」
控え室のすみにあるソファへ移動し、制服の上着を脱いだ柊が、
手を膝の上でぎゅっと握りしめた。
「……ぼく、着替えてるとき、どうしても……反応してしまって……」
「……うん」
「ストッキングやスカート、それから、あのランジェリー……
なんか、自分じゃ抑えきれなくて……」
柊の頬が真っ赤に染まっていた。
でも――それは“後ろめたさ”ではなく、“恥じらい”の熱だった。
なおは、静かに微笑んだ。
「わかるよ、その気持ち。
わたしも、昔はそうだった」
「……え?」
「スカートの感触、ストッキングの締めつけ。
誰かに“整えられる”っていう感覚。
それだけで、体がびっくりして、反応しちゃうんだよね。
でも、それはぜんぜんおかしくないよ」
柊が、うつむいたまま、小さく頷いた。
その指が、まだ微かに震えていたのを、なおは見逃さなかった。
「……ねえ、柊くん。
少し変なこと言っても、引かないで聞いてくれる?」
「……はい」
なおは立ち上がって、コートの前を少しだけ開いた。
ジャケットの下、シャツを捲った先――
ウエストに沿うように、しっかりと編み上げられたコルセットの縁が覗いていた。
その下に、うっすらとラインを浮かせていたのは――
金属の、沈黙した存在。
「わたし、これ。つけてるの。
いわゆる“貞操具”って呼ばれてるやつ」
柊は一瞬、目を見開いた。
「最初は、ただ“抑えるため”に使ってた。
反応が怖かったから。
でもね、あると不思議と……心も落ち着くの。
“いま、自分の身体はちゃんと包まれてる”って感覚
フラットタイプというのだと反応自体が抑えられる感じなの」
柊は、息をひとつのみ込むようにして、
そっと目を伏せた。
「……それ、ぼくも……つけてみたいかも、って思ってしまいました」
「うん。そう思えるって、すごく自然なことだよ。
ただし、無理にじゃなくてね。
これは、“誰かに着せられる”んじゃなくて、“自分が選ぶもの”だから」
スカートを穿くことも、下着を整えることも。
そして、貞操具を着けることも。
それは“女の子になる”ためじゃない。
“いまの自分”を整えるための、小さな秘密。
「今度、見せてくれる……というか、教えてもらっても、いいですか……?」
柊の声は震えていたけれど、その目はまっすぐだった。
なおは頷いた。
「うん、もちろん。
きみが“ちゃんと望めたら”、ね」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる