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第7部:新しい春に、もう一人の“僕”
第8話:視線の先で、秘密が揺れる ― 制服の奥に鍵がある。誰にも気づかれずに ―
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スーツのボタンを一つずつ留めるたび、
その内側にある**“何か”**が静かに動いた気がした。
(ああ、着てる。着てるんだ……)
ブラウスの下、コルセットの下、
誰にも見られない、誰にも触れられないところに、
鍵付きの装備が静かに収まっている。
控え室の鏡に映る自分は、
メイクを終えてウィッグを載せ、完璧な“受付嬢”の姿をしていた。
でも――その誰もが知らない場所に、“僕の秘密”があった。
「柊くん、準備いい?」
背後から声をかけてきたのは、なおだった。
ハーフアップに結い上げた黒髪が、今日も静かに揺れている。
さりげなく巻かれたスカーフ、ジャケットのライン、
そして――柊にはわかる。
その姿の下にも、同じ“装備の気配”があることを。
「……はい。大丈夫です」
声が少しだけ高くなるのは、スカートが膝に当たる感覚のせいだろうか。
それとも――装備が、わずかに肌の内側で存在を主張しているからだろうか。
受付デスクに立ち、来場者を迎える。
「いらっしゃいませ」
「こちらへどうぞ」
声は自然に出せるようになってきた。
ただ、ふと目が合ったとき、
(この人、わたしのこと“女の子”って思ってる)
そう思うだけで、体温がじわっと上がるのがわかる。
視線がスカートの裾に落ちたとき、
その下に“鍵付きの装備”があることを意識するだけで、
太ももがきゅっとなる。
(知られてない。気づかれてない。でも――たしかに“着けている”)
なおが隣で名簿を確認しているとき、
柊はふと、そっとその横顔を見つめた。
(この人と、同じものをつけてるんだ)
(この人にだけ、僕の“秘密”は見えてるんだ)
それが、奇妙な安心感だった。
“見透かされている”のに、怖くない。
むしろ、それがうれしいと思ってしまった自分に、
柊は気づいてしまう。
休憩時間。
一瞬、受付デスクの陰でなおと二人きりになったとき、
柊は小さな声で言った。
「……なんか、すごく変なんです」
「うん?」
「誰にも見られてないのに、
全部、見られてるみたいで……落ち着かない、のに、気持ちよくて……」
なおは、優しく微笑んだ。
「それ、“自分を装っている”って感覚だよ。
“女の子みたいに”じゃなくて、“誰にも見せたくない自分のままでいる”ってこと」
「……なおさんって、ずっとこうだったんですか?」
「ううん。
でも、こうなってよかったって、思えるようになったのは――
着けてから、だったかも」
スカートの奥に鍵を抱えているなんて、誰も思わない。
でも、自分だけが知ってる。
その“緊張”と“秘密”が、
“女の子のふり”じゃなくて、“僕だけの装い”になる。
「柊くん、すごく綺麗に立ててたよ」
「……ほんとですか?」
「うん。ちゃんと“見られる姿”になってた。
……あ、でもちょっと、歩くとき内腿に力入りすぎてたかも」
「っ、あ、それは……」
なおはふふっと笑う。
その笑顔に、“わたしも最初そうだったから”がちゃんと含まれていた。
その内側にある**“何か”**が静かに動いた気がした。
(ああ、着てる。着てるんだ……)
ブラウスの下、コルセットの下、
誰にも見られない、誰にも触れられないところに、
鍵付きの装備が静かに収まっている。
控え室の鏡に映る自分は、
メイクを終えてウィッグを載せ、完璧な“受付嬢”の姿をしていた。
でも――その誰もが知らない場所に、“僕の秘密”があった。
「柊くん、準備いい?」
背後から声をかけてきたのは、なおだった。
ハーフアップに結い上げた黒髪が、今日も静かに揺れている。
さりげなく巻かれたスカーフ、ジャケットのライン、
そして――柊にはわかる。
その姿の下にも、同じ“装備の気配”があることを。
「……はい。大丈夫です」
声が少しだけ高くなるのは、スカートが膝に当たる感覚のせいだろうか。
それとも――装備が、わずかに肌の内側で存在を主張しているからだろうか。
受付デスクに立ち、来場者を迎える。
「いらっしゃいませ」
「こちらへどうぞ」
声は自然に出せるようになってきた。
ただ、ふと目が合ったとき、
(この人、わたしのこと“女の子”って思ってる)
そう思うだけで、体温がじわっと上がるのがわかる。
視線がスカートの裾に落ちたとき、
その下に“鍵付きの装備”があることを意識するだけで、
太ももがきゅっとなる。
(知られてない。気づかれてない。でも――たしかに“着けている”)
なおが隣で名簿を確認しているとき、
柊はふと、そっとその横顔を見つめた。
(この人と、同じものをつけてるんだ)
(この人にだけ、僕の“秘密”は見えてるんだ)
それが、奇妙な安心感だった。
“見透かされている”のに、怖くない。
むしろ、それがうれしいと思ってしまった自分に、
柊は気づいてしまう。
休憩時間。
一瞬、受付デスクの陰でなおと二人きりになったとき、
柊は小さな声で言った。
「……なんか、すごく変なんです」
「うん?」
「誰にも見られてないのに、
全部、見られてるみたいで……落ち着かない、のに、気持ちよくて……」
なおは、優しく微笑んだ。
「それ、“自分を装っている”って感覚だよ。
“女の子みたいに”じゃなくて、“誰にも見せたくない自分のままでいる”ってこと」
「……なおさんって、ずっとこうだったんですか?」
「ううん。
でも、こうなってよかったって、思えるようになったのは――
着けてから、だったかも」
スカートの奥に鍵を抱えているなんて、誰も思わない。
でも、自分だけが知ってる。
その“緊張”と“秘密”が、
“女の子のふり”じゃなくて、“僕だけの装い”になる。
「柊くん、すごく綺麗に立ててたよ」
「……ほんとですか?」
「うん。ちゃんと“見られる姿”になってた。
……あ、でもちょっと、歩くとき内腿に力入りすぎてたかも」
「っ、あ、それは……」
なおはふふっと笑う。
その笑顔に、“わたしも最初そうだったから”がちゃんと含まれていた。
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