受付バイトは女装が必須?

なな

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第8部:ふたりの鍵

第九章:この鍵に触れたら

夜の公園は、どこかやさしかった。
人影はまばらで、遊具の影が街灯に照らされて、静かに伸びている。

柊はベンチに腰を下ろし、隣には佑真。
ふたりの間にはコーヒーの紙カップと、どこかぎこちない沈黙。

それでも──今日の柊は、なおから渡された**「予備の鍵」**を、小さなポーチの中に忍ばせていた。
チェーンは外している。けれど、貞操具は今日もつけたまま。ヌーブラも、コルセットも、すべて。

身体の中で“なおとしてのしつけ”を受けた装備たちが、薄い服の下で主張を続けている。

「……ねえ、柊」

「ん……?」

「やっぱり今日も、女の子みたいだなって、思った」

柊の心臓が跳ねる。
視線はカップの中のミルクの泡に向いたまま、答えられなかった。

「変な意味じゃない。……素直に、すごく綺麗って思った」

「……ありがとう」

しぼり出すような声。

その一言だけで、胸のヌーブラが肌にぴたりと張りつく感覚さえ、敏感になる。

ふいに──

佑真の手が、柊の右手に重なった。

柔らかくて、少し大きな手。
逃げられるはずだった。でも、逃げたくなかった。

「……柊ってさ、なんか、抱きしめたくなるんだよな」

(ああ、そんなの……ダメなのに)

だけど、身体はすでに震えていた。

手を繋いだまま、わずかに身を寄せる。
胸が当たらないように、でも、どこかで“気づいてほしい”という想いが浮かぶ。

「……もしさ」

佑真が小さな声で言った。

「……柊が隠してることとか、秘密とか、全部含めて……“鍵”みたいなのがあるなら……」

柊の心臓が止まりそうになった。

「それ、俺が持ってたら、嬉しい?」

カバンの中。ファスナーの奥にある、小さな金属の鍵。
佑真には見えていない。なのに、まるでその存在を知っているかのように。

(ダメ……だよ……渡しちゃったら、もう戻れない……)

でも。

(私……それでも……)

答えを出せずにいたとき──

佑真がそっと、柊の髪を耳にかけた。

その指先の温度に、全身が反応する。

「……もし、“その鍵”が欲しいって言ったら、どうする?」

柊は答えられなかった。
けれど、心の奥で、ファスナーを下ろすイメージが浮かんでいた。

──この鍵に、触れさせたら。

それは、もう戻れない関係の始まりだ。

でも。
それでも。

「……持って、ほしい、かもしれない」

声が震えていた。
でも、嘘はなかった。
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