受付バイトは女装が必須?

なな

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第8部:ふたりの鍵

第十一章:鍵を渡す儀式

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夜の空気は、静かで、やわらかかった。

窓の外には街灯の粒が並び、カーテンの隙間から、ベッドサイドの光を淡く照らしている。

柊は、鏡の前で立っていた。
白いレースのショーツ。コルセット。
ブラジャーではなく、なおに教わった二重のヌーブラが、胸の形を柔らかく浮かび上がらせていた。

貞操具は、すでに着けられている。
その上には、チェーンで留められたショーツ。脚には、太ももベルト。

そして──手には、小さな金属の鍵。

「これを、渡すんだ」

自分にそう言い聞かせても、指先は震えていた。

“これはもう、性器の鍵じゃない。
身体を、心を、“誰かのものにする”鍵だ。”

「柊、入ってもいい?」

ドア越しの佑真の声に、心臓が跳ねた。

「……うん。いいよ」

ドアが開く音。
その瞬間、柊は鏡の自分から目を逸らした。

「……その服、似合ってるな」

「……ありがとう」

今日のコーディネートは、なおが選んでくれたシンプルなブラウスとタイトスカート。
ウィッグもなおにハーフアップにしてもらった。
全体のラインが柔らかく、脚は細く、胸は服の上からでも自然な丸みを帯びていた。

けれど──この格好の“下”に、どんな装備があるのか。
それは、今から、佑真に伝えることになる。

柊は、おずおずと手を伸ばし、ポーチから鍵を取り出した。

「これ……なにか、わかる?」

「……それ、鍵?」

「うん。でも……普通の鍵じゃないの。
 これは……わたしの、身体を“閉じてる”鍵」
佑真の目が、鍵と柊を交互に見た。

「……これがないと、開かないの?」

「うん。だから……もし、預かってくれたら……わたしは、もう自分では、外せない」

柊は震える声で続けた。

「怖いことかもしれないけど……でも、それをあなたに預けたいって、思ってしまった」

数秒の沈黙。

佑真は無言のまま、そっと手を差し出した。

「じゃあ、預かるよ」

その手に、柊の手が重なる。
金属の鍵が、小さく鳴った。

──カチャ。

渡す瞬間、柊の脚が震えた。

その音は、まるで身体の中で“何かが決定された”音のように聞こえた。

「……これで、もう……わたしは……あなたのもの、です」

それは台詞でも、作られた演技でもなく、
柊の内側から滲み出た、服従と愛情の告白だった。

佑真は言葉の代わりに、そっと柊の頭を撫でた。

「大事にするよ。……ちゃんと、鍵も。柊のことも」

柊の胸のヌーブラが、感情の波に合わせてじんわりと張りついたまま、
その夜、二人の距離は静かに、確かに、結ばれていった。
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