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二章「聖域を巡る旅~咲き綻ぶ光輝~」
二章 第三十一話「大捕物」
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エルキュールの処遇が明らかになった後の話は、六霊守護エヴリンの主導のもと進められた。
デュランダル特別捜査隊としてソレイユ村に出向してきたグレンとロレッタは、聖域付近に潜伏していると思われる魔人ミルドレッド一派の対処に任命。一部のソレイユ戦士団の団員と共に山脈を捜索することに。
その間、エヴリンと次期六霊守護ジェナはルミナス山の頂に位置する聖域アルギュロスに向かうとのこと。
しかし驚くべきことに、グレンらが複数人でチームを組むのに対し、エヴリン側はたった二人のみで聖域までの険しい道のりを行くつもりなのだという。
魔人ミルドレッドの脅威についてはグレンも伝え聞いているところであったが、今回の魔素異常の元凶ともいえるアルギュロス内の魔素濃度は凄まじいはずだった。
脅威を分析すれば、そちら側も流石にたった二人では無茶ではないかと、グレンは人員の割り振りを再検討することを提言したが。
「名高き紅炎騎士の倅であっても、我が一族の秘に軽々しく踏み込めるとは思わぬことだ」
厳然たるエヴリンに届くことはなかった。
大した説明もなくエルキュールを隔離したことからも、よほど触れられない何かがこのアルクロットの地にはあるらしい。
邪推と疑念、そして義憤。身が焼かれるような激情を持て余しながらも、グレンはエヴリンの提唱した作戦に了承した。
問題解決への目途は立ったものの、アルクロット山脈は非常に広大だ。エヴリンが山の中腹に敷いた結界のおかげで魔人の潜伏場所は上層部に限られているとはいえ、捜索には人海戦術が必要だった。
アルクロット山脈を形成する主な三つの山岳のうち、ソレイユ村と聖域アルギュロスを擁するルミナス山はグレンとロレッタが担当。それ以外のブライト山とリュミエール山に関しては土地勘のあるソレイユ戦士団の面々が引き受けることとなった。
アマルティア幹部であるミルドレッドの捕捉を最大の目標としつつ、彼女が連れだった力の弱い魔物は遭遇するごとに処理していく。
本命のミルドレッドに関しては見つけ次第すべての人員に協力を要請し、徹底的に処理する手筈であった。
王都で対峙した砂の魔人ディアマントの戦闘力に鑑みれば、当然の措置だと言えよう。
これら作戦の要点を逐一確認しつつ、グレンとロレッタは雪降るルミナス山を懸命に踏破していた。
山麓と山腹に密集する林と天然の洞窟が複雑な地形を生み出す中層も、稜線を伝っていく上層のルートも何れも環境的に厳しく、戦士団の案内がなければ今頃は遭難していたことだろう。
魔法の才覚に乏しいグレンは、魔法で暖を取ることも一人ではままならない。
そんな彼は、今さらながらこの地の危険性と、共に旅をしていたエルキュールとジェナの有能さを痛感していた。
「……ねえ、グレン。寒いのなら寒いと言って。つまらない意地を張って倒られたらこっちが迷惑なの」
それは山脈のとある洞窟に入ってから暫くしてのこと。隣を行くロレッタからぞんざいに投げかけられた。
その刺々しい口調をグレンはいつものように軽くあしらおうとしたが、すぐに内容が妙に温かいものであることに気づく。
「貴方の銃大剣は戦闘用の魔法であれば補助してくれるのだろうけど、今のような状況とは相性が悪い。私にはぜんぶお見通しなの」
「……へえ」
ロレッタの言い分は正しい。置かれた状況の歪さも相まって、さしものグレンも冷静な判断ができていなかった。
とはいえ、彼女がそのような気遣いができるような人間だとも思っていなかったせいか、グレンは失笑を禁じえず。
案の定、ロレッタの顰蹙を買ってしまう。
「はあ……余裕ぶっていないで。いいから手を出しなさい――バーニング」
露骨に嫌な顔をしながらも、微調整した炎魔法を己の指先に灯すロレッタ。
そのまま空いた片方の手で、衣服に仕舞い込んでいたグレンの手を強引に火の前に翳した。
優れた魔素感覚のおかげで、適温に保たれたそれは容易くグレンの荒んだ心すらも温めてしまう。
「……そんな芸当ができたってなら、普段からオレにもあいつらと同じように接してほしいもんだ」
一回りも年齢の離れた少女に対しこの言い草はないだろうと、グレンは内心呆れていた。
長らく一人きりで旅をしていた身であるがゆえ、孤独には慣れていると自分では思っていたが。
どうやら、想定以上にエルキュールらの件が重く圧し掛かっていたらしい。
もしくは閉鎖的な場所、ロレッタと二人きりという状況が災いしたか。
グレンは何でもない様に装って、ロレッタから視線を外した。
「……ジェナたちと同じように、ねぇ」
そんな男の機微も知らず。ぽつり、ロレッタが静かに漏らした。
「それは無理な相談かしら……少なくとも、貴方が忘れている限りは」
本来ならばこの場だけに留めるべきではない、重要な意味が込められた言葉のはずだった。
しかし、グレンは。その追及をしなかった。否、できなかった。
「……おい、これは」
突然、ロレッタの手から燃え盛る炎が消失した。
風。それまで無風だった洞窟内に、突如として空気が勢いよく循環を始めたのだ。
原因不明のそれは徐々に逆巻いたり、停滞したり。やがては不自然な指向性を帯びていき。
流れの行きつく先を辿ると、仄暗い闇を湛える洞穴が奥に続いているのが見えた。
「まさか、誘ってやがるのか」
奇しくもあのミルドレッドが風魔法の名手だと知っていなければ、到底至らなかった仮説。
だがこの肌を伝う不吉な感触は、その判断が間違っていないと知らせていて。
あの洞穴の奥の奥、探していた魔人ミルドレッドが確かにいるだろう。
魔人の目的はさておき、ひとまずグレンは手筈通りに周りを捜査している人員に連絡を取ろうとしたが、その手の動きは間もなく止められてしまった。
「――ああ、そう。ついに。ついに、この時が来てしまったのね」
「ロレッタ……?」
守るべき順序を無視して、どこか朧げな足取りで歩を進めるロレッタ。その行く先が例の洞穴だと気づいたグレンは、ようやく何が起こっているのかを把握した。
「おい、何やってんだ馬鹿! まずは連絡って打ち合わせ――」
「ミルドレッド……ミルドレッド……貴女だけは、私が。必ず」
「おいっ!」
グレンの制止も虚しくロレッタは走り出す。
止めようにも、どこにも術が見当たらない。
彼女の瞳は凍てつくように鋭く、そして危うい念を帯びていて。
「クソ……! どいつもこいつも自分勝手ばかりしやがってっ!」
刹那にして覚悟を決めたグレンは、少女の背が見えなくなる前に追うことにした。
デュランダル特別捜査隊としてソレイユ村に出向してきたグレンとロレッタは、聖域付近に潜伏していると思われる魔人ミルドレッド一派の対処に任命。一部のソレイユ戦士団の団員と共に山脈を捜索することに。
その間、エヴリンと次期六霊守護ジェナはルミナス山の頂に位置する聖域アルギュロスに向かうとのこと。
しかし驚くべきことに、グレンらが複数人でチームを組むのに対し、エヴリン側はたった二人のみで聖域までの険しい道のりを行くつもりなのだという。
魔人ミルドレッドの脅威についてはグレンも伝え聞いているところであったが、今回の魔素異常の元凶ともいえるアルギュロス内の魔素濃度は凄まじいはずだった。
脅威を分析すれば、そちら側も流石にたった二人では無茶ではないかと、グレンは人員の割り振りを再検討することを提言したが。
「名高き紅炎騎士の倅であっても、我が一族の秘に軽々しく踏み込めるとは思わぬことだ」
厳然たるエヴリンに届くことはなかった。
大した説明もなくエルキュールを隔離したことからも、よほど触れられない何かがこのアルクロットの地にはあるらしい。
邪推と疑念、そして義憤。身が焼かれるような激情を持て余しながらも、グレンはエヴリンの提唱した作戦に了承した。
問題解決への目途は立ったものの、アルクロット山脈は非常に広大だ。エヴリンが山の中腹に敷いた結界のおかげで魔人の潜伏場所は上層部に限られているとはいえ、捜索には人海戦術が必要だった。
アルクロット山脈を形成する主な三つの山岳のうち、ソレイユ村と聖域アルギュロスを擁するルミナス山はグレンとロレッタが担当。それ以外のブライト山とリュミエール山に関しては土地勘のあるソレイユ戦士団の面々が引き受けることとなった。
アマルティア幹部であるミルドレッドの捕捉を最大の目標としつつ、彼女が連れだった力の弱い魔物は遭遇するごとに処理していく。
本命のミルドレッドに関しては見つけ次第すべての人員に協力を要請し、徹底的に処理する手筈であった。
王都で対峙した砂の魔人ディアマントの戦闘力に鑑みれば、当然の措置だと言えよう。
これら作戦の要点を逐一確認しつつ、グレンとロレッタは雪降るルミナス山を懸命に踏破していた。
山麓と山腹に密集する林と天然の洞窟が複雑な地形を生み出す中層も、稜線を伝っていく上層のルートも何れも環境的に厳しく、戦士団の案内がなければ今頃は遭難していたことだろう。
魔法の才覚に乏しいグレンは、魔法で暖を取ることも一人ではままならない。
そんな彼は、今さらながらこの地の危険性と、共に旅をしていたエルキュールとジェナの有能さを痛感していた。
「……ねえ、グレン。寒いのなら寒いと言って。つまらない意地を張って倒られたらこっちが迷惑なの」
それは山脈のとある洞窟に入ってから暫くしてのこと。隣を行くロレッタからぞんざいに投げかけられた。
その刺々しい口調をグレンはいつものように軽くあしらおうとしたが、すぐに内容が妙に温かいものであることに気づく。
「貴方の銃大剣は戦闘用の魔法であれば補助してくれるのだろうけど、今のような状況とは相性が悪い。私にはぜんぶお見通しなの」
「……へえ」
ロレッタの言い分は正しい。置かれた状況の歪さも相まって、さしものグレンも冷静な判断ができていなかった。
とはいえ、彼女がそのような気遣いができるような人間だとも思っていなかったせいか、グレンは失笑を禁じえず。
案の定、ロレッタの顰蹙を買ってしまう。
「はあ……余裕ぶっていないで。いいから手を出しなさい――バーニング」
露骨に嫌な顔をしながらも、微調整した炎魔法を己の指先に灯すロレッタ。
そのまま空いた片方の手で、衣服に仕舞い込んでいたグレンの手を強引に火の前に翳した。
優れた魔素感覚のおかげで、適温に保たれたそれは容易くグレンの荒んだ心すらも温めてしまう。
「……そんな芸当ができたってなら、普段からオレにもあいつらと同じように接してほしいもんだ」
一回りも年齢の離れた少女に対しこの言い草はないだろうと、グレンは内心呆れていた。
長らく一人きりで旅をしていた身であるがゆえ、孤独には慣れていると自分では思っていたが。
どうやら、想定以上にエルキュールらの件が重く圧し掛かっていたらしい。
もしくは閉鎖的な場所、ロレッタと二人きりという状況が災いしたか。
グレンは何でもない様に装って、ロレッタから視線を外した。
「……ジェナたちと同じように、ねぇ」
そんな男の機微も知らず。ぽつり、ロレッタが静かに漏らした。
「それは無理な相談かしら……少なくとも、貴方が忘れている限りは」
本来ならばこの場だけに留めるべきではない、重要な意味が込められた言葉のはずだった。
しかし、グレンは。その追及をしなかった。否、できなかった。
「……おい、これは」
突然、ロレッタの手から燃え盛る炎が消失した。
風。それまで無風だった洞窟内に、突如として空気が勢いよく循環を始めたのだ。
原因不明のそれは徐々に逆巻いたり、停滞したり。やがては不自然な指向性を帯びていき。
流れの行きつく先を辿ると、仄暗い闇を湛える洞穴が奥に続いているのが見えた。
「まさか、誘ってやがるのか」
奇しくもあのミルドレッドが風魔法の名手だと知っていなければ、到底至らなかった仮説。
だがこの肌を伝う不吉な感触は、その判断が間違っていないと知らせていて。
あの洞穴の奥の奥、探していた魔人ミルドレッドが確かにいるだろう。
魔人の目的はさておき、ひとまずグレンは手筈通りに周りを捜査している人員に連絡を取ろうとしたが、その手の動きは間もなく止められてしまった。
「――ああ、そう。ついに。ついに、この時が来てしまったのね」
「ロレッタ……?」
守るべき順序を無視して、どこか朧げな足取りで歩を進めるロレッタ。その行く先が例の洞穴だと気づいたグレンは、ようやく何が起こっているのかを把握した。
「おい、何やってんだ馬鹿! まずは連絡って打ち合わせ――」
「ミルドレッド……ミルドレッド……貴女だけは、私が。必ず」
「おいっ!」
グレンの制止も虚しくロレッタは走り出す。
止めようにも、どこにも術が見当たらない。
彼女の瞳は凍てつくように鋭く、そして危うい念を帯びていて。
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