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第3部

第4話「ギリアンの雑貨店でバイザーを選ぶ顛末」

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 二階は雑貨店になっていて、バイザーは専用売り場が設けられていた。
 壁にかけられた手が届くバイザーは、いまぼくがかけているエッサール製がほとんど。価格も安いし、プラスチック製で軽いけど、性能はお粗末だ。ユリアとエレナは電飾タトゥーをパンクヘアの女店員に彫ってもらっている。ライラとルシアは大量のバイザーを見上げる。

「ぼく、あんまりバイザーに詳しくないんだけど」
「あたしもよく知らないよ。ルシアのはすげー無骨だけど、それどこのバイザー?」
「これハネウェルだよ、銃と連動するから、ウチの若いやつはみんなこれ使ってる」
「これ試せないかな……」とぼくは壁の商品を見上げる。

 振り返ると品出し中の店員が目に入る。短髪で眼球がレンズの男は店舗用の透明バイザーをかける。手を挙げると白いエプロンで手を拭って近づいてくる。

「バイザーが欲しいんですが、あんまり詳しくなくて」
「壁のは激安エッサール、ケースに入ってるのはコモドール、手が届かないところに飾ってんのはエスコムだ。貧乏人はエッサール、市民はコモドール、金持ってる自由民はエスコムってところだな。兄さんがつけてるのはエッサールだな。乗り換えるならコモドールでも十分だぜ」
「以前、アムストラッドを使っていたんですが」
「アムストラッドは置いてない、ボストクナヤでは超レアバイザーだぜ」
「PX9という型番です、似たようなのありますか?」
「そりゃレイヤードモデルだ。シャドウマウント機能が載ったテックバイザーだから、同じのは他のメーカーは作れないんだよ」
「そんないいやつなの?」
「同等のスペックがあるのはエスコムのR3か、コモドールの867だけど、シャドウマウントは無いよ」
「エスコム製はどれですか?」
「あの天井にある白いの」

 店員が指差した先に、見覚えのあるゴーグルがかかっている。ハルトがつけていたやつだ。ハルトは表面にマジックで眼を描いていた。五十年前のVRゴーグルみたいで重たそう。

「ゴーグルかぁ……もっと軽そうなのって、ないですか?」
「普通のバイザーなら867だね」

 ショーケースに並んだバイザーを指差す。カラーが八色あるバイザーで、ぼくが使っていたPX9に形状が似ているけれど、透明バイザーで見た目がかっこいい。店員がケースの鍵を開けて、黒のバイザーをぼくに渡す。かけてみる。867のスプラッシュロゴが表示され、ライラがぼくを見上げて「イケてんじゃん」と言う。
 電脳プロファイルを同期し、ライラに映像共有。エッサールの安物に比べて圧倒的に精細な映像だけど、アムストラッドに比べて色が薄い。

「これ、銃を撃てますか?」
「射撃制御は有料アプリにあるぜ。867は新製品だから値段も高い。俺ならR3にするね」
「R3は知り合いが使ってるんで、これにします」
「まいど、三千五百クレジットだよ」
「エッサールは下取りできますか?」
「それポンコツすぎて買い取り価格つかないんだ」

 ここの家賃三ヶ月分を支払って、以前よりグレードの落ちるバイザーを入手する。完全なデジタル映像ではなく、現実の光学映像を補完するバイザーだから、暗闇を見通すことはできない。

 ライラがぼくの股間を撫でながら「こっちの方が眼が見えていいね」と言う。ルシアがアパレルコーナーでハーネススーツを試着する。ぼくはドラッグ用の煙管キセルを選ぶ。ライラはシャドウマウントを吟味する。

 背の高い青年がユリアたちに声をかけて、大金をふっかけられて退散する。モヒカンの男がルシアをドラッグパーティーに誘うけど、店員が中指を立てる。アイリスヘアの女がライラをナンパして、ビキニパンツに手を入れて指を出し挿れする。ルシアがほとんど裸のような衣装を着て鏡の前でくるくる回る。大きな窓に雨粒が打ち付ける。またあの憂鬱な雨季が戻ってきた。
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