妹とそんなに比べるのでしたら、婚約を交代したらどうですか？

№8 新たな生活

「レイラ、今度の舞踏会への参加の件なんだけどさ」

「はい、ホルムズ様。如何なさいましたか？」


　時が流れれば新たな生活というのは生まれるものである。レイラ・ツインズ伯爵令嬢とホルムズ・ナイトメア侯爵の生活は、まさに新たな生活に該当していた。

　彼らは数日後に開催される舞踏会の出席について、話し合っているのだ。


「今度の舞踏会は君との初めての舞踏会になる……失敗のないように頼むよ？」

「畏まりました、ホルムズ様。私はホルムズ様の引き立て役に徹し、ホルムズ様の妻になる人物として恥ずかしくない行動を取ればよろしいのですね？」


　ハキハキとした口調でレイラは答えている。その姿勢を見るだけでも、ローラとの違いをホルムズは認識出来ていた。満足そうに笑みを浮かべる。

「くくくく、そういうことさ。君は自分の役目を瞬時に把握していて、実に頼もしいね。ローラとは大違いだ」

「……ありがとうございます」


　満足そうなホルムズとは裏腹に、レイラはあまり乗り気ではない様子だった。彼女の心情を考えれば当たり前ではあるが。この場合、ホルムズの方がおかしな精神をしてると言えるだろう。

　ローラとレイラを取り換えてから時間が経っていないにも関わらず、何事もなかったかのように日々を送っているのだから。レイラがどういう感情に支配されているかも、ホルムズは考えていなかった。

　そこまで話し終えると、レイラはホルムズの部屋から出て行った。

　そして、彼女が出て行ったのを見計らってから、同室で待機していた執事のジープがホルムズに話しかける。


「あの、ホルムズ様。お話ししたいことがあるのですが、宜しいでしょうか？」

「どうしたんだ、ジープ？　改まって」


　ホルムズは以前と同じく上機嫌だった。レイラという自らの理想的な女性が手に入ったのだから、当然と言えるかもしれないが……彼はワイングラスに酒を入れながら、ジープの言葉を待っていた。

「話してみろ、ジープ」

「はい、ホルムズ様。実は……レイラ様の仕事振りについてなのですが」

「仕事振り？　レイラのか？」


　何か問題でもあったのか？　と言わんばかりのホルムズの表情だ。彼女が去った後に言っていることからも、何か問題が起きているのか不安になったのだろう。

「何か問題でもあるのか？」

「問題といいましょうか……書類仕事などはソツなくこなしていらっしゃいます。特にその辺りは問題ないのですが……」

「ん？　だったら良いのではないか？」


　ホルムズはジープの言葉の意味が分からず、自然と怪訝な表情に変わっていた。


「レイラ様の仕事の速度なのですが……早すぎます。お教えした仕事についても、次々とこなしていくので、彼女は余暇の時間が増えておりまして……その余暇の時間で料理などを楽しんでいらっしゃるようです。料理に関しては以前から趣味だったようですが」

「ほう、そうだったのか。流石はレイラといったところだな……ローラとはワケが違う。それでこそ、私の妻に相応しいよ」


　ホルムズは深く考えていないのか、より上機嫌になっていた。ワイングラスの酒はいきなりなくなっている。

「ローラ様も、平均的な仕事量をこなすお方ではありました。しかし、レイラ様の場合は……」

　上機嫌になっているホルムズはジープの言葉を話半分でしか聞いていない。それを悟ったジープは、ホルムズの方が彼女について行けない可能性があることを言おうとして……唾と共に飲み込んだ。