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プロローグ
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稲妻が走る、とはこういうことだと思った。
咲き誇る花も、小鳥の囀りも、物憂げな表情で佇む君の前では全てが色あせて見えた。
海のように深い青の髪と、森のように濃い緑の瞳。人工の夕日がそれに少しオレンジを加える。照りゆく世界、でもそれですら彼女を引き立たせる脇役に過ぎない。
どれくらいこうしていただろうか。ふと気が付くと、もうすぐ沈む太陽と共に辺りが暗くなり始めていた。僕は自転車のハンドルを握ったままずいぶん彼女に見とれていたようだ。
す、と彼女が体の向きを変えた。どうやら帰ってしまうようだ。まるで日没とともに消えてしまうような哀愁を漂わせながら。
彼女が一歩、また一歩と遠くなってゆく。僕は立ちすくしたまま動けない。
でも、なぜか直感で分かった。もし僕がここで声を掛けなければ、この先の人生で彼女と出会うことは二度とないだろうと。
心臓が早鐘を鳴らす。とめどない焦燥感が湧き上がってくる。だけどそれはなかなか着火しない。また少しずつ、彼女は遠ざかってゆく。
でも、これでいいんだ。僕にはそんな大それた真似はできない。大体十七年間もまともに女の子と関わってこなかった僕が、気の利いた言葉の一つもかけれたもんじゃない。震えながらハンドルを握りしめる指の感触も、押し殺そうとするこの感情も、時が経てば青春の一ページになる。
じゃあ。じゃあ、なんで。
こんなにも胸が痛むんだよ!
気づけば僕は自転車のスタンドを立てることも忘れて放り出し、彼女のほうに走り出していた。もうすぐ完全に太陽が沈み切る。なぜだかわからないけど、それと同時に彼女に会えなくなるような気がして、もつれる足をそれでも必死に前へ前へと運ぶ。
「あの!」
僕は彼女の背中に声を掛けた。思ったよりも大きくなった僕の声と、同時に後ろで倒れた自転車の音で僕に周囲の人の視線が集まる。
耳の先が熱い、恥ずかしい、そんなにこっちを見ないでくれ、僕の頭はショート寸前だ。でも、振り返った彼女に、どうしても伝えなくちゃいけないことがあった。
「えーと、なんというか、こんなこといきなり言うなんてわけがわからないかもだけど」
だめだ、思考がまとまらない。彼女の瞳に見つめられて、言葉が上手く出てこない。でも、これだけは、今必ず伝えなくちゃダメなんだ!
「また、会えるかな?ここで、また、君と!」
長い沈黙。でもそう感じているのは僕だけで、本当は一秒にも満たない時間だったんだろう。彼女はゆっくりと口を開いた。
「会えるよ。また、ここで」
ぷつりと、太陽の光が消えた。それと同時に、目の前にいた彼女の姿も消えた。僕はしばらく放心状態だったが、はっと我に返る。
急激に暗くなってゆく街並み。街灯が一斉に道を照らす。周りを見渡しても、彼女の姿はどこにもない。帰路を急ぐ人たちの中で、僕も放り出した自転車の下へ向かう。
夢でも見ていたんだろうか。それとも幻覚か。でもこの網膜に焼き付いた彼女の姿が幻だというのなら、運命の出会いなんてものを信じられなくなりそうだ。カラカラと回る自転車の後輪を止め、起こす。あーあ、カゴが曲がってしまった。
夜風に吹かれながら僕は家を目指す。いつもと変わらない下校の風景。でもいつもより、ペダルを踏む足は軽やかだ。それもそうだろう、こんなにも感情が動いたことなど、今までの人生で初めての経験なんだから。
この胸の高鳴りは、まだまだ収まりそうにない。
咲き誇る花も、小鳥の囀りも、物憂げな表情で佇む君の前では全てが色あせて見えた。
海のように深い青の髪と、森のように濃い緑の瞳。人工の夕日がそれに少しオレンジを加える。照りゆく世界、でもそれですら彼女を引き立たせる脇役に過ぎない。
どれくらいこうしていただろうか。ふと気が付くと、もうすぐ沈む太陽と共に辺りが暗くなり始めていた。僕は自転車のハンドルを握ったままずいぶん彼女に見とれていたようだ。
す、と彼女が体の向きを変えた。どうやら帰ってしまうようだ。まるで日没とともに消えてしまうような哀愁を漂わせながら。
彼女が一歩、また一歩と遠くなってゆく。僕は立ちすくしたまま動けない。
でも、なぜか直感で分かった。もし僕がここで声を掛けなければ、この先の人生で彼女と出会うことは二度とないだろうと。
心臓が早鐘を鳴らす。とめどない焦燥感が湧き上がってくる。だけどそれはなかなか着火しない。また少しずつ、彼女は遠ざかってゆく。
でも、これでいいんだ。僕にはそんな大それた真似はできない。大体十七年間もまともに女の子と関わってこなかった僕が、気の利いた言葉の一つもかけれたもんじゃない。震えながらハンドルを握りしめる指の感触も、押し殺そうとするこの感情も、時が経てば青春の一ページになる。
じゃあ。じゃあ、なんで。
こんなにも胸が痛むんだよ!
気づけば僕は自転車のスタンドを立てることも忘れて放り出し、彼女のほうに走り出していた。もうすぐ完全に太陽が沈み切る。なぜだかわからないけど、それと同時に彼女に会えなくなるような気がして、もつれる足をそれでも必死に前へ前へと運ぶ。
「あの!」
僕は彼女の背中に声を掛けた。思ったよりも大きくなった僕の声と、同時に後ろで倒れた自転車の音で僕に周囲の人の視線が集まる。
耳の先が熱い、恥ずかしい、そんなにこっちを見ないでくれ、僕の頭はショート寸前だ。でも、振り返った彼女に、どうしても伝えなくちゃいけないことがあった。
「えーと、なんというか、こんなこといきなり言うなんてわけがわからないかもだけど」
だめだ、思考がまとまらない。彼女の瞳に見つめられて、言葉が上手く出てこない。でも、これだけは、今必ず伝えなくちゃダメなんだ!
「また、会えるかな?ここで、また、君と!」
長い沈黙。でもそう感じているのは僕だけで、本当は一秒にも満たない時間だったんだろう。彼女はゆっくりと口を開いた。
「会えるよ。また、ここで」
ぷつりと、太陽の光が消えた。それと同時に、目の前にいた彼女の姿も消えた。僕はしばらく放心状態だったが、はっと我に返る。
急激に暗くなってゆく街並み。街灯が一斉に道を照らす。周りを見渡しても、彼女の姿はどこにもない。帰路を急ぐ人たちの中で、僕も放り出した自転車の下へ向かう。
夢でも見ていたんだろうか。それとも幻覚か。でもこの網膜に焼き付いた彼女の姿が幻だというのなら、運命の出会いなんてものを信じられなくなりそうだ。カラカラと回る自転車の後輪を止め、起こす。あーあ、カゴが曲がってしまった。
夜風に吹かれながら僕は家を目指す。いつもと変わらない下校の風景。でもいつもより、ペダルを踏む足は軽やかだ。それもそうだろう、こんなにも感情が動いたことなど、今までの人生で初めての経験なんだから。
この胸の高鳴りは、まだまだ収まりそうにない。
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