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間話

10,5.騎士団員ガーベル

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 俺の名前はガーベル・ドライディア。
 ファクトリア家に従う騎士団員だ。

 もう仕え始めて2年になるし、その前も王国騎士団で働いていた。
 だから人を見る目には多少自信がある。
 しかしあんなヤツを見たのは初めてだった

 噂で聞くには全裸で草原にいきなり現れたらしい。
 怪しさ全開だ。

 しかし、そんな奴にも関わらず団長はそのヤツを養子に迎えると言いだした。
 団長は甘い人だ。訓練中はそれこそ鬼のようだが、困っている人を見れば問答無用で助けてしまう。
 俺は奴が怪しくて心配だったが団長の指示だから、と黙っていることにした。
 もちろん、奴が団長の優しさに漬け込もうとすればそれこそ殺す気でいた。

 そんな中ヤツは領主様に呼ばれ、なんと領主様の子供に魔法を教えることになったらしい。
 領主様の子供といえば王都でも評判が伝わるほどの聡明で美しいエミリア様がいる。
 おかしい。何か奴には裏があるに決まっている。
 もしかすると隣国の暗殺者かもしれない。

 だから俺は奴の部屋を捜索することにした。
 昼からエミリア様を教えに出かける時を狙って。


           ーーーーーーーーーー


 ここが奴の部屋か。
 意外と片付いていた。
 いや、これは好印象を与えるためにやっているに違いない。

 む?机の上のこれはなんだ?
 書物に謎の文字が書かれている。
 この国のものではないな。
 隣国とのやり取りに使う暗号か何かか?
 ますます怪しい。

 そして隣のこれは....なんだ?
 中の黒い物体を囲うように周りを土で固め、先を尖らせている。
 よくわからんな。針か?
 怪しい。もしかすれば毒かもしれない。

 そして近くにはパン...だな。
 パンが少し黒い。こんなとこに置いているから腐ってるではないか。

 そして机の上には、真っ直ぐな棒に、布の袋がある。
 布の袋にはさっきの黒鉛入り土棒が入っている。
 奴は何がしたいんだ?

 おっと、そんなことはどうでもいい。
 証拠を探すのだ。
 この引き出しとか怪しそうだ。

 む、これは像か?なんの像だ?
 見たことのない物だ。
 真ん中に太い棒があり、両脇に翼らしきものがある。後ろはなんか複雑になっているな。
 何かは分からんが相当上手い事が分かる。
 暗殺者だから手先が器用なのか?
 怪しい。
 何か暗号を意味しているのかもしれない。

 む!
 そしてその下に隠してあるのは紙だ。
 まさかこれが機密文書か!
 何が書いてあるんだ!?

 ......................これは!!!!

 コツ   コツ  コツ

 !?奴の足音だ!帰ってきたのか!
 仕方ない、窓から逃げるとするか。


        ーーーーーーーーーーー


 帰ったら部屋が荒れていた。
 大方俺を怪しいと見た騎士団員の誰かだろう。
 いつかは来ると思っていたが。
 なんせ俺は怪しい奴だからな。
 誰もが認めるところである。

 机の上を見るとこの世界で作った鉛筆と消しゴムの代わりのパンが所定の場所から動いている。
 定規と筆箱もだ。

 まったくこの世界には筆記用具を整えるという概念はないのか。
 ガサガサな紙にすぐ滲む羽ペン。
 書きにくいったらありゃしない。

 そこで作ったのが筆記用具セットだ。
 ちょっと本物と違うが楽になった。

 そして騎士は日記に書いてある日本語は分からなかっただろう。
 日記だから読まれたくない。
 他にも読まれたくないものは全て日本語で書いてある、

 おっと引き出しも空いているな。
 だとしたら飛行機の模型の他にあの紙・・・も見ているはずだ。

 そこには
 「記憶喪失のおかげで困惑と不安な毎日だけどガドと領主がやさしいおかげで安心して暮らせる」
 といった事が綴られた日記を置いている。

 引き出しの、それも模型の下に隠すようにある日記。
 騎士はそれを見て満足するはずだ。
 デス○ートを見ていて良かったぜ。
 


             ーーーーーーーーーー



 今日の昼時にやはり騎士のガーベルさんが謝ってきた。
 疑った自分が恥ずかしい。許してくれ、だってさ。
 ふふふ、貴方は俺の罠に引っかかったんだよ。
 なんて言わず許してあげた。
 あながち間違ってないし。

 しかしこれで俺の株は上がり、楽しく平和に過ごせることだろう。
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