12 / 22
フェーズ1
9.メイド長
しおりを挟む「今日限りで辞めさせていただきます」
「・・・・え?」
目の前のメイド長は自慢のメガネをずらすほど驚いた。目は見開いている。
「な、何言ってるのユリエちゃん!?」
「メイドをやめて旅に出たいと思ってます」
「ええ?急に」
召喚された時、「勇者」にはなれなかった私を馬鹿にすることなくメイドの道へと誘ってくれたメイド長。異世界の文化になれない私を気遣ってくれたのもメイド長だった。
彼女には大恩があり、そしてだからこそ彼女には一番に伝えたかった。
「一緒に行きたいと思う人ができた」と。
「メイド長にはせっかくお世話になったのに勝手にしてごめんなさい。でも私....」
頭を下げた私をメイド長は手で制した。
そして深いため息をつく。
「はぁ.........何言っているの。あなたが謝ることは何もないじゃない」
「でも」
「顔をあげなさい。あなたが頭をさげるのは似合わないわ。それに、あなたがいつかここを出ることは感じていたもの」
「え・・・?」
驚いて顔を上げる。するとメイド長は柔らかく微笑んだ。
「一緒に行きたい人が見つかったのでしょう?最近のあなたはとても輝いて見えた。ここにいてはその輝きがくすんでしまうわ。あなたという人間は輝いてなくてはいけない。
だからーーーー行きなさい」
「メイド長.......!」
この人は本当に最後までーーーー
「で、その相手は誰なの?」
「え?」
「もちろん男性なのでしょう?まさか勇者かしら?いいえ、勇者なんかハヤトが許さないわ。ならばーーーーーまさかあの魔剣士!?」
「め、メイド長?」
「私の大事な大事なユリエちゃんが取られるんだからこれぐらいいいでしょう?」
メイド長は悪戯っぽく笑う。そう言われると何も言えない。
「どこまでいったの?」
「なっ!?」
不意打ちに顔が赤くなるのを感じる。
「まさか何もしてないの?どっちも消極的ねぇ....」
「そ、そういう関係じゃありませんから!」
「あら?あなた訓練室の前を通りかかる度に彼を物欲しそうな顔で見つめているわよ?」
「え!?」
確かにゆうまくんの姿は探していたけど。さ、さすがに物欲しそうな顔なんてさすがにーー
「寝言でも『そんなところ触っちゃダメですっ、ああっ!ゆうまく...』」
「ストップストップストップストップ!!」
「あら?」
絶対私が出て行くこと根に持っているよこの人。
「・・・さっさと彼の体も心も射止めちゃいなさいよ?どっかの女に引っかかる前に」
「わ、わかってますよう」
ニヤニヤと見てくるメイド長。そういえばこの人いい性格していたんだった.....。
「メイド長も早く殿方を見つけてくださいね」
このままやられっぱなしじゃあ何か嫌だったので相手のいないメイド長(30)にそう言ってみると
「ああ?」
メイド長から元ヤンへと変貌したのでそれ以上はやめておいた。
「ふふ、まあ、冗談はこの変にしましょうか。大事な話があります」
急に雰囲気が切り替わった。
なんだろうか。
「ーーーーこの国のことです」
☆☆☆
メイド長の部屋を出て出発の手続きを簡単にすませると、私はゆうまくんの部屋へと向かう。
今日メイドをやめたため、出発するまでゆうまくんの部屋で泊まりだ。
「..........!」
そう思うと、何か無性に体が熱くなってくる。だけどあくまで私とゆうまくんの関係はそういうのじゃない。
「ふぅ.....」
私は心を落ち着ける。このままじゃ部屋に入るなり襲ってしまいそうだ。
落ち着け私。
「あれ?ユリエ何してんの?」
そんなところへゆうまくんが顔を出した。
体が猛烈に熱くなり、本能が暴走するーーー前になんとか理性で押しとどめる。
「いえ、なんでも?」
「そう。てか服変えたんだ」
メイドをやめたから当然服は私服。召喚された時に着ていた以来、一度も着ていないきれいな服だ。
「メイドやめましたから」
「あ、そっか。服、似合ってるよ」
「・・・・」
ああ、嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!!
だけどゆうまくんにはこんなことで喜ぶ私なんか見せたくない。
「ありがとうございます♪ふふ」
ごまかして笑みを浮かべる。ゆうまくんもそれにつられて笑ってくれた。それを見るだけでもう今日1日は最高の日だ。
これからこの城を出て、毎日この笑顔を見れるなんてーーー
あ、そういえば
「そういえばメイド長から伝言がありました。"王子"にご注意ください、と」
「王子?・・・・ああ。なるほど」
ゆうまくんは苦い顔で遠くを見つめる。王子といえばゆうまくんの部屋を行ったり来たりしてる変な人だ。
ちなみにこの国の王族は全員変な人だけど。
「それで、ゆうまくんはもう他の人に挨拶したんですか?」
ああ、早く部屋に入ってゆうまくんの匂いを堪能しながらごろごろしたい。
「あ、忘れてた。今から行ってくるよ」
「え?今からですか?」
それは私に部屋を堪能しろということですね?
「では行ってらっしゃい」
「なんか淡白だな。まあいいか。じゃあさっさとやってくる」
そう言ってゆうまくんは行ってしまった。
・・・ではさて。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ユリエ視点でした。
次回から平常運転に戻ります。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。
山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。
異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。
その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。
攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。
そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。
前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。
そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる