Level2から始まる召喚魔剣士の異世界成り上がり冒険記

みずうし

文字の大きさ
13 / 22
フェーズ1

10.旅立ちの日に

しおりを挟む




 いよいよ出発の日になった。
 すでに旅の準備は終わり、ハルヒトらにも挨拶を済ませてある。なんだか名残惜しそうにされて、最後は泣きながら「辛かったらいつでも頼ってくれよ」と抱きつかれた。俺は子供か。
 
 そして、部屋に泊まったユリエからの誘惑に耐えつつ眠れない夜を過ごし、朝に至る。おかげで目の下に隈が.....。

 「おはよーございます」
 「お、おはよ」

 目をこすりながらユリエは今にでも二度寝しそうだ。そして普段がしっかりしている分、そのなんだか抜けているようなギャップが。つまりヤバイ。

 「ーーえっ、な、なんで壁に頭打ち付けてるんですかゆうまくん!?」
 「自重です」


 まあそんなこともありながら、誰か王子に絡まれることもなく部屋を出た。



 ☆☆☆



 「おーーーーい!」

 2人静かに長い廊下を歩いていると、呼びかけてくる声が聞こえた。ちなみに誰かさん王子に絡まれたくないから早朝の出発である。
 振り返ってみると、いつかのハヤトさんが駆け寄ってくるのが見えた。例の召喚以来見かけもしなかったが、今更何用だろうか。

 「ユウマと言ったな。俺が世話を見てやれなかったせめてもの餞別だ。受け取ってくれ」
 「・・・・!?」

 な、なんだとっ!普通同郷とはいえ関わることのなかった奴になんて餞別なんかするだろうか。いやしない。
 簡単に言うと、この人超イケメン。

 俺は戸惑いながら袋を受け取る。中には何か入っているがここで開けないのが礼儀だろう。

 「困ったら冒険者ギルドに俺の名前を出してくれ。できる限りのサポートはすると約束しよう。同じ日本人のよしみだ」

 そう言ってにこりと笑うハヤトさん。負けじと俺も微笑み返すが笑みの純度が違う。ハヤトさんは120%、俺は30%の合金製だ。

 しかし、その120%スマイルハヤトさんは、さっきからユリエの方をチラチラ見るのはなんなんだろうか。
 まさか、この人。狙ってんのか?ぜーったい渡さないぞ。

 そんな俺の本意を気にもしないでハヤトさんは一言ぼそりと言った。

 「・・・お前も無理はするなよ」

 「わかってます。あなたこそ上に振り回されてまた胃を壊さないでくださいよ?」

 中身の割には冷たく言い放つユリエ。上辺だけ心配している風を装っている。

 しかし、それ以上に気になるのが.....。
 なんかこの2人知り合いみたいだし、それも元彼元カノ的な雰囲気出しちゃってるよ。

 「「・・・・」」

 「行きましょうゆうまくん」
 「え、うん」
 「体に気をつけるんだぞ!」

 手を引かれてハヤトさんと離れてしまった。
 なんだかユリエはハヤトさんに対して怒っているみたいだ。ますます元恋人説が有力になる。

 「知り合い?」
 「・・・昔お世話になった人です」

 それって元彼?
 なんて俺の口から言えるはずもなく。

 「そっか」

 としか言いようがなかった。まあユリエは可愛い。そりゃもう天使のような可愛さだ。だからこそ元彼なんていてもおかしくはないんだけど....うーん。

 「まあお兄ちゃんなんですけどね」
 「・・・へ?」
 「だからお兄ちゃん」

 ・・・・え、ええ、えええ?

 まさかのそっち身内

 ちょっとホッとした。
 

 ☆☆☆


 「待っていたぞ愚民!」
 「グハハハハハ!待ちくたびれましたな!」

 城を出ると騎士を数名引き連れた王子がニヤリと笑って待ち構えていた。
 最悪だ。こいつと出会わないために早朝に出たのに。コイツ俺のこと大好きかよ。だが残念、俺は大嫌いだ。だから早く散れ!

 「城を出るのだろう?ならば私からも餞別をくれてやろう!」
 「え?」

 あれ?思ったよりいい人?
 なんて思いは次の瞬間に覆される。

 「痛みという名の餞別をな!体を持って味わうがいい!グハハハハハ!!騎士よ行け!!」
 「ガハハハハハ!!」

 やっぱりクソ野郎だった。徹頭徹尾、終始一貫。逆に最後までクソ野郎で清々しいぐらいだ。

 「「「「うおおおお!!!」」」」

 王子の命令に応じて5人の騎士が向かってくる。手に持つのは真剣。殺す気満々である。

 「ユリエ、下がってて」
 「1人で大丈夫ですか?」

 はっきり言って「たぶん無理」だが、まあ3回ぐらい死ねばなんとかなるだろう。
 そんなことを思っている間にも接近してきた騎士は真剣を振り上げ、そして俺の脳天めがけて振り下ろす。

 が、ご存知の通り俺は避けるだけなら得意なのだ。
 振り下ろされた剣を瞬時に横に跳びのき躱す。そして手持ちの木刀で隙だらけの騎士を打った。
 鈍い音がして騎士が倒れる。案外、強い騎士じゃないのかもしれない。

 しかし、肝心なことを俺は忘れていた。騎士は5人いることを。そしてその4人もまた斬りかかってきていたことを。
 つまり、俺は1人倒してホッとしていたのだ。

 「覚悟!」
 「!しまっ」

 た、まで言い切らず背中を斬られた。手入れされていた真剣は俺の肌を簡単に斬り裂き、そして俺の胴を簡単に貫く。
 後ろから斬られ、前から刺された俺は痛みを感じる暇もなく、壮絶な熱さだけを感じて絶命したーーーー

 が、復活。

 「痛いわこのやろう!」

 「「「「は!??」」」」

 即座に起き上がり、ポカーンとしている間に騎士を木刀でめった打ちする。

 「呪霊!」

 ついでに幽霊も召喚。誰にも見えない幽霊は光を帯びて登場し、我に返った騎士たちを後ろから殴りかかった。ドゲスである。

 さて、ではいくら騎士といえども後ろから見えない奴が殴りかかったらどうなるか。
 もちろん気絶する。
 これぞ幽霊を十分に生かした戦法「背後霊」である!
 え?名前?イカしてるでしょ。
 
 「なっ!どうなったのだ!?い、今のは一体!?」
 「き、貴様死んだはずじゃ」

 バタバタと倒れた騎士たちを目にして王子は見事にうろたえていた。
 残っているのは王子とその側近のおっさんのゲルマンとやらだけだ。

 「はは、何が起こったんだろうな?」

 そして俺は手を出すことなく王子の近くにいるいかついおっさんも幽霊に奇襲させ、気絶させた。
 うひょー!!幽霊超つえーじゃん!

 「ゲルマン!?お、お前なにをーー」

 「・・・さて、形勢逆転だな?」

 王子の顔が青くなる。味方が誰もいなくなったことに気が付いたのだろう。

 「あ、あ、あ!ハハハハハ!私は王子であるぞ?何ができるというのだ?手を出してみろ、すぐに王国が敵に回るぞ?」

 ここぞとばかりに王子の特権を使用してきた。
 確かに俺は何もできない。王子に手を出したら指名手配ものだからな。
 だから、「俺」はなにもしない。

 「幽霊、そいつをしばり上げろ」

 命令通りに幽霊は王子をひっ転がして地面に抑えつける。

 「な、なにをする!?私にこんなことをしていいと」

 「はあ?俺はなにもしてないぜ?」

 「な、なにもしてないわけが.....」

 しかし実際俺はなにもしていない。見えない何か・・・・・・が勝手にやってるだけである。だから別にアウトじゃない。ヘッドスライディングのギリギリセーフなのだ。

 「よし、じゃあ王子?お返しだ」

 幽霊が体をきつく締め上げ、王子は悲鳴をあげた。しかし、こいつを助ける奴はもういない。いたとしても助けないだろう。日頃の行いの結果だ。

 「あがっ、クソガッ!覚えてろよ!この仕返しはどこに逃げようと必ず見つけ出して嬲り殺してやるからな!」
 「はいはい。できるならやってみろよ?」

 適当に返すと王子は悔しそうに顔を歪める。そしてあろうことかユリエに目をつけた。

 「グハハ、私は忘れないからな!いつか絶対お前の眼の前であの女も殺してやる!その時泣いて喚くが」
 「幽霊、折れ」

 「あ?あ、ああああああああああ!!!」

 ポキッ、という音とともに王子が壮絶な悲鳴を上げた。
 俺だけならまだしも、ユリエは関係ない。そんなやつを殺すと言っているのだ。

 「言った分の覚悟はできてんだろうな?」

 「あ、あ、あ、だ、黙れ!私がこの世で一番偉いのだ!衛兵!誰もいないのか!さっさとこの男と女を」
 「折れ」

 「ああああああああああ!!!」

 再び骨が折れ、悲鳴が響く。

 「ゆ、ゆうまくん!!」
 「・・・わかってる」

 さすがに人道的にヤバイのは理解している。
 だから最後の通告だ。

 「いいか?今後一切俺らに関わるな。そして、心を入れ替えろ。いいな」

 さすがに懲りたのか、俺の言葉に王子は勢いよく顔を縦にふる。

 「よし、そんじゃあ」

 俺は木刀を振りかぶった。王子の顔が青く染まり、ユリエが制止してくるが関係ない。
 俺は勢いよく木刀を振り下ろしーーーー

 ーーー寸止めで止めた。
 王子は振り下ろす前からすでに意識を手放し、泡を吹いていた。ただ、ビビっただけだ。結果的に俺は何もしていない。何かする気もない。
 同時に、気絶していた騎士たちが何人か起き上がってきていた。

 「あ、ちょうどいい。こいつ縛って吊るし上げといてくれよ」
 「「・・・は?」」
 「恨みあるでしょ?」
 「「承知!!」」

 最後はささやかな仕返しをして王子とのけじめをつけた。
 騎士たちもお疲れさまだ。仕方なく従っている感はプンプン出ていたからな。彼らを責めるのは御門違いというやつだ。

 なんで王子は俺に突っかかってきたのか最後までわからなかったが、これで万事解決。もう流石に絡まれることはないだろう。流石に懲りたはずだ。

 「もうゆうまくんやりすぎです!」

 そして俺も懲りた。拷問みたいで精神磨り減るわアレ.....。
 そして確かに幽霊は便利だが、使い方次第では危ない。自重しなければ・・・。

 「相手はいくらクズだとしても王子ですよ?これから面倒なことになるじゃないですかー!」
 「・・・そっちなんだな」

 そっちでした。

 「わかってるんですかー!?」
 「・・・わかってるって」
 「もー!」

 そんな会話をしながら俺たちは歩き始める。
 そう、王子を懲らしめてもまだ終わりじゃない。これからが始まりなのだ。

 街は眠りから覚め、徐々に起き始める。まるで俺たちの門出を祝うように明るくなり、無意識に足を速めてしまう。

 そして、空には未来を明るく照らすような朝日が昇っていたーーー





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一章完結。
更新遅くてすみませんでした!来週からは少し早くなると思います!
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

処理中です...