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フェーズ1
幕間 兄
しおりを挟む「体に気をつけるんだぞー!」
俺の言葉を無視するごとく、男の手を引っ張って我が妹は行ってしまった。
そしてその瞬間、強烈な脱力感と虚無感が俺を襲った。
「ああ、ついに兄離れしてしまった....」
いつまでも「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」と頼ってくれると思っていた妹。異世界にやってきた時も勇者になれなかった妹のために俺は必死に頑張った。そして折角「勇者総括長」の役割を与えられたというのに。
それなのに。
それなのに妹は冷めた目で俺を見るようになった。声をかけるたびに無視され、虫を見るような目で見られたこともある。そして今回は俺に一言も告げず城を出る始末。
なぜだ。
なぜなんだっっっ!!!
確かに心配になって1時間に一回ぐらい声をかけたのはあるかもしれない。確かにメイド長に監視を申し付けたのもあるかもしれない。確かに秘密裏に護衛部隊を作ったのもあるかもしれない。
でも、それが兄妹愛だろう?
「いや、流石にそれは・・・」
「なぜだハルヒト!?俺は妹のことを思って」
「思いすぎて重すぎます」
ハルヒトに一蹴された。
ハルヒトというのは今期勇者の中でもトップレベルの期待の星だ。俺の後任候補といってもいいだろう。
そして同時に絶大な信頼を置いていた。
しかし返ってきたのはまさかの返事。なぜだっ!
「だってハヤトさんも親に監視されて護衛されてどこまでも介入されたら嫌ですよね?」
「嫌だとも。しかしそれが何の関係があるんだ?」
「え?い、いやそれと同じじゃ」
ハハーン。こいつは兄の心配と親の心配を一緒にしているな?
「俺は兄だぞ?妹に最も近く、そして信頼されている。そんな兄が心配しなくてどうする。核心に触れることのできない親の心配とは一歩上をいっているのだよ上を!」
そう言うと何故かハルヒトは顔を硬直させていた。ふん、わからん奴だ。
ハルヒトは能力もあるし人当たりもいいが、なにぶん勘が悪すぎる。これからの改善点だな。
「あー、どうしよう」
俺の素晴らしい力説に動揺したのか、ハルヒトは目を泳がせると、ある一点で目を留めた。
「あっ、梨花さんこっち!こっち!」
必死で呼ぶハルヒト。どうやら俺の言葉をもっと広めたいようだ。
「ふふ、梨花。お前も俺の言葉を聞きたいか」
「いいえ全く。総長の話妹絡みすぎてキモいですから」
「なっ!!」
山形梨花。ハルヒトと同じ第8期勇者の1人で、彼女もまた飛び抜けた実力を持つ。
さらに容姿も美麗で、隣国の王子までもが興味を持っているとの噂もあるほどだ。
が、淡々とした言葉にその毒舌が混ざって心をノックアウトされた男たちは数知れず。
綺麗なバラにはトゲがあるというのは本当らしい。
「どこがキモいんだ!?兄が可愛い妹の話をして何が悪い?」
「だからその『可愛い』とかいつも言う『天使』とかが気持ち悪くて吐きそうです帰っていいですか?」
雷を受けたような衝撃だった。
梨花はトゲはあるものの、ごく一般的な考えを持つ。その梨花がキモいと言っているのだ。
俺はキモかったのか......。
「はっ!だから妹もーーー」
「とても嫌がってましたね。お兄ちゃんのこと」
「ぐぁぁぁああああ!!!!!」
俺が全て悪かったのか!今もどこがキモいのかはよくわからないがともかく改善しよう!
再び妹に頼られるように!!
・・・・・
・・・
「・・・そうか、妹はもういないんだったな」
今更思い出した。妹はあの男に持って行かれたんだった。よくわからない、魔剣士の男に。
「ハルヒト、確かアイツはお前と親しかったな。どんな奴なんだ?」
"アイツ"ときてピーンときたらしい。ハルヒトは何かを確かめるように口を開いた。
「あー、彼はなんと言えばいいか。簡単に言うと、『いいひと』で『わるいひと』ですね」
・・・は?
何言ってんのコイツ。
「ハルヒト、大丈夫?」
「大丈夫ですよ梨花さん。えーとそうですね、彼は良い人すぎるんですよ。実は地球でも一度見かけたことがありまして。
確かあれは雨の日のことで、その日悪いことがあった僕は肩を落として駅の改札を歩いていたんです。
そして悪いことにつまづいてこけちゃいまして。人が多い駅だったから当然人目が集まって笑われちゃうじゃないですか。
悔しいなぁと思ってそれに耐えていると、突然改札でもっと大きな笑いが起きたんです。僕の転倒を忘れさせるような。
何かと思えば彼が改札で捕まっていたんです。改札の扉に。
「あれ?なんで通れない?なんでなんで?」「兄ちゃん、お金が足りねえぞい」なんてずっとやっていて。
あれには救われました僕。たぶんわざとやってくれたんですよアレ。僕への関心を自分に向けるために。
自分を犠牲にしても人を助ける。だから『いいひと』で『わるいひと』なんですよ」
「「へ、へー」」
ハルヒトを助けるためにわざとなあ....。
ん?
「それ違うだろ!??」
絶対ハルヒトの思い込みだろ!たまたまだろ!お前どんだけポジティブなんだ!?
「だから彼が妹さんを決して邪険に扱わないと僕が保証します!それにちゃんと王子の魔の手から守ったみたいですし!」
「ああ、その件はそうだな」
あの後王子殺したろか思ったわ。
しかしこのハルヒトにそこまで言わせる男か。
それに、認めたわけじゃないが、妹のことを王子の件で黙認せざるを得まい。
あの時、妹を守ったのは俺ではなくアイツだったのだから。
「ふっ。そうだな、妹が選んだ道だ。兄がとやかく言うものでもないか」
「ハヤトさんがそれ言います?」
「はは!何も言う。さあ、さっさと訓練の続きだ!びしばし鍛えてやるぞ!」
早速訓練の続きを再開する。
そんなときでも止まることなく目から涙が出てくるがそんなのどうでもいい。
だって妹の兄離れだ。祝わなければ!
確かに寂しい。しかし喜ばしいことでもあるんだ!
「頼んだぞクスノキユウマ」
俺は、空に向かってそうつぶやいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次回から2章です
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