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フェーズ2
13.狂信者
しおりを挟むさて、宿探しということで大通りをあちこち歩き回った結果、結局大通りに面した小さな宿屋に落ち着いた。
安くもないが高くもない。綺麗でもないが汚くもない。可もなく不可もなく。まるで俺みたいな宿屋だ。
一週間の連泊食事付きで銅貨3枚(3万円)というリーズナブルな値段も決め手だった。まあ地球での話でこちらではそれが一般的らしいが。
案内された部屋はベッドと丸机が1つあるだけの、「え?宿屋ですが何か?」と機能重視の部屋だった。
うむ、俺は嫌いじゃないぞそういうの。好きでもないけどなっ!
もちろん、ユリエとは別々の部屋である。
「さて、じゃあ第一回これからどうするか会議~~!」
「わ~~♪」
パチパチパチ。小さな拍手が部屋に虚しく響く。俺の部屋に集合して(2人だけだけど)、これからを決める大事な会議である。
決しておふざけなんてしてはならない。
「ところでゆうまくんってネーミングセンスが皆無ですね」
「・・・っ、何もっ、言うなっ・・・」
「なんでカッコいい風に言ってるんですか!」
ケラケラケラ、と2人で笑う。始まって5秒でふざけた。
「でもこれからなんて大体決まってるようなもんじゃない?」
「そうですね、依頼達成して、お金を貯めて、色んな所を2人で回りたいですね♪」
「う、ううん」
でも案外お金はすぐにたまる気がする。あのウルフ討伐を毎日やれば一週間で銅貨2枚×7で14枚。宿代が3枚×2だから一週間で銅貨8枚分の貯蓄ができるのだ。
もちろん、冒険者ランクが上がれば高額の依頼も受けてもいい。なんせ俺は死なないからな。
「ではひとまずそういうことにしましょうか」
「うん、お金を貯める。しばらくはこの街で作業の繰り返しになりそうだな」
一応安定した職....なのか?
でも一週間で14万円は地球ではなかなか考えられなかったお金。もしかして俺キテる?
なんて思ったら死亡フラグなのである。
「では、おやすみなさいゆうまくん♪」
「おやすみ」
第一回これからどうするか会議は何事なく終了し、ユリエは隣の部屋へ戻っていった。
俺の部屋にユリエのいい匂いの残り香が漂う。
「・・・そういえば風呂屋に行ってきたらしいな。俺も行ってみるか」
今思えば服がウルフのヨダレ臭いんだった。
☆☆☆
異世界の夜の街は明るい。光を貯めるなんちゃら石のおかげで街は明るくライトアップされているのだ。だから人も案外多く行き交ってたりする。
だから当然。すれ違う人々にめっちゃ嫌な顔された。
・・・そんなに臭かったのかあああ!!??
まずい、さっきユリエと普通に話してたぞ。宿屋に帰ったらあだ名が「ヨダレ野郎」になっていたらどうしよう。変態みたいじゃないか。
俺、万事休す。
とか思ってる間に風呂へ到着。
「へいらっしゃい!風呂なら礼札5枚だぞ!」
「はいよ」
「らっっっしゃあああああああいいいい!!」
うるさいな!!!ハイテンションか!なに?商店街の親父ってみんなこうなの!?
うんざりしながらお風呂に入り、匂いをさっぱり落とした。
風呂屋を出ると、随分と人手が少なくなりつつなっている。体感的に今は午後の10時ぐらいだろうか。長風呂しすぎた。
さて、湯冷めしない内にさっさと宿へ戻ろう。
足を大通りに向け、歩き出す。
そんな時、いきなり道行く人に肩を掴まれた。
「そこのあなた」
「はい?」
振り向くと黒い修道服を着て聖典らしきものを持ついかにもヤバめのオジサンがギロリと俺を睨む。
出会って5秒で威嚇だ。
「どうやらお困りのようですね。それもそのはず。貴方がティエラ様を信じていないからなのです!ティエラ様は崇高で我らの事を見守ってくれる方。そんなティエラ様を信じていれば貴方のように困ることもなくなるのですっ!!!!」
「は、はあ.....?」
「だから今こそ貴方もティエラ様を信じるのです!彼の方は必ず我らを救ってくださるのだからっっっ!!!」
「・・・・・・」
マジでヤバイ人だった。全然この人救われてないじゃないか。ティエラ様仕事しろよ。
あまりのアブなさに俺が後ずさりすると、オジサンは容赦なく俺の肩を掴む。
「さあ、あなたも何処ぞの邪教から足を洗ってティエラ教へと改宗を!!!さあっ!!!それとも何か?まさか断るなどとーーーー」
「あー、詳しい話はまた後日に」
「後日!?いつですか!?ティエラ様は約束を守らない者には絶対的な天罰を下しますぞ!!さあ、何日に話をするのです!!??」
オジサンの目が逝っている。危ないやばい。生きて帰れるかな、俺。
そんな俺をブンブンオジサンは揺さぶり、決して離そうとしない。
しかし俺が力技を使ってお尋ね者になるわけにもいかない。ぐぬ、詰んだ。
そんな時、予想外の事が起こった。
「ーーー離してあげなさいよ。どう見ても嫌がってるでしょーが」
「・・・・?誰だね小娘」
オジサンがギロリと横を向いた。
そこには金色ツインテールの女の子。背は低いが体から滲み出るオーラはまるでライオンのようだ。子供の。
「聞こえなかったようだからもう一度言ってあげるわ。離してあげなさいよ、その人」
「はあ?小娘が誰に向かって言っている!?口の開き方もわかr」
「小娘じゃないわよ!!!」
女の子はいきなり怒鳴ったかと思うといきなりオジサンをぶん殴った。拳はオジサンのほおにクリーンヒットし、華麗にオジサンは吹っ飛んでいく。
ワー、手が早~い。
「ふん、ティエラティエラ鬱陶しいのよ」
女の子は殴った手をぱっぱと払うと、呆然としている俺を一瞥した。
「あんたも何かやり返しなさいよね」
「はあ、ごめんなさい」
・・・なんで謝ってんだ俺?
てか違う違う!お礼だお礼!
「あ、助けてもらってありがとう!おかげで助かったよ」
「・・・別にあんたを助けたわけじゃないわ。ただティエラうるさい宗教野郎にムカついただけよ」
女の子は少し照れくさそうにそっぽを向いた。
こんなところにツンデレだ。
今時天然記念物ものなのにまだ存在したのか。ありがたやーありがたやー。
「あの、名前は?」
「名前?名乗るほどでもないわ。じゃあね」
「あっ、ちょっ、」
しかし呼び止める暇もなくスタスタ女の子は行ってしまった。
格好いい。格好いい、けど、あの女の子、たぶん持ってた荷物置いてってんだよなあ....。
俺の目の前には袋が1つ。
中を覗くと武器やら服やら絶対あの子のだろう。
・・・これ、どうすんの?俺?俺だよなあ...。
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