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フェーズ2
16.討伐イベント 中編
しおりを挟む討伐イベントの開始を知らせる軽快な破裂音の空砲が鳴り、普段の数十倍の人々が冒険者ギルド前に集結した。
各々胸にはランクの証明となる冒険者カードを付け、己のランクを誇らしげに見せ付けたり自信なさげに隠したりしている。
俺はどちらかというと後者だ。当然、俺のランクは現在2つ星。それも昨日なんとか依頼を達成し、上げたばかりのな。
「なんとか間に合ったわね!」
「ああ、ありがとなライラ」
「べ、別にどうってことないわよ!パーティなんだからこれぐらい当たり前でしょ!」
「うん、でもありがとう」
「う・・・」
ライラが照れる。すぐに照れちゃう困ったちゃんだぜまったく。
「は~~い皆さん注ーーー目!!」
通る声でゴツい冒険者共の前に出てきたのは受け付けのお姉さんだ。その瞬間、数々の花束が空を舞う。大人気である。
「今から冒険者ギルド主催!討伐イベントはっじまるよぉ~~~!!!」
「「「「「ッッッッ!!!
ウオオオオオオオオオオ!!!」」」」」
ピーピー指笛が鳴り歓声で地面が揺れ熱狂で体が揉みくちゃにされる。
まるで都内の通勤ラッシュver冒険者だ。
「ちょっ!!」
「随分とギュウギュウですね!!」
「・・・大丈夫か?」
女性陣は筋肉盛りの男共に囲まれて大変窮屈そうなので、取り敢えず呪霊を発動させて場所をキープ。
「あ、ありがとう・・・」
「自分で守らない辺り、ゆうまくんらしいですね」
「・・手厳しい皮肉で」
だって世紀末にいそうなモヒカン野郎がウォーウォー言っているのだ。
怖くね?
「ハーーーイみんなー!静かにーー!!」
「「「「「シーーーーン」」」」」
「いや効果音自分で言うのかよ!」
思わず突っ込むと隣のモヒカンが教えてくれた。コレが討伐イベントの恒例行事だと。
大丈夫か冒険者ギルド。
「では討伐イベントの説明をーーーー本当はするところだけど皆さんご存知でしょうから飛ばすねーーー!」
「「「「「ハーーーイ」」」」」
「・・・・・」
大丈夫か冒険者ギルド。
「では早速スタート!・・・と行きたいところだけどココでスペシャルゲストの紹介でーす!」
大きな落胆のあと、
ジャカジャカジャカジャカジャカ・・・と何処からともなくドラムの音が鳴る。
そして道に突如広がる赤カーペット。奥からは無数の騎士に護衛されながら1人の女性がやってくる。
「嫌な気がするな・・・・」
「私もです・・・」
「え?なにが?」
ライラは知らないだろう。この国の王族は派手好きだと。
ライラは知らないだろう。この国の王族はアホなのだと。それも民間の冒険者ギルドにちょっかいを出すぐらい。
「スペシャルゲストはこの方! 第4王女、ペペロンチーナ様でございます!」
「どうも冒険者の皆様、ご機嫌麗しゅう。第4王女のペペロンチーナでございますわ。この度は参加できて光栄に思います」
赤いドレスを身にまとった金髪縦ロールの王女様は壇上の上で優雅に礼をする。
あれ?思ったよりまとも?
「「「「うおお・・・お・・・お?」」」」
<突然の王女来襲に冒険者も戸惑っている>
「ユリエ、あいつはまともなのか?」
「うーん、ペペロンチーノのように捻くれてるんじゃないですか?」
「うまい事言おうとしなくていいぞ」
「あの人知りません」
「よろしい」
確かに王族が皆が皆クズと考えるのは早計かもしれない。
別に害はなさそうだしな。
「さて、ではスペシャルゲストも登場したところで、早速スタートしましょうか!
それでは行きますよー?」
どうやらもう始まるらしい。王女様は壇上脇で騎士にあれこれ言っている。
「では、スターーーート!!!!!」
パァン、と空砲が鳴り、一斉に冒険者は今回の会場となる森へ駆けていく。皆が皆一斉にスタートするので大混雑だ。
ちなみに俺たちはスロースタート組である。
「さて、じゃあ行くか」
「目指すは100万円ですね!」
「ひゃく・・・まんえん?」
「目指すは白金貨ですね!」
「言い直すのかよ」
グタグタで俺たちの討伐イベントは幕を上げた。
☆☆☆☆
「セイヤッ!!」
使い勝手のいい剣で飛びかかってくるダイアウルフをぶった斬る。
今までの木刀では切り傷さえ与えられなかったが、今では一刀両断だ。ようやく経験値も入るってもんよ。
「ナイスですゆうまくん!」
「・・・ほんと2つ星とは思えないわね」
他のダイアウルフを相手にしていた2人が寄ってくる。ユリエは真綺麗。ライラは鮮血を浴びている。
きっとライラの方が新鮮なダイアウルフを斬ったに違いない。
「これで合計7体目。いいペースじゃないか?」
「そうですね、今のところはスムーズです」
討伐イベントはモンスターの討伐数で優勝が決められる。討伐はどんなモンスターでも構わないので、楽で慣れているモンスターを狩るのがコツだ。
俺たちの場合はダイアウルフである。
「取り敢えずこのままじゃんじゃん行くか!・・・って噂をすれば」
森の奥からダイアウルフが2体、滲み寄ってくる。ヨダレを垂らし、今にでも食いかかってきそうだ。
「さあ、ひと狩り行こうぜ!」
モン○ンをパロディってダイアウルフとの戦闘が始まった。
ゴーーーンゴーーーンゴーーーン
お昼を知らせる鐘が遠くで鳴った。ちょうど16体目のダイアウルフを倒したところだった。やはりPTでやるとスピードが段違いに早い。
「一旦休憩にしますかー?」
「そうね!そうするのがいいわ!」
ずっと前から「休憩まだ?」雰囲気を醸し出していたライラちゃんは剣を放り投げた。そしてその辺の岩に座り、足をぶらぶらさせている。
そんな所がまた可愛い。
「・・・なに見てんのよ」
「えっ!いや!俺はその岩を見ているだけだ!」
「そう、それならいいけど・・・」
少しほおを染めながらライラはそっぽを向いた。
実にチョロい。アレか、ライラはポンコツンデレなのか。
「・・・・・」
そして何故かユリエも岩に座り、足をぶらぶらさせながらチラチラこっちを見てくる。
なんだ、なにが言いたいんだ。
「・・・・・・!」
ユリエが目にも留まらぬ速さで腕を動かしたと思うと、俺のすぐ横の木にナイフが刺さっていた。
当の本人はにこにこして俺をじっと見ている。可愛い。可愛いんだが怖い。
「・・・なにが言いたいんーーーーだ!!???」
俺は唖然とした。
森の奥。誰もいないような場所で1人、フードを被った奴が弓を引いている。
狙われているのはーーーーライラ?
「なっ!!!あぶねえっ!!」
フードの奴が無情にも弓を放った。
呪霊をしてたら間に合わねえ! こうなればーーーーーー
「えっ?」
疑問を浮かべるライラを押しのけ、体を仰け反らせる。
寸分の狂いなく、ライラのいた場所へと放たれた矢は俺の胴体へと直撃した。
「ぐっ」
そのまま倒れ、視界が暗転する。
・・・ふう、ライラに当たらなくてよかった・・・ぜ・・・・・
「ーーーまくん!ゆうまくん!」
「ーーーーーんはっ!」
体、痛みなし。視界、良好。
無事に死ねて復活したようだ。刺さった矢はユリエが抜いていた。血が、ユリエの服にベッタリと付いている。
「な、なんだったんだ今の?」
「わかりません、でも矢を放った奴は絶対許さないです・・・!」
ユリエが握りしめていた矢が折れる。
怒り心頭のユリエと違い、狙われたライラは呆然としていた。目尻に涙が溜まっている。
「良・・・かった・・ユウマ生きてる・・」
「ああ、怪我はないか?」
「・・・う、ん」
それからライラはぎこちなくお礼を言い、ようやく頭が回ってきたのか顔を真っ青にしだした。
「な、なんで私狙われたの!? それよりなんでユウマは・・・私を庇って矢が当たったはずじゃ・・・」
再びライラは泣きそうになる。
ゾンビとか言われたら立ち直れないのでスキルについて話すことにした。まだ話していなかったのは機会がなかったからだ。
「・・・死なない?」
「ああ、正確には『死んだ後生き返る』だけどな」
「な、なにそれ!?」
驚くのは無理もない。だって「私は死にません」宣言されているのだ。普通は頭を疑う。
「まあでもユウマなら有りそうね」
「納得しちゃった!?」
これも単純さゆえなのか。
まあ受け入れてくれて有り難いけど。
「でも一体誰がライラちゃんを・・・」
ユリエがそう口走った時、茂みが突然揺れる。
「ッッ!!なんだ!誰だ!」
まさかさっきの奴か? 失敗したからトドメを刺しに来た?
「誰だ!」
剣を抜き、呪霊を発動する。いざとなれば俺が特攻すればいい。
出てくるなら出てこい。PTメンバーを殺そうとしたんだ。ぶった斬ってやる。
ガサガサ、茂みが揺れる。
そして、そいつは現れた。
「ーーーーっ!? 王女!?」
「あら?まだ生きていたのかしら?とっくに死んだかと思っていたのに」
第4王女、ペペロンチーナは薄笑いを浮かべながら姿を現した。
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