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誕生日の晩餐が終わり、自分の部屋に戻ってきた。

今年もやはり私の誕生日は祝ってもらえなかった。
分かっていたことだけれど、もしかしたら私の誕生日もお祝いしてくださるのではと期待してしまう自分がいる。
お父様とお母様は昔から妹びいきだったわけではない。私のことも大事にして思っているはずなのだ。
ただいつからか、可愛くて愛嬌があるメアリーを溺愛しはじめた。そして自分のことを一通りできて、責任感が強い私のことは目もくれなくなった。

知らない間にメアリーは多くの可憐なジュエリーやドレスを手に入れていたし、それについて姉の私が言って家族の仲を悪くしたくなかった。本当は羨ましかったけれど。

今日のお母様の言葉で、自分が期待すらされていないことに気がついてしまった。
自然と涙がこぼれてくる。これまで家のためと思って教養など必死に学んできたのに。声が周りに聞こえないよう必死に抑える。

そのとき、コンコンコン と突然ドアをノックする音が聞こえた。

「お姉様、いらっしゃる?」
メアリーの声だ。

「…今開けるから少し待ってね」
泣いていたことに気づかれないように、鏡で確認をしてからドアを開けた。

「メアリーどうしたの?私を訪ねてくるなんて珍しいわね」

「お姉様に渡したいものがあって」
そういうメアリーの手には少し汚れたブローチが手に握られていた。

「今日はお姉様の誕生日でもあるでしょう?先程お姉様はブローチを欲してらっしゃったから、代わりになればと思って昔使っていたものを持ってきたの」

「まぁ…悪いわそんなの」

「いいのです。受け取ってくださいませ」
半ば強引な形で、私の手にブローチを握らせてくるメアリー。

「…ありがとう。大切にするわね」
メアリーから物を貰うのは初めてで驚いてしまったけれど、メアリーの優しさを受け取ることにした。

「それだけなの。おやすみなさい。いい夢を」
ブローチを渡すと、メアリーはおやすみの挨拶を言い足早に去っていった。

受け取ったブローチは、本当に魔法とは無縁そうな、ただのブローチだった。

魔法を使うには魔法のブローチである必要があるはずだが、もしかしたら代わりになるかもしれない。少しの希望を持ちながら、ブローチを眺めていた。

メアリー、私の誕生日を覚えてくれていたんだ。今更ながらにそんなことに気づく。私だけしか覚えていないと思っていた。くれたブローチもメアリーなりに考えてきた誕生日プレゼントなのだろう。自然と口角が上がる。

ブローチをほとんど何も入っていないジュエリーボックスに確実にしまって、ランプを消しベッドに向かった。

メアリーが私に贈り物をしてくれるなんて…喜びを噛み締めながらシャーロットは眠りに落ちた

貰ったブローチはメアリーの策略だということを知らずに。
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