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第五章 ダンジョン・デストラクション

酔いどれん

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 『酒を飲むのも、良いことばかりではない。
  飲めば飲むほど、残りの酒は減っていくのだから。
   ――イングウェイ・リヒテンシュタイン』


 洞窟は、神殿をそのまま地中に埋め込んだような構造をしていた。太い柱が何本も立ち並び、天井は高い。

「ねえインギー、すいすい進んでいるけど、来た事があるんですの?」

 もちろん初めてだ。とりあえず強そうな敵に向かって進んでいるだけだ。
 魔力がだんだんと濃くなってくる。

「ねえ皆さん、何か聞こえませんか?」
 そういうのは、一番感覚の鋭いサクラだ。

 確かに遠くから、うなり声や戦うような音が聞こえる気がする。

「誰かが戦っているのか?」
「ほかの冒険者かもしれません、もしかしたらやられているのかも!」
「やっらー。新しいガイコチュが増えましゅねー」
 レイチェルは絶好調で、サクラの頭を撫でながら言った。

「なに冗談言ってるんですか、急ぎますよ!」

 俺たちは走る。しかし、それが過ちの第一歩だった。

「ちょ、っつ、うぷ」
「待て、サクラ、う、ヤバい。レイチェルがもう限界だ。はあ、俺も――」
「うええぇえぇ、気持ち悪いですの、頭も、いたひー」

「何やってるんですか、皆さん!」
 決まっている。そうだ、わかっていたことだ。酔って走ったのだ、こうなるに決まっているではないか。
 これこそが、ダンジョンの恐ろしい罠だったのだ。

 酔った頭ではまともな思考は働かない、すべて勢いとともに駆け抜けるのみだ。

 そして、勢いのまま走った俺たちは、アルコールに敗北していた。

「まて、吐く……うぇぇええ」

 サクラは心配そうに俺たちと洞窟の先を、何度も見比べている。

「うー、イングウェイさん、モンスターが現れたら、戦えますか?」
 サクラが不安そうに聞いてくる。
 俺は答えた。
「ああ、それぐらいなら、なんとか。うぷ。悪い、背中をさするのはやめてくれ」

「うー……いいです、私だけで先に行きますから、皆さんは無理をせずここら辺にいてくださいっ!」

 サクラは決心したようだ。モモフクをよいしょっと腰に構えなおすと、鋭い目で暗闇をにらみつけ、走り出す。

 がんばれサクラ、お前が希望の星だ。

 走り出すサクラ。近づく気配。
 そう、サクラが飛び出していったのとは別の方向から、何匹もの獣の気配が迫っていた。

「くっそ、胸がムカムカしやがる」
 俺は味のしない唾を吐く。これはよくない兆候だ。
 酔って走ったことで、脳内が振り回される感覚が続いていた。落ち着いて深呼吸をすれば少しずつ治まってくる胸のむかつきが、熱を持った体のせいで余計にひどくなっていく。

「うぇええええ」

 レイチェルは完全に使い物にならない。
 そしてキャスリーは、

「すぴー、すー、すこー」

 完全に眠りについていた。こうなると、酔っ払いは起きない。起きてもうざいだけである。

 俺はふらふらな体に鞭打って、立ち上がる。

 ぐるぐると低いうなりとともに、数匹の獅子が現れる。おそらく4匹、いや、5匹か。

 俺は冷静に分析する。酔って物が増えて見えることはあっても、見えなくなることはない。ということは、敵は5匹以下ということになる。

 的は狙わない、狙ってもどうせムダだからだ。
 使うべきは、範囲魔法。

 俺は、うっかり暴発しないように、慎重に呪文の詠唱に入った。
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