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二章〈take a cold〉~熱に浮かされる本能~
四 拓視点
「…………ん」
自分の身体のにおいを嗅いで確認する。これならまあいいかと妥協し両手を広げて待つと、有馬は破顔して飛びついてきた。
「はああ~っチョコだあ~っ! 久し振りだあ~!」
「そんな抱きつきたかったのかよ?」
「そうともさ! 会えなくて心配で寂しくてナメクジみたいって言われたよ」
「ふはっ。ナメクジ。面白い例えだな」
ナメクジに例えられるとはどんだけジメジメとした印象だったのか。塩をかけられて縮んだみたいだったとか。今の有馬を見るとそんな印象は皆無だ。
触ったことは無いが、動画で観たことがあるゴールデンレトリーバーみたいだ。主人を見ながらじっと待って「よし」と言われたら尻尾を振って瞬時に飛びついて顔を舐めている動画。髪の色といい本当に有馬っぽい。ナメクジよりゴールデンレトリーバー。
「有馬」
「ん? なんだい」
「風邪うつすかもと思って来るなってメールしたけど結局お前来ちまっただろ。でも少し嬉しかった」
背中に回した腕で抱きしめてやる。普段こんなに素直にはなれないが、今は熱のせいもあってなのか多少大胆になれる気がする。
「ありがとな、ユウ」
「!」
あだ名で呼んでみた。ただそれだけのことで有馬にとっては効果が絶大だったようで、静かにベッドに押し倒し覆い被さってくる。ベッドの上で抱き合っている状態。
「ユウって久々に呼んでくれた。もっと呼んで」
「……ユウ」
「うん。……ふふ、チョコ。大好き」
甘ったるい声と言葉が耳の付近で囁かれ擦りついてくると背筋がぞくぞくしてくる。相当嬉しいようで、これじゃ本当に犬みたいだ。
「あだ名で呼ばれるのがそんなに良いのか?」
「良いよ。恋人同士なら特別な感じするし。ロシアだとね、家族とか親しい相手は愛称で呼び合うんだよ」
「はあ、そういう文化なのか」
普段からあだ名で呼ばれているからか特別感は無い。しかし普段があだ名呼びである為、ふとした時に本名で呼ばれるのは確かに特別な感じはする。
「まあたまになら呼んでやってもいいけど」
「頻度が少ない方が特別感あるしそれでいいよ。何かの時だけ呼ぶってことにしてもいいかもね」
「何かの時って何だ?」
「例えばエッチしてる時とか」
俺は有馬の額に向かってデコピンをした。それはもう言われた直後に力強くやってやった。
「いだあっ! 何で!?」
「イラッとしたから」
なんだその例えは。と文句を言う代わりのデコピンである。
「当分呼んでやらねぇ」
「そんなぁああっ」
額を抑えながら半泣きの有馬。額が痛いのかあだ名で呼ばれないことへの悲痛なのかどちらなのかは分からない。
覆い被さっていた有馬が身体を起こしている隙にベッドから降りて立ち上がる。
ーーそもそもシてる時にそんな余裕あるかよ
事前にあだ名で呼べば喜ぶだろうとリップ・サービスを考えいたとしても、実際は恥ずかしくなって絶対に無理だ。きっと理性がセーブする。今は熱があるから言えたことだ。
「あ、思い出した。お前コレ忘れてったぞ」
部屋の隅に置いてある黒い袋を渡す。その中身はローションのボトルで。
「無いと思ったら忘れてたのか! うっかりしていたよ」
「まあ……あの後お前結構ぐだっとしてたしな」
「それはそうさ。その……色々気持ち良くなっていたし」
この手の話題になるとつい思考がそっちに寄っていってしまう。リアルに起きたことを思い出してしまうからだ。
有馬も思い出してしまっているのか、受け取った袋からボトルを取り出して不自然に手の中で回してみせたり、直ぐに袋にしまって照れているのを笑って誤魔化そうとしてる。
「これはチョコの気が向くまではちゃんと家で保管しておくよ。『いつか』の機会の為にはとても大切な物だからね」
「あー……」
身体が熱い。だから言わなくていいことなのに敢えて口走るのは熱のせいだ。
「……あのな、有馬。実は休日に……ちょっとだけ……試した」
「ふへぇっ!?」
「ふっ、何だその声。つかその顔スゲーマヌケだな」
あまりにも有馬が素っ頓狂な声を出して気の抜けた顔をしているから笑える。
笑われているにも関わらず有馬はその顔のまま近づいてくる。
「ちょっ、チョコ、詳しく、詳しく聞かせてくれ。何で何を試したんだい? 俺の考えてることで合ってる?」
「んっ……」
「チョコがローションで自分のお尻を解したってこと?」
肩を掴まれるだけでおかしな声が漏れてしまう。有馬の顔が近づいてきて確かめるように俺の顔を見てくるのが妙に恥ずかしいのは話してる内容のせいだ。
「解すって言うほどじゃねぇけど……少しだけ指を挿れてみたりした」
「俺が早く挿れたいとか言ったから? 無理してない?」
「そうじゃねぇよ。ただ……セックスするのが『愛情を伝える行為』だってお前が言ったから……気持ち良くなりたいだけじゃないってわかったから。だからお前にされるだけじゃなくて、自分で出来ることはやっとこうかと思った。そんだけだよ」
いつもよりも饒舌に本音を言えた。隠しておきたいわけじゃない。ただ恥ずかしいだけだ。普段から言えるならもっともっと伝えたいことがある。
ああもう……暑い……
有馬が抱きしめてくる。痛いくらい強く。
「チョコも俺と同じ気持ちなんだね。改めて言うよ。俺を好きになってくれてありがとう。好きだって気持ちをもっと伝え合えるようにこれからも頑張ろうな」
「ああ……」
「熱が上がってきちゃったのかな。寝るかい?」
「そうする……」
有馬の手を借りてベッドに横になる。
そのタイミングでお袋が帰ってきた。有馬が階段を降りていって熱があると伝えたのか、氷枕を持って戻ってきた。氷枕に頭を乗せると冷たくて気持ちが良い。
「じゃあ俺はそろそろお暇するよ。お大事に」
「ああ。またな」
「うん、またね」
寝たまま手を伸ばすと有馬も同じように手を伸ばして握手する。この時はいつものぞくぞくとしてくる嫌な感覚は無かった。安心するような、そんな温かな感覚だった。
自分の身体のにおいを嗅いで確認する。これならまあいいかと妥協し両手を広げて待つと、有馬は破顔して飛びついてきた。
「はああ~っチョコだあ~っ! 久し振りだあ~!」
「そんな抱きつきたかったのかよ?」
「そうともさ! 会えなくて心配で寂しくてナメクジみたいって言われたよ」
「ふはっ。ナメクジ。面白い例えだな」
ナメクジに例えられるとはどんだけジメジメとした印象だったのか。塩をかけられて縮んだみたいだったとか。今の有馬を見るとそんな印象は皆無だ。
触ったことは無いが、動画で観たことがあるゴールデンレトリーバーみたいだ。主人を見ながらじっと待って「よし」と言われたら尻尾を振って瞬時に飛びついて顔を舐めている動画。髪の色といい本当に有馬っぽい。ナメクジよりゴールデンレトリーバー。
「有馬」
「ん? なんだい」
「風邪うつすかもと思って来るなってメールしたけど結局お前来ちまっただろ。でも少し嬉しかった」
背中に回した腕で抱きしめてやる。普段こんなに素直にはなれないが、今は熱のせいもあってなのか多少大胆になれる気がする。
「ありがとな、ユウ」
「!」
あだ名で呼んでみた。ただそれだけのことで有馬にとっては効果が絶大だったようで、静かにベッドに押し倒し覆い被さってくる。ベッドの上で抱き合っている状態。
「ユウって久々に呼んでくれた。もっと呼んで」
「……ユウ」
「うん。……ふふ、チョコ。大好き」
甘ったるい声と言葉が耳の付近で囁かれ擦りついてくると背筋がぞくぞくしてくる。相当嬉しいようで、これじゃ本当に犬みたいだ。
「あだ名で呼ばれるのがそんなに良いのか?」
「良いよ。恋人同士なら特別な感じするし。ロシアだとね、家族とか親しい相手は愛称で呼び合うんだよ」
「はあ、そういう文化なのか」
普段からあだ名で呼ばれているからか特別感は無い。しかし普段があだ名呼びである為、ふとした時に本名で呼ばれるのは確かに特別な感じはする。
「まあたまになら呼んでやってもいいけど」
「頻度が少ない方が特別感あるしそれでいいよ。何かの時だけ呼ぶってことにしてもいいかもね」
「何かの時って何だ?」
「例えばエッチしてる時とか」
俺は有馬の額に向かってデコピンをした。それはもう言われた直後に力強くやってやった。
「いだあっ! 何で!?」
「イラッとしたから」
なんだその例えは。と文句を言う代わりのデコピンである。
「当分呼んでやらねぇ」
「そんなぁああっ」
額を抑えながら半泣きの有馬。額が痛いのかあだ名で呼ばれないことへの悲痛なのかどちらなのかは分からない。
覆い被さっていた有馬が身体を起こしている隙にベッドから降りて立ち上がる。
ーーそもそもシてる時にそんな余裕あるかよ
事前にあだ名で呼べば喜ぶだろうとリップ・サービスを考えいたとしても、実際は恥ずかしくなって絶対に無理だ。きっと理性がセーブする。今は熱があるから言えたことだ。
「あ、思い出した。お前コレ忘れてったぞ」
部屋の隅に置いてある黒い袋を渡す。その中身はローションのボトルで。
「無いと思ったら忘れてたのか! うっかりしていたよ」
「まあ……あの後お前結構ぐだっとしてたしな」
「それはそうさ。その……色々気持ち良くなっていたし」
この手の話題になるとつい思考がそっちに寄っていってしまう。リアルに起きたことを思い出してしまうからだ。
有馬も思い出してしまっているのか、受け取った袋からボトルを取り出して不自然に手の中で回してみせたり、直ぐに袋にしまって照れているのを笑って誤魔化そうとしてる。
「これはチョコの気が向くまではちゃんと家で保管しておくよ。『いつか』の機会の為にはとても大切な物だからね」
「あー……」
身体が熱い。だから言わなくていいことなのに敢えて口走るのは熱のせいだ。
「……あのな、有馬。実は休日に……ちょっとだけ……試した」
「ふへぇっ!?」
「ふっ、何だその声。つかその顔スゲーマヌケだな」
あまりにも有馬が素っ頓狂な声を出して気の抜けた顔をしているから笑える。
笑われているにも関わらず有馬はその顔のまま近づいてくる。
「ちょっ、チョコ、詳しく、詳しく聞かせてくれ。何で何を試したんだい? 俺の考えてることで合ってる?」
「んっ……」
「チョコがローションで自分のお尻を解したってこと?」
肩を掴まれるだけでおかしな声が漏れてしまう。有馬の顔が近づいてきて確かめるように俺の顔を見てくるのが妙に恥ずかしいのは話してる内容のせいだ。
「解すって言うほどじゃねぇけど……少しだけ指を挿れてみたりした」
「俺が早く挿れたいとか言ったから? 無理してない?」
「そうじゃねぇよ。ただ……セックスするのが『愛情を伝える行為』だってお前が言ったから……気持ち良くなりたいだけじゃないってわかったから。だからお前にされるだけじゃなくて、自分で出来ることはやっとこうかと思った。そんだけだよ」
いつもよりも饒舌に本音を言えた。隠しておきたいわけじゃない。ただ恥ずかしいだけだ。普段から言えるならもっともっと伝えたいことがある。
ああもう……暑い……
有馬が抱きしめてくる。痛いくらい強く。
「チョコも俺と同じ気持ちなんだね。改めて言うよ。俺を好きになってくれてありがとう。好きだって気持ちをもっと伝え合えるようにこれからも頑張ろうな」
「ああ……」
「熱が上がってきちゃったのかな。寝るかい?」
「そうする……」
有馬の手を借りてベッドに横になる。
そのタイミングでお袋が帰ってきた。有馬が階段を降りていって熱があると伝えたのか、氷枕を持って戻ってきた。氷枕に頭を乗せると冷たくて気持ちが良い。
「じゃあ俺はそろそろお暇するよ。お大事に」
「ああ。またな」
「うん、またね」
寝たまま手を伸ばすと有馬も同じように手を伸ばして握手する。この時はいつものぞくぞくとしてくる嫌な感覚は無かった。安心するような、そんな温かな感覚だった。
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