35 / 71
邂逅(梢SIDE)
しおりを挟む
「一瞬で惚れた」、文字通りその一言に尽きる。
それからは早かった。転がり落ちるように私たちは身体を重ねた。
そうしたらもう、離れられなくなった。
彼女は何もかもが最高の、理想の相手だと思った。
そしてきっと、彼女もそう思ってくれている…んじゃないかな?自信はないけど。
学生の頃から可愛い女の子が大好きだったけど、私自身は部活に明け暮れ顧問にしごかれという運動漬けの生活を送っていた。
だから、実の所学生時代には言うほど経験していない。
唯一それらしい話に触れたのは、陸上部の先輩と後輩がどうやら付き合っているらしいという噂について。勿論女の子同士である。
もし同じ部活の人を好きになったら、練習の前後や合宿なんてもう、やりたい放題になってしまう。
恋の加減なんて知らない若さがあるから、私はその付き合っている二人にだいぶ充てられた感はあった。
…いいなあ、羨ましい。
そんな事ばかり考えていた。
だから運動漬けの毎日の中でも、極力お洒落には気を使ったし、部活をやってない娘たちの話題にもついていけるように情報収集したり、勉強も頑張った。
そのおかげかその先の人生、案外楽に感じている。
死ぬかと思うようなトレーニングや減量の辛さに比べれば、大人になってからのデスクワークなどなんて事はない。
実業団に誘われたりもしたけど、身体が資本の商売を、何十年も続ける事に憧れも自信もなかったし、何よりそれでは普通の女の子と出会う事ができないから、きれいさっぱり運動からは卒業した。
週に一度は早朝ランニングを続けているけど、不思議と趣味になると改めて走る事の楽しさに目覚める事ができた気がする。
*-*-*-*-*-
紹介したい人の前に、あるアプリについて説明したいと冴子ちゃんに言われていた。
私はそんなアプリの存在を全然知らなかったんだけど、『WS』というアプリにて、なんと女の子同士で出会う事ができてしまうのだと言う。
言われてからようやく、なるほどそういう時代だよね、と思う。
スマホは持っているものの単なる連絡ツールとしてしか使っていなかったし、皆が便利に使っているらしい各種アプリの事なんて全然知らない方だと自覚している。
冴子ちゃんはまずそのアプリの説明が必要なのだと言って、一通り話を聞かせてくれた。
それはある日二人でランチした時の事。
「んで、このアプリと紹介したい人の関係ってのは?」
「…縁あってこれの開発者の人と知り合ったんです」
「へー」
「梢さんには、お付き合いしたい、またはしてる女性はいませんか」
「…うーん、いないと思うけど」
「思う、ではなくて」
何をもって付き合うと定義するのか、人により違っている以上なかなか答えるのは難しい。
「それを言ったら私の中での付き合いたいランキング上位は冴子ちゃんなんだけど」
「……」
露骨に嫌な顔をしないのが、冴子ちゃんのお人好しっぷりを表している。
「いや、わかってるって」
そうそう、どうせ冴子ちゃんにはちゃんとしたお相手がいるんだもの。
冗談でもこんな事言うのは良くないか。
…でも、隠し持ったエッチな所なんて、私にとってはほんとに最高なぐらい、冴子ちゃんはノリが良くてありがたい。
あんなにご立派な彼女がありながらも、ちょっとそれっぽい空気で誘えばフラフラ乗って来てしまうあたりは、まあ本気で付き合ったら苦労しそうだなーとは思うので、松浦部長のご心痛は察するに余りあるという感じだけど。
「…じゃあ、居ないって事でいいんですね?」
「まあ、そうなるかな」
女の子と真剣に付き合った経験は、これまでにあったのかなかったのか、自分でも良くわからない。
身体を触ったり、デートみたいな事をしてきた相手ならいるけれど。
それにエッチな事をした相手を「付き合ってる」と定義するなら、私の場合秘書課のほぼ全員と付き合ってる事になっちゃうし。
冴子ちゃんとだって、付き合ってる事になっちゃうんだよね。
「あの、お聞きしたいんですが梢さんって…恋愛そのものにあまり興味がないとか、そういう訳じゃないですよね?」
「うん、多分…ちゃんとした相手がいるならそれにこした事はないと思ってはいるよ?」
「なら、わかりました」
ランチでの会話はそれだけで終わったんだけど、その後冴子ちゃんは『WS』アプリに私を招待してくれた。
ここに会員登録するためには、利用者からの招待が必要らしい。
…でも、登録だけはしたものの、あんまりこういう出会い系には興味がなくて、私は適当に情報を眺める程度の使い方しかしていなかった。
それからしばらくして、冴子ちゃんからこの『WS』アプリの関わるコラボイベントの情報を教えてもらった。
スポーツウェアブランドとの企画で、女性向けのランニングウェアの開発を進めており、その中で実際にランニングウェアの試作品を使って走ってみるという企画があると言う。
「面白そう、新しく開発されるウェアなら、試してみたいなあ」
「…まだ、参加者募集してますよ」
「ホント?じゃ、ポチっとこう」
『WS』アプリ自体は情報ツールとしてもそこそこ役に立つ。
でもこれで本当に出会いがあるのかな?という疑問はずっと私の中に残っていたから、あえて知らない人とのやり取りを楽しもうという気にはそれほどなれなかった。
都心にはランナー向けのロッカーやシャワーを備えたステーションがいくつか存在している。
込み合う場合もあるので私はあまりそういう所を使う習慣はなかったのだけど、今回の企画ではウェアの着替えがどうしても発生するので、都内いくつかのステーションの一部を『WS』アプリが押さえて提供してくれていた。
まずは自前のウェアでイベント会場となっている大きな公園へ行き、ウェアをレンタルする。
それから近場のステーションで着替えを行いランニングするというのがおおよその流れとなっていた。
冴子ちゃんからはこのイベントの際に、件の「紹介したい人」と引き合わせてくれると聞いていた。
『WS』アプリは恋愛の相手を探す目的のアプリだけど、今回紹介してくれる娘は冴子ちゃんを共通の知人とするお友達という事で、紹介される事になっていた。
…どんな娘かな?なんて事を考えつつ会場の公園へと向かうと、そこそこの人ごみの中に冴子ちゃんと、彼女の姿を見つける事ができた。
「…うっそ、あれって」
多分その声は言葉として発せられていたと思う。
「あ、梢さんお疲れ様です」
「…うん、お疲れ」
冴子ちゃんの横に立っている女の子、私はよく知ってる。
何度もグラビア顔負けの写真に写っているのを見てたもの。
「冴子ちゃん、もしかして…その娘なの?」
「はい」
すると私はよく知っているその娘がぺこりと頭を下げてきた。
「佐藤晴香です、はじめまして」
「あ…あたしは小田梢って言います、その…もう知ってるか」
「まあ、お名前だけは」
彼女はくすっと笑って見せた。
…私が見知っているのとはだいぶ違う、若い女の子の無邪気な笑顔。
『WS』アプリ内の写真ではもっと大人っぽく見えたけど、実年齢はかなり若いんじゃないのかな、と思わせる。
「冴子ちゃん、なんで…知り合いなの?だってこの娘は」
「経緯はその、ちょっと」
「私も冴子さんを本気で好きなうちの一人なんですよ」
彼女はまたしても無邪気な笑顔で言う。
…は?…え?
ちょっと待って、冴子ちゃんとこのモデルの娘が知り合いって所からしてワケがわからないのに、この娘が冴子ちゃんを好き?…
思考が追い付かない情報ばかりで混乱してしまう。
「晴香ちゃん、そういう言い方は…」
いきなりの爆弾発言に冴子ちゃんが焦って彼女を制止している。
「あれ、いけませんでしたか」
「いけない訳ではないけど」
冴子ちゃんと彼女は小競り合いのような、押し問答を始めてしまった。
これは長引くのかもしれないと思い私は本題を切り出した。
「それよりさ、ウェア借りに来たんだけど…どうしたら良いのかな」
周囲では既に走り出している人も出てきており、私はそちらが気になってきた。
頭がごちゃごちゃした時にはとりあえず走りたくなる、という習性も手伝っての事かもしれない。
「そちらに関しては私がご用意していますので」
彼女は、私の分のレンタルウェアのみを手に持っており私に手渡してくる。
…正規のアテンド係ではないが私の案内だけは彼女が行うという事のようだった。
「事前にアプリからいただいていたご希望のサイズとデザインのものです」
「あ、ありがとう…」
彼女は『WS』アプリ内ではかなりの確率で、下着のモデルとして登場している。
今日はイベントの趣旨に合わせてオーバーサイズのポロシャツにジーンズというラフな服装をしているけど、私の頭の中ではけっこう露出度の高い下着を身にまとった彼女の姿が連想されてしまって、まともに対面する事ができなかった。
「あと、着替えの場所も私がご案内します」
くるりと背を向けて、彼女は速足で歩きだす。
私は慌ててその背中を追った。
「……」
写真では見た事のない、真後ろからの彼女の姿。
耳の下辺りで綺麗に切り揃えられた銀髪の下から真っ白なうなじが覗いて見える。
…うわ、なんて綺麗なんだろう。
スポーツとは縁がなさそうな華奢な身体つきだけど、スタイルキープの為にそこそこ鍛えているらしく、歩く後ろ姿を見ていても、下半身も締まっている感じがした。
…あれ?また…
思い出されるのは彼女の下着姿ばかり。
今はジーンズ姿だけど、写真でなら彼女の白いお尻に被る可愛いデザインのショーツを、いくつも見てきている。
昔は髪を伸ばしていたみたいで、その頃のランジェリーモデル写真もさかのぼって見るくらい、私は彼女の写る写真をくまなくチェックしていた。
時には可憐に、そして時には妖艶に。
中でも特に、カメラを挑発的に見ながら露出度の高い勝負系ランジェリーを身に着けている彼女の写真には、撃ち抜かれるぐらい興奮して、思わず下半身を熱くしたほどである。
あまりにも艶やかなその一枚の写真だけで、思わず私はそのデザインのブラショーツセットを購入してしまった。
…それも写真にあったのと同じカラーの黒を購入している。
こんなのいつ着ければ良いんだろう?見せる相手がいるわけでもなし、なんて思って今はあのブラショーツセットはタンスの肥しになっている。
邪な考えを振り払いたくて実際に頭をぶんぶん振ってみるけれど、あんなにも夢中になってチェックしていたモデルの彼女を目の前にして、そんなに簡単に頭の中はクリアになんてならない。
「あの、聞いていい?」
私は小走りで彼女の横に並び、声をかけた。
冴子ちゃんはもといた公園で待ってくれているから、今は二人きりの会話ができる。
「…何でしょうか」
「あの、さっき冴子ちゃんの事が好きとか何とか言ってたけど…」
「はい、開発者権限で冴子さんと無理にお会いして、ボスにこっぴどく怒られました」
ぺろっと舌を出してはにかむように笑ってるけど。
「あ、でも本当の出会いは今日みたいなイベントの日だったんですよ、それからずっと冴子さんにお付き合いしている人がいるとは知りながらも、勝手に好きでいる感じです」
「…なるほどね、で私の事はなんて説明されてるのかな」
「…同じ部署の先輩だと」
「…そうだよね」
「あと、梢さんとならきっといいお友達になれるんじゃないかと思う、みたいな事を言われました」
「そうなんだ」
まあ概ね想像した通りの話しの中身ではあるけれど。
冴子ちゃんがそんな健全な感じで「お友達」を積極的に紹介するのだろうか、という事は引っ掛かった。
「おかしい所がありますか?」
彼女は不安そうに表情を曇らせる。
「いや、ない…因みに言うと私も、隙あらば冴子ちゃんに手を出してやろうと思ううちの一人ではあるんだけどね」
明るい雰囲気を取り戻すために、わざと冗談っぽく言ってみる。
…何故だろう、彼女が不安そうな顔をしただけでこちらがものすごく焦ってしまう。
「…はい」
「あれ、それは聞いてなかったのかな」
「まあ…事実だとしてもそれを本人がひけらかすタイプではないでしょうからね」
「だよね」
「はい」
「じゃそこも含めて共通項があるって事なのか」
「みたいですね」
私が知っているのは、カメラに向かってポーズを決めている彼女の姿だけだった。
でもこうして話をしていると、ごくごく普通の女の子でしかない。
ちょっと踏み込んだ話題だけど、即座に返事してくるあたりはきっと頭の回転も速い娘なのだろう。
「……」
どうしよう、普通に話しているだけなのにこの娘が可愛くてしょうがないんだけど。
このままでは冴子ちゃんを裏切ってしまいそうだけど、所詮私の貞操観念なんてティッシュ一枚よりも薄い。
「ごめんね、こんな事…飽き飽きしてるとは思うけど、晴香たんがものすごく可愛いから、私ドキドキしてるんだ」
「晴香、たん…」
「あっごめん、そういうの嫌?」
「別に大丈夫です」
慣れない呼ばれ方だったのか、彼女はちょっと恥ずかしそうに顔を赤くする。
肌が白いから赤くなるとかなり目立ってよくわかる。
…まただ、どうしよう。
半裸の彼女の身体が赤く染まるシーンを、つい連想してしまった。
このままでは、ステーションに付くやいなや彼女を押し倒してしまうかもしれない、と心が騒ぐ。
私はもう遠慮などする余裕もなくて、矢継ぎ早に彼女に質問を投げかけた。
「ねえ、冴子ちゃんとは…エッチした?」
11月の空の下、周囲に人がいないとは言え屋外でこんな話を、しかも初対面の女の子にしていいはずはないんだけど。
「…しましたよ」
「……」
彼女は事もなげに答える。
「梢さんは」
「…触ってもらうまでは、した」
「……」
お互い思う事は同じなのか、なるべく短い言葉の往復で互いの情報を開示し合う。
「そっか」
そこで腑に落ちた。
身体を重ねれば、多分ますます冴子ちゃんを好きになる。
それは私たちの共通認識と言っても過言ではない。
…なぜなら、経験としてそれを実感しているからだ。
きれいごとを並べても仕方ない。松浦部長だって絶対にそうだ。
整ったルックスや真面目な性格も勿論冴子ちゃんの美点だけど、それらの事より何よりも、絶対的に冴子ちゃんが魅力的なのは、すごくエッチだという事に尽きる。
ここまでの会話で、私と晴香たんの間にも、「エッチな冴子ちゃんが好き」という共通認識ははっきりと生まれていた。
「…私、あの方と三人でした事もありますよ」
「…えっ」
牽制でも自慢でもなく、ただあった事として語るような口調で晴香たんは教えてくれた。
「なんか、若いのに経験豊富だね…」
「それ以外は知りません、冴子さんしか知らないです」
「…」
これは本気度が凄いなあと感心してしまう。
私のように手近な所で楽しみたいからとか、見られるのがけっこう好きだからとかいう軽い理由ではなく、彼女の場合は冴子ちゃんを本気で好きだから、未知のそんなプレイにまで突っ込んでいってしまったのだろうと容易に想像がついた。
「あ、こちらです」
気が付くと比較的こじんまりとしたステーションに到着していた。
「ここはまるごと、『WS』で今日の夕方まで押さえてありますので」
中に入ってみるけど、先客は居ない。
「誰も、いないみたいだけど」
「ここにご案内しているのは梢さんだけですから」
「えっ、なんか…それって申し訳ないよ」
「大丈夫ですよ、アンケートを拝見して、アプリサイドとしては謝礼をお支払いしてでも梢さんには試着をお願いしたいぐらいなんですから」
「…そうなの?」
「勿論、プロアスリート並みに走り込みされる方のご意見が、イベントでついでに回収できてしまうんですから、この程度は当然です」
「……わかった、じゃお言葉に甘えて使わせてもらうね」
「はい」
…と言ってまた晴香たんは笑顔になる。
まずいなあ、いちいちこの笑顔にドキドキさせられるんだけど。
それに、お互い冴子ちゃんの隠れた側面を知っている者としては、これまた絶対に双方けっこうエッチな事に興味津々なのもわかってしまったし、今になって色々恥ずかしい会話をしたものだと反省する。
「じゃ私はこれで…一旦公園に戻りますね」
「あ、待ってよ晴香たん」
「…はい?」
「いや…何でもない」
「?」
…少しは自制しなくては。
そう、これから走るんだし、まずはそれで解消を図ろう。
私は、晴香たんに自分の着替えを見て欲しい、と言おうとして諦めた。
出会ったその日に何やってんだというセルフ突っ込みも入るんだけど、もう二度と会えないような気がしてしまって、ダメだった。
…でも、もし仮にひとしきり走っても晴香たんへの願望が消え去らないようならば、その時は正直に話そうと思った。
冴子ちゃんは私たちがお友達になって欲しいみたいな事を言ってるけど、それだって絶対本音じゃない。
…きっと何か裏があって、でも言えないからそういう表現をしているだけのような気がしてならなかった。
私はとにかくたくさん走った。
いつもより上がった体温を発散させるように。
ウェアの方はすこぶる身体になじみ、実に走りやすい。
素人向けに発売するであろう商品としてはもう十分過ぎるレベルだと思う。
そんな、いい感じのウェアにも気持ちが上がって、私はとにかく走りまくった。
休日ランナーは休日ランナーでも、こちらは下地が違う。スピードレンジだって参加しているモニターの誰よりも速いに違いなく、周回コースを何回も回る間に、同じ人物を2回か3回は追い越したような記憶さえある。
走り出せば考える事は少なくなり、ただ目の前の道、チェックポイントの場所、時計を睨んでのペース配分といった事に考えを集中できた。
普段のランニングの倍は走ったかという所で、ようやく私は休憩する事にした。
持参していたドリンクを喉に通すと、身体が一気に冷やされるような感覚を覚える。
あー、でも今日はもうこんなもんで終わりにしても良いかな、なんて事を考えていたら、冴子ちゃんが近づいてきた。
「お疲れ様でした」などと言いつつドリンクボトルを持ってくれる。
「…ねえ、冴子ちゃん…あの娘だけど」
「はい」
私は肩で大きく息をしながら、冴子ちゃんに尋ねてみる。
「お友達、って言ってたけど…違う事期待してるんでしょ?」
「…それは、少しだけ」
「やっぱりね、でもありがとう、私晴香たんの事すごい可愛いって思っちゃった」
「…ですよね」
晴香たんという呼び方については私が走っている間に本人から聞いたのかもしれない。そこに対して特に突っ込みはなかった。
噂をすれば…晴香たんはアンケート用紙を挟んだボードを片手にこちらに近づいてくる。
「お疲れ様でした」
「…このウェア、すごい良かったよ」
私は、言われるより先にボードを受け取って中身に目を通す。
「……あれ、これ洗濯後の乾きやすさとかも答えるんだ」
「本来はそうなんですけど…梢さんは大丈夫ですよ」
「なんで?」
「走っている時の着心地の感想だけで十分なんです」
「えー、そんな特別扱いしないでよ」
「そうは行きませんよ」
事後アンケートによると、借りたウェアは自宅で洗濯し、乾かしてから専用の返却用封筒で送付するようにとなっている。
「じゃ誰が洗うの?これ」
「…私が、代わりに洗います」
「え……」
私は自分のウェアを見下ろした。
代謝が良いからそんなに臭わないとは思うけど、それでも汗を大量に吸ってウェアは濡れている。
「そうだ、身体を冷やさないよう早めに着替えてください」
「あ…そうだね」
私は、ボードに挟まれた事後アンケートの指定された項目のみ簡単に記入を済ませて、さきほどのステーションへと小走りで向かった。
「晴香たんも来て、ウェアをすぐに預けたいから」と変な理由を付けて彼女を連行する。
公園を出る時冴子ちゃんと少し目が合ったけど、どこか含みのある表情に対して私も含みのある視線を送り返した。
…走っている間は確かに忘れていたのに。
本人をまた目の前にしたら、やっぱり思い出してしまってダメだった。
しかもこの娘は冴子ちゃんとガチでセックスしてるんでしょ?
私が強引に迫ったら、拒否しきれるのか試してみたくもなった。
聞けば晴香たんはまだ二十歳にもならない学生との事である。
健康的セクシーお姉さんの全力誘惑に、どこまで抵抗できるだろうか。
…なんて事を考えるだけで、わくわくして仕方ない。
まずはステーションに晴香たんを連れ込んでこう切り出してみる。
「すっごい汗かいちゃったから、臭わないか心配なんだ…大丈夫かな?」
「全然、大丈夫ですよ」
まだ、距離が近くない。
私は「そうかな~?」などと言いつつわざとらしくウェアの裾を持ち上げて自分で臭いを嗅いで見せた。
ウェアの下にはブラしか着けていないので、晴香たんには素肌の脇腹が見えていると思われる。
「あの」
「嗅いでみてよ?」
私は晴香たんを手招きし、胸元に鼻を近づけさせる。
「やっぱり臭うよね?」
「……全く感じないわけではないですけど、嫌な臭いじゃないですし」
「ほんと?…でも、脱いでそのまま預けるのは、恥ずかしいな…少し水洗いだけでもしたいんだけど」
「…気にされるようなら、それでも良いですよ、でも面倒ではありませんか?」
晴香たんは身体を起こして問いかけてくる。
最初よりもいい感じに距離が近くなって嬉しい。
「面倒じゃないよ」
「…?」
私は、ウェアを着たままの恰好でシャワーブースに飛び込んだ。
「あ」と声を上げて晴香たんが後を追ってくる。
私は素早く水栓を捻り、頭からぬるいお湯をかぶった。
ブースの扉は開け放しているので、追いかけてきた晴香たんにはもろに私の全身が見えている事だろう。
「…ぷはっ」
斜め上を仰いで全身にシャワーのお湯を浴び続ける。
着ているものが全部身体に密着して、重量も重くなった。
爽やかなサックスブルーのウェアは身体に張り付いて、下着のラインを忠実に浮き上がらせている事だろう。
「……」
晴香たん、逃げないんだ。
私のシャワー姿に目が釘付けになってしまったのか、あるいはどうすれば良いかわからず戸惑っているだけなのか。
「…これなら、面倒じゃないでしょ」
ザーザーという雫の音に紛れないギリギリの声の大きさで、晴香たんに語り掛ける。
「…その、それは」
私はシャワーを出しっぱなしにしたままで、開け放したブース扉の傍に立ち、晴香たんと正面から向き合った。
シャワーの当たる場所からずれた所に立っているので、お湯は私の背後に降り注いでいる。
「どうせ知ってるんでしょ?私の事」
「…何をですか」
「知らなくても、これ見てればわかるよね」
私は胸を張って晴香たんを見つめた。
晴香たんの目の前には、ばっちり下着まで透けたウェア姿の私がいる。
…そう、やっぱり逃げもしないしやめろとも言わないんだね、晴香たん。
それじゃ私からは逃げられないよ。
「ね、じっくり見てるけど…私の事」
「え、あの…それは」
「いいよ?好きなだけ見て」
「……」
思った通り、好奇心には勝てない娘なんだろう。
冴子ちゃん以外の女の裸に、興味がないと言えば嘘になるはずだ。
晴香たんは「三人でした」とも言っていた。普通出会えないタイプの松浦部長の愛撫だって、そりゃこなれているに違いないわけで…何しろ冴子ちゃんが虜になっているぐらいなのだから、そのテクニックをわずかでも身をもって経験しているなら、自分自身が冴子ちゃん以外の女からでも刺激されれば感じてしまう事を、知っているはず。
…晴香たんは、どういう性癖を隠し持っているのかな。
私は今度は両腕で胸を寄せるようにしながら、晴香たんの顔を覗き込む。
晴香たんの目は私の胸元を凝視していた。
「梢さんって…見られるのが好きなんですか」
そう呟いた晴香たんの声は、ものすごく冷淡だった。
心なしか、私を見る瞳からも熱が消えて涼しげなものに変わっている。
「うん、好き」
「だったらもっとしっかり見せてくれないと」
「……?」
…あれれ、急に別人が現れたみたい。
私はもう一度シャワーブースの中央に立ち、思い切りお湯を浴びた。
「…脱がないんですか」
頬を張られたかと思うような、晴香たんの声が身体に突き刺さる。
私は弾かれたように背筋を伸ばして、条件反射のようにウェアを脱ぎ捨てた。
貼り付いたウェアを裏返すようにして上下それぞれを脱ぐと、ランニング用のシンプルなブラとショーツが姿を現す。
「…それも、早く脱いじゃったら良いんじゃないですか」
「……」
感慨に浸る間さえ与えてもらえない。
気が付くと私は何故か全裸になってシャワーを浴びる姿を、晴香たんに晒し続けていた。
「……」
あれ、何だろう。やたらと興奮する。
初対面の、美少女モデルであり冴子ちゃんとの交わりを経験済みの女の子である所の晴香たん。
…ここまで来てようやく、私は冴子ちゃんの思惑が何だったのかを理解した。
そうか、不用意に挑発したから。
こんないやらしい仕打ちを、私は受けている。
…でも、今日だけの事ならばと思うと妙に開放的な気分でもあった。
「もうこれ以上、脱げないよ…」
「そうですね」
なんでだろう、ただ裸を見られているだけなのに。どうしてこんなに興奮しちゃうんだろう。
水流で流れているからはっきりとはわからないけど、内腿辺りにどうもねばついたものが流れ出ているような気がしてならない。
「…ちょっと感じてません?」
何なの、このタイミング。
まるで私の考えを見透かしているか、先回りされているみたいで恥ずかしい。
下腹部に起きている異変の事も、もう気付かれているかもしれないと思った。
「そんな事、ないよ」
嘘を吐いた。急に、晴香たんの言いなりになり続けるのが怖くなったから。
「…じゃ、シャワーを止めて脚を開いて見せてください」
「え…」
有無を言わせぬ響きに、私は従うしかなくなる。
…もし見られたら、確実にバレる。
拒否すればいいはずなのに、その言葉は口から出ない。
「ほら」
たったその二文字で、私は背中を刺されたような気分になる。
黙ったまま水栓を止めると、ブース内に静けさが戻りピタピタと言う雫の音がわずかに響いた。
「……」
私は晴香たんの方を向いて軽く脚を開いて立った姿勢で、片手の人差し指と中指を使い自分の花弁を割り開いて見せる。
「…水じゃないですよね、それ」
見えてるんだ。ここに溜まっている粘りのある蜜の存在が。
「…うん」
あー、何だかすっごい興奮する。
恥ずかしいのに、もっと見られたくなる。
この倒錯した感じは私の脳内を麻痺させ身体の感覚だけに集中しろと訴えてくるから、私はその声に素直に従った。
「…見て、もっと」
「見てますよ、ずっと」
「あ…ん」
目を空けていられなくなり、身体をよじりながら目を細めてしまう。
だが私の視界の隅には、指先でジーンズの股間を引っかくように弄っている晴香たんの姿が入ってきていた。
…この娘も、やっぱりエッチなんだ。
別に許可もいらない、そう思って私は割り開いた花弁の間をもう片方の手の指を使いじっくりと愛撫した。
壁にもたれるのはルール違反な気がして、必死で膝に力を入れて、立ったままで自慰を始める。
「ぁ…う……んっ…」
晴香たんは確かに興奮しているようだが、視線は相変わらず冷たいままである。
その表情と、カリカリとジーンズの股間を引っかく指先の動きがアンバランス過ぎて、とても同一人物のようには見えなかった。
私は四本の指の腹を全て使い、陰唇から萌芽の頂点までを上下に撫でさする。
当然、蜜が溢れて指にまとわりつく卑猥な粘着音が出てしまうけど、それはこの場合出してなんぼの物だ。
「あふっ…ぅ……」
乱雑に自分の秘部を四本の指でまさぐり掻き回していく。
そうしながら、じっと晴香たんの瞳を見つめて、熱い昂ぶりを視線で訴えた。
「今度…会う時には、晴香たんの身体で犯して」
無意識のうちにそんな事まで訴えてしまう。
晴香たんは「いいですよ」と事もなげに答える。
「ほんと?…嬉しい…っ」
言い終わるかどうかの所で自分の秘部が急に熱くなる感覚があった。
それから四本の指に絡みつく蜜の量が急激に増えていき、抱え切れなくなった蜜は指の隙間からこぼれ落ちる。
…秘部を弄る指の隙間から、蜜の筋がいくつも垂れ落ちていくのが、晴香たんにもバッチリ見えているだろう。
「なんでだろ、いっぱい…出ちゃうの」
「……」
晴香たんが生唾を飲み込んだ。
その仕草が、ものすごく私を興奮させる。
「今、しても…いいよ?」
「……」
晴香たんの瞳は咎めるように私を見ている。
ものすごく恥ずかしいのに、ものすごく興奮する。
「…それは梢さんが一回イったら、考えます」
「や…あんっ、そんな」
晴香たんは、明らかに私を焦らしている。
きっと色々我慢しているかもしれないのに、それが表情に出ないから、私は強烈に突き放されたような気持ちになり、自慰をただ見られている寂しさも手伝って身体が切なく疼いた。
「うぅんっ、あ……じゃいっぱい見ててね」
「はい」
晴香たんの視線は急に鋭くなり、私の身体を射貫くように見つめてくる。
そんな強い視線さえも心地良くて、私は天井を仰ぎ「はぁ」と息を漏らした。
相変わらず四本の指の間からはだらだらと蜜が糸を引いてこぼれ落ちている。
徐々にその粘度も変化していき、しまいには真下にこぼれるばかりではなく内腿にまで幾筋も蜜が飛び散ってしまっていた。
「……すごい、興奮するの…晴香たんに見られてると」
今度は晴香たんが弾かれたように身体をぴくりとさせた。
だが、その瞬間にブレーカーが落ちたかのように表情が冷静なものに戻っていく。
…だめ、正気に戻らないで。
もっと、ドキドキさせて欲しいのに。
そんな私の不安を、この娘は楽しんでいるのかもしれない。
ちょっとだけ、うっとりしたような眼差しで、晴香たんは私の絶頂を見届けてくれた。
「やだ、いく、いっちゃうよぉ…あ、あ、あぁんっ…!」
膝がガクガクと震えて、立っているのがやっとだった。
私は両手で秘部を押さえるような恰好のまま、淫液を迸らせて達した。
シャワーブースには、水栓を締めたシャワーヘッドからしたたり落ちる水滴の音とはまた別に、私の秘部からしたたり落ちた蜜の落ちる音も響いている。
「…はぁっ」
私は膝を崩してシャワーブースの床に横座りした。
脱ぎ散らかしたウェアをかき集めて、改めてお湯で洗ったそれを絞り、ブースの前に立ち尽くしている晴香たんに手渡した。
「…もう、大丈夫だよ…だからもう行って」
「…でも」
「お仕事でしょ、今日は」
「…はい、ごめんなさい」
ウェアを手渡す時に、晴香たんは私に触れようとしてくれていた。
でもここで触れられてしまったら、止まらなくなりそうで怖かったから、私はあえて晴香たんを追い出すように帰らせた。
「……」
私はシャワーブースに横座りしたまま水栓を捻り、改めて上から降り注ぐお湯を全身に浴びた。
ランニング終わりの心地良さなのか、自慰による心地良さなのか、どちらともつかない不思議な脱力感にしばらくの間身を委ねる。
「……はぁ」
シャワーブースを出てタオルで身体を拭くと、妙にすっきりとしている。
さっきの行為はあんなにもどかしかったのに。
晴香たんに触れて欲しくて仕方なかったのに。
身体はすっきりした感じ、でも頭と心は全然物足りない。
…いいんだ、晴香たんと肌を重ねるのはきっと時間の問題だ。
本人からは何の連絡先も聞いてないけど、待ってくれている冴子ちゃんにそれは聞けばいい事だ。
私は悠々と自前のウェアに袖を通し、また小走りで公園へと戻った。
それからは早かった。転がり落ちるように私たちは身体を重ねた。
そうしたらもう、離れられなくなった。
彼女は何もかもが最高の、理想の相手だと思った。
そしてきっと、彼女もそう思ってくれている…んじゃないかな?自信はないけど。
学生の頃から可愛い女の子が大好きだったけど、私自身は部活に明け暮れ顧問にしごかれという運動漬けの生活を送っていた。
だから、実の所学生時代には言うほど経験していない。
唯一それらしい話に触れたのは、陸上部の先輩と後輩がどうやら付き合っているらしいという噂について。勿論女の子同士である。
もし同じ部活の人を好きになったら、練習の前後や合宿なんてもう、やりたい放題になってしまう。
恋の加減なんて知らない若さがあるから、私はその付き合っている二人にだいぶ充てられた感はあった。
…いいなあ、羨ましい。
そんな事ばかり考えていた。
だから運動漬けの毎日の中でも、極力お洒落には気を使ったし、部活をやってない娘たちの話題にもついていけるように情報収集したり、勉強も頑張った。
そのおかげかその先の人生、案外楽に感じている。
死ぬかと思うようなトレーニングや減量の辛さに比べれば、大人になってからのデスクワークなどなんて事はない。
実業団に誘われたりもしたけど、身体が資本の商売を、何十年も続ける事に憧れも自信もなかったし、何よりそれでは普通の女の子と出会う事ができないから、きれいさっぱり運動からは卒業した。
週に一度は早朝ランニングを続けているけど、不思議と趣味になると改めて走る事の楽しさに目覚める事ができた気がする。
*-*-*-*-*-
紹介したい人の前に、あるアプリについて説明したいと冴子ちゃんに言われていた。
私はそんなアプリの存在を全然知らなかったんだけど、『WS』というアプリにて、なんと女の子同士で出会う事ができてしまうのだと言う。
言われてからようやく、なるほどそういう時代だよね、と思う。
スマホは持っているものの単なる連絡ツールとしてしか使っていなかったし、皆が便利に使っているらしい各種アプリの事なんて全然知らない方だと自覚している。
冴子ちゃんはまずそのアプリの説明が必要なのだと言って、一通り話を聞かせてくれた。
それはある日二人でランチした時の事。
「んで、このアプリと紹介したい人の関係ってのは?」
「…縁あってこれの開発者の人と知り合ったんです」
「へー」
「梢さんには、お付き合いしたい、またはしてる女性はいませんか」
「…うーん、いないと思うけど」
「思う、ではなくて」
何をもって付き合うと定義するのか、人により違っている以上なかなか答えるのは難しい。
「それを言ったら私の中での付き合いたいランキング上位は冴子ちゃんなんだけど」
「……」
露骨に嫌な顔をしないのが、冴子ちゃんのお人好しっぷりを表している。
「いや、わかってるって」
そうそう、どうせ冴子ちゃんにはちゃんとしたお相手がいるんだもの。
冗談でもこんな事言うのは良くないか。
…でも、隠し持ったエッチな所なんて、私にとってはほんとに最高なぐらい、冴子ちゃんはノリが良くてありがたい。
あんなにご立派な彼女がありながらも、ちょっとそれっぽい空気で誘えばフラフラ乗って来てしまうあたりは、まあ本気で付き合ったら苦労しそうだなーとは思うので、松浦部長のご心痛は察するに余りあるという感じだけど。
「…じゃあ、居ないって事でいいんですね?」
「まあ、そうなるかな」
女の子と真剣に付き合った経験は、これまでにあったのかなかったのか、自分でも良くわからない。
身体を触ったり、デートみたいな事をしてきた相手ならいるけれど。
それにエッチな事をした相手を「付き合ってる」と定義するなら、私の場合秘書課のほぼ全員と付き合ってる事になっちゃうし。
冴子ちゃんとだって、付き合ってる事になっちゃうんだよね。
「あの、お聞きしたいんですが梢さんって…恋愛そのものにあまり興味がないとか、そういう訳じゃないですよね?」
「うん、多分…ちゃんとした相手がいるならそれにこした事はないと思ってはいるよ?」
「なら、わかりました」
ランチでの会話はそれだけで終わったんだけど、その後冴子ちゃんは『WS』アプリに私を招待してくれた。
ここに会員登録するためには、利用者からの招待が必要らしい。
…でも、登録だけはしたものの、あんまりこういう出会い系には興味がなくて、私は適当に情報を眺める程度の使い方しかしていなかった。
それからしばらくして、冴子ちゃんからこの『WS』アプリの関わるコラボイベントの情報を教えてもらった。
スポーツウェアブランドとの企画で、女性向けのランニングウェアの開発を進めており、その中で実際にランニングウェアの試作品を使って走ってみるという企画があると言う。
「面白そう、新しく開発されるウェアなら、試してみたいなあ」
「…まだ、参加者募集してますよ」
「ホント?じゃ、ポチっとこう」
『WS』アプリ自体は情報ツールとしてもそこそこ役に立つ。
でもこれで本当に出会いがあるのかな?という疑問はずっと私の中に残っていたから、あえて知らない人とのやり取りを楽しもうという気にはそれほどなれなかった。
都心にはランナー向けのロッカーやシャワーを備えたステーションがいくつか存在している。
込み合う場合もあるので私はあまりそういう所を使う習慣はなかったのだけど、今回の企画ではウェアの着替えがどうしても発生するので、都内いくつかのステーションの一部を『WS』アプリが押さえて提供してくれていた。
まずは自前のウェアでイベント会場となっている大きな公園へ行き、ウェアをレンタルする。
それから近場のステーションで着替えを行いランニングするというのがおおよその流れとなっていた。
冴子ちゃんからはこのイベントの際に、件の「紹介したい人」と引き合わせてくれると聞いていた。
『WS』アプリは恋愛の相手を探す目的のアプリだけど、今回紹介してくれる娘は冴子ちゃんを共通の知人とするお友達という事で、紹介される事になっていた。
…どんな娘かな?なんて事を考えつつ会場の公園へと向かうと、そこそこの人ごみの中に冴子ちゃんと、彼女の姿を見つける事ができた。
「…うっそ、あれって」
多分その声は言葉として発せられていたと思う。
「あ、梢さんお疲れ様です」
「…うん、お疲れ」
冴子ちゃんの横に立っている女の子、私はよく知ってる。
何度もグラビア顔負けの写真に写っているのを見てたもの。
「冴子ちゃん、もしかして…その娘なの?」
「はい」
すると私はよく知っているその娘がぺこりと頭を下げてきた。
「佐藤晴香です、はじめまして」
「あ…あたしは小田梢って言います、その…もう知ってるか」
「まあ、お名前だけは」
彼女はくすっと笑って見せた。
…私が見知っているのとはだいぶ違う、若い女の子の無邪気な笑顔。
『WS』アプリ内の写真ではもっと大人っぽく見えたけど、実年齢はかなり若いんじゃないのかな、と思わせる。
「冴子ちゃん、なんで…知り合いなの?だってこの娘は」
「経緯はその、ちょっと」
「私も冴子さんを本気で好きなうちの一人なんですよ」
彼女はまたしても無邪気な笑顔で言う。
…は?…え?
ちょっと待って、冴子ちゃんとこのモデルの娘が知り合いって所からしてワケがわからないのに、この娘が冴子ちゃんを好き?…
思考が追い付かない情報ばかりで混乱してしまう。
「晴香ちゃん、そういう言い方は…」
いきなりの爆弾発言に冴子ちゃんが焦って彼女を制止している。
「あれ、いけませんでしたか」
「いけない訳ではないけど」
冴子ちゃんと彼女は小競り合いのような、押し問答を始めてしまった。
これは長引くのかもしれないと思い私は本題を切り出した。
「それよりさ、ウェア借りに来たんだけど…どうしたら良いのかな」
周囲では既に走り出している人も出てきており、私はそちらが気になってきた。
頭がごちゃごちゃした時にはとりあえず走りたくなる、という習性も手伝っての事かもしれない。
「そちらに関しては私がご用意していますので」
彼女は、私の分のレンタルウェアのみを手に持っており私に手渡してくる。
…正規のアテンド係ではないが私の案内だけは彼女が行うという事のようだった。
「事前にアプリからいただいていたご希望のサイズとデザインのものです」
「あ、ありがとう…」
彼女は『WS』アプリ内ではかなりの確率で、下着のモデルとして登場している。
今日はイベントの趣旨に合わせてオーバーサイズのポロシャツにジーンズというラフな服装をしているけど、私の頭の中ではけっこう露出度の高い下着を身にまとった彼女の姿が連想されてしまって、まともに対面する事ができなかった。
「あと、着替えの場所も私がご案内します」
くるりと背を向けて、彼女は速足で歩きだす。
私は慌ててその背中を追った。
「……」
写真では見た事のない、真後ろからの彼女の姿。
耳の下辺りで綺麗に切り揃えられた銀髪の下から真っ白なうなじが覗いて見える。
…うわ、なんて綺麗なんだろう。
スポーツとは縁がなさそうな華奢な身体つきだけど、スタイルキープの為にそこそこ鍛えているらしく、歩く後ろ姿を見ていても、下半身も締まっている感じがした。
…あれ?また…
思い出されるのは彼女の下着姿ばかり。
今はジーンズ姿だけど、写真でなら彼女の白いお尻に被る可愛いデザインのショーツを、いくつも見てきている。
昔は髪を伸ばしていたみたいで、その頃のランジェリーモデル写真もさかのぼって見るくらい、私は彼女の写る写真をくまなくチェックしていた。
時には可憐に、そして時には妖艶に。
中でも特に、カメラを挑発的に見ながら露出度の高い勝負系ランジェリーを身に着けている彼女の写真には、撃ち抜かれるぐらい興奮して、思わず下半身を熱くしたほどである。
あまりにも艶やかなその一枚の写真だけで、思わず私はそのデザインのブラショーツセットを購入してしまった。
…それも写真にあったのと同じカラーの黒を購入している。
こんなのいつ着ければ良いんだろう?見せる相手がいるわけでもなし、なんて思って今はあのブラショーツセットはタンスの肥しになっている。
邪な考えを振り払いたくて実際に頭をぶんぶん振ってみるけれど、あんなにも夢中になってチェックしていたモデルの彼女を目の前にして、そんなに簡単に頭の中はクリアになんてならない。
「あの、聞いていい?」
私は小走りで彼女の横に並び、声をかけた。
冴子ちゃんはもといた公園で待ってくれているから、今は二人きりの会話ができる。
「…何でしょうか」
「あの、さっき冴子ちゃんの事が好きとか何とか言ってたけど…」
「はい、開発者権限で冴子さんと無理にお会いして、ボスにこっぴどく怒られました」
ぺろっと舌を出してはにかむように笑ってるけど。
「あ、でも本当の出会いは今日みたいなイベントの日だったんですよ、それからずっと冴子さんにお付き合いしている人がいるとは知りながらも、勝手に好きでいる感じです」
「…なるほどね、で私の事はなんて説明されてるのかな」
「…同じ部署の先輩だと」
「…そうだよね」
「あと、梢さんとならきっといいお友達になれるんじゃないかと思う、みたいな事を言われました」
「そうなんだ」
まあ概ね想像した通りの話しの中身ではあるけれど。
冴子ちゃんがそんな健全な感じで「お友達」を積極的に紹介するのだろうか、という事は引っ掛かった。
「おかしい所がありますか?」
彼女は不安そうに表情を曇らせる。
「いや、ない…因みに言うと私も、隙あらば冴子ちゃんに手を出してやろうと思ううちの一人ではあるんだけどね」
明るい雰囲気を取り戻すために、わざと冗談っぽく言ってみる。
…何故だろう、彼女が不安そうな顔をしただけでこちらがものすごく焦ってしまう。
「…はい」
「あれ、それは聞いてなかったのかな」
「まあ…事実だとしてもそれを本人がひけらかすタイプではないでしょうからね」
「だよね」
「はい」
「じゃそこも含めて共通項があるって事なのか」
「みたいですね」
私が知っているのは、カメラに向かってポーズを決めている彼女の姿だけだった。
でもこうして話をしていると、ごくごく普通の女の子でしかない。
ちょっと踏み込んだ話題だけど、即座に返事してくるあたりはきっと頭の回転も速い娘なのだろう。
「……」
どうしよう、普通に話しているだけなのにこの娘が可愛くてしょうがないんだけど。
このままでは冴子ちゃんを裏切ってしまいそうだけど、所詮私の貞操観念なんてティッシュ一枚よりも薄い。
「ごめんね、こんな事…飽き飽きしてるとは思うけど、晴香たんがものすごく可愛いから、私ドキドキしてるんだ」
「晴香、たん…」
「あっごめん、そういうの嫌?」
「別に大丈夫です」
慣れない呼ばれ方だったのか、彼女はちょっと恥ずかしそうに顔を赤くする。
肌が白いから赤くなるとかなり目立ってよくわかる。
…まただ、どうしよう。
半裸の彼女の身体が赤く染まるシーンを、つい連想してしまった。
このままでは、ステーションに付くやいなや彼女を押し倒してしまうかもしれない、と心が騒ぐ。
私はもう遠慮などする余裕もなくて、矢継ぎ早に彼女に質問を投げかけた。
「ねえ、冴子ちゃんとは…エッチした?」
11月の空の下、周囲に人がいないとは言え屋外でこんな話を、しかも初対面の女の子にしていいはずはないんだけど。
「…しましたよ」
「……」
彼女は事もなげに答える。
「梢さんは」
「…触ってもらうまでは、した」
「……」
お互い思う事は同じなのか、なるべく短い言葉の往復で互いの情報を開示し合う。
「そっか」
そこで腑に落ちた。
身体を重ねれば、多分ますます冴子ちゃんを好きになる。
それは私たちの共通認識と言っても過言ではない。
…なぜなら、経験としてそれを実感しているからだ。
きれいごとを並べても仕方ない。松浦部長だって絶対にそうだ。
整ったルックスや真面目な性格も勿論冴子ちゃんの美点だけど、それらの事より何よりも、絶対的に冴子ちゃんが魅力的なのは、すごくエッチだという事に尽きる。
ここまでの会話で、私と晴香たんの間にも、「エッチな冴子ちゃんが好き」という共通認識ははっきりと生まれていた。
「…私、あの方と三人でした事もありますよ」
「…えっ」
牽制でも自慢でもなく、ただあった事として語るような口調で晴香たんは教えてくれた。
「なんか、若いのに経験豊富だね…」
「それ以外は知りません、冴子さんしか知らないです」
「…」
これは本気度が凄いなあと感心してしまう。
私のように手近な所で楽しみたいからとか、見られるのがけっこう好きだからとかいう軽い理由ではなく、彼女の場合は冴子ちゃんを本気で好きだから、未知のそんなプレイにまで突っ込んでいってしまったのだろうと容易に想像がついた。
「あ、こちらです」
気が付くと比較的こじんまりとしたステーションに到着していた。
「ここはまるごと、『WS』で今日の夕方まで押さえてありますので」
中に入ってみるけど、先客は居ない。
「誰も、いないみたいだけど」
「ここにご案内しているのは梢さんだけですから」
「えっ、なんか…それって申し訳ないよ」
「大丈夫ですよ、アンケートを拝見して、アプリサイドとしては謝礼をお支払いしてでも梢さんには試着をお願いしたいぐらいなんですから」
「…そうなの?」
「勿論、プロアスリート並みに走り込みされる方のご意見が、イベントでついでに回収できてしまうんですから、この程度は当然です」
「……わかった、じゃお言葉に甘えて使わせてもらうね」
「はい」
…と言ってまた晴香たんは笑顔になる。
まずいなあ、いちいちこの笑顔にドキドキさせられるんだけど。
それに、お互い冴子ちゃんの隠れた側面を知っている者としては、これまた絶対に双方けっこうエッチな事に興味津々なのもわかってしまったし、今になって色々恥ずかしい会話をしたものだと反省する。
「じゃ私はこれで…一旦公園に戻りますね」
「あ、待ってよ晴香たん」
「…はい?」
「いや…何でもない」
「?」
…少しは自制しなくては。
そう、これから走るんだし、まずはそれで解消を図ろう。
私は、晴香たんに自分の着替えを見て欲しい、と言おうとして諦めた。
出会ったその日に何やってんだというセルフ突っ込みも入るんだけど、もう二度と会えないような気がしてしまって、ダメだった。
…でも、もし仮にひとしきり走っても晴香たんへの願望が消え去らないようならば、その時は正直に話そうと思った。
冴子ちゃんは私たちがお友達になって欲しいみたいな事を言ってるけど、それだって絶対本音じゃない。
…きっと何か裏があって、でも言えないからそういう表現をしているだけのような気がしてならなかった。
私はとにかくたくさん走った。
いつもより上がった体温を発散させるように。
ウェアの方はすこぶる身体になじみ、実に走りやすい。
素人向けに発売するであろう商品としてはもう十分過ぎるレベルだと思う。
そんな、いい感じのウェアにも気持ちが上がって、私はとにかく走りまくった。
休日ランナーは休日ランナーでも、こちらは下地が違う。スピードレンジだって参加しているモニターの誰よりも速いに違いなく、周回コースを何回も回る間に、同じ人物を2回か3回は追い越したような記憶さえある。
走り出せば考える事は少なくなり、ただ目の前の道、チェックポイントの場所、時計を睨んでのペース配分といった事に考えを集中できた。
普段のランニングの倍は走ったかという所で、ようやく私は休憩する事にした。
持参していたドリンクを喉に通すと、身体が一気に冷やされるような感覚を覚える。
あー、でも今日はもうこんなもんで終わりにしても良いかな、なんて事を考えていたら、冴子ちゃんが近づいてきた。
「お疲れ様でした」などと言いつつドリンクボトルを持ってくれる。
「…ねえ、冴子ちゃん…あの娘だけど」
「はい」
私は肩で大きく息をしながら、冴子ちゃんに尋ねてみる。
「お友達、って言ってたけど…違う事期待してるんでしょ?」
「…それは、少しだけ」
「やっぱりね、でもありがとう、私晴香たんの事すごい可愛いって思っちゃった」
「…ですよね」
晴香たんという呼び方については私が走っている間に本人から聞いたのかもしれない。そこに対して特に突っ込みはなかった。
噂をすれば…晴香たんはアンケート用紙を挟んだボードを片手にこちらに近づいてくる。
「お疲れ様でした」
「…このウェア、すごい良かったよ」
私は、言われるより先にボードを受け取って中身に目を通す。
「……あれ、これ洗濯後の乾きやすさとかも答えるんだ」
「本来はそうなんですけど…梢さんは大丈夫ですよ」
「なんで?」
「走っている時の着心地の感想だけで十分なんです」
「えー、そんな特別扱いしないでよ」
「そうは行きませんよ」
事後アンケートによると、借りたウェアは自宅で洗濯し、乾かしてから専用の返却用封筒で送付するようにとなっている。
「じゃ誰が洗うの?これ」
「…私が、代わりに洗います」
「え……」
私は自分のウェアを見下ろした。
代謝が良いからそんなに臭わないとは思うけど、それでも汗を大量に吸ってウェアは濡れている。
「そうだ、身体を冷やさないよう早めに着替えてください」
「あ…そうだね」
私は、ボードに挟まれた事後アンケートの指定された項目のみ簡単に記入を済ませて、さきほどのステーションへと小走りで向かった。
「晴香たんも来て、ウェアをすぐに預けたいから」と変な理由を付けて彼女を連行する。
公園を出る時冴子ちゃんと少し目が合ったけど、どこか含みのある表情に対して私も含みのある視線を送り返した。
…走っている間は確かに忘れていたのに。
本人をまた目の前にしたら、やっぱり思い出してしまってダメだった。
しかもこの娘は冴子ちゃんとガチでセックスしてるんでしょ?
私が強引に迫ったら、拒否しきれるのか試してみたくもなった。
聞けば晴香たんはまだ二十歳にもならない学生との事である。
健康的セクシーお姉さんの全力誘惑に、どこまで抵抗できるだろうか。
…なんて事を考えるだけで、わくわくして仕方ない。
まずはステーションに晴香たんを連れ込んでこう切り出してみる。
「すっごい汗かいちゃったから、臭わないか心配なんだ…大丈夫かな?」
「全然、大丈夫ですよ」
まだ、距離が近くない。
私は「そうかな~?」などと言いつつわざとらしくウェアの裾を持ち上げて自分で臭いを嗅いで見せた。
ウェアの下にはブラしか着けていないので、晴香たんには素肌の脇腹が見えていると思われる。
「あの」
「嗅いでみてよ?」
私は晴香たんを手招きし、胸元に鼻を近づけさせる。
「やっぱり臭うよね?」
「……全く感じないわけではないですけど、嫌な臭いじゃないですし」
「ほんと?…でも、脱いでそのまま預けるのは、恥ずかしいな…少し水洗いだけでもしたいんだけど」
「…気にされるようなら、それでも良いですよ、でも面倒ではありませんか?」
晴香たんは身体を起こして問いかけてくる。
最初よりもいい感じに距離が近くなって嬉しい。
「面倒じゃないよ」
「…?」
私は、ウェアを着たままの恰好でシャワーブースに飛び込んだ。
「あ」と声を上げて晴香たんが後を追ってくる。
私は素早く水栓を捻り、頭からぬるいお湯をかぶった。
ブースの扉は開け放しているので、追いかけてきた晴香たんにはもろに私の全身が見えている事だろう。
「…ぷはっ」
斜め上を仰いで全身にシャワーのお湯を浴び続ける。
着ているものが全部身体に密着して、重量も重くなった。
爽やかなサックスブルーのウェアは身体に張り付いて、下着のラインを忠実に浮き上がらせている事だろう。
「……」
晴香たん、逃げないんだ。
私のシャワー姿に目が釘付けになってしまったのか、あるいはどうすれば良いかわからず戸惑っているだけなのか。
「…これなら、面倒じゃないでしょ」
ザーザーという雫の音に紛れないギリギリの声の大きさで、晴香たんに語り掛ける。
「…その、それは」
私はシャワーを出しっぱなしにしたままで、開け放したブース扉の傍に立ち、晴香たんと正面から向き合った。
シャワーの当たる場所からずれた所に立っているので、お湯は私の背後に降り注いでいる。
「どうせ知ってるんでしょ?私の事」
「…何をですか」
「知らなくても、これ見てればわかるよね」
私は胸を張って晴香たんを見つめた。
晴香たんの目の前には、ばっちり下着まで透けたウェア姿の私がいる。
…そう、やっぱり逃げもしないしやめろとも言わないんだね、晴香たん。
それじゃ私からは逃げられないよ。
「ね、じっくり見てるけど…私の事」
「え、あの…それは」
「いいよ?好きなだけ見て」
「……」
思った通り、好奇心には勝てない娘なんだろう。
冴子ちゃん以外の女の裸に、興味がないと言えば嘘になるはずだ。
晴香たんは「三人でした」とも言っていた。普通出会えないタイプの松浦部長の愛撫だって、そりゃこなれているに違いないわけで…何しろ冴子ちゃんが虜になっているぐらいなのだから、そのテクニックをわずかでも身をもって経験しているなら、自分自身が冴子ちゃん以外の女からでも刺激されれば感じてしまう事を、知っているはず。
…晴香たんは、どういう性癖を隠し持っているのかな。
私は今度は両腕で胸を寄せるようにしながら、晴香たんの顔を覗き込む。
晴香たんの目は私の胸元を凝視していた。
「梢さんって…見られるのが好きなんですか」
そう呟いた晴香たんの声は、ものすごく冷淡だった。
心なしか、私を見る瞳からも熱が消えて涼しげなものに変わっている。
「うん、好き」
「だったらもっとしっかり見せてくれないと」
「……?」
…あれれ、急に別人が現れたみたい。
私はもう一度シャワーブースの中央に立ち、思い切りお湯を浴びた。
「…脱がないんですか」
頬を張られたかと思うような、晴香たんの声が身体に突き刺さる。
私は弾かれたように背筋を伸ばして、条件反射のようにウェアを脱ぎ捨てた。
貼り付いたウェアを裏返すようにして上下それぞれを脱ぐと、ランニング用のシンプルなブラとショーツが姿を現す。
「…それも、早く脱いじゃったら良いんじゃないですか」
「……」
感慨に浸る間さえ与えてもらえない。
気が付くと私は何故か全裸になってシャワーを浴びる姿を、晴香たんに晒し続けていた。
「……」
あれ、何だろう。やたらと興奮する。
初対面の、美少女モデルであり冴子ちゃんとの交わりを経験済みの女の子である所の晴香たん。
…ここまで来てようやく、私は冴子ちゃんの思惑が何だったのかを理解した。
そうか、不用意に挑発したから。
こんないやらしい仕打ちを、私は受けている。
…でも、今日だけの事ならばと思うと妙に開放的な気分でもあった。
「もうこれ以上、脱げないよ…」
「そうですね」
なんでだろう、ただ裸を見られているだけなのに。どうしてこんなに興奮しちゃうんだろう。
水流で流れているからはっきりとはわからないけど、内腿辺りにどうもねばついたものが流れ出ているような気がしてならない。
「…ちょっと感じてません?」
何なの、このタイミング。
まるで私の考えを見透かしているか、先回りされているみたいで恥ずかしい。
下腹部に起きている異変の事も、もう気付かれているかもしれないと思った。
「そんな事、ないよ」
嘘を吐いた。急に、晴香たんの言いなりになり続けるのが怖くなったから。
「…じゃ、シャワーを止めて脚を開いて見せてください」
「え…」
有無を言わせぬ響きに、私は従うしかなくなる。
…もし見られたら、確実にバレる。
拒否すればいいはずなのに、その言葉は口から出ない。
「ほら」
たったその二文字で、私は背中を刺されたような気分になる。
黙ったまま水栓を止めると、ブース内に静けさが戻りピタピタと言う雫の音がわずかに響いた。
「……」
私は晴香たんの方を向いて軽く脚を開いて立った姿勢で、片手の人差し指と中指を使い自分の花弁を割り開いて見せる。
「…水じゃないですよね、それ」
見えてるんだ。ここに溜まっている粘りのある蜜の存在が。
「…うん」
あー、何だかすっごい興奮する。
恥ずかしいのに、もっと見られたくなる。
この倒錯した感じは私の脳内を麻痺させ身体の感覚だけに集中しろと訴えてくるから、私はその声に素直に従った。
「…見て、もっと」
「見てますよ、ずっと」
「あ…ん」
目を空けていられなくなり、身体をよじりながら目を細めてしまう。
だが私の視界の隅には、指先でジーンズの股間を引っかくように弄っている晴香たんの姿が入ってきていた。
…この娘も、やっぱりエッチなんだ。
別に許可もいらない、そう思って私は割り開いた花弁の間をもう片方の手の指を使いじっくりと愛撫した。
壁にもたれるのはルール違反な気がして、必死で膝に力を入れて、立ったままで自慰を始める。
「ぁ…う……んっ…」
晴香たんは確かに興奮しているようだが、視線は相変わらず冷たいままである。
その表情と、カリカリとジーンズの股間を引っかく指先の動きがアンバランス過ぎて、とても同一人物のようには見えなかった。
私は四本の指の腹を全て使い、陰唇から萌芽の頂点までを上下に撫でさする。
当然、蜜が溢れて指にまとわりつく卑猥な粘着音が出てしまうけど、それはこの場合出してなんぼの物だ。
「あふっ…ぅ……」
乱雑に自分の秘部を四本の指でまさぐり掻き回していく。
そうしながら、じっと晴香たんの瞳を見つめて、熱い昂ぶりを視線で訴えた。
「今度…会う時には、晴香たんの身体で犯して」
無意識のうちにそんな事まで訴えてしまう。
晴香たんは「いいですよ」と事もなげに答える。
「ほんと?…嬉しい…っ」
言い終わるかどうかの所で自分の秘部が急に熱くなる感覚があった。
それから四本の指に絡みつく蜜の量が急激に増えていき、抱え切れなくなった蜜は指の隙間からこぼれ落ちる。
…秘部を弄る指の隙間から、蜜の筋がいくつも垂れ落ちていくのが、晴香たんにもバッチリ見えているだろう。
「なんでだろ、いっぱい…出ちゃうの」
「……」
晴香たんが生唾を飲み込んだ。
その仕草が、ものすごく私を興奮させる。
「今、しても…いいよ?」
「……」
晴香たんの瞳は咎めるように私を見ている。
ものすごく恥ずかしいのに、ものすごく興奮する。
「…それは梢さんが一回イったら、考えます」
「や…あんっ、そんな」
晴香たんは、明らかに私を焦らしている。
きっと色々我慢しているかもしれないのに、それが表情に出ないから、私は強烈に突き放されたような気持ちになり、自慰をただ見られている寂しさも手伝って身体が切なく疼いた。
「うぅんっ、あ……じゃいっぱい見ててね」
「はい」
晴香たんの視線は急に鋭くなり、私の身体を射貫くように見つめてくる。
そんな強い視線さえも心地良くて、私は天井を仰ぎ「はぁ」と息を漏らした。
相変わらず四本の指の間からはだらだらと蜜が糸を引いてこぼれ落ちている。
徐々にその粘度も変化していき、しまいには真下にこぼれるばかりではなく内腿にまで幾筋も蜜が飛び散ってしまっていた。
「……すごい、興奮するの…晴香たんに見られてると」
今度は晴香たんが弾かれたように身体をぴくりとさせた。
だが、その瞬間にブレーカーが落ちたかのように表情が冷静なものに戻っていく。
…だめ、正気に戻らないで。
もっと、ドキドキさせて欲しいのに。
そんな私の不安を、この娘は楽しんでいるのかもしれない。
ちょっとだけ、うっとりしたような眼差しで、晴香たんは私の絶頂を見届けてくれた。
「やだ、いく、いっちゃうよぉ…あ、あ、あぁんっ…!」
膝がガクガクと震えて、立っているのがやっとだった。
私は両手で秘部を押さえるような恰好のまま、淫液を迸らせて達した。
シャワーブースには、水栓を締めたシャワーヘッドからしたたり落ちる水滴の音とはまた別に、私の秘部からしたたり落ちた蜜の落ちる音も響いている。
「…はぁっ」
私は膝を崩してシャワーブースの床に横座りした。
脱ぎ散らかしたウェアをかき集めて、改めてお湯で洗ったそれを絞り、ブースの前に立ち尽くしている晴香たんに手渡した。
「…もう、大丈夫だよ…だからもう行って」
「…でも」
「お仕事でしょ、今日は」
「…はい、ごめんなさい」
ウェアを手渡す時に、晴香たんは私に触れようとしてくれていた。
でもここで触れられてしまったら、止まらなくなりそうで怖かったから、私はあえて晴香たんを追い出すように帰らせた。
「……」
私はシャワーブースに横座りしたまま水栓を捻り、改めて上から降り注ぐお湯を全身に浴びた。
ランニング終わりの心地良さなのか、自慰による心地良さなのか、どちらともつかない不思議な脱力感にしばらくの間身を委ねる。
「……はぁ」
シャワーブースを出てタオルで身体を拭くと、妙にすっきりとしている。
さっきの行為はあんなにもどかしかったのに。
晴香たんに触れて欲しくて仕方なかったのに。
身体はすっきりした感じ、でも頭と心は全然物足りない。
…いいんだ、晴香たんと肌を重ねるのはきっと時間の問題だ。
本人からは何の連絡先も聞いてないけど、待ってくれている冴子ちゃんにそれは聞けばいい事だ。
私は悠々と自前のウェアに袖を通し、また小走りで公園へと戻った。
0
あなたにおすすめの小説
世界に、私たちだけ
結城らい
恋愛
バニーガールのレイカとミヤコ。いつものナイトクラブの夜――のはずが、ふたり以外の“全員”が消えてしまった。誰もいない店内、誰も走っていない街。怖いのに、どこか解放されてしまう。見られない自由の中で、ふたりは静かに、確かめ合うように抱きしめ合う。けれど未来は空白のまま。それでも今夜だけは、ネオンの下で、この愛の時間を味わっていたい。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる